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虚無と最後の希望 Level06


level-6 「価値」


 気を失っている女性の襟首を掴む左腕。
 振り上げた右腕が、右の手のひらが振り下ろされる。
 パァンと乾いた音が響く、叩かれた頬は赤く染まっていた。

「っ…」

 苦しそうな声、だが気にせずもう一度頬を叩く。

「……、痛ったいわね……」

 さらに振り下ろされた手のひらを左手で受ける。

「あら、起きたのね」

 フーケの頬を叩いていたのはキュルケ。

「それならもう一発!」

 左手でフーケの、ミス・ロングビルの右頬を叩く。
 掴んでいた襟を放し、叩かれたその反動で倒れた。

「このガキッ!」

 怒りが込みあがり、起き上がろうとした時。

「あら? 私、怒ってますのよ?」

 素早く抜き出した杖をフーケの額に当てる。
 ニッコリと笑うが、目は少しも笑っていない。

「今この場で、消し炭にしてあげてもよろしくてよ? それでも構わないと言うのでしたら、どうぞ杖をお取りくださいな」
「………」

 冗談ではない、『それ以上何か言えば、即殺してあげる』とキュルケの目が語っていた。

「それで、何か聞きたいことがあったんでしょ? ルイズ」
「え、ええ」

 幾度と無くキュルケと喧嘩してきたルイズだが、本気で怒っている姿を見て驚いていた。

「えっと、ミス・ロングビル、どうしてあんな事を?」

 は? とフーケとキュルケが同時に言った。
 何を言っているんだこいつは、と言った表情。

「ルイズ、本気で言ってるの?」
「あああたり前じゃない!」
「何のためって、宝物庫からお宝を盗むために決まってんじゃないさ」

 いつもとは違う、学院長秘書『ミス・ロングビル』の喋り方ではない。
 猫を被るミス・ロングビルではなく、土くれのフーケの地であった。

「それ以外に何の用があって宝物庫に行くのさ」

 自嘲気味にそう言うフーケ、だがルイズはそれだけには見えなかった。

「本当に……、それだけ?」

 前かがみのルイズ、その瞳はフーケを映す。
 この眼、あの子と同じ目をしているじゃないか。
 そう、心の中まで覗いてくるような……。

「そ、そうだよ! お宝盗んで売り払えば金が手に入るじゃないかい」

 たったそれだけの言葉に、ルイズは引っかかった。

「『お金』が欲しい、ね」
「ああ、金があれば何でも出来るだろ?」
「まあ、そうよね」

 同意したキュルケの故郷はゲルマニア、金があれば貴族にでも成れるという他の三国とは違う特異な国。
 『地獄の沙汰も金次第』といっても納得できるほどの『お金』を重視した大国。

「それなら、私が給金を出すから雇われない?」

 さらに、は? とフーケとキュルケとタバサも加わった。

「ルイズ、精神力の使いすぎで頭がおかしくなったの?」
「ち、違うわよ! 第一あんなのじゃ全然疲れないわよ!」

 え? とキュルケは驚く。
 あれだけの大爆発を起こしながらまったく疲れていない?

「あんた、どういう精神力してるのよ」

 あれほどの爆発、スクウェアクラスでも起こせるかどうかわからない。
 とりあえず、キュルケには全精神力を搾り出しても無理だった。

「普通よ、普通! 全然違うみたいな言い方やめてよね!」

 どう考えても違うと、キュルケとタバサは思った。

「ちょっと待ちな、私のゴーレム破壊したのは……」
「私よ!」

 胸を張るが胸が無い、口に出せば地獄を見るだろう。

「……は、ははは、ははははは!」

 途端に笑い出すフーケ、すでにタバサがサイレントを掛けているので周りには聞こえない。

「ははははは! まいったね! 『ゼロのルイズ』が私のゴーレムを破壊するなんて!」
「ちょっと! 私はゼロじゃないわよ!」

 ガア! と噛み付くように反論する。

「それで、どういうつもりだい? このまま城の衛士にでも引き渡せばそれで終わりじゃないのさ」
「それもそうね、でも何か引っかかっちゃって気持ち悪いのよ」
「私が、って事かい?」
「いえ、そうじゃないわ」

 何か引っかかる、気持ちが悪い、それはフーケ自身の事ではなく。
 ルイズ自身の気持ち、踏み潰そうと迫ってきた時見えたフーケの顔。
 酷く辛そうな、今にも泣き出しそうな顔に見えていた。
 もっとも、自分の魔法でゴーレムを吹っ飛ばしたときの高揚でルイズはすっぱり忘れているが。

