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狼と虚無のメイジ-04


ホロは麦に宿る神として、数百年の間パスロエの村で麦畑を豊かなものにしてきた。
他の村に比べても比較にならない良質な小麦であり、村はよく栄えた。
しかし、土地の実りをよくする為には代償が必要であり、何年かに一度実りを悪くしなければならない。
ところが、村の人間はそれをホロの気まぐれだと言いはじめた。
それがひどくなったここ数年で、ホロは村を出ることを決心したということらしい。

「ちょっと……待った。麦に宿ってた!?それってエルフの先住魔法みたいなものじゃなくて?」
「エルフとか先住云々とかはわからんがの、とにかくわっちは麦に宿って実りを良くすることができる。
じゃが村の者は自分等で実りの良くする方法を見つけて実行しておる。あの村にはもうわっちはいらん」

ホロはぷいとそっぽを向いた。どうやら拗ねているようだ。
実際そうだったとすれば、長年世話を焼いてきたというのに手ひどい裏切りのようなものだ。
真偽はともかくそれにはルイズも頷いた。

「愛想が尽きたからの。わっちは麦から抜け出して、ヨイツに帰ろうと思っていた。一眠りしたらの。するとどうじゃ、目の前に妙な鏡がありおる」

眠りの中それに手を伸ばし、気づけばさっきの広場にいたということらしい。

ホロが言うには、元いた場所では人は貴族平民関係なく魔法を使わなかったし、獣にしても自分の同類のような化身はいたものの、広場で見たような生き物はいなかったという。

「それだけであれば、一駆けすればすぐ戻れるとも思うたが……あれじゃ」

ホロはくいと空に目を向ける。月が二つ、煌々と輝いていた。

「わっちのいたところでは、月は一つ。色も白くて、もっと小さい。わっちも長く生きたが、昔話にもお月さんが二つなど聞いたことありゃあせん」
「まあ……確かにわたしも「月が一つ」なんて話は聞いたことないわね。お話にするにもあんまり荒唐無稽だし」
「昔話というのは馬鹿にはできぬ。あっちの話がまとまって、こっちで分かれたりして色んな話になるのをわっちは知っとるし、大抵何かの元があるのも知っとる」

色が変わる。大きさが変わる。これはホロも聞いたり、見たりすることがあった。
しかし、月の増減。こればかりは彼女の長い生涯においても見たことも聞いたことも無いと言う。
それが事実なら、まるっきり別……違う月を持った異なる世界ではないか。

「あの鏡は、考えも及ばぬ遠くにわっちを運んだんだと思う。それこそ、駆けても飛んでも辿りつかぬ遠くへの」
「はぁ……嘘みたいな話だけど、あんたが言うと本当に聞こえてくるわ」
「くふ、わっちは賢狼じゃ。娘一人言い聞かせるなど簡単なことよ」

ルイズは馬鹿にされたと感じ、口を尖らせたものの、ホロが至って真剣に言葉を続けた為、押し黙った。

「……わっちは、故郷に、北に帰りたい。わっちの生まれたヨイツの森に。何年経つのかわからんほど時が経った、帰りたい……しかし、帰る術がわからぬ」

弁舌だったホロが、うつむいて「帰りたい」と繰り返しつぶやくように言う。

「ぬしが共に帰る術を見つけると約束してくれるなら、狼の姿も見せる。わっちの出来る限りで使い魔とやらの役目も果たそう」

小首をかしげる様に、上目遣いでホロがルイズの裾をそっと掴んだ。
震えてる?とルイズが顔を覗くと、ホロは目を潤ませていた。

「助けて……くりゃれ?」

まるで捨てられた子猫のような……ルイズが捨て猫を見たことがあるかは別として……その表情を見て、ルイズが痛くその本来の優しさを刺激されたのは想像に難くない。

「いや、そんな、ね。悪かったわよ、わたしも。責任も、あるし、ね。きっちり故郷に帰すからさ、ほら、そんな泣かないでよ」
「本当……かの?」
「も、勿論よ!公爵家の名にかけてね!」

