あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔を使う使い魔-06

   小さなものが、闇の最奥に眠るように置かれていた。


 宝物庫の中は暗く、闇が沈黙と肩を組んで渦巻いていた。
 完全密閉の部屋に流れる風があるはずも無く、そこは絶対的な
 『無』に近いものが見事に体現されている。

 だが、明かりもつけずに、そして風は無いはずなのに、
 沈黙が、まず破られた。水滴の滴るほど儚いものではあるが、
 宝物庫にかたく、それでいてやさしく。ゆっくりしたリズムの足音が響いた。
 男だった。まだ破られぬ闇に溶け込む、一人の黒ずくめの男……

 男は彩色美しく、また強力なマジックアイテムが揃い立つ棚や箱には目もくれず、
 ただ真っ直ぐに歩いていた。

 男は壁の一歩手前で、あらかじめ知っていたかのように足を止めた。
 目の前にあった小さいな箱を手に取り、撫で回し、叩き、何かを確かめた。
 それはしっかりと専用のケースに入れられ、誇り一つ無く飾ってある数多い宝物の中でも
 特に頑強な鋼鉄の板で造られ、その上からお強力な『固定化』をブレンドし、
 強固な城壁として形を成した、凶悪な耐久力を持った箱だった。

 男は箱を握り締めると、口端を吊り上げ、声を出さずに笑った。
 欲しいものを手に入れた子供のように、ただ無邪気に笑っていた。



                    六話



 ロングビルが振り向いた先にいたのは、『炎蛇』の二つ名をもつ教師、
 禿げ上がった頭がコミカルで印象的なコルベールだった。
 彼はロングビルの一メートル程度しか離れていない場所に立ち、
 年齢にそぐわない人懐っこい微笑みを浮かべている。
 ロングビルの顔が驚きに、一瞬だけ引きつった。

(この私に気づかれず、いつの間に……!?)

 コルベールは微笑みを携えたまま、ロングビルの隣まで近寄ってきた。

「おや、どうしましたかなミス・ロングビル? そんなに顔を引きつらせては、
 まったく。せっかくの美貌が台無しですぞ」

 それは間の抜けた声だったが、反射的にロングビルは僅かに肩を揺らした。

「……またご冗談を、ミスタ・コルベール。私は宝物庫の目録を作ろうかと……」
「扉をあんなに愛しそうに撫で回して、ですか?」
「……!!」

 ロングビルの顔から、愛想のいい笑みが消えた。
 目を見張らせ、勢いよくコルベールに振り向いた。

 一転して、空気が変わった。
 それはこの場における空気と、コルベールの身に纏う、殺気。
 いつも自分の実験を披露するときのような、穏やかで愛嬌ある彼独特の空気は、
 今、ロングビルの背筋を冷たく撫で回す『寒気』へと、その先の『恐怖』へと変わっていた。

「……下手な芝居はやめなさい。私はあなたのことを、傷つけたくはない」

 コルベールの顔から、人のよさそうな微笑みが消えていた。
 眼を閉じ、顔を斜めに浅くうつむかせている。

「おとなしく捕まりなさい。『土くれ』」

 眼を半分ほど開くと、コルベールは言った。
 悲しげな表情に対し、教え子に語りかけるような、優しい口調であった。

 ロングビルはポケットから素早く杖を抜き取ると、詠唱もそこそこに呪文を唱えた。

 対峙する両者の中間の床が小さく盛り上がり、それは手のように変化すると蛇ように動いて
 コルベールの足首をがっちり掴んだ。そして、そのまま動かぬ鉄へと変化を遂げる。
 続いて盛り上がった床のさらに奥から、コルベールに向かって物凄い速度で岩が飛んだ。
 それも一つではない、人の頭の大きさはあろう岩が、4つはある。

 コルベールは抵抗の一つ見せずに、迫りくる岩の群をも無視し、
 もの悲しげな眼でロングビルを見つめていた。

 岩は一つとしてそれることなく、コルベールにの体に直撃した。……はずだった。


「なっ……!?」


 ロングビルは目の前の光景に、ただ唖然とした。
 コルベールは確か、同じ『トライアングルクラス』のメイジ。そして、その字が示すとおり、
 『火』系統の使い手。
 しかし、本質は学院で能天気に授業やら、意味のわからない発明とやらをしている
 一回の教師に違いはないはずだ。

 『事情』ゆえに、メイジをやめた。それゆえに、闇に身を染めた。
 裏道を進み、汚れた未来を進むことで皮肉にも磨かれた魔法が、負ける要素はないと
 ロングビルは確信の域でそう思っている。

 では……なぜ?

