あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの魔人-02

 ルイズが半覚醒すると、其処は柔らかなベッドの上だった。
首だけを擡げ周りを確認すれば、馴染みの重厚な調度品や家具。
青に淡く光る何かが見て取れ、其処が寮の自室である事を認識させる。
 窓から差す穏やかな光は、双月の明かりである事が窺え、今が夜である事を教えた。
寝起きの弱い少女は再度、枕に頭を投げ出すと重い思考の海に沈む。

(体。重い……動く気しないわ。
 はぁ……お腹すいたぁ。今日の夕食なんだったかしら?
 まぁ……もぅ、なにも残ってないだろうけど。
 それにしても体があちこち痛いわね。
フフッ……あんな大爆発、間近で食らっちゃったんだもの。
むしろ、この程度で済んで幸運ってやつかしら?)

 取り留めの無い事を考えながら自嘲を零し、微睡みから解放される。
 意識して息を深く吸い込み、体の隅々に空気を送り込むと、
今まで思惟に掛かっていた靄が散り、頭の中がはっきりとした。
ゆっくり背筋を伸ばし、今し方考えていた事を再び転がす。

(あれ? 私なんで寝てたのかしら?
爆発で失心しちゃったの? ううん……あの時はまだ起きてたし。
記憶もはっきりしてる。
その後……そう魔人。 魔人を召喚してぇ……
契約したんのよッ! 私が? 魔人とォ?!
たしかぁ……ヒトォ……シュラ? ヒトシュラだったわよねッ!
魔人よ魔人ッ! 神にも近しき使い魔よッ!
 ウフフ……ウフフフフフフ……)

 今度は悦びの笑みを湛え、ベッドの端から端をもんどり打ち身悶える。
次第に激しさを増す寝返りは勢い余り、その身を中空へと投げ出させ、
突然襲う浮遊感にルイズは全身を強ばらせた。
 しかし、一向に床への衝突が無い事に不安を募り、
薄く片目を開けて状況の確認をすれば、青く光るラインが目に止まる。
気付けば、それが支えてくれていたお陰で落ちずに済んだようだ。

(こんなの……私の部屋にあったかしら? 綺麗な光。
それに温かいし。スベスベしてて気持ち良い……
 これを抱いて眠ったら、凄く気持ち良いんじゃ無い?
きっとそうに違いないわッ!)

姿勢を立て直して床に足を付け、
一目で気に入ったそれを認めるべく目を配り、ギョッとした。
その、淡く光る青いラインは、黒く呪咀的な斑紋様を縁取る様に彩り。
目線を上げれば、赤く揺らめく対の瞳が見下ろしている。
ヒトシュラがそこに佇んでいた。

「なッなッ――」

指を突き付け、なぜ此処に居るのか問い詰めようとするも、
口腔が渇き上手く声に出せない。
 仕方なく、穴が開く程に睨み付け、抗議の眼光を射る。
ヒトシュラは、その熱視線に何ら反応も示さず、
ベッドサイドの、小さいテーブルに置いてあるガラスの水差しから、
傍らのコップへ水を移し、それをルイズの前に差し出した。
興奮醒め遣らぬ面持ちのルイズは、反射が遅れるも、
出されたコップを奪い取り、一気に飲み干して溜飲を下げる。
冷えた水は、状況を明確にさせる事に十分な効果があった様だ。
 高鳴る動悸を静め、抑えた声色でヒトシュラに話し掛ける。

「アッ……アリガト、アンタが私を運んだの?」

上目遣いに質問すると、首肯でそうだと示し、
殊の外、素直な反応に安堵して、次の言葉を繰る。

「アンタ、私の使い魔なのよね?」

今度は、心持ち自信無さ気に質問し、先と同様の肯定を受け取った。
一つ一つ。今にも溢れかえる疑問を解消しながら、質問攻めは続く。

「私の云う事、なんでも聞くの?――」

「いったい何処から来たのよ?――」

「アンタ、魔人なのよね?――」

 気分も乗り、快調に問い掛ける。
ヒトシュラの反応は一貫して淡白なものであったが気にはならない。
己が失心した事なぞ、忘却の彼方へ追いやり、その存在に夢中となった。

「――魔人なんでしょ? なんかやって見せてよ」

凝り固まった問題も粗方消化して、今度は品定めへと推移する。
 期待になだらかな胸を満たす最中。
不意に動きだしたヒトシュラにルイズはたじろぐも、
己が右手を掬い取られ固まった。

「ッ!?」

急に鋭い痛みが走り、指先の状態に気付く。
喉元まで出かかった抗議の罵詈を押し止め、それを見やると、
爪は縦にひび割れ内出血し、指の腹が火傷で赤みを帯びている。
 今の今まで感じもしなかった疼きは、意識しだすと忽ち大きなものとなった。

