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Mr.0の使い魔 第三十四話

 アルビオンに数多い港町の一つ、スカボロー。
 現在アルビオン紛争の最前線になったこの町は、人と物で溢れていた。
間もなく始まる王党派との決戦のため、貴族派が各地の兵力を結集して
いるのだ。
 中でも特に、前線司令部として徴収された町一番の宿の警備は普段の
比ではない。招集された高官達の宿舎として利用されている事を鑑みて、
なお余るほどの厳重な警戒態勢である。


「失礼します!」

 まだ年若い兵が、緊張した面持ちでその部屋の扉を開けた。奥の窓際
に配された執務机、そこで書類を読む人物へと敬礼する。

「ああ、そう畏まらずともよい」

 軽く手を挙げて敬礼を解かせたのは、兵士よりいくらか年を経た細身
の男。丸い球帽にローブとマントを身につけた姿は、とても軍人や貴族
には見えない。また彼の発した言葉も、平民の兵を気にかける穏やかな
ものであった。
 それでも兵は姿勢を直立に戻しただけで、決して気を抜かない。直属
の上司に対するよりもなお堅苦しい態度に、男は苦笑する。

「それで、用件は?」
「巡回行動中の『レキシントン』号より連絡があり、空賊船一隻を確保したとの事です」
「それはよかった。連中の通商妨害は悩みの種だったからな。乗員には何か褒美をやらねば」
「いえ、それが……」
「ん?」

 ばつが悪そうな顔をして、兵士は説明を続けた。
 連絡によると、『レキシントン』号が発見した時には、件の空賊達は
既に壊滅状態で、乗員達は僅かな生き残りを捕縛しただけらしいのだ。
さらに連中のフネは損傷が激しく、港までの牽引は不可能と判断。その
場で処分せざるを得なかった、と。
 驚くべきは、その空賊船からウェールズ皇太子の死体を回収した事、
そしてこの一件が僅か二人によって成し遂げられた事である。

「なんと、それは本当か!?」
「報告が確かならば。それで、その二人なのですが」

 一人は、トリステイン貴族ワルド子爵。名前を聞いた男の頬が緩むが、
もう一人の名を聞くと今度は眉根を寄せた。

「ゼロ、だと?」
「子爵の協力者だと申しております。間もなくこのスカボローに到着しますが」

 言葉を続けようとした彼を、男は手で制した。口元には意味深な笑み。

「後でここに来てもらおう。遅くても構わんから、その旨を伝えてくれ」
「は、しかし閣下。恐れながら申し上げますが、ゼロなど明らかに偽名です。
 いくら口で協力者と言っても、実情がどうだかわかったものではありません」
「なに、心配はいらんよ。子爵が連れて来たのなら、さほどの問題もあるまい」
「……了解しました」

 なおも不満を残した風の兵が退室したのを見計らい、『閣下』は表情
を消した。窓の外に視線を移し、目を細めて雲の一つを眺める。雄大な
青に包まれた白い塊は、風に吹かれてみるみる千切れ、霧散した。

「ふん……いつまでも、流される雲のままでいると思うなよ」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第三十四話


 『マリー・ガラント』号が桟橋に横付け、何本ものロープでしっかり
固定される。次いで甲板からタラップが降ろされ、最初の三人が大地へ
降り立った。クロコダイル、ワルド、そしてワルドの【遍在】。未だに
目を覚まさないルイズは、大きな布に包まれて【遍在】の腕に抱かれて
いる。彼女の存在を極力隠し通すためのやむない処置であった。

「さて、どうする? グリフォンがあるなら、城まで時間はかかるまい」
「いえ、今日はゆっくり休もうと思います。
 精神力を回復させないと、いざという時命に関わるかもしれませんので」
「兄ちゃんの【遍在】も打ち止めみてーだしな」

 鞘に納まったデルフリンガーが、笑いながら口を挟んだ。途端に鋭く
睨まれ、大げさに震えてみせる。

「おお、こわ。そんなに怒るなよ。戦力把握は必須だろ?」
「……ああ、そうだ。しかし、よくわかったね」
「魔法を吸い取る力の応用さ。
 発動してる魔法にどのくらい精神力が使われてるか、何となくだがわかるんだよ」

 「精神力の残り具合もな」と続けられて、ワルドは閉口した。手の内、
特に消耗状態に関しては、デルフリンガー経由でクロコダイルに伝わる
というわけだ。この様子だと、桟橋での裏事情も知られていると考える
べきだろう。デルフリンガーが勝手に能力を喋ったにも関わらず、用心
深いクロコダイルが文句一つ言わないのだから。今のは牙を剥かせない
ための牽制だ。

「おい、世間話はそれくらいにしとけ。お客さんだ」

 そのクロコダイルの声で、ワルドはすぐさま普段の顔を取り繕った。
一方のデルフリンガーも大人しく引っ込み、それきり黙りこくる。
 貴族派への応対準備が整ったところへ、一人の兵士が駆けて来た。

