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るいずととら第二章-5


魔法学院を出発して以来、ワルドはグリフォンを疾駆させっぱなしであった。
ワルドのグリフォンは普段であれば疲れも見せずに飛び続ける、乗り手のようにタフな幻獣である――はずだったのだが。

「ちょっと、ペースが遅くない?」

抱かれるような形で、ワルドの前に跨ったルイズが言った。グリフォンは明らかにバテはじめているのだった。

「このグリフォン、へばってるわ。これっぽっちの速さで」

ルイズの容赦ない言葉に、ワルドは唇を噛んで前を見る。前方100メイルほどに、高速で飛んでいく金色の幻獣の姿があった。
長飛丸の異名をとった大妖怪、とらの速度には、さすがのグリフォンもついていくので精一杯であった。

「とらがゆっくり飛んでくれてるのに……ワルド、もう少し速くならないの?」

(ちょっと待て、風竜並だぞ、あの速さは! まだ速くなるのか!?)

ワルドはそう叫びたかった。必死に衝動をこらえ、ルイズに笑いかける。

「ふ、ふむ。この調子でいけば、ラ・ロシェールの港町まで止まらずに行けるな」
「とらなら半日で行けるのに……というか、直接アルビオンに行けたわ」
「このグリフォンではそこまでは無理だよ、僕のルイズ」
「へばったら、置いていけばいいわよ」
「そういうわけにはいかない」
「どうして?」

ワルドは困ったように言った。

「その……自分の幻獣を置いていくなんて、メイジのすることじゃないからさ」

ルイズは「だったらあなたも置いていくわ」と言いそうになったのを堪える。ワルドの言うことには一理あった。
確かに、自分が使い魔を置いていけと言われたら、同じことを言うだろう。

(そうね、わたしもとらを置いていくなんて……かか考えられないもの! うん、ワルドの言うことももっともだわ!)

自分の自慢の使い魔を思い出し、ぽっと顔を赤らめたルイズに、内心冷や汗をかいていたワルドは、勘違い気味にニコッと笑顔を見せる。ルイズも笑顔を返した。

「覚えているかい? 僕の小さなルイズ。昔よく、君は叱られて泣いていたものだ……」

ワルドが昔の思い出についてとうとうと語りだしたが、ルイズはほとんどうわの空で、うんうんと適当な相槌を返すばかりだった。


さて、ワルドのグリフォンの前方、約100メイル。風竜なみの速さで空を駆け抜けていく、一体の幻獣の姿があった。
背中に乗ったギーシュ・ド・グラモンが感嘆の声を上げる。
ギーシュはルイズの荷物と自分の荷物、はてはデルフリンガーにとらの『テロヤキバッカ』まで抱えた大荷物であった。

「いやはや! とらくん、君は罪作りだね! ご主人さまに言ってやりなよ、種族違いの恋は不幸の元だってね! しっかし、ルイズも哀れだな!」
「ぎーしゅ、何を言ってやがる? わしにはニンゲンの恋とやらはわからねえよ」

とらが風を切って飛びながら、ギーシュに怪訝な声できいた。
ギーシュは思わずぷぷ、と噴出し、さらにニヤニヤと続ける。なんといっても、ルイズがこの使い魔にべたぼれなのは、端から見ても丸分かりであった。

「どうだい? ヴァリエールはあの魔法衛士と婚約しているようだぜ? 思わぬライバル出現じゃないか!
 といっても、君へのルイズの片思いじゃケンカにもならないな! あっはっは!!」
「婚約てなんだ? ぎーしゅ」

おやおや、とギーシュはきざったらしく頭を振った。君はプレイボーイの自覚がないようだね……といらない前置きをしてから、得意顔に講釈を垂れる。

「婚約は将来、結婚するという約束さ……結婚は分かるかい? とらくん」
「む、ケッコンか。ようは嫁ぐってことだな。ああ、あれは美味そうなもんよ……」

いつかのウェディングドレスに身を包んだ真由子の姿を思い浮かべ、とらは思わずよだれを垂らす。
(美味そう?)と怪訝な顔をするギーシュに催促して、とらはさっそく『テロヤキバッカ』を二三個口に放り込んだ。

(ケッコンか……ああ、そういや、真由子がそんなことを言ってたかよ。結婚しようとかなんとか……)

とらは元の世界の記憶を辿る。真由子のことを考えると、なんとも懐かしい気がした。
この世界に来てからさほど気にしていなかったが、真由子やうしおたちは元気にしているだろうか?
そんなことを考えているとらに、ヴェルダンデを抱いたギーシュが聞いた。