「ともかく! 貴女には二つの選択肢しかないわ!」
「私の提案を断って牢獄へ行くか、私に雇われて泥棒をやめるか、さあどっち?」
「………」

 フーケは考えた、まともに働いた金で、『彼女達』を養うか。
 いつ手が回るとも知れない悪事で得た金で、『彼女達』を養うか。
 稼げる金で言えば、明らかに後者だがそれゆえに危険。

「……、いくらだい?」
「うーん、そうねぇ……」

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 知らぬものは居ないほどのトリステイン有数の大貴族、そこの子女ともなれば小遣いでも相当なものになるだろう。

「うーん……、ミス・ロングビルの希望額はあるの?」
「最低でも年1500エキューは必要だね」

 これだけあれば、とりあえず食うには困らないだろう。

「1500エキュー!? か、かなり……」

 ルイズは指を折り始めた、ひいふうみい……をトリステイン風にして。
 しかし、流石と言うべきか。
 驚きながらも出せない金額ではない、と言っている様なものだった。
 ちなみに、平民は年間で約120エキュー、下級貴族は約500エキューほど使用する。

「どうだい? それ位出せりゃあ、雇われてもいいがね」

 もっとも、フーケの選択肢は一つしかない。
 『ルイズに雇われること』、断って監獄行きになればそれこそ終わりだ。
 そう言う訳でどうせなら、そこそこの値段を吹っかけてみたが。

「わかったわ、年1500エキューね」
「おでれーた、娘っ子は余裕があるな~」

 その返答にデルフリンガーが反応した。

「あるわけ無いでしょ! いろいろと……」

 何かぶつぶつと呟くルイズ。

「あはははは! ほんと、面白いガキだね」
「ガキって言うんじゃないわよ!」
「逃げるなんて考えないのかい?」
「その点は安心よ、チーフに追いかけさせるから」

 と顎でチーフをさす。

「こいつ、走り回るだけで何もしてなかったじゃないさ」
「あのね、チーフは手加減してたのよ? 本気だったら貴女もう死んでるわよ」
「へぇ、どう──」

 そう言おうとした瞬間、カチリとフーケの額にはハンドガンの銃口が突付けられていた。
 あまりの速さにその場に居た誰もが気が付かなかった。
 チーフがハンドガンを突きつけてから約1秒。

「チチチチチーフ!?」

 何をしているのか理解したルイズ、チーフはそれを気にせず己に起こった状態を考える。
 ただ、ハンドガンに手を掛け、銃口をフーケに向けただけだ。
 だが、その速度が異常、以前ならば考えられない速度。
 ルイズと契約する前からこの状態になる事が度々あった。
 武器と認識できるものならば、その手に持つだけで反応する。

 契約してからは身体機能と、それに付随するかのようにアーマーの機能上昇が顕著に現れた。
 有効稼働率は100%を超え、本来なら絶対に在り得ない状態。
 100%を超えて動けば、自身とアーマーに損傷が発生するはずだ。
 それなのに200%を超えていたフーケ戦でも、全くの異常なし。
 異常が無いことが異常だった。

「やっぱ相棒はすげぇな、本気なら永遠に動かなくなってたところだな」

 うんうんと頷く? デルフ、それを聞いたフーケの顔から血の気が引く。
 ルイズやキュルケも同様、そしてタバサはその速度に驚愕した。
 恐らく対峙して、杖に手を掛けようとしたときには死んでいるだろう。
 いや、すでに持っていても呪文を唱え始めた時には死んでいるかもしれない。
 この使い魔を敵にしたらどれほど恐ろしいのか。
 タバサは知らない、チーフがコヴナントになんて呼ばれていたかを。

「わわわわわかったでしょ!?」

 銃をしまうチーフを見て、あまりの出来事にルイズの声が裏返る。

「これは失礼を」

 逃げられない事を悟ったのか引きつった顔を抑え、口調が丁寧になりミス・ロングビルその者に成った。

「これでよろしいですか?」
「え、ええ、それで良いわ! それと、給金渡すんだから泥棒なんてもうしちゃ駄目だからね!」
「わかっております、ルイズ御嬢様」

 ニッコリと、淑女の仮面を被った、いや『狡賢い大人の女』が居た。





 今巷で話題の土くれのフーケ、事もあろうに魔法学院のひよっ子共に負けて捕まった。
 そのうちの一人が給金を出すからと言われ雇われた。
 さて、仕事は?

