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第七話 誘いの土人形 後編


調査団が学院を出発する頃、既に太陽は高く昇り、雲一つない快晴となった。
だが、深い森林の仲で馬車に揺られる一行は、時折横から流れてくる心地よい風を浴びる。
まるで、これからピクニックにでも行くかのような陽気に、溜まらずルイズは顔をしかめる。
隣にいる47はそれに気づいたが、敢えて何も声をかけない。彼女達の前に座っていたキュルケは風になびく長い深紅の髪を抑え、その隣のタバサは相変わらず読書に時間を費やしていた。
「到着する前に、少し聞きたい。フーケは、どんな人間なんだ」
ルイズの隣で小さくなり座っていた47は、その馬を操っているロングビルに唐突に尋ねる。
「そうね、集まった情報によると、女じゃないかって話がありますね。あと、トライアングルメイジクラスの実力を持っているらしいです」
「トライアングルメイジ……」
聞き慣れぬ言葉を耳にして、47は彼女の言葉を復唱する。
それを察したのか、ロングビルは彼に魔法についての説明を始めた。
魔法にはいくつか属性がある事、ドット、ライン、トライアングル、スクウェアの順に徐々に魔法使いのランクが上がって行く事を。
「つまり、フーケの魔法の系統は土、そして魔法の熟達度は第二位のトライアングル、という事だな」
「はい。集まった情報をもとにしていますから、正確ではないかもしれませんが。それにしても、随分飲み込みが早いですね」
三十分にも満たない、僅かな時間で魔法の理屈を理解した47に、ロングビルは率直な感想を漏らす。
47は、彼女の賞賛に一度頷くと、流れる風景に目をやった。何か思案をしている様にも見える。
「ところで、少し話が変わるが。ミスロングビルはメイジだと言ったな」
「はい、そうですが」
「俺の知っている限りでは、メイジと貴族は同じだ。その貴方が、何故ミスタオスマンの秘書をやっている」
視線を風景に向けたまま47は尋ねたが、ロングビルは言葉に詰まっていた。中々言葉が出てこない。彼女の肩が微かに震えた直後、その理由をようやく語り始めた。
「はい。私は確かにメイジです。ですが、元貴族、なのです」
「え……それって」
予想外の言葉に、ルイズが先に反応を示した。嘗ては、という事は、その原因は想像に難しくない。
没落した。ルイズ達の前に座っていたタバサが、読書をしながら呟いた。
正解とでも言いたげに、ロングビルは頭をたれる。馬車の揺れが、一瞬大きくなった。
もう、随分前の事ですから。ロングビルは独り言の様に言う。
没落した理由こそ語りはしなかったものの、その後に酒場で途方に暮れている所をオスマンにスカウトされた事を皆に語った。
「所蔵庫の、魔法で強化された壁を一撃で粉砕した相手です。けれども、いざとなったら、私が皆さんを守ります。それが、学院長との約束ですから」


