「諸君!決闘だ!」
ヴェストリ広場に大勢の見物人が集まる中、その中心でギーシュ・ド・グラモンは薔薇を口にくわえながら宣言した。
そこへピンク色の髪をした一人の少女が、人垣をかき分けてギーシュの前に出てくる。
そこへピンク色の髪をした一人の少女が、人垣をかき分けてギーシュの前に出てくる。
「ギーシュ!やめて!決闘は禁止されているはずよ!」
その少女、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは懇願するように叫ぶ。
しかしギーシュはそれを気にした様子もない。
しかしギーシュはそれを気にした様子もない。
「禁止されているのは貴族同士の決闘だ。平民との決闘は禁止されていない。
それにしても君の使い魔はどこにいるんだね?」
それにしても君の使い魔はどこにいるんだね?」
すぐに来るよう言ったはずだが姿が見あたらない。と言いつつあたりをキョロキョロと見渡す。
食堂を出ていったのを見かけたルイズも不思議に思い、その姿を探す。
そこへ周りからヤジが飛ぶ。
食堂を出ていったのを見かけたルイズも不思議に思い、その姿を探す。
そこへ周りからヤジが飛ぶ。
「逃げ出したんじゃないのか?」
「随分腰抜けだな!」
「ゼロの使い魔は、プライドもゼロか!」
「随分腰抜けだな!」
「ゼロの使い魔は、プライドもゼロか!」
ゲラゲラと笑いながらいう野次馬に、カッとなったルイズは怒鳴ろうと口を開こうとする。
しかしルイズは何かに気づいたようにハッとして、口を閉ざし辺りを見回す。
ギャラリーはそんなルイズの様子を訝しく思ったが、どこからかバイオリンの音色が響いたのを聞きつけた一人が声をかける。
しかしルイズは何かに気づいたようにハッとして、口を閉ざし辺りを見回す。
ギャラリーはそんなルイズの様子を訝しく思ったが、どこからかバイオリンの音色が響いたのを聞きつけた一人が声をかける。
「おい、この音はなんだ?」
その言葉に周りもようやく気づく。
その音色に聞き覚えがあるルイズは、姿を探すが見あたらない。
ギャラリー達も出所を見付けようと辺りを見回す。
その音色に聞き覚えがあるルイズは、姿を探すが見あたらない。
ギャラリー達も出所を見付けようと辺りを見回す。
「あ!あそこだ!」
そのうちギャラリーの一人が見付けたようだ。
広場に面している一つの塔の屋根の上を指さす。
そこにはカラスを肩にとまらせ、巨大なバイオリンを背負い、太陽をバックに曲を演奏する男がいた。
男が演奏をやめ、広場を見下ろしながら口を開く。
広場に面している一つの塔の屋根の上を指さす。
そこにはカラスを肩にとまらせ、巨大なバイオリンを背負い、太陽をバックに曲を演奏する男がいた。
男が演奏をやめ、広場を見下ろしながら口を開く。
「すぐにその汚らしい口を閉ざすんだな。さもなくば地獄への行進曲を聞くことになるぞ」
不思議な威圧感を出しながら言う男に、周りの野次馬は口を閉ざす。
男の肩にいたカラスがルイズの近くまで飛んできて、その肩にとまる。
男の肩にいたカラスがルイズの近くまで飛んできて、その肩にとまる。
「ルイズ落ち着くんじゃ。いちいち反応していたらキリがないぞ。ハーメルも降りてこんかい」
「オ、オーボウ」
「オ、オーボウ」
カラスはルイズに話しかけ、その後塔の上の男に向かって言う。
そのカラス――オーボウ――の言葉を聞き、男――ハーメル――はフッと笑い、塔から飛び降りる。
そのカラス――オーボウ――の言葉を聞き、男――ハーメル――はフッと笑い、塔から飛び降りる。
「おお!?」
「飛んだぞ!」
「飛んだぞ!」
その行為に周りがどよめく。
ハーメルは巨大なバイオリンを背負ったまま、クルクルと回りながら塔から落下し――
ハーメルは巨大なバイオリンを背負ったまま、クルクルと回りながら塔から落下し――
どがぁぁぁ!!!べきっ!!!