「ワルド子爵、それにミスタ・ゼロでいらっしゃいますね。閣下がお待ちです」
「ああ。その前に一つお願いがあるのだが」
「何でしょう」

 ワルドの言葉を聞いて、兵士の顔に不満がありありと浮かんだ。
 気づかないふりをしたまま、ワルドは用件を伝える。

「先に荷物を運びたい。空いている部屋はないか」
「……でしたら、私がお運びしますが」
「私物だが、大切な品でね。すまないが、他人には手渡したくないのだ」

 大事そうに布包みを抱える【遍在】を一瞥し、兵士は再びワルドへと
向き直った。露骨に嫌そうな表情だが、無駄な問答で時間を喰うつもり
はないようだ。

「では、先にお部屋へ御案内します。こちらへ」
「ありがとう」


 宿を司令部にしている、というのは冒頭で述べたが、クロコダイル達
が通されたのもその宿の一室であった。随分と豪華な部屋で、一泊する
だけで相当な額を必要としそうだ。おまけに今は軍が接収しているのに、
そんな代物を無条件で使わせてくれるという。しかも、クロコダイルと
いう部外者込みで。

「随分と太っ腹だな。こんな部屋を用意してくれる閣下って奴は」

 言葉とは逆に、葉巻を吹かすクロコダイルの目は笑っていない。それ
どころか、戦場のど真ん中にいるように殺気を放っている。
 ワルドとしては正直たまらないのだが、自分も警戒している手前強く
出られなかった。代わりに黙々と【ディティクトマジック】による検査
を行い、盗聴アイテムの類いがない事を確認している。覗き穴がない事
は、真上に立ち上る葉巻の煙ですぐわかった。

「普通の鏡、普通のランプ、普通の窓、普通の壁……不審点はありません」
「感謝の極みだよ、全く」

 忌々しそうに吐き捨てて、クロコダイルは葉巻を灰皿へ押し付けた。

「そろそろ閣下の顔を拝みに行くか。“私物”の管理は【遍在】に任せて、な」


「やあ、よく来てくれた」

 クロコダイルが感じた彼の第一印象は、有り体に言って“冴えない男”
だった。意地汚い権力への個室も、神への狂的な盲信も、暑苦しく燃え
盛る正義感に燃える様子もない。とにかく地味で、あまりに淡白な人柄。
とても反乱軍の最高司令官には見えなかった。

「やはり不思議だろうね、余のような軟弱者が軍を指揮しているのは」
「いや……失礼した、クロムウェル閣下」
「気にしないでくれ。大っぴらには言えないが、自分でも理解しているよ」

 朗らかに笑い、クロムウェルは二人にソファを勧める。物腰も柔らか
で、警戒していた事が馬鹿らしく思えるほどだ。本性なのか演技なのか、
クロコダイルでも判断しかねた。ひょっとして、部屋をあてがった事も
純粋に好意と感謝からなのではないか。

「さて、まずはワルド子爵に礼を言わせてもらおう。
 ウェールズ皇太子の暗殺という難しい任務、よく成し遂げてくれた」
「恐縮です」
「そして、ゼロ卿も。子爵の成功は卿の協力があってこそと聞き及んでいる」
「光栄に思う。
 ただ、一つ訂正させていただけるなら、おれは貴族の称号を持っていない。卿は不要だ」

 そう言って、クロコダイルは腰のデルフリンガーを小突いた。
 平民出の剣士だというニュアンスを込めての仕草に、クロムウェルは
首を振る。了承を示す縦ではなく、否定を示す横に。

「これはすまない。だが、貴殿はメイジなのだろう? それも土系統の上級者」
「何故、そう言える」
「空賊船の中は砂まみれだったそうだ。さらに、何人かが大きな砂柱を目撃している。
 ワルド子爵の系統は風。砂柱を作れるほどの土メイジは生き残りの中にいない。
 ならば、消去法で貴殿の魔法だと考えるのが妥当だ。素人の推測ではあるがね」

 ほう、とクロコダイルは口元を歪めた。貧相な見た目に反して、この
クロムウェルという男、存外頭が働くタイプだ。素人なりに得た情報を
分析し、考察する力がある。ぼんくらな外見で油断していると、知らぬ
間に計略の一部として組み込まれかねない。正直に身上を話すのは愚策
と考えたクロコダイルは、目を細めつつ偽りの自己紹介を始めた。

「いかにも、おれは土系統だ。使える魔法は少々偏っているが」
「よければ一つ、手並みを見せてもらえないか」
「ふむ。では……【砂嵐】」

 呟きと同時に、広げた掌に砂が溢れて渦を巻く。およそ10サントの
小さな【砂嵐】が回転し、部屋の空気をゆっくりとかき混ぜた。
 珍しい大道芸を見たように、クロムウェルから拍手が起こる。

