あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

もう一人の『左手』-05


「サイトぉっ!!」

「どいてぇっ! ――いいから――どきなさいよぉっっ!!」
 人垣の中から、野次馬を掻き分けて、桃色がかったブロンドの少女が飛び出し、才人のもとへと走り寄り、その血まみれの頭を抱きかかえる。
「しっかりしてサイトっ!! 死んじゃダメ、死んだら……死んだら、絶対に、許さないんだからねっ!!」

「……よお」
 才人は、うっすら右目を開くと、ほんの少しだけだが、微笑んだ。
 ギーシュに見せた、唇を歪ませた皮肉な笑みではない。人が心落ち着かせたときに見せる、安らかな表情。
――それは、ルイズが見る、彼の初めての笑顔だった。
 ルイズには何故か、才人の、その笑顔の意図を正確に汲み取る事が出来た。
 お互い出会ってから、まだ数時間しか経っていないというのに。いや、それどころか、口を開けば、諍いばかりだった自分たちなのに――。
(やっと俺を、名前で呼びやがったな)
 その瞬間、ルイズはホッとした余り、腰が抜けそうになった。

「なっ、何よ……!! 調子に乗るんじゃないわよ、生きてるなら生きてるって、ちゃんと……御主人様に心配かけるんじゃないわよっ!!」
 そんなツンデレ的怒声を浴びせかけるルイズを、眩しそうに見上げながら、才人は、震える左手を、彼女の顔に伸ばし、――涙を拭った。
(泣くんじゃねえよ)
「なっ、泣いてないわよっ!! だいたいアンタ、平民のクセにそういうところが生意気だって――」

「お取り込み中のところ申し訳ないがね」

 そこには、ようやく顔色を取り戻したギーシュが立っていた。
 しかし、先程までの“決闘相手”ではなく、その主を名乗る少女に向けられた眼差しは、微妙な媚びと、それ以上の傲慢さが混合された、粘っこい光を放っていた。

「なあルイズ……主のキミから言ってやってくれないか、この強情な“使い魔”君に」
「ギーシュ?」
「痩せても涸れてもこの『青銅』のギーシュ、いかに決闘とはいえケガ人をいたぶる趣味は無い。君も知っての通り、僕は本来、穏やかな男だからね」

 ルイズは怒りで骨が震えそうになった。
 何を言っているのだろう、この男は……!!
 さっきまで嬉々として、彼をいたぶっていたくせに、『穏やかな男』? 『ケガ人をいたぶる趣味は無い』!? いまさら何を寛大ぶって、よくもまあ、ぬけぬけと……!!

「まあ、こう言っては何だが、『ゼロ』の君が召喚した使い魔にしては、大した男だったよ。そこのところは認めてあげよう。うん」

 そして、事ここに及んでも、まだ自分を『ゼロ』と罵るのをやめない。
 才人が、まさしく血を吐くようにして言った言葉を、こいつは、次の瞬間にはもう、存在すらしていなかったように受け流している。
 こんな男のために、才人は、ここまでの傷を負わねばならなかったというのか。

「だから、彼に命じたまえと言ってるのさ、僕に謝罪せよと。――君だって、折角の使い魔をむざむざ殺したくは無いだろう?」

 ルイズは、生まれてこの方、この瞬間ほど自分の無力を、神に呪わなかった事は無かった。
 もし自分に今、この瞬間にでも、自在に使える攻撃魔法があれば、この男を――自分のみならず、自分のために命を賭けて戦ってくれた、彼を侮辱しようとする――この男の下品な口を塞いでやれるものを!!

「そうだな、なんなら、彼の代わりに君が謝罪してくれても、僕は全然構わないよ」

 限界だった。
 正直言ってしまえば、ルイズとしても、これ以上才人を戦わせるくらいなら、土下座でも土下寝でもするつもりだった。彼女の頭にあったのは、ただひたすら、才人を死なせたくないという、その一念だけだったから。――さっきまでは。

「ギーシュ・ド・グラモン……!!」
 怒りに震える声で、眼前のキザ男を睨み据えると、ルイズは、膝枕に抱きかかえた才人の頭を、ゆっくりと、可能な限り優しげに、地面に置いた。
「……この決闘、わたしが引き継ぐわ」
「え?」
「この使い魔に代わって、わたしがアンタの相手をしてやるって言ってるのよっ!!」

 ギーシュは、数秒ほど目をぱちくりさせると、やがて、呆れたように大声で笑い始めた。
「――だっ、だめだよルイズっ、いくら何でも、女の子と決闘なんて出来ないよ!!」
 だが、彼の哄笑を塞いだのは、ルイズの手から投げつけられた、一枚の手袋。
「怖いの? だったら、わたしとサイトに謝罪しなさい。そうすれば許してあげてもいいわ」

 ギーシュは、そうまで言われて一瞬、真顔になったが、次の瞬間には、やれやれと肩をすくめるポーズをとり、周囲の観客を見回した。
「そういうわけだ、諸君っ! これから行う決闘は、僕から仕掛けたんじゃない。ルイズが望んだものだ。――それを立会人として承知してくれるかいっ!?」
 その声を受けて、さっきまでの才人の怒号にフリーズ状態だった聴衆たちも、その意外な成り行きに、おおいに盛り上がった。
 その歓声の中に、ルイズを応援する声は、いっさい無い。

「さて、それじゃあルイズ、決闘に際して、一ついいものを上げよう」
 彼は、少女に、いやらしい流し目を送ると、『練禁』で一振りの剣を練成し、彼女の足元に放り投げた。
「……何の真似よ、これ」

「決まっているだろう、“武器”だよ。君は女の子で、しかも『ゼロ』だ。たとえ名門公爵家の令嬢ではあっても――メイジじゃない」

 その瞬間、ルイズは屈辱で顔が紫色になった。
 しかし、ギーシュは尚もやめない。半ば哀れむように言い続ける。
「そこの平民ならともかく、貴族が、メイジでもない女の子を相手に決闘しようと思ったら、せめてこの程度の気は遣ってあげないと、格好がつかないだろう」
「……ギー、シュ……!!」
「僕の、優しさと気遣いは汲んでくれるよね? マドモアゼル」

 いかにルイズといえど、こうまで正面きって、貴族としてのアイデンティティを否定された事は無い。
 余りの屈辱に、眼前に投げ出された剣をギーシュに蹴り返そうとした時だった。


「もう、いい加減にしておくんだな」


 才人の声ではなかった。
 いや、ルイズ以外の、このヴェストリの広場にいた全ての人間が、聞き覚えの無い声だった。
 その精悍な相貌に相応しい、低く響く、錆びを帯びた声。
『サモン・サーヴァント』で彼女に召喚された、もう一人の“平民”。

「それ以上、何かをしたいなら――」
 そこで言葉を切った男は、ちらりとルイズに目をやると、
「“主”を立たせるまでも無い。平賀に代わって、俺が相手になってやる」
 そう言って、投げ出された剣を拾った。

 風見志郎が、そこに立っていた。


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