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“微熱”の使い魔-09


 「わー……! 高いよー、速いよーー!!」

 風竜シルフィードの背中で、エリーは子供のようにきゃいきゃいと騒いでいた。
 みっともないと責めるなかれ。何しろ、エリーにとって空を飛ぶなどという経験は初めてのものだし、かつドラゴンの背中に乗るなどおとぎ話の中のものでしかなかった。
 それが、今現実として、空を駆けるドラゴンの上に乗っているのだ。興奮するなというほうが無理な注文だった。
 シルフィードはエリーの歓喜がわかるのか、歓声が上がるたびに、その動きは優雅に、機敏になっていた。

 「相変わらず、あなたの風竜は惚れ惚れするわね」

 エリーの隣。キュルケは赤い髪をかきあげながらドラゴンの背中を撫でた。

 「シルフィード」

 一番前に乗るタバサは無表情のまま言った。

 「そうそう、あなたのシルフィードは」

 キュルケはその意をくんで、すばやく訂正した。

 「ハルケギニアの、魔法使いってすごいんだね……」

 はるか向こうの空や山を見ながら、エリーはつぶやいた。

 「こんなすごいドラゴンを、使い魔にしちゃうなんて……」

 「でしょう?」

 キュルケは自慢げに微笑む。

 「でも、みんながみんなこんな幻獣を呼べるわけじゃあないわ。メイジの実力を見るなら、使い魔を見ろって言うように、それだけタバサがすごいってこと」

 「……」

 タバサは何を言わない。が、一見無表情のその顔には、わずかに感情の揺らぎがある。キュルケには、それが“照れ”であることがわかった。

 「うふ」

 クールな親友の反応に、キュルケは嬉しげに目を細める。

 「私、最初シルフィードを見た時、ちょっと怖かったんです……。ドラゴンだし」

 「ふーん。あなたの国……シグザールのドラゴンはそんなに凶暴なの?」

 「私も、話で聞いたことしかないですけど。でも、ほんの数年前までヴィラント山……ザールブルグからそんなに遠くない山に棲んでたそうです。ものっすごく強暴で強くて、大勢の人間が犠牲になったとか……」

 「へえ……」

 キュルケはかすかに感嘆の声をあげる。場所は変わっても、竜族の強さは凄まじいものらしい。どこへいっても、最強の種族ということか。

 「それ、どんなドラゴンだったの?」

 「何でも……赤い体をした大きな火竜だったそうです」

 「火竜」

 火を吐くドラゴン。火のメイジとしては色々と感じるところのある存在だった。
 しかし。

 「ねえ……エリー? 棲んでたって…過去形で言ったわよ? じゃあ、今その火竜は?」

 「いません。退治されましたから」

 あっさりと、エリーは言った。それは、キュルケにしても予想できた答えではあった。しかし、ドラゴンは敵に回せば、並のメイジなんぞ相手にさえならない恐ろしい存在である。

 ――それを、退治した?

 話を聞いた限りでは、エリーの住んでいた国に、魔法使い、少なくともハルケギニアのようなメイジはいないはず。ならば、誰がどうやって、炎のドラゴンを退治した?
 キュルケの中でむくむくと好奇の炎が燃え出した。
 エリーの言う火竜が、ハルケギニアと同じものとは限らない。しかしシルフィードを見たエリーの言動から考えるに、基本的な差異はないであろう。あるとすれば、韻竜のことくらいかもしれない。

 「どんな人が?」

 「王室騎士隊長の、エンデルクって人です」

 「騎士ね……。うん?」

 騎士という言葉に納得しかけたキュルケ。だが、

 ――仮にも一国の王室直属の騎士隊長なら、スクウェア……いや、ちょっと待った。エリーの国にメイジはいないはず……。それなら、そのエンデルクという人間は……普通の、つまり平民?