「何させればいいのかしら……」

 この始末だった。

「それは後でいいだろ、ついてきな」

 ぞろぞろと5人で上るのは階段、その終着点は学院長室。
 着替えたロングビルがノックすると、中から「入ってよいぞ」と聞こえてきた。

「オールド・オスマン、お話が」

 騒ぎが起き、コルベールに叩き起こされたオスマン。
 眠そうな眼が5人を見ていた。

「どうしたのじゃ?」
「はい、彼らが土くれのフーケを撃退したと報告に」
「なんじゃと!?」

 オスマンとコルベールが驚いた。

「話によると、相当な怪我を負わせたとの事です」
「ええ、襲ってきたので私が火達磨にして、タバサが氷漬けに、とどめにルイズが爆発させましたわ」

 ぶるっとオスマンが震えた、その惨状を想像するだけでちびりそうになった。

「ですが、逃げられたようです」
「秘薬を用いた水メイジの治療でもすぐには治らないでしょうね」

 打ち合わせもしていないのに不都合無く進んでいく話。
 ルイズとタバサとチーフは女の黒い部分を見た。

「そ、それはすごい。 ミス・ロングビルはその光景を見ていたのかね?」
「はい、かなりの悲鳴を上げてました。 もしかしたら……」
「死んでいるかも、と言う事かね?」
「その可能性が高いかと」

 うーむ、と唸るオスマン。
 ロングビルを見て、一言。

「それは素晴らしいの! この事が事実なら君達にはそれなりの褒美を与えなければならんな」

 褒美と聞いてキュルケの目が輝いた。

「そうじゃのぉ、宮廷に『シュヴァリエ』称号の授与を申請しておくかの」
「「シュ、シュヴァリエ!?」」

 ルイズとキュルケの声が重なる。
 シュヴァリエとは国に対して大功を収めた者に送られる貴族称号。
 家柄など内因的な要素を度外して、外因的、実力実績のみに評価され叙せられる。
 つまり、実力ある者しか戴けない名誉称号である。

「うむ、スクウェアクラスのメイジをもすり抜けて貴族の財宝を荒らしまわる盗賊を懲らしめたのじゃ、当たり前じゃろう?」

 オスマンは遠回りにスクウェアクラスメイジ以上の功績と言っている様なものだった。

「おお、ミス・タバサはすでにシュヴァリエ称号を所持しておるから、精霊勲章かの」
「そうなの!?」

 小さく頷くタバサ、通りでと言った感じ。

「そうとなれば早速書簡を書かなきゃならんので解散じゃ!」

 机の引き出しから紙を取り出し、立ててあった羽ペンでさらさらと書き始める。

「おっと、忘れとった」
「ちーふ殿、少しばかり話があるのだが良いかね?」

 その言葉を聴いて振り返ったのは3人。
 ルイズとタバサと、チーフ。
 キュルケは浮かれ構わず、さっさと出て行った。

「ほれほれ、ちーふ殿に話があると言ったじゃろう」
「いえ、関係あります! チーフは私の使い魔ですから!」
「ほ? 契約したのかね?」
「はい」

 オスマンは嬉しそうにうなずいた。

「それは良かった、ミス・ヴァリエールの進級一時保留は取り消しとし、正式な進級とする」
「ありがとうございます!」
「ならば、わしも約束を守らねばならんな」

 それを聞いて顔をしかめたルイズ、タバサも少しだけ表情を変える。
 約束、チーフを元の世界に返す方法。

「世界でも初のことじゃから、それなりに時間が掛かるとは思うがの」
「ああ、チーフ君、君のルーンを見せてもらっても良いかな?」

 コルベールが、必要なものと言って要求してくる。

「私覚えてます」
「それは良かった、この紙に書いてくれるかね」

 さらさらと、書き写す。

「この形だったと思います」
「ふむ」

 それを見たコルベール。

「オールド・オスマン、見たことはありませんか?」
「む? ……、これは見たこと無いの」
「私もです、調べておきます」
「そうしてくれい。 それでは、解散じゃ」

 オスマンは手をひらひらと動かし、これで用件は終わりと言った。
 それを聞いた3人は、学院長室を後にした。

「ふぅ、本当に良い子じゃのぉ」
「何か?」
「いや、なんでもないぞ」

 つぶやき、髭を触るオスマンはどこか嬉しそうだった。





 翌日、噂は広がりきっていた。
 フーケが学院に現れたこと、フーケが宝物庫を狙っていたこと、フーケが学院生徒により撃退されたということ。
 そのことはオールド・オスマンも認め、より一層噂を盛り上げた。
 誰が撃退したのか、賭けが行われるほどの盛り上がりようだった。

