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ゼロの仮面~ナイト・アフター~-01

「君たちの命の暦は、まだ続いていく。
 おめでとう。奇跡は……果たされた」
 暗闇の下。けれど固い絆で結ばれた仲間達と一緒に。
 そんな輝かしい場所で――『彼』が微笑んだ気がした。


 パタン。と、扉の閉まる音で、少年は目を覚ました。
 真っ先に浮かんだ疑問。ここは何処だろう。しかしその疑問は直ぐに消えた。
 終わり無き上昇。交互に差し込む光と闇。小さなテーブルを挟んで向かい側に座る小さな老人と、その付き人。夢と現実、精神と物質の狭間に存在する場所。
 ――ベルベットルーム。
 自分が居る場所を理解した所で、次なる疑問が浮かんだ。
 何故、自分は此処に居る? 全ては終わった筈だった。『彼』の大いなる決意によって。
 何故、自分はまだ存在している――?
 問いを口にしようとした所で、少年の向かいに座る老人――ベルベットルームの主、イゴール――が、少年を制する様に口を開いた。
「お久しぶりですな。と言っても、貴方と直接お会いするのは、初めてにございますが」
「……あの」
「残念ながら、今は貴方の問いには答えられません。時間が無いのです。私は早急に、私の役目を果たさねば。私の役目とは即ち、貴方に助言を授ける事です」
「……」
「貴方がこれより向かう地に、暗い災厄の影が迫りつつあります。そしてその影を払う者として、貴方が選ばれた。
 ……私が申し上げられるのはこれだけでございます。では、これをお持ちなさい。またいずれ、お会いする事になりましょう」
 イゴールが手を振ると、少年の手の中に小さな感触が生まれた。鍵、だ。
 それを実感した瞬間に、急激に少年を睡魔が襲う。抵抗を許さない、絶対的な睡魔が。
 少年は数多ある疑問を抱えながら、暗闇へと意識を手放した。


 その感覚に、真っ先に反応出来たのは唯の二人。
 圧倒的な魔力。怖気が走る程の禍々しさ。
 それに頬を撫でられる様な感覚に、青髪の少女――タバサは咄嗟に杖を構えていた。
 しかしそれよりも早く杖を取り、しかし構える事の無かったのは、タバサを含めた子供達の教師である、ミスタ・コルベール。
 彼の二人は――差はあれども――歴戦の猛者と呼んで相違無い。
 つまり、春の召喚の儀式に、猛者足る彼等が恐怖する様なモノが呼び出される。そんな『異常』な事態に、『戦闘行動』として反応出来たのは、その二人以外には有り得なかった。
 だが、その二人も直ぐに杖を持つ手を緩める。彼等が恐怖した魔力は、顕現した瞬間……否、刹那と呼ばれる時間の間に立ち消えていた。
 気のせい? そんな筈は無い。彼等の研ぎ澄まされた感覚が捕らえた、強大な力。それ程の物を、捕らえ間違える筈があろうか。
 二人の頭の中を、ほぼ同様の考えが駆け巡るが、事実として先程の気配は欠片程も無い。
 ならばその『刹那』の間に、何があったのか?
 杖を握る手に力を入れ直し、彼等は未だ渦巻く煙を注意深く見詰め続けた。


 数秒後。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは歓喜の感情を落胆へと変貌させていた。
 やった。ゼロの自分でも、出来た。成功した。そう確信していた。
 だがその確信は、脆くも『異常』事態を前に崩れ去ってしまった。
 ルイズの眼前。爆発の煙が消えた場所に立っているのは、一人の人間の少年。妙な格好をしているが、貴族には見えない。
 貴族ではないイコール、平民。それ以外に考えられる要素は皆無であった。
 確かに召喚には成功した。だがその結果はどうだ? 人間? それも平民。傍から見れば最高のネタだろうが、当人にしてみれば笑い話にもならない。
 そんな事を考えている内に、辺りからは野次が飛び始めている。ほら見ろ。皆が笑っている。私を馬鹿にして。
 これからも続くのだろう、同級生達からの嫌がらせの日々を思い、ルイズは拳を強く握り締めた。
「ミスタ・コルベール! やり直しを――」
「ミス・ヴァリエール、早く契約の儀式を。――早く」
 頭の寂しい教師に異議を唱えるつもりだったルイズだが、今までに見た事もない迫力を出すコルベールに、思わず口を噤む。
 厳しい目で自分と平民を見比べているコルベールは、どうやらやり直し等させてくれる気は毛頭無いらしい。
 ルイズもそれを察し、 ぶつぶつと文句を垂れながらも、きょとんとした顔で辺りを見回している平民に向かって足を向けた。
「感謝しなさいよ。平民が貴族にこんな事されるなんて、ホントは一生ないんだからね。
 ――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
 少年の大きな瞳に、自分の姿が映る。妙に恥ずかしくなり、ルイズは目を瞑って少年と唇を重ねた。
「ッ!」
 突然のキスに、少年が大きく身体を離す。
「何を――――、痛ッ!?」
 次に、左手に走った激痛に顔を顰める。
「少し、良いかな。――ふむ、珍しいルーンだ」
 コルベールが少年の左手を取り、左手に刻まれた文字をスケッチする。
 その間にも、彼の雰囲気がピリピリと張り詰めていたのに気付いたのは、手をされるがままに差し出している少年のみ。
「それでは皆さん、教室に戻りなさい。さあ、早く」
 少年に一瞥を残し、コルベールは生徒達を空へと送り出す。
 その光景に、少年は目を丸くした。これに気付いたのは、今度はルイズのみである。
 だが直ぐに「平民だから魔法を見た事があんまり無いのだ」と、結論付けた。
「……あんた、名前は?」
「え?」
 ルイズが低く呟き、少年が聞き返す。
「名前」
「……あ、ああ、うん。…………、……望月だよ。望月綾時」
「モチヅキリョージ? 変な名前。……まあ良いわ。あんた、今から私の使い魔だから。とりあえず付いて来なさい」
「……?」
 思案は数秒。使い魔の少年――望月綾時は、うん。と、小さく自分に頷き、自分よりも幾分か小さな少女の背に続こうとし――、
「……、……」
 空を飛んでゆく生徒達を見ながら――そう振る舞いながら――自分を警戒している、コルベールを振り返り、小さく微笑んだ。
 その屈託の無い微笑に、コルベールの顔が驚嘆に染まるのを見、綾時はまたも笑う。
 コルベールが如何にも半信半疑と言った風に、ぎこちない笑顔を返す。
「ちょっと、何してんのよ! 早く来なさい!」
「ああ、ごめんよ」
「あんた、口のきき方が――」
 傍から見れば微笑ましげな少年少女のやり取りに、コルベールは顔を顰めた。
 安心して。自分に微笑みかけた時の綾時の口が、そう言っていた。
 意図は図りかねる。自分だけでは荷が勝ち過ぎるやもしれない。
 そう考えながら、コルベールはルイズ達と同じ様に――距離を離し過ぎず――歩いて教室へ向かった。


 運命は静かに廻り始めた。……或いは、狂い始めた。
 終わりを齎した少年が、終わりを防がんと、この地に降りた事によって。静かに、静かに。


 時は待たない。すべてを等しく終わりへと運んでゆく。
 限りある未来の輝きを、守らんとする者よ。




ゼロの仮面~ナイト・アフター~  一話・了

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