 なぜロングビルの投じた岩は、コルベールの体に届くほんの数センチ前で、
 異臭を残し、蒸発した水のように消えてしまったのだ……?

 下唇をかみ締め、ロングビルはもう一度杖を振った。

 放った魔法――魔法によって放たれた『土の手』――が、同じようにコルベールの目前まで迫ると
 突然爆発したように燃え出した。
 土を原型がなくなるまで焼き焦がす異臭が漂い、空気に染み込んで広まってゆく。
 しかし、お互いに鼻を塞ぐこともせず、かわりに殺気を孕んだ視線を互いに投げかけあった。

「……無駄な事はやめなさい。どちらにしろこの先にあるものは、あなた“ごとき”に扱える
 シロモノではないよ……」
「“ごとき”……?」

 コルベールの口調に、いっそう哀しみが染み込んだ。
 ロングビルは方眉を吊り上げ、いっそうコルベールを強く睨んだ。

「このあたしを捕まえといて、ごとき、とは言ってくれるね」
「ごとき……、さ。わたし『ごとき』に苦戦しているのだからね」

 ロングビルは憎々しげに、舌打ちを打った。
 ムカつく言葉だが、その言葉は紛れもない事実だったからである。

 この男は強い。と心の底で認めてしまった。
 職業柄、強いものに対立しないことは、暗黙の了解であった。
 メリットが無いからである。
 自分の上を行くものを倒したところで、国から勲章がもらえるわけでも、金が入るわけでもない。
 ならば相手にしないことだ。みすみす『お宝』を逃すのは痛いが、
 戦って強力な魔法、あるいは剣戯をプレゼントされるほうが、よっぽど痛いし無駄なことだ。
 ましてや下手して死んだなら、そいつは勇気あるものでなく、無謀なバカなのだと
 同業に笑われることになる。死んでまでナメられる。

 強いものとは真っ向から戦わない。
 心に深く刻んだ暗黙の了解が、しかし今破られてしまった。
 そのことが余計に、ミス・ロングビルとしてでなく、


 盗賊――『土くれのフーケ』を苛立たせていた。

 授業もそこそこに受け終わり、レッドはルイズに引きずられるようにして
 食堂に来ていた。本当はいつものようにさっさと逃げて、厨房でなにか
 まかないものでも適当につまみたかったのだが、
 教室を出ようとしたところで殺気だった目を光らせるルイズに捕まり、
 そこそこの抵抗もむなしくすさまじい力で引っ張られたのだった。

 レッドは石を並べた床に座り込んで、ぼーっとルイズの去った方向を眺めている。
 ルイズは先ほど「今日という今日こそあんたの立場ってもんを教えてあげるんだからね!」と
 甲高い声でわめき散らした後、レッドの両手を後ろにロープで縛ってどこかへと消えていた。

(……しかし、何を考えているんだ、ご主人さまとやらは……?)

 レッドは心の中でため息をつくと、冷たい床に押し付けたままの足を組み替えた。

 ルイズの行動がわからない。躾るなら、こんな方法じゃだめだ。こんな力任せの強引な方法では、
 たとえどんなポケモンをゲットしようとも、言うことを聞いてくれるはずがない。
 ポケモンと……パートナーと親しくかつ信頼を結ぶには、まずお互いの意見を聞きあって見る必要があるだろう?
 ケンカしたり一方的な意見を押し付けたりするときもあるさ。だけどな、それはまだ先のこと。
 定石(セオリー)通りにいくなら、まず先に懐かれたいほうが心を開くんだ……そういうもんだぜ?