「何か凄いことになってるわね」
「いいじゃない別に、噂がどうあれ私達が捕まえたんだから」

 『アルヴィース食堂』で昼食をとる3人、チーフは食べずにルイズの斜め後ろに立っている。

「それにしてもよ、何で雇おうと思ったわけ?」
「雇おうと思ってたわけじゃないわ、結果がそうなっただけよ」
「それに、私が雇うだけで土くれのフーケが泥棒しなくなるんですもの、良いに決まってるでしょ」

 テーブルに置かれた、口に運びながら答える。

「まあ、それはそうだけど。 お財布の中厳しいんじゃないの?」
「うっ」


 実はルイズ、借金をしていた。
 チーフの治療に使った秘薬の代金がかなり掛かっていたためである。
 そこへフーケへの給金、もうギリギリである。

「まあ、何とかなるわよ」
「何とかならないとまずいでしょう?」

「すまない」

 と、それを聞いたチーフが謝る。

「かか勘違いしないでよね! 私のせいだからチーフはあああ謝らなくて良いのよっ!?」

 突然の謝罪に動揺したルイズだった。

「少しくらい貸してあげましょうか?」
「ふん! ツェルプストーから借りるくらいなら死んでやるわよ!」
「あらあら、そんな邪険にしなくてもいいでしょう?」

 にこにこと笑うキュルケ。
 その顔を見てルイズが顔をしかめる。

「な、何よ気持ち悪い」
「いえ、なんでもないわ」

 キュルケは昨日の出来事を思い出して喜んでいた。
 あの巨大なゴーレムを一撃で破壊するほどの、失敗とはいえ強力な魔法を放ったルイズ。
 今まで魔法において下に見ていたルイズが、『威力』と『精神力』と言うカテゴリーでキュルケを容易く抜いたのが嬉しかった。
 ヴァリエール家とツェルプストー家は国境を挟んでお隣同士、変な意地や話で比べられることが良くあった。

 まあ、ルイズは魔法を使えないので比べる意味すらなかったわけだが。
 ここに来て急転、実はタフな精神力、実は強力な破壊力を持っていた訳が知れたのだ。
 もしルイズがちゃんとした魔法を使えるようになったら? そう考えると寒気と暑気が同時に上ってくる。
 やっとルイズと競い合いが出来ると考え、嬉しくなっていたのであった。

「はあ、頑張らないとね」
「ほんと、気持ち悪いわね……」

 二人がぶつぶつ言い合っているのを横目に、タバサは後回しにされていた約束を果たして貰おうと動いた。
 立ち上がり、向き直り杖でチーフを軽く突付く。

「約束」
「授業は良いのか」
「問題ない」

 そう言って二人は歩き出した。

「ちょっとルイズ」
「ああ!? 何よ!」

 いつの間にか口喧嘩を始めていた二人。
 キュルケはマシンガンの如く暴言を吐きまくるルイズと止めて、二人の後姿を指した。

「タバサがダーリンを連れてっちゃったわよ?」

 それを聞いた瞬間、ルイズはテーブルを叩きながら立ち上がり駆け出した。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 あわててそれについていくキュルケであった。





「入って」

 連れて来られたのはタバサの部屋。
 中で話を聞きたいらしいが。

「ちょぉぉっと待ちなさい!」

 廊下の端の方から走ってくる、ピンクブロンドの少女から待ったが掛かった。

「チーフを部屋に連れ込んで何する気!?」

 肩で息をしながらルイズが聞いた。

「約束」
「約束!?」

 コクリとうなずくタバサ。

「約束って何よ!?」
「戦闘技術の提供だ」
「せんとうぎじゅつ?」
「ああ、教えると約束した」

 ああ、そうだったわねと思い出したルイズ。

「それなら私も参加するわ!」

 といきり立つが、ついていけるとは思っていなかった。
 ルイズは魔法関係の知識は学院随一を誇るだろうが、軍事方面の知識は薄いと思われた。
 戦術から戦略、隊形や近接戦闘、話を聞いても理解するのに苦労するだろう。