「素晴らしい! 時に、杖を振っていなかったが……どうやったのだ?」
「昔、戦場で片手を失ってな。それ以来こいつが代わりだ」

 砂嵐を消し、クロコダイルは左手のかぎ爪を差し出した。今まで見た
杖の形は様々であり、故にこんなモノでも言い張れば通ると思ったのだ。
いわゆる『杖』以外に造花やサーベルなど様々なデザインが存在する中、
かぎ爪ぐらい違和感もあるまい。
 実際、クロムウェルは納得したように大きく頷いた。

「なるほど、それならば誰も杖とは思うまい。いやはや、貴殿が敵でなくてよかったよ」
「その“敵”に関して、一つ相談があるんだがな」
「何?」

 クロムウェルが安堵している今を逃すまいと、クロコダイルはぐっと
身を乗り出した。話を持ちかけるお膳立ては十分に整っている。後は、
どれだけ相手の興味を引き、乗せられるかだ。

「アルビオン統一後、閣下は他の国も制圧する腹づもりだろう?」
「ん、ああ。特に急いで、という訳ではないが」
「なら、トリステインへの侵攻をしばらく見合わせて欲しい」

 突拍子もない話に、クロムウェルの目が点になった。ワルドも同様に
驚いた顔で、クロコダイルを呆然と見つめる。

「……納得のいく説明を、してもらえるのだろうな」
「無論だ」

 食いついた事に内心ほくそ笑みながら、クロコダイルは話を続けた。
 まず第一に、両国間の地理条件。補給路の確保は軍にとって死活問題
であるが、アルビオンは常に移動を続けており、進攻先との距離が安定
しない。これは安全かつ確実な補給を困難にする。
 また、正面から戦争するとなれば、必然的に軍全体の消耗が早くなる。
どの国相手に戦ってもそれは同じだが、そうして疲弊した所を別の国に
攻撃されればあっけなく潰えてしまうだろう。言うまでもない事だが、
王家の支配に反逆している貴族派と同盟する国は存在しない。いずれの
国が“漁父の利”を狙って行動してもおかしくない状況だ。

「では、持久戦に持ち込めというのかね? 経済的には弱国であるアルビオンが?」
「真正面から攻め込むよりは長持ちするだろう。その間に、裏側から崩せばいい」

 先述の距離の壁は、アルビオンが関わる戦争に於いて攻撃側に対して
のみ制約として働く。逆に防御側の視点では、敵軍を疲弊させる武器の
一つだ。有効利用しない手はない。
 クロコダイルの意見を聞いたクロムウェルは、苦笑いしつつワルドを
指差した。

「内部工作ならば、もうやっているよ。現にグリフォン隊の隊長はこちら側にいる」
「まだまだ。他の国も含めて徹底的に手を入れて、政権をひっくり返すのさ。
 そうすれば余計な戦力を使わずに味方が増やせて、地上の拠点も確保できる。
 最終的に戦う事になっても、裏切りを恐れて全力を出せない軍相手なら楽勝だ」

 本音を言えば、クロコダイルは戦争の勝ち負けなどどうでもよかった。
唯一、貴族派が擁する兵力、国を覆すほどの軍事力だけは非常に魅力的
である。トップたるクロムウェルを丸め込んで誘導すれば、あっという
間にそれを手中に納める事ができるのだ。可能な限り消耗させず、手元
に引き込みたいところであった。
 問題は、クロムウェルが出会ったばかりの自分を信用するかどうかに
ある。つなぎとしてワルドを挟むのは、思った通りに動かすには不適当。
余計な意思が介在すると、伝達された情報は歪むものである。可能なら、
自分が直接意のままに動かせる傀儡に仕立てたかったのだが。

「貴殿の案は興味深いな。だが、初対面の相手の意見を軽々しく重用する訳にはいかない」

 やはりと言おうか、クロムウェルは素直には頷かなかった。
 こういう時に使えそうな物——例の恋文は【遍在】の懐で、交渉材料
としてもいまいち弱い。死体から拝借したあの指輪なら手元にあるが、
賄賂にこれ一つでは少なすぎる。物欲に乏しい相手には効果も薄かろう。
いっそ『風のルビー』と偽って渡すか。万分の一の確率で本物かもしれ
ないが、その時は枢機卿に「既に王党派の手から失われていた」と釈明
して誤摩化せば——。
 クロコダイルがそう考えていた時だ。

「ただし、だ。余の“個人的な頼み”を聞き入れてくれるなら、考慮する余地は充分にある」
「……何?」

 クロムウェルの申し出に、クロコダイルは虚を突かれた。怪訝な顔を
見て気を良くしたのか、クロムウェルは手振りを交えて饒舌に語る。

「貴殿とワルド子爵は、トリステイン出身の人間だ。
 そして、現在のアルビオン王は先代トリステイン王と兄弟にあたる。
 我々貴族派の降伏勧告を突っぱねた彼らだが、君達なら無下には扱うまい」
「生き残りの王党派に潜り込んで殲滅せよ、と?」

 ワルドが口を挟むも、クロムウェルは否定した。実に楽しそうに。

「貴族派に討ち取られたウェールズ皇太子の亡骸を、送り届けて欲しいのだよ」


   ...TO BE CONTINUED

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