覚悟のような言葉を放つ。表情こそ伺えぬが、強い感情が露になっていた。
皆、何も言う事が出来ずに、押し黙る。只一人、47だけが思慮深そうに視線を落としていた。
「見えてきましたね」
それから、一時間程の後、ロングビルが声を上げるまで、誰一人として言葉を発するものはいなかった。
木々に囲まれ、忘れ去られていたような古い木組みの小屋に全員の視線が移る。その小屋こそ、フーケの潜伏しているという情報のあった場所だった。
タバサ、キュルケ、ルイズ、47の順に馬車から降りる。自然と、馬を操っていたロングビルが最後に降りる事になったのだが、その直前、ロングビルが何かにつまづいたのか、前のめりの姿勢となっってしまった。
反射的に一番側にいた47が彼女を抱きとめる。自ずと、二人の視線が合った。はっとなって、ロングビルは彼を視線から外すが、その頬は確かに高潮している。
「あらあら、ロマンチックな光景じゃない。騎士と姫君みたいな」
「な、なななな何を言ってるのよ!」
端から見ればまさにその通りと言った様子でキュルケがルイズの肩を小突く。
困惑したままキュルケに噛み付くルイズだったが、成る程この瞬間の47とロングビルの姿は中々様になっていた。
だが、47は自身の使い魔だ。それが、事故とは言え秘書と抱き合う。瞬く間に内側から熱いものが込み上げ、気がつけば使い魔を調教する為の鞭を懐から取り出していた。
「アンタはあ!」
続けて、二人が離れた頃を見計らって杖を振り落とす。47は何事かと驚きを隠せないようだったが寸での所で避けきる。
避けられた事で、余計にルイズの行動が荒々しくなる。最早駄々をこねる子供のように杖を振りまくる。その全てを47はやはりぎりぎりのところで避け続けた。
「使い魔のぉ!」
益々無気になるルイズに、やはりその鞭を避け続ける47。残された三人は惚けたままその光景を眺める。一体どうして、調査に来ているのに痴話喧嘩などしているのか。
「癖にぃ!」
仕方なしに、47は大きく振り上がったルイズの手を抑える。出来るだけ苦痛を与えぬよう手加減をしたが、身長差からルイズがつり上げられるような体制になり、彼女の表情にやや痛みが見える。
「すまない」
47は、ただその一言だけを告げて、力の抜けた彼女の手を離した。
「……この馬鹿犬!」
だが、ルイズの方は満足ではなかったらしい。渾身の力をこめて鞭を振り落とす。
乾いた、甲高い音が森林にこだました。鳥の群れが驚き、何処かに飛んで行った。



※※※



古小屋の中に入って行くルイズと47の後ろ姿を見て、キュルケだけでなく、タバサも笑いをこらえようと必死に口元を手で押さえている。
ロングビルに至ってはいち早く周囲を見回るとって何処かに行ってしまった。今頃、彼女は森の中で一人腹を抱えて笑い転げているだろう。キュルケは恨めしく思い、それでも二人の後ろ姿、取り分け47のスキンヘッドから視線を外す事が出来ない。
ルイズの放った渾身の一撃は、見事に47の頭頂部にヒットしてしまった。スキンヘッド故に、直接頭皮に鞭が叩き付けられる。
そして、ミミズ腫れになってしまったのだが、如何せん47はスキンヘッドである。額から、頭頂部をまたぎ後頭部にかけて奇麗に真っすぐ、腫れたのだ。
まるで、模様の様に見える、スキンヘッドに刻まれた一文字、47は相変わらずの無表情のまま、二三度頭をなでるだけに留まり、ルイズに付き従っている。
それが、三人には溜まらなくシュールに見えてしかたがなかった。だが、これで笑ってしまえば何より無粋というほかなく、込み上げてくるものを押さえつけなければならない。
二人が小屋の中に入ったのを見計らってから、ようやく二人は笑い出す事が出来た。
「何笑っているのかしらね」
当然、小屋の中にもその声が聞こえてくる。ここで、幸いだったのは47とルイズとでは身長差が随分あったという事だ。
ルイズが正面から彼を見上げても、ほんの少し額に傷がある程度にしか見えない。勿論、思った以上の力で鞭を振り下ろした事に対する懺悔の念はあるのだが、強情さが先走ってしまい中々彼を気遣う気にはなれなかった。
何より、今はやるべき事がある。ルイズは気持ちを入れ替え、フーケが持ち去ったという、破滅の書を探し始める。
書、という事は本の形をしているのだろう。ルイズはもう何年も使われていないような古ぼけた本棚を調べた。
だが、本棚に収まっていたのは何れも馴染みのある古本だけ。中には虫食いが酷く読めたものでないのもあったが、到底学院から持ち出されたとは想像出来ないものばかりだった。
室内には、他に机やタンスがあったが、出てくるのは何れも一目でガラクタと分かるようなものばかり。
めぼしいものが何一つ出てこない事に肩をうなだれていると、隅でうずくまる47の姿が目に入った。
「ちょっと、アンタ何をして……」
もし、其処が小屋の外だったならば、キュルケ達と同じ様に彼の頭のミミズ腫れを目にしてルイズは笑い転げていただろう。
もし、ルイズがもう少し心の広い人柄であったら、何事かと彼を気遣っていただろう。
もし、その場にいたのがキュルケだったらこっそり近づき、後ろから抱きついていただろう。タバサだったら、気には留めるが、直ぐに捜索に戻るだろう。
その何れにも該当せず、ルイズは足を止めていた。背中に、冷や汗が出ていた事にも、全く気がついていない様に、その場に立ち尽くしていた。
明確な殺意、ルイズがこの通りに受け取ったかどうかは知りようが無かったが、47がこの瞬間に放っていたのは確かにそれであった。
普段、無表情のままの彼からは想像もつかない程の怒気に、ルイズは金縛りにあったかの如く動けなくなってしまう。目を見開き、もの言わぬ口を何度か開閉させ、彼の背中をただじっと見据える。
その彼は、部屋の隅にあった箱の中に一冊の本があるのに気がついて、腰を下ろした。
その本は、とても固いカバーで閉じられていた。彼は、これを知っていた。彼のいた世界で、ファイル、とそう名称されたものだった。
何故、これが異世界にある。その疑問を浮かべる前に、彼はファイルを開いていた。そして、次の瞬間にはその手は、もう止まっていた。