 「あの、エリー、ちょっとだけ確認しておきたいんだけど……そのエンデルクって人はメイジじゃないのよね」

 「そうですよ。あ、ものすごい剣の達人だそうです」

 「それで、火竜を倒した?」

 ハルケギニアの常識では、剣は魔法と同列ではない。ことに貴族にとっては、魔法という武器を持たない者が、身を守るために磨いた牙という程度。
 シグザールの火竜が、こちらに比べて弱いのか。それとも、そのエンデルクという騎士がとんでもない化け物なのか。
 キュルケの頭に、貧弱貧弱ウリリリィィイイイィィィ!なドラゴンと、凶悪な火竜を剣のみで倒す“化け物”のイメージが浮かんだ。

 「あの、どうかしたんですか?」

 「いえ、何でもないのよー。おほほほ……」

 不思議そうなエリーに、キュルケはあわてて笑顔を作った。

 ――考えてみたって、始まらないか……。

 実際に、その火竜やエンデルクを見れば話は早いのだろうが、それは無理な相談である。

 「見つけた」

 タバサが言った。同時に、シルフィードがきゅいと鳴く。

 「え、ルイズ? どこに?」

 キュルケが下を見ると、人を乗せた二頭の馬が道を走っている姿が。そのうち一頭はどうにも動きが良くない。よく訓練されている馬のおかげでどうにかなっているようだが、明らかに下手くそだ。
 ルイズと、才人。

 「馬にも、バカにされてるわね、あれは……」

 才人の“お見事”な乗馬を見ながら、キュルケは苦笑する。

 「どうやら、城下町にいくみたいね」

 馬の走る方向、その先に見える街を見ながら、キュルケはつぶやく。

 「あの使い魔くんに、プレゼントでもしようっていうのかしら……」



 「人が多いですねえ……」

 街を見回しながら、エリーはつぶやく。

 「そりゃあ仮にも、城下町だからね」

 「うーん。それだけじゃなくて……」

 キュルケの言葉にうなずきながらも、エリーは何かを考えている。

 「その、何かせかせかしてるっていうか……」

 それは、ここがせわしないというより、ザールブルグがのんびりしているということなのだが、エリーにはそれはわからない。あるいはここにきて、初めてわかったことかもしれない。

 「最近物騒だからねえ……みんなピリピリしてるのかもしれないわ。土くれのフーケの噂もあるし」

 「“つちくれ”? 何ですか、それ?」

 「最近あちこちで暴れてる泥棒よ。正体は不明。ま、メイジらしいってことは確かみたいだけど」

 と、キュルケはどこかわくわくしたように言っている。

 「メイジって、貴族の人が泥棒するんですか?」

 「メイジの全部が貴族ってわけじゃあないわ。中には家が没落したり、勘当されたりで身を落とすやつもけっこーいるの」

 「厳しいんですね、ここも……」

 「まーね。っと、それよりも、ルイズは……」

 「あそこ」

 タバサが小さく顎をしゃくった。その先には、ピンクの頭と、それについていく黒い髪。
 才人はあちこち見回しながら、アレは何だ、コレは何だといっている。エリー以上に“田舎者”丸出しである。

