あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔を使う使い魔-05

 ……早いもので、レッドがルイズの使い魔として召喚されてから一週間が経過した。
 あの、ギーシュと決闘を交わした日からすると既に二日がたっている。
 使い魔としてのレッドの名は、その二日のうちに学院内の貴族、平民の間に瞬く間に広がっていた。




                   五話


 噂を聞いた貴族達の中で、レッドの評価は様々なものだった。
 ギーシュを倒した使い魔。平民の癖に強く、不気味な存在と見てまったく近寄らないもの。
 彼らが特に不気味と感じたのは、単純に誇張の強まった噂のせいだけではない。
 何を話しかけようともまるで反応を示さない人形のような意思表示。はたから見ているだけで、
 ルイズとの関係性を主従かと疑いたくなるほど勝手な、レッドの捻くれたように見える人間性が原因だった。
 レッドの話のさい、生徒達の間ではよく本の虫こと『雪風』の女の子が比較対照の話題に上がるのだが、
 思えばあの子にはキュルケというまんま爆弾のような友人がいることをふと思い出す。

 とにかく、今まで不気味というか、比較的浮きまくっていた『雪風』すら可愛く見えてしまうほど、
 レッドの存在は浮いていた。

 また一方で、【ゼロ】の召喚した彼を相変わらず軽んじる者達もいた。
 主に上級生達であり、その中でも特に貴族としての我が強い者達である。
 決闘を目の当たりにしている者たちも、所詮アイツが倒したのはドットのギーシュだ。と
 廊下を歩くたびに言い放ち、わざわざ大人数でレッドをよく見かけるという場所の近くにきては
 本人とすれ違ったときになどにわざとらしく肩をぶつけ、罵倒する。
 もちろんレッドは謝った上で相手にもしていないのだが、それを「ビビっている」だとか「怖気づいた」
 だとか演技満々で笑い飛ばし、さんざん皮肉をぶちまけながら帰って行く。

 悪口のさなかにルイズが出っ張り、ケンカすることもある。
 大抵の場合上級生の「この使い魔は躾が~」からルイズが叫び返すことで始まり、
 ルイズの負けず嫌い気質をフル活用したわめき合いに続く。
 しかし、いくらルイズの負けん気が強かろうが家系が凄かろうが、多勢に無勢で
 しかも肝心の使い魔はまったくの無関心というどうしようもない現実が叩き付けられ、いつも敗北する。

 ちなみに、ルイズはこの後使い魔を部屋に引っ張ってお仕置きしようとするのだが、
 毎回の如くレッドの前に不可視の壁が現われて、ムチがはじかれるだけで終わる。
 触れるどころか近寄ることも出来ない、コレもポケモンとやらのせいなのだろうと思うと、ただムカついた。
 レッドはそのうちその場に座り込み、何食わぬ顔で『図鑑』とよんだ赤い箱をガチャガチャ
 いじくり始める。
 その態度を、ルイズは挑発されていると、ナメられていると受け取って、
 無駄だとわかっても必死でムチをふるい続けてやがて疲れ果てるのだった。

 その隙をみて、また悠々と外出。行き先はほとんど厨房、もといシエスタ。
 息を荒げるルイズのこめかみに反射的に青筋がたつが、「進歩。これは進歩しているのよ」
 と自分に言い聞かせ、ルイズは下腹あたりにくっと力を込めて後姿を見送る。

 行き先を告げるようになっただけまだマシである。
 なにせあの日の夜以前は、何も言うことなく何も答えることなくどこぞなりとふらふら消えていたのだから。


 ――――そう、このイラだち、コレは進歩だまだマシだ。


 何の進歩か本人をしてよくわかってないが。

 加えて、進歩――「変化」――はまだあった。

 レッドは朝には必ず部屋にいるようになったし、ルイズに顔を洗わせることと服を着させることもした。
 朝食となると食堂に入る前にどこかに消えるのだが、まぁ厨房……シエスタのところに朝食をとりにだろう。
 ここは変わらない。
 大きく変わったのは、レッドが共に授業を受けはじめた事だった。

 隣の椅子に座り、先生の話す内容を眼をぎらつかせて聞き入る。そりゃあもう、怖いくらいに真面目に。
 そして、そのときだけやけに素直になる。

 黒板に書き込まれる字は読めないと言い、素直にルイズに聞いてくる。小声でしぶしぶ説明してやると
 頷くなり小声で「むー」とうなったりする。
 わからない問題があると言うと、それこそルイズが授業にならないくらいしつこく聞いてくる。
 授業が終わった後も聞いてくる。言葉態度は冷静に、しかしひたすら眼を輝かせて。

 隠し切れないほど好奇心の強い性格だ。とルイズは感心した。
 幼い子供のように、未知や神秘に頑なに惹かれるのだろう。そしてそのときだけ、
 必死で覆い隠している冷静な皮が剥がれ落ちてしまう。
 思わず、こっちこそがレッドという少年の、本来の姿ではないかと疑った。
 意外とかわいいやつじゃない、と心の中で微笑んだ。
 なによりこれはルイズにしかわからない変化だったのだ。ざまぁみなさい、メイドめ。