「構わないが、難しいぞ」
「大丈夫よ! そのくらい簡単よ!」

 と自信満々で答えたルイズ。

「はぁはぁ、私も、いいかしら?」
「ああ」

 息切れを起こしているキュルケも参加を申し出た。

「入って」

 再度催促。
 ルイズ、キュルケ、チーフ、タバサの順で部屋に入った。
 扉を閉めると同時にカチリと鍵が閉まる。

「───」

 魔法が発動して、鍵に強力なロックが掛かった。

「───」

 さらに別の魔法、サイレントを掛けた。

「タ、タバサ?」

 これでほぼ密室、もしこの部屋で殺人が起きても誰も気が付かないだろう

「邪魔されたくない」

 それはいいのだが、やりすぎではないだろうかとルイズとキュルケは思った。
 タバサはベッドまで歩み寄って座る、そしてチーフを見ていた。
 ルイズ、キュルケもそれに続いて座りチーフを見る。

「始めて」

 チーフは3人の前に立ち、自分が受けてきた訓練内容を話し始める。
 一日中、数百リーグを重さ百数十キロの装備を背負って踏破。
 一日中、あらゆる武器と兵器の知識を座学で習う。
 一日中、射撃と格闘訓練、格闘訓練のほうは死者が出るほどの激しいものとなる。
 それを年単位で行うと言う、常人なら容易く脱落する訓練を耐え抜いた者達が正式なスパルタンとなる。
 チーフも同様、訓練を耐え抜いた一人である。

 本当は非人道的な肉体的改造を施され、それによりスパルタン候補が死亡したり、永久的な肉体の機能不全を患った者が居り。
 半分以下にまで減ったと言う事実があるのだが、別段話す事ではない。
 それを意図して話さず、ただ受けた訓練や座学を行ったと話す。

「す、凄すぎるわね……」
「女性が出来る物じゃないわね……」

 聞きながら黙々と書き綴るタバサ。

「女性も何人かこなして、スパルタンになっている」
「う、うそでしょ?」
「本当だ」

 事実、女性のスパルタンも存在したが。
 男女問わず生存しているスパルタンはチーフのみ。
 マスターチーフが最後の一人だと言われている。

「次は訓練内容だ」

 と、それを聞いてルイズとキュルケがごくりと喉を鳴らす。

「各々にあった訓練内容を提示するが、二人は受ける気は?」
「内容によるわね」
「同じく」

 一目でわかる、二人は体を全く鍛えていない。
 メイジは言葉を綴り、魔法を発生させて攻撃するだけなので当たり前か。

「悪いことは言わない、やめておくべきだ」
「うん、そうする」
「ダーリンが言うならしょうがないわね」

 あっさりと言った、ルイズはタバサと二人きりにさせないため、キュルケは単純に興味があっただけ。
 訓練をまともに受けようなんて思っていなかった。

「だから、人の使い魔をダーリンなんて呼ぶんじゃないわよ!」

 と、いつもの口喧嘩が始まるの中、チーフはタバサに施す訓練内容を話す。
 教えて欲しいと言ったのは近接格闘技術、タバサは提示した技術の中でポピュラーな『剣』を選んだ。
 素晴らしい魔法の才能を持つタバサは、近接戦闘の才能まであるかはわからない。
 だが約束したからには、全てを教えるつもりだ。
 全ての技術を吸収したタバサは、稀に見る『魔法剣士』になるであろう。
 そして思う。

「……、益々ファンタジーだな」

 と。





 具体的な話が終わり、いよいよ実践……。
 と言うわけには行かなかった。
 キュルケが突然声をあげ、とある事を言い出した。

「舞踏会! 『フリッグの舞踏会』よ!」

 そう叫びながら、タバサを引っ張っていった。
 ベッドにしがみついてまで抵抗したタバサだが。
 一大イベントに心ときめかせるキュルケの腕力に負け、キュルケの部屋へとさらわれた。

「ああ、確かそんなのあったわね……」

 ベッドから降りて、自分の部屋へ戻るルイズ。
 それに付いて歩くチーフの耳には「ああ、めんどうだわ」と聞こえた気がした。





「相棒、なんでそんなに緊張してるんだ?」

 デルフに手を掛け、テラスから辺りを見回す。
 暗闇に落ちた学院の外には囲むように幾つもの光が点っている。

「こういう時が一番危ないからだ」
「それはどういうこったい?」

 学院の外には息子娘のために派遣された幾つもの部隊が駐留している。
 その部隊数は100を超え、人数は5000を超える。
 鉄壁と言って差し支えないが、それが油断を生む。