――そのまま墜落した。
「うぎゃあああ!!!大骨折したあああ!!!」
痛すぎる~!と叫きながらハーメルは右足をおさえ、ゴロゴロとのたうちまわる。
そのあんまりな光景に周りはポカーンとしている。
そんな周りを無視して、ハーメルは何事もなかったかのようにマントを翻しながら立ち上がり、ギーシュに言い放つ。
そのあんまりな光景に周りはポカーンとしている。
そんな周りを無視して、ハーメルは何事もなかったかのようにマントを翻しながら立ち上がり、ギーシュに言い放つ。
「フッ、このおれが『伝説の最強最大勇者』超特大バイオリン弾きのハーメル様だ。逃げ出すのなら今のうちだぞ」
「足折れたままだぞ……?」
「足折れたままだぞ……?」
右足をプラプラさせ、バックにゴゴゴゴというエフェクトをつけながら言うハーメルに、見物人のひとりがつっこむ。
「ふ、ふんっ。に、逃げ出したわけではないようだね」
いろいろとペースを乱されたギーシュは、多少ドモリながら声をかける。
「怯えずに来たことはほめよう。さぁ決闘を始めようじゃないか!」
そう宣言するギーシュの声に、ルイズはハッとして止めようと身を乗り出す。
しかしそれはオーボウに止められる。
しかしそれはオーボウに止められる。
「やめるんじゃ、ルイズ」
「オーボウ!?どうして!?」
「言ったところでやめはせんじゃろう。ハーメルも一度決めたら人の話を聞くような男ではない」
「そんな!?」
「オーボウ!?どうして!?」
「言ったところでやめはせんじゃろう。ハーメルも一度決めたら人の話を聞くような男ではない」
「そんな!?」
オーボウとルイズが言い合いをしているのを気にせずに、ギーシュは薔薇の造花を一振りする。
花びらが一枚地面につくと、そこから煌びやかな装飾がされたゴーレムが一体出てきた。
花びらが一枚地面につくと、そこから煌びやかな装飾がされたゴーレムが一体出てきた。
「僕はメイジだ、魔法を使ってお相手をしよう。僕の二つ名は『青銅』、『青銅』のギーシュだ!
青銅のゴーレム『ワルキューレ』を使う!行け!ワルキューレ!」
青銅のゴーレム『ワルキューレ』を使う!行け!ワルキューレ!」
ワルキューレがハーメルに向かって突進してくる。
「ハーメル!危ない!」
ルイズはそれを見てハーメルに声をかける。
それに対しハーメルは冷静に――
それに対しハーメルは冷静に――
ガシッ!
「へっ?」
「へっ?」
オーボウを掴み。
ズボッ!
「グッ!?」
「グッ!?」
ダイナまいと、と書かれた筒をオーボウの口に押し込み。
「そりゃあああ!!オーボウ爆弾!!!」
ワルキューレに向かってぶん投げた。
どがああああああん!!!
着弾し爆発をするオーボウ。
それを見たルイズはハーメルの胸ぐらをつかみ叫ぶ。
それを見たルイズはハーメルの胸ぐらをつかみ叫ぶ。
「あ、あああああんた何してんのよ!!!」
「フフフ…こんな時のために用意してあったオーボウ爆弾だ」
「アホかいっ!!」
「フフフ…こんな時のために用意してあったオーボウ爆弾だ」
「アホかいっ!!」
詰め寄るルイズに、なんの悪びれもなく答えるハーメル。
「ハ、ハーメル…貴様……」
「オ、オーボウ!オーボウ!!」
「え―――い、死んでしまったやつのことは考えるな!」
「あんたがやったんでしょうが―――!!!」
「オ、オーボウ!オーボウ!!」
「え―――い、死んでしまったやつのことは考えるな!」
「あんたがやったんでしょうが―――!!!」
ピクピクと瀕死の状態で呻くオーボウ。
心配して声をかけるルイズとそれを気にしないようにいうハーメル。
心配して声をかけるルイズとそれを気にしないようにいうハーメル。
「ふ、ふふふ。こんなに馬鹿にされたのは初めてだよ」
自分を無視され、怒りにプルプルと身を震わせるギーシュ。
彼は薔薇を振り、さらに六体のワルキューレを出す。
彼は薔薇を振り、さらに六体のワルキューレを出す。
「君は僕の全力で叩きのめしてあげよう!!」
その声と共に六体のワルキューレがハーメルに襲いかかる。
ルイズと言い争いをしていたハーメルは、その攻撃を無防備に受けてしまう。
ルイズと言い争いをしていたハーメルは、その攻撃を無防備に受けてしまう。
「きゃあ!」
それを見たルイズが悲鳴を上げ、涙目になり叫ぶ。
「や、やめてえええ!!!」
「いてぇじゃねぇか!このボケえええええ!!!」
「いてぇじゃねぇか!このボケえええええ!!!」
叫びながらワルキューレの一体を持ち上げ、残りを蹴散らすハーメル。
「へ?」
「バ、バカな!?」
「バ、バカな!?」
まったく攻撃がきいてない様子に惚けるルイズと、驚愕するギーシュ。
「よくも俺様のエレガントビューチーフェイスをしこたま殴ってくれたな~。この代償は大きいぞ~。」
ハーメルは立ち上がりながらバイオリンを構える。
「この超特大バイオリンで聞かせてやる!死の序曲をな―――!!」
そう言い放ちバイオリンを担ぎ、踊り狂うように曲を弾き始める。
「な、なんだ!?ヘンテコでバカでかい楽器をマヌケに弾き始めたぞ!?」
「バイオリンだ!バイオリンにこだわっているんだ!!」
「バイオリンだ!バイオリンにこだわっているんだ!!」
ハーメルの奇行にギャラリーがざわめく。
「こんな時にいったい何を考えているんだ?」
「でも…とても美しい演奏だわ…」
「でも…とても美しい演奏だわ…」
困惑するギーシュ。
マヌケな行動だが、曲は美しいというルイズ。
マヌケな行動だが、曲は美しいというルイズ。
「マーラー作曲、交響曲第十番《大地の歌》じゃ」
「オーボウ?」
「オーボウ?」
そこへいつの間にか復活したオーボウがルイズの肩にとまり、語る。
「家庭に恵まれなかった偉大なるシンフォニスト、マーラーが最後に残した曲じゃ。
これを聞いたものは、生涯で一番心に残る場面を思い出すという」
(涙が……)
これを聞いたものは、生涯で一番心に残る場面を思い出すという」
(涙が……)
ルイズの脳裏に過去の情景が浮かんでくる。
魔法の練習で失敗し、怒られたルイズはベッドへ潜り込んで泣いていた。
そこへ姉のカトレアが来る。
そこへ姉のカトレアが来る。
"ルイズ、どうしたの?"