 授業が終わると、レッドはさっさと立ち去った。
 それは、今日も同じこと。

 レッドは興味を持ち始めていた。他の何でもなく、魔法という神秘に。

 自分はトレーナーとして様々な場所を冒険し、修行を積んできた身だ。
 途中、正義感から最強とささやかれるマフィアと戦い、ボスを倒し壊滅にまで追いやったこともある。
 『伝説』とされる存在と合間見えたし、かつての『最強のポケモン』とも戦い抜いたことだってある。
 それでも、三年以上を費やした冒険と修行の中で、これほど特異な現象と出会ったことはなかった。
 この世界は「ポケモン」と「魔法」の世界的な価値観が逆になっているだけだと頭の中の冷静な部分
 は判断を下すが、そうじゃない。と頭のどこかが否定する。

 ギーシュとバトルしたとき、あのワルキューレというものを見て心が躍った。
 思えば、トレーナー戦は何時ぶりだったろうか? あれは間違いなくポケモンではなかったが、
 体は勝手にデシャヴを起こして腰のボールに手が行った。
 『青銅』=『はがねタイプ』という計算が体で無意識になされた。手は自然と四番目を取った。
 勝負は一瞬。今までならつまらないとはき捨てる結果は、その過程に意味があった。

 ――楽しい、ということを思い出したのだ。

 ルイズを【さいみんじゅつ】で眠らせた後。シエスタをさがした。ある頼みごとをするために
 朝、仕事終わりに会う約束をしていたのだった。
 向かった場所は学院で働く者が寝泊りする宿舎。しかし、中に踏み込んだりはしない。
 少々回りくどいが、事前にマルトーのおじさんに話を通して呼び出してもらっていた。
 仕事が終わって疲れているだろう彼女に会うのはやや心が痛むが、それはシエスタはいい人だからである。
 だが、レッドの心は他者へのいたわりのそれよりも、久しく感じる好奇心の方がはるかに勝っていた。

 学院の外で待っていると、シエスタはおずおずと出てきた。給仕服は脱いでいる、当然か。
 彼女は顔をうつむかせている、目線を横に流して意図的に眼を合わせないようにしているのは明らかだ。
 やはり仕事上がりのやっと訪れた自由な時間に呼び出されて、嫌なのだろう。
 謝りを入れて引き返すことも考えた。でもやっぱり、好奇心がその場に体を縛り付けた。

「あの……レッドさん……」

 弱弱しくそう切り出したのは、シエスタからだった。
 掛けてやる言葉を詮索したが、今にも泣き出しそうな人を前に体が動かなかった。
 まったく情けないことだ。と冷静な部分の自分がごちた。
 しかし、シエスタの次の言葉は、予想を斜め上に超えていた。

「ごめんなさい!」

 それは、一途な想いの篭った、確かな謝りの言葉だった。

「…………へ?」

 気が抜けた。憑き物でも落ちたんじゃないかってくらいにずるんと、壮大に。
 シエスタはこちらの様子などお構いなしに、再び頭を下げた。

「あの……本当にごめんなさい。私のせいでレッドさんが決闘なんかすることに
 なっちゃって……その、私は」
「……あー、そうだったな……」

 呆け面で頭をかきながら思い出す。ギーシュとバトルする原因の一端は彼女にあったなーと、……完全に忘れていたが。
 ――しかし、それだけのことでここまで謝ってくれるとは、シエスタはよほど人がいいのか。
 それともこの世界ではそれだけ身分に差があるのか?

「……別にいいさ、勝ったし」
「え、あの……じゃあ、許して……くれるんですか?」

 シエスタは恐る恐る聞いた。

「だから、いいって言ってますって」

 言葉の後、シエスタは感極まるとでも言える笑顔になり、レッドの片手を包むように握った。
 レッドは一瞬びくッと肩を震わせ、ぼうっとした眼でシエスタを見る。
 頬をうっすらと赤く染めたその顔は、やわらかい笑みを浮かべていた。

「ありがとうございます………えへ、レッドさんてもっと怖い人かと思ってましたけど、
 意外とやさしい人なんですね……」

 野に咲く花のような笑顔を言葉と共に送られると、レッドは返す言葉もなくシエスタから乱暴に手を解いた。
 それからくるっと背を向けると、たいして乱れてもない帽子を、深くかぶり直した。
 ようやく頼みごとをするのは、それからしばらく経ってからのことだった。

 それからというもの、マルトーのおじさんをはじめとする厨房の面子。
 シエスタをはじめとする召使いの面子にやたらと好意的に接せられるようになった。
 出される飯は貴族に出すものと間違えたのと聞いてしまうくらい豪華なものに昇格し、
 ふと一人で廊下を通りすがれば、ほうきを持った召使いの子から気軽に話しかけられた。
 中でも、シエスタは一段と好意を寄せてくれていた。
 それは悪くない……どころか気分がよかった。懐かしい想いに浸っている気がして、心が温かくなる。