「杞憂であればいい」

 そこへ。

「こんなところで何してんのよ」

 白のパーティドレスで身を包んだルイズ。

「警戒だ」
「警戒? あんなに護衛が居るのに?」

 学院の外の光を見る、多数の親馬鹿が使わした光だらけ。

「完璧と言うものはこの世には無い」
「まあ、そうだけどね」

 背後からは楽士が奏でる音楽と生徒達の楽しそうな声が聞こえる。
 チーフにとっては、決して聞けなかったであろう声だ。

「ねえ、チーフ」

 ルイズが問いかけるがチーフは返さない、それを気にせず続けて言った。

「チーフは、帰りたい?」

 これも答えない、いや、答えは最初から出ている。
 だが、その答え通りにすると彼女は、ルイズはどうなるのだろうか。
 見えない未来に、チーフはどうするべきか悩んだ。

「俺は──」
「こんなところで何してるの? お二人さん」

 細かい装飾がされ赤いドレスを着たキュルケが邪魔するかのように現れる。

「なによキュルケ、取り巻き放って置いていいの?」
「構わないわ、それよりダーリンだし」
「だから──」

 何時も通り、よくも飽きずに口喧嘩。
 その光景を見てると、指で突付かれる。
 料理が盛られた皿を手に、黒いパーティドレスに身を包むタバサが隣に立っていた。

「食べる?」
「いや、遠慮しておく」
「そう」

 と言って皿の料理を食べ始める。
 夜空には双月、遍く世界を照らす。
 その風景をどう取ったのかは、チーフのみが知る。
 あの時の夜空と同じ、何も変哲も無い安全な世界。
 チーフが求めていた世界がここにあった。





 3人はホールの中へ戻っていた。
 それぞれがそれぞれの、楽しみ方をしている。
 チーフはそれを見守るだけ、戦うだけのために作り上げられたチーフはそれ以外の方法を知らない。
 物思いに耽るわけでもなく、彼女らに危険が及ばぬようただ警戒する。
 そこに現れたのは。

「こんなところで何してるんだい?」

 金色の巻き毛をした少年、ギーシュ・ド・グラモンであった。

「そちらこそ何をしている」
「いや、その……」

 チーフの物言いに少しおびえ、言葉が詰まる。

「謝ろうかと、思ってね」

 ハハ、と力なく笑った。

「俺より、3人に謝ってきたらどうだ」
「もう謝ったよ、モンモランシーとケティにはボロボロに言われちゃったけどね」
「そうか」
「その、すまなかった」
「ああ」
「許してくれるかい?」
「そう思ってるなら、次は誰も傷つけないようにした方が良い」
「ああ、そうするよ」

 相当凹んでいたので居たんだろう。
 先ほどと同じように力なく笑った。

「そうそう、今噂のフーケを撃退したのってチーフじゃないかい?」
「違う」
「あれ? てっきり……」
「ゴーレムを破壊したのはルイズだ」
「……なんだって?」

 聞き間違いかと思ったのだろう。

「ルイズがゴーレムを破壊した」
「それは本当なのかい?」
「ああ」
「は、ははは、やっぱり只者じゃなかったんだね、ミス・ヴァリエールは」
「どういう事だ?」
「そのままの意味だよ、チーフのような強い使い魔を召還したんだ。 『メイジの力を知るなら使い魔を見ろ』って言葉があってね、この言葉の意味を始めて納得したよ
 噂じゃ、トライアングルクラスって言われてたメイジのゴーレムをルイズが破壊しても納得さ」
「そうか」
「……謝る時二人の顔を見て思ったよ、僕は何をしてるんだろうって。 守るべき女性を傷つけてしまった、男としてどうかしてたんだね」
「君のように強くなるには、どうしたらいいんだい?」
「出来ることをすればいい、そうすれば自然と強くなる」
「難しい事言うね」
「簡単だ」

 実際、チーフは自分に出来る範囲の事しかしていない。
 言い換えれば、自分にしか出来ないことをやってのけただけ。
 自信や危機感など、捨てている。
 常に全力で、出来ることだけをやる。
 その結果、彼は『人類最後の希望』とまで言われた。

「なら、僕も出来ることだけをするよ」
「僕に師事してもらえないかい?」
「何?」
「出来ることをやるんだ、今チーフが言ったとおりにね」
「厳しいぞ」
「覚悟してるさ」

 夜は更けていく、ここに一人、男が生まれた。



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