何故、「これ」が「この」異世界にある。47は言葉にならないまま、何度もこの言葉を繰り返した。
オルトマイヤー。クラス1クローン。ファイルにとじられた紙には、彼の良く知る言語、英語で確かにそう綴られていた。
だが、意識がこの疑問の解決に集中しようとした矢先、大地を揺るがす激震が彼を襲った。間もなく、小屋が倒壊しそうな程の大きな揺れに、47は身を翻す。
側で、ルイズが腰を抜かしていた事にここでようやく気づくと、47は彼女をまた抱きかかえ小屋から飛び出した。
意識が定かでないまま、次に47が目にしたのは、学院を奇襲したのと同じ、巨大なゴーレムだった。
キュルケが彼に駆け寄り、フーケの罠だと告げた。ロングビルの姿が見えない事を心配していたが、47は彼女にルイズを預けると、背負っていたデルフリンガーを抜く。
「おぉおう?!」
何時もと明らかに異なる雰囲気を放つ47の、最も近くにいた彼もまた、恐怖に何も言えずにいた。
だが、47が彼を抜いた瞬間に、彼に力が流れ込んでくる。懐かしい感覚に、声を上げずにはいられない。
しかし、感傷にふける間もなくデルフリンガーは47によって、ゴーレムの右脚を切り裂いていた。
間違いない。これはガンダールヴだ。そう実感し、しかし、今の相棒に畏怖する。何者なのだ、と。彼は、ヴィンダールヴではなかったのか。
ゴーレムは右脚を失い、それでも直ぐに周囲の土をかき集め己の体を復元させる。47は眉をひそめたが、そのゴーレムの肩の上に人が立っている事に気づいた。
フードで顔を隠した人間だ。
先程の一閃の衝撃で舞い上がった風が、そのフードをも舞い上がらせる。フードの下には、皆にとっては見覚えのある顔があった。此処まで引率してくれたロングビルの顔だ。
信じられないと言った様子で目を丸くするルイズ達を他所に、ロングビルは47を見据えて微笑んだ。
「お前が、土くれのフーケという事か」
「そう。所で、その様子だと破滅の書が何か知っているみたいね」
「み、ミスロングビル、これはどういう事ですか!?」
困惑したまま、ルイズが声を荒げる。
ロングビル、いや、フーケは彼女を見下ろして、また微笑んだ。今度は妖艶な、それこそキュルケが足下にも及ばない程の笑みを。
「私は宝物を盗んで、貴族達が驚き戸惑うのを見るのが好きなの。だから、私は学院から破滅の書を盗んだのよ。
でもね、今回ばかりはこれが何なのかさっぱり分からなかった。分からないものはお金にならないわ」
「そこで、俺たちを囮に使って探ろうとしたのか」
「その通り。誰かが危険になれば、きっとこの書の使い方が分かるんじゃないかって。まあ、賭けみたいなものだったけど。こんなに早く分かるとは思わなかったわ」
「ああ、そうだな」
47が頷くより早く、ゴーレムの巨大すぎる拳が迫る。
だが、47はデルフリンガーで今度はこの拳を横一文字に切り裂く。二つに分かれた拳は、程なく土に戻り、大地へと溶けて行く。
それでも、フーケは余裕と言った表情のままだった。その通り、ゴーレムの拳が、再生される。土より生まれたゴーレムは、土ある限り幾らでも再生ができる。
ルイズ達魔法使いだけでなく、47もまたそれを悟る。
「確かに、これは破滅の書だ。これは、破滅を呼ぶ」
そう言い、47は懐から掌に収まる黒い物体を取り出して、フーケに見せつけた。フーケのみならず、その場にいた全員が彼の手にしたそれが、マジックアイテムかと凝視する。
魔法の力が込められたマジックアイテムならば、確かにフーケとも渡り合えるかもしれない。しかし、そんな様子は全く見られない。
はったりか。舌打ちをしてフーケはゴーレムに踏みつぶせと指示を出す。破滅の書の使い方を、きっと彼は知っている。
ならば、使わざるを得ない状況に追い込めば良い