"また魔法を失敗しちゃった……"
"また魔法を失敗しちゃった……"
優しく声をかけるカトレア。
むずがりながらカトレアに抱きつくルイズ。
カトレアはルイズの頭を撫でながらあやす。
むずがりながらカトレアに抱きつくルイズ。
カトレアはルイズの頭を撫でながらあやす。
"気にすることないわ。あなたはきっとすごいメイジになれる。
お父様よりもお母様よりもお姉さまや私よりずっとすごいメイジよ
間違いないわ、私の可愛い小さなルイズ"
お父様よりもお母様よりもお姉さまや私よりずっとすごいメイジよ
間違いないわ、私の可愛い小さなルイズ"
(ちい姉さま……っ!)
ルイズはいつも自分に優しかった姉を思いだし、ポロポロと涙を流す。
「おい!あれを見ろ!」
ギャラリーの一人が何かに気づき、指をさしながら声を出す。
その声にハッとなり、その指さす方向をみるルイズ。
その声にハッとなり、その指さす方向をみるルイズ。
「うぅ~…ごめんよ~もうしないよ~許してくれ~…」
そこには涙を流し土下座するギーシュの姿があった。
「な、何があったのかしら?」
冷や汗を流しながらルイズはオーボウに訪ねる。
「おそらく過去の所行を思い出しているのじゃろう」
「あ~…なるほど…」
「あ~…なるほど…」
おそらく過去に付き合っていた女性に浮気がばれ、怒られている所を思い出したのだろう。
そう判断したルイズはハーメルを探す。
そう判断したルイズはハーメルを探す。
「ほ~れほれ、頭を地面にこすりつけんか」
ルイズが見付けたのは、ギーシュの頭を踏みつけ、なぜか自身に土下座させるハーメルだった。
脱力するルイズ。
脱力するルイズ。
「許してください!もう不誠実なことはしません!ですから……」
邪気がいっさい無い目でハーメルを見つめるギーシュ。
だまってそれを見下ろすハーメル。
固唾をのんで見守るギャラリー。
だまってそれを見下ろすハーメル。
固唾をのんで見守るギャラリー。
「だぁれが許すかこのボケえええ!!!」
ハーメルは邪悪な笑顔で新たな曲を弾き始める。
「や、やめてくれ~!はずかしすぎる~!!」
曲を聞くとギーシュは全裸になり、どこからか出したお盆で股間を隠し、踊り始める。
「そ~れ、踊れ踊れ~」
「誰かやめさせろ!見苦しすぎる!!」
「誰かやめさせろ!見苦しすぎる!!」
とても楽しそうに曲を弾くハーメル。
ギャラリーはあまりに惨たらしいギーシュの姿に哀れみをもつ。
頬を引きつらせるルイズとオーボウ。
ギャラリーはあまりに惨たらしいギーシュの姿に哀れみをもつ。
頬を引きつらせるルイズとオーボウ。
「実は昔、モンスター相手に王宮でこれをやってな……」
「そそそそそう、ひひひひひ評判はどうだったのかしら?」
「もちろん…最悪じゃった……」
「そそそそそう、ひひひひひ評判はどうだったのかしら?」
「もちろん…最悪じゃった……」
互いに脂汗をかきながら言葉を交わすルイズとオーボウ。
その二人の前では、いつまでもギーシュの裸踊りが続いていた………。
その二人の前では、いつまでもギーシュの裸踊りが続いていた………。
ハーメルンのバイオリン弾きから、ハーメル(+オーボウ)召喚。