 経験を思い出しながら内心で物思いにふけっているが、その場合肝心のポケモンは
 自分になることをレッドはよく理解していなかった。そして、既に第一関門
 『お互いの意見を聞き合う』についてはチャンス、及び機会を自らの性格のせいで
 なくしていることにも、かけらも気づいてなかった。


 ■

 ……しかし、遅い。
 あくびが出るほどに、遅い。眠れるほどに、遅い。ルイズはまだ帰ってこない。
 遅すぎる。食堂にはもうほとんど人など残っていない。生徒達はみな自分の寮なり
 図書館なりに去ってしまい、食事のとき、貴族の身の上話、バカ話などであれだけうるさかった
 空間は、ぽっかり大きな穴が開いてしまったようにしんと静まり返っていた。

 腹が減り、レッドもいい加減に退屈になってきていた。
 せめて両手が自由であれば、まだましかもしれない。さっきは背中の上の辺りが
 こそばゆいかったのだが、懸命に手を伸ばしても届くはずが無く、結局かけないままだった。

 まだ生徒達もまちまち残っているが、決闘の件でいろいろ不気味に思われたレッドに
 話しかけようなんて奴は一人もいない。というか誰もレッドを見ようともしない。
 通路上を歩く、ほとんどの生徒が横目でこっちを見て、ひそひそ話をしながら目をそらす。
 いつもなら、こんな姿を見ると絶叫しながら縄を解き、なんだかんだで飯を分け与えてくれる
 シエスタも、今日は担当場所が違うのか、食堂に入って一度も姿を見ていない。

「……退屈だ」

 つぶやくように一人ごちた、そのときだった。


「ねぇ、あなたルイズの使い魔よね?」


 燃えるような赤い髪の女に艶やかな声で呼ばれたのと、
 腰周りのボールの二番目が、ガタガタと震え始めたのは。

 炎のような紅い髪、整った顔立ち、艶やかな声質、男だったら一度は夢見る豊満なボディ。
 挑発的な笑みを浮かべる女と、その斜め後ろに眼鏡をかけた青い髪の小さい女の子がいた。
 青髪眼鏡の女の子は特に覚えは無いが、声を掛けた赤い髪の女には見覚えがある。
 確か名前は「キュルケ」と言った、授業のとき、親切にルイズの危険性を教えてくれた人だ。

 レッドは普段パーティでも特におとなしい『二番目』が暴れるているのも気になったが、
 キュルケには授業の礼もあると考え、悩んだ末に、とりあえず後回しにした。

「……あの時はどうも、おかげで助かった」
「え、なんのことだったかしら?」

 キュルケはとぼけた顔で「タバサ」と言い、眼鏡の子へ視線を投げた。
 しかしタバサは分厚い本を手に、いつのまにかもくもくと読書を始めており、
 キュルケの問いにはうんともすんとも答えなかった、が。

「あ、ルイズの錬金のときね! 思い出した! それにしてもよく覚えてるわ、さすがね」

 勝手な自己解釈か? と思わずレッドは少し引いた。
 二人のやり取りは、ポケモントレーナーとして洞察力も高いレッドをしておいて、
 はっきりとわからないものだった。

「用件は?」
「あら、特に無いわよ。ただアナタがこの子に似てるって噂を聞いたもんだから、
 ホントかどうか確かめてみたかっただけ」

 拍子抜けに、無邪気に笑うキュルケを無視し、レッドは視線を動かした。
 斜め後ろ――タバサを見る。

 見つめられても尚、もくもくと本を読み続ける姿は、冒険凶と言っても差し支えない
 レッドに、ある種のむなしさを連想させた。
 続いて顔に、文を追って動くサファイアのような瞳を覗き込み、レッドはくっと苦笑いした。
 能面のように無口で、石のように無感情で、鉄のように無愛想で……なるほど、
 たしかに似ているかもしれない。いや、大まかに同じだ。

 ――心の動きは目に現われる、
 ――感情の揺らぎは瞳に映る。

 ――――しかし彼女はどちらも無い。

 瞳そのものに宝石のような美しさはあるが、きっと、彼女の心は石ころと同じだ。
 落ちない砂時計と同じだ。動かず、揺らがす、ただ淡々と……そこにある。

 レッドは顔をうつむかせ、悟られぬよう二度目の苦笑を浮かべた。

 そしてまた、丁度タイミングよくルイズが(顔を真っ赤にして叫びながら)戻ってきたのと、
 二番目のボールが再度、今までより更に激しく震えだしたのと、

 タバサが何かを感じ取ったように、本から顔を上げたのは同時であった。



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