 隔てのない人たちと接したのも、レッドには久しぶりだった。

 そして、レッドが興味を持ち、積極的に授業に参加したのは単に魔法だけではなかった。

 むしろレッドにとって魔法よりも興味深かったのは、教室の周りにいる他の使い魔たちのことである。
 彼らは皆レッドと同じように召喚されたワケだが、そのことを聞いたレッドは妙に真剣な表情を浮かべた。
 彼らはレッド以外動物であり、そのうちのほとんどは、レッドのいた世界にも種類がいた。
 初めて授業に参加したレッドは、彼ら全てを見渡そうと目線を配らせた。
 だが、コレといって驚くような奴は教室内にはいない。あきらめたように息をつき、
 ふと窓の外を見て……驚きに、眼を見開いた。
 窓の外に待機していたのは、一匹の竜だった。青白い肌の、かなり大きな竜。
 しかも偶然なのか、竜の大きくてくりくりした眼は、レッドの方をじっと見つめている。

「……おい」
「……なによ? おとなしくしてなさい」
「外のあれ……なんだ?」

 レッドが小さく指差すと、ルイズは指を追って外を見た。
 しばらくして、ふぅ、と疲れたようにため息をつく。

「あれはウインドドラゴンの幼生よ……」
「……! ドラゴン……」

 レッドの頭に浮かんだのは、かつての四天王の『将』。
 圧倒的な破壊力と耐久力を生まれ持った伝説の生き物、ドラゴンタイプを駆使する
 おそらくは短い生涯の中で、二番目の強敵。
 こっそりと図鑑を開く、その対象をウインドドラゴンとやらに向けるが……

『ザー……ザザー……ザ、ザー……』

 やはり、まともに機能してくれなかった。

 そしてこの日、錬金という時間にクラスメイトに冷やかされたルイズがムキになって、
 前に出て実験をすると名乗り出た。
 途端にクラスメイトの何人かが悲鳴を上げ、何人かはもくもくと机の下なりに隠れる逃げる。
 たかが学校の実験で逃げ隠れる意味がわからなかったが、キュルケという女子生徒が呆然と
 椅子に座っていたレッドに、隠れた方がいいと教えた。
 ワケわからぬまま机の下に伏せた直後、それこそマルマインが【じばく】でも起こしたような爆発が巻き起こり、
 教室は本当に【じばく】……それどころか【だいばくはつ】でも起こしたような惨状になった。

「…………ちょっと失敗しちゃったわね」

 そして、【じばく】の中心にいたはずのルイズはひんし状態になることもなく、
 すすだらけの顔に苦笑いを浮かべて、そう言った。


 ああ、意外とあいつのがポケモンっぽいな、とレッドは思った。


 同時刻――――……

 太く、また見るからに頑強で巨大な鉄の扉。その扉は中心から二つわけで、一応人が触れれるところに
 ぶっとい閂がかけてあり、またその閂にも巨大で重そうな錠前がコレでもかと掛けられていた。
 念の入れようがありすぎるが、当たり前であった。何せここは宝物庫の扉なのだから。

 その前に、一人の女性が立っていた。
 すらりとした長身に、出る場所はしっかり出ている体つき。
 薄緑のキメのある髪を胸の位置まで伸ばし、知的な眼鏡が似合う大人な女性は
 愛しそうにそのぶっとい錠前をなで、眼前に壁として立ち上る扉を見上げていた。
 女性の名は『ミス・ロングビル』。
 学院の長、オールド・オスマンの秘書を務める優秀なメイジである。

 普段からまじめで清楚。そしてオスマンや教師であるコルベールを見惚れさせるような美人
 である彼女の眼は、しかし今目の前の『壁』を見上げる眼には、悔しさと憎憎しい感情が混ざり合い、
 その表情は心の中で舌打ちをもらすほど苦いものに染まっていた。

「……予想はしていたけど、まぁ、強固な扉だね」

 まったく、と息をつき、手に持った杖をポケットにおさめる。
 扉を開けるために『アン・ロック』、『錬金』と試してみたものの、まったく効果がなかった。
 わかりきっていたことだが、ただでさえクソ分厚いこの鉄の塊にはすさまじい『固定化』が仕掛けられている。
 そして、自分にそれを破る技量はない。

 どうしようと考える。この扉を開ける方法はないものか、頭を捻る。
 誰か強力なメイジを連れてくる……自分以上に強力な『土』のメイジはそうどこにもいない、却下。
 自らの技量を上げ、この扉を開ける……短期間でこれ以上のスキルアップは難しすぎる、大体自分は
                   ここにずっと居座るつもりはない、却下。

「お手上げか。はぁ、あたしとしたことが目の前にあるお宝に手が出せないなんてね」

 ため息でずれた眼鏡をくいっと持ち上げる。と、そのとき。


「おや、ミス・ロングビル。ここでなにをしているので?」


 何の気配も前触れもなく、見知った声が聞こえてきた。



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