「では、契約成立じゃの」
「はえ?」

老獪な顔つきに戻り、ホロはしたり顔でニヤニヤとルイズを見ている。

「あ、あんたもしかして!」
「いったことに嘘はない。ぬしに信じてもらいやすいよう、ちと話し方に色をつけたがの」

ぺろりと舌を出して笑ったものだ。話の主導権は完全に握られてしまっていた。
面目が立たないと思ったルイズははっと思い出して怒鳴る。

「不本意だけどね、いいわよ、その代わり戻る方法を見つけるまではできる限り使い魔としての仕事はやってもらうわよ!……えっと、それから狼になれるのよね!見せてよ」

やれやれ、と溜息をついてホロは承諾した。やはりあまり好ましい顔ではない。尻尾をなでながら言葉を続ける。

「急くでない。どのような化身であっても代償なしに姿を変えるのは無理じゃ。ぬしらも人相を変えるには化粧をするし、体型を変えるには食べ物が必要じゃろう」

まあ、確かに。とルイズは同意するも、いくら食べても変化の無い己の胸を見て渋い顔をした。
これを変えるにはどれくらいの代償が必要だろうか、と考えてから慌てて頭を振る。
洞察に関しては隣室のクラスメイトもかくやの自称ヨイツの賢狼だ。何を言われるか解ったものではない。

「何か必要なの?」
「わっちの場合はわずかの麦か……それか、生き血じゃな」

麦というところに納得するものの、生き血の部分でルイズはちょっと後ずさった。

「生き血……って、あんたまさか吸血鬼じゃないでしょうねっ!」
「なんじゃ、臆したかや?わっちは見せとうないから構わぬがの」
「そ、そんな訳ないでしよっ!何よそれくらい!」
「そういうと思ったわ。ま、疑われても困る。こっちにしよ」

いたずらっぽく笑うと、ホロは毛皮に包まれていた麦を数粒つまみ上げた

「では見せるが、この部屋では狭いからの。腕だけで勘弁してくりゃれ」
「え、そんな、聞いてないわよ?」
「狼の姿は馬ほどあるんじゃが……よいのかの?」

ルイズはうっと言葉を詰まらせた。部屋は使い魔も居住させることを考えそこそスペースはあるが、その大きさを考えると少々心もとない。
外に出るのもありだろうが、ホロはルイズ限定で姿を見せると言っていた為、人目に触れたくはなさそうだ。それに、もし変身能力のある種族だとしたら、あまり公にしない方が良いだろう。
少し悩んだものの、ルイズの選択はほとんど一瞬だった。

「わかったわよ、腕だけお願い」
「物わかりのよいあるじ様で、わっちは幸せでありんす」

含みたっぷりの慇懃さで服をまくると、ホロは麦を飲み下した。
籾殻のついたままの麦の味を想像したルイズは顔をしかめたが、そんなものは次の瞬間消し飛んだ。

「う、うう……!」

今までの飄々とした雰囲気は掻き消え、ホロはうめくようにうなり声を上げた。
続いいて、ぞぞぞぞぞぞ、と悪寒の走るようなざわめく音。
右手を押さえたまま、ホロはベットに突っ伏した。

「ちょ、あんた大丈夫!?」

ルイズが呼びかけた時、ボコリと何かを突き破るような音が弾ける。

「うむ……?」

ホロはそのまま動かない。尻尾や耳が動いているのを見れば息をしているは確実だろうが、「むー」とか「うー」とか言った言葉を発するばかりだ。
ルイズが近寄って見ると、有り得ないものがベットに鎮座していた。
それはホロ自身よりも巨大な獣の前足だった。
肩から先端まで3メイル、いや4メイルはあるだろうか。
強壮な。茶褐色の毛も豊かな狼の足。その重量の為か、ギシギシとベットが軋んでいる。

「おかしいのお。ここまで大きくはなかったと思うたが……はて」

何やら疑問を呈しているホロとは裏腹に、ルイズは目の前の光景を唖然とした表情で見ていた。
ホロの右手が獣の腕へと変じ、天蓋つきのベットの上で窮屈そうにしているのだから。
「馬ほどの大きさ」など生ぬるい。これを基準に考えれば成竜並か、それ以上の巨大な狼が現れることになる。
しかも躊躇しつつ触ったホロの足から放たれる雰囲気。そこらの幻獣とは格と言うより質からして違う。
どうしようとも滲み出るその威圧めいた雰囲気は、ルイズにゴクリと生唾を飲み込ませた。