「きみのお相手はどうするんだい? ずいぶんとタバサの竜に求愛を受けてたみたいじゃないか。
 『幻獣の生態』の授業で習ったとおりだったよ、風竜の求愛の歌は。いやあ、いいもんだね」
「ふむ、わしもコンヤクの相手がいる、ってことになるな。相手はニンゲンだが……マユコってえ娘よ。そら、ぎーしゅ、とばすぜ!」

「へえー、さすがとらくん……って、ええええええーっ!! ちょと、まって、というか、はや、すぎる!!」

ギーシュの悲鳴が空にこだました。


その日の夜、一行はラ・ロシェールについた。

「ねえ、なんでわざわざ一泊しなきゃいけないの? 急ぎの任務なのに……」

ルイズが口を尖らせる。『桟橋』へと乗船の交渉に行っていたワルドが困ったように言う。

「アルビオンに渡る船は明日にならないと出ないそうだ」

(とらなら飛んで行けるのに……ってだめだめ、なんでわたしは全部とらに頼ろうとしてるのよ! これじゃあ、使い魔じゃなくて子守りじゃない!!)

自分は強いメイジになろうと決意したのだ、とルイズは誓いを新たにした。
当初、とらを召喚したことでルイズの自尊心はずいぶんくすぐられていた。

(そりゃあ、メイジの実力は使い魔を見ろっていうわ。だけど……)

結局、自分が魔法の使えない『ゼロ』に過ぎないことを思い知らされるたびに、そのまやかしの自信は打ち砕かれていったのだった。
ルイズは、ちら、とタバサとシルフィードを見る。キュルケと三人(?)で追いかけてきたのが、このラ・ロシェールで合流したのだった。
ルイズはタバサとシルフィードを見るたびに思う。
二人は使い魔と主人の見本のようだった。シルフィードという強力な韻竜に見合う実力を持ったタバサは、けしてシルフィードの力によりかかったりはしない。

(い、いいわよ。ここ、これから強いメイジになるんだから! ……って、ってええ! こら、ばば、バカ竜! とらから離れなさいよ!!)

いつの間にか人間の姿になったシルフィードが、とらの首にすがりついているのだった。一気にルイズの顔が赤くなる。

「ルイズ、一緒の部屋をとった。二人きりで大事な話が……」
「あとで!」

ルイズはぴしゃりとワルドに怒鳴ると、とらからシルフィードを引き剥がしにかかった。

「ちょっと、離れなさいよ、この、このっ! とら、あんたはわたしの部屋よ、つつ使い魔なんだから!」
「きゅい、おねえさま、この桃色、とらさまを誘惑するつもりだわ! いやらしい! いやらしいのだわ!」

(……なにをやってんだ? こいつら)

取っ組み合いを始めたルイズとシルフィードに、なんだか面倒くさくなったとらは、ふわりと舞い上がり、壁をすっとすり抜ける。
外に出ると、空には二つの月がほんとど重なりそうになっている。とらはふん、と鼻を鳴らした。

(どうも……さっきからイヤなニオイがしやがる……)

ラ・ロシェールについてから、ずっと気になっていたニオイである。この地に召喚されてからはついぞ嗅ぐことのなかったニオイ。
そして、召喚された元の世界では、慣れ親しんだニオイ……恐怖のニオイであった。それも、絶対的で絶望的な。

(ここにも……『ヤツ』が、いるのか……?)

とらは月夜を駆ける。あの巨大なバケモノ……すべての人間を、妖怪を恐怖に陥れ、その恐怖を喰らって強くなる妖怪。
自分ひとりで『ヤツ』と戦って、果たして自分は勝てるだろうか?
とらは、すうと、背中に風が抜けるのを感じる。

(ち、やけに背中がすーすーしやがる……くそったれ、そんなにわしは弱くなったかよ……!!)

月夜に漂うニオイを振り払うように、金色の幻獣は吼えた。咆哮に大気が震え、風が唸りをあげる。

「おぉおぉおおおおおっ!!!」

かつて自分とうしおが戦った、あの絶対的な恐怖――『白面の者』の影が、このハルケギニアを静かに覆っていくのが感じられるようであった。


その『ニオイ』……白面の使いに頭を喰われたメイジが一人、月明かりの下で杖をかざしていた。
かつて、『土くれ』の異名をとった魔法使いは、もはや何も見ていない虚ろな目で呪文を紡ぐ。

(土、のゴーレム、よ……いで、よ……)

風が緑色の長髪をなびかせる。月明かりの下起き上がった巨大なゴーレムの肩に、『土くれ』のフーケは虚ろに立っていた。
半開きにした口の中で、ぎょろ、と婢妖の目玉が光った。


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