(ッ……早く水魔法で治癒してもらわないと)

思い至って、医務室に赴くべくドアの方へ歩きだす。
しかし、ヒトシュラは緊と手を握り締めて、放す気配を感じられない。

「チョットッ! 痛いんだから離しなさいよッ!
医務室行かなきゃ酷くなっちゃうじゃないッ!」

遂に我慢が限界を越えて叱咤する。
噴出する怒りで、温かい光の膜に包まれている事には気付かず、
乱暴に手を振りほどくと、目先のヒトシュラを睨み付けた。

(チョットは良い使い魔かと思ったけど、御主人様に牙を剥くなんて最ッ低!
魔人ってのも疑わしいわッ! やっぱり何処かの部族の平民なのよッ!
 斑紋様とかツノとか、名前もダサいし。半裸だし。
指だってコイツに握られた所為で艶々のピッカピカじゃないッ!
痛みなんて全然感じないんだからッ!
髪もしっとりとして焦げ目もないし。こんな清々しい気分久し振りぃ……)

綺麗に蘇った指先や髪を眺め、晴れ晴れした気分に癒されると、
何故先程まで激昂していたのか分からなくなる。
 ぼんやりと指の股から使い魔を見やり、先刻発した言葉を手繰りながら唐突に悟った。

「やッ……やるじゃない」

 何かしら敗北を感じたのか、誰に示すでもなく精一杯に強がって見せ、
突如、脈絡なく人差し指を立て、使い魔としての役割を熱弁した。

「いッ……良いッ? まず使い魔は御主人様の目となり、耳となるのよッ!
 つまりアンタが見るもの聞くものは、私も見えるし聞こえるって事。分かった?」

得意げに云ってみせたが、何も見えない。聞こえない。
だが、それは使い魔が魔人な為だろうと一蹴し、返事も待たずに次へと進む。

「んじゃあ次ね。二つ目は、魔法使いに欠かせない秘薬の原料や、鉱石を見つけてくる事よッ!
って……チョットちゃんと分かってんの?」

 先とは打って変わり、厳しく問い質す。
 手早く、添え付けの戸棚から珍しい薬草や鉱石、高価な秘薬を取り出し並べると、
用法効能を質問し、淡々と答えるヒトシュラに意識せず気を良くした。

「まッ……まあまあね。
最後は一番重要よ。心して聞きなさいッ!
使い魔は、その身を挺して御主人様をあらゆる危険から守護するのッ!
凄く名誉な事なんだからッ! で、アンタってどのくらい強いの?」

期待と不安でなだらかな胸を膨らまし、好奇の眼差しを爛と輝かせ、具に観察する。
一寸の間の後。ヒトシュラは強張った動作で腕を前方に交叉させ、
力む様に全身を収縮して身を屈めた。その動作に合わせ、大きな揺れが湧き起こる。
ルイズは突如の厄災に狼狽え、如実に激化する地震にへたり込んだ。
しかし、目の前で今にも何かを解放せんとするそれに、
嫌な胸騒ぎをおぼえ、しがみ付き、その行動を制止させる。

「チョ……チョットもう分かったから。分かんないけど分かったからッ!
 ストップストーップッ! 止まれなさいッ!」

 ルイズの訴えは功を奏したのか、ヒトシュラは腕の交叉を解き、
地震の治まりと共に、自然体となった。
ドッと押し寄せた疲労に足元覚束ず、そのまま使い魔にもたれかかり、思考を冷やす。
重厚なドアの向こう側や階下から漏れる喧騒、自室の酷い有様に、
既に学院全体で多大な被害を受けた事が手に取る様に分かる。
 自然の驚異とは恐ろしい。しかし、その猛威に抗う術はない。
誰の所為でもない。それは紛れもなく自然現象なのだから。
ルイズは口中で何事か呟き、使い魔の胸から離れると、
億劫そうに着衣を脱ぎ捨てヒトシュラに押し付けた。

「これ……洗濯しといて」

抑揚ない声で、そう云い切り、全裸でクロゼットへ足を向ける。
ふらつく足取りで、其処へ辿り着くと、チェストの引き出しからネグリジェとショーツを取り出し、
生気の感じられない面持ちで、ものういそうに、それを身に付けた。
次いでベッドへ赴くと倒れ込み、マットレスに身を沈め、
シーツを手繰り寄せると、頭までそれを被り白く小さな塊となる。

「私……寝るから……部屋、片付けといて。
そこの椅子、勝手に使って良いわ。
朝になったら起こすのよ?」

 シーツの塊から腕のみを出して大雑把に指差し務めを云い付けると、
出した手を引き込み、次いで言葉を付け加える。

「さっきのアレ、禁止だから」

 云い終えてルイズはその意識を手放し、現実からの逃避を果たした。

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