「動くな」
ところが、47が突然言い放ったこの一言で動けなくなってしまう。
魔法でもない、怪しげな呪いでもない、只の言葉だが、それを前にして何も出来ない。
「少しでも動けば、お前のマントに括りつけた爆弾を爆発させる。黙って降りてこい」
続けて彼が発した言葉に、フーケは目を見開く。爆弾を一体何時仕込んだというのか。恐る恐るマントの下を探る。
確かに、彼女の心当たりの無いものが括りつけられていた。やはり掌に収まるぐらいの小さな円形の黒い物体だ。
爆弾がどういうものなのか、知らないフーケではない。小さいとは言え、密着上体で爆発されればどうなるか。
だが、眼下の男が持つもので、一体どうやって爆発させるというのか。
これこそはったりとは思えなかった。仮に、はったりだとしても分が悪すぎる。
驚くべき事だが、フーケは47に対して明確な恐れを抱いてしまっていた。この男からはどうあがいても逃げられない。魔法を使えない相手でありながら、そう思わせるだけの何かを感じとる。それは、長く盗賊をやっているが故に磨かれた感覚が故なのかもしれない。
分かっていた。学院長室で、調査団に加わった時から。彼を敵に回しては行けない。それでも、フーケは抗った。男に。伝説に。
47の背後の大地が大きく盛り上がる。それは直ちにゴーレムのそれと同じ拳となり、後ろから47を狙う。
ため息をつく。刹那、47は後方からの土塊を薙ぎ払い前に駆けた。妙に軽い自分の体に違和感を覚えながら、デルフリンガーでゴーレムを切り刻む。何処を裂いたら効果的か、瞬時に判断しながら。
ゴーレムの再生が追いつかず、バランスを崩して転倒するまで時間と呼べる程の時間はかからなかった。
フーケは、十数メートルもあるゴーレムの肩から投げ出される。此処から落下すれば、幾ら大地とは言え重傷を負うのは間違いない。だが、最早受け身を取る素振りは見せない。
ただ、急激に近づいてくる大地が霞んでいくのだけは、理解していた。



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