「……動けぬ」

ところが当のホロはと言うと、なんとも情け無い声でうめくように言った。

「あんたの足でしょ?」
「わっちの狼の姿は大きいが、ここまで大きくありゃあせん。これでは二まわりも三まわりも大きい。然るに動けぬ」

ホロ自身も困惑しているようだ。ルイズがあれこれ考えを巡らせていると、ホロの右手のルーン文字が明るく光っているのが目に入った。

「うーん、使い魔のルーンの影響かも。猫なんかが喋れるようになったり、色々能力が付与される場合があるから」
「どちらにしても不恰好じゃの……戻るぞ」

再び麦を数粒飲み込むと、あれほど大きかった右足はしゅるんと美しい少女の右手に戻った。ルイズが再びまじまじと見ている。

「納得したかの?」
「あんなの見せられちゃ、信じない訳にいかないじゃない。……麦に宿っていたってていうのはまだ信じられないけど」

触ったあの感触は幻術などではあり得ない。そして現実であるとして、触ったそれは普通の獣ではあり得ない雰囲気を醸し出していた。

「ふむ、ではこの麦などどうかや。わっちが今宿っておる麦での。わっちが生きている限り腐れたり枯れたりは決してせぬ」
「うーん、「固定化」って魔法があるから、あんまりパっとしないわね。固定化の強度にもるけど……ちょっと待って。もしこの麦に何かあったらあんたどうなるの?」
「わからんが、消えてしまうかもしれん。食べられたり燃やされたりすれば意味は無いしの」
「……まずいじゃないの、それ。……仕方ないわね、粒にして袋にでもいれないと」
「そうじゃの。首から提げられるとなおよい」

悪びれもせず注文をつけてくるホロに、ルイズは溜息をついて寝る準備にかかる。
ホロを理解する為には一日二日では不可能なようだ。

「……って、あんた。何を当然のようにベットに入ってるのよ」
「寝台は寝るところなのであろ?ふむ、これは心地よいのう」

ベットにうつぶせになりつつ、首だけルイズの方向に向けている。足をぱたぱた、耳をぴょこぴょこ。
くそう、可愛いなこいつ。ルイズは心ではそう思いつつも、ここは主人としてきっちりしつけておかなければと構える。

「そうじゃなくて、使い魔のあんたが何故主人と同じベットに……」
「わっちのあるじ様はできたお方。間違っても身を切るような冷たい床で寝ろ、とは言わぬ優しいお方でありんす」

猫撫で声でそう言われたものだ
10年早いとでも言わんばかりの眩しいばかりの笑顔がルイズの疳に障ったが、そう言われては主人として引き下がらざるを得ない。

「……朝はちゃんと起こしなさいよ。それから、洗濯しておいて。使い魔として仕事したらちゃんと衣食住の面倒は見るから」
「心配無用じゃ。わっちもタダ飯を食らって安穏としていられる程恥知らずじゃありんせん。わっちは賢狼ホロ。誇り高き狼じゃ」

自らもベットに潜り込み、すでにまどろみはじめているホロを見ながらルイズは一日のことを思い出していた。
ホロの召喚と、それに付随して解ったホロの正体も突拍子のないものだったが、何より疲れたのはホロとのやりとりだ。
いつもなら癇癪をおこしているところを、この使い魔と来たら展開を読んでいるかのように危険地帯をスルーしていく。
怒るに怒れないのでストレスはたまるのだが、逆にそれが面白いと感じる部分も心の中にあった。

(今に見てなさいよ。その内きっちり言い負かしてやるんだから……!)

決意を胸に秘めた矢先、ホロが寝返りをうった。ふぁさりとホロの尻尾が、ルイズの脛のあたりに覆いかぶさる。
「ひゃ」と一瞬くすぐったさに声を出しかけるが、その触り心地の余りの素晴らしさにルイズの目はとろんとなった。

(ま、まあ一緒に寝るぐらいは全然問題無いわよね。ちいねえさまだって動物と寝てるし。女の子だし。もふもふだし)

訳の解らない思考に陥りながら、ルイズは眠りに落ちていく。


その様子を確認したホロは、「くふ」と小さく笑い、今度こそ本当に寝息を立て始めた。



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