 「何をやっているんだか」

 「買い物でもするんですかね? どこ行くんだろう?」

 エリーがつぶやいた途端、

 「ちゅうか剣屋はどこだよ」

 才人が大声で言った。

 「へえ、ルイズったら、使い魔くんに剣をプレゼントするつもりらしいわ」

 キュルケは面白そうに言った。
 エリーも何となく二人の後姿を見ていたが、

 「あ」

 路地裏のほうをちょこちょこと動く影を見て、そちらを振り向いた。

 「今のは――」

 一瞬見えたその影は、エリーのよく見知っているものと、酷似していた。
 気がついた時には、エリーは影を追って走り出していた。初めてきたばかりの街を一心不乱に。

 「ちょっと、エリー!? どこへいくの!? ダメよ、一人で!!」

 キュルケもあわてて、それを追う。タバサも本を閉じて続いた。
 路地裏を駆け、ゴミ箱を飛び越えて、全力疾走。その果てに、エリーはついに影に追いついた。

 「見つけた……!」

 エリーの叫びに、影はびくりとして立ち止まり、振り返った。

 「やっぱり……そうだ」

 “影”を見つめながら、エリーはふるふると震えだす。

 「はぁはぁ……エリー、どうしたの、急、に……!?」

 「……!」

 追いついてきたキュルケとタバサも、“影”を見て立ち止まった。

 「こども?」

 キュルケのつぶやき。それは“影”の姿を実に的確に表現している。
 不思議な形をした緑の帽子と服。それを着込んだ子供。それが“影”の容姿。が、何か、どこかおかしい。

 「サイズが変」

 タバサの言うとおり、それは人間の子供のようではあるが、その見かけ上の年齢に対して、背丈があまりにも小さすぎる。子供というよりも、小人だ。

 「やっぱり、妖精さんだあ」

 エリーはしゃがみこんでその小さな相手を見つめ、笑顔を浮かべた。

 「妖精?」

 キュルケも改めて小人を見る。そういえば、何か不思議な魔力?のようなものを感じなくもないが。

 「そんなものが、ここらにいたの? 精霊じゃなくて? いや、それでもおかしいけど」

 「精霊に近い。でも、ランクは多分もっと下」

 キュルケの疑問に答えるように、タバサがつぶやいた。

 「“隠れて”走ってたのに……。人間に僕らが見つかって、こんなに簡単に追いつかれるなんて……」

 緑服の妖精は、驚いた顔でエリーたちを見上げている。

 「あ、はじめまして。私はエリー。あなたは、妖精さんだよね?」

 「そう、僕は妖精のポポル。お姉さんたちは、どうして……ああ、そっか」

 緑妖精は不思議そうな顔をしていたが、エリーの腕を見て、納得したようにうなずいた。
 キュルケは何事かとエリーの腕を見る。そこには、古い腕輪が光っていた。それは、エリーが“召喚”された時からすでに身につけていたものだ。

 ――あれが、何か特別なものだっていうの?

 気がつくと、タバサも興味深げに、妖精、そしてエリーの腕輪を見ていた。

 「その腕輪をつけてるってことは、その“資格”のある人ってことだね」

 資格? と、キュルケは首をひねる。
 それは一体何なのだろう。妖精を見る、あるいは見つけることのできる、という意味だろうか。

 「それじゃあ、今度からお姉さんのところにもいくね」

 「いくって、妖精の森にいけるんじゃないの?」

 エリーが言う。妖精の森。またファンタジーな言葉が出てきた。

 「森に来る? これないこともないけど……まわりは人間にはものすごく危険なところもあるから、ちょっと無理だと思うけど」

 「……そっか、ザールブルグとは違うんだ」

 エリーはつぶやいた。少しだけ寂しそうな顔で。

 「――で、いいの?」

 タバサが言う。

 「え、なにが……って、そうそうゼロのルイズのこと忘れてたわね…………うーーん」

 キュルケは考えながら頭をかく。

 「まあルイズのことはとりあえずいいわ。子供じゃないんだし」

 「……そいじゃお姉さん、またねー」

 そうこうするうちに、ポポルは手を振って駆けて行ってしまった。

 「……良かったの?」

 キュルケはエリーに言った。

 「ええ。こっちにも妖精がいるんだって知って、ちょっと安心しちゃった……」

 「私としては、面白いものに会えたし、いいんだけどね」

 キュルケは苦笑いを浮かべる。

 「せっかく街にきたんだし、お茶でもしていきましょうか?」

 「……気まぐれ」

 そう言いながら、タバサは妖精の駆けていったほうを見ている。よほど興味を引かれたのか。

 「お茶のついでに、色々見ていきましょう。あなたに必要な道具や薬も見つかるかもしれないし」

 キュルケはエリーの腕を引っ張って、表通りに向かって歩き出す。

 「あ……はい」

 少しぼうっとしていたエリーは、うなずきながらそれに従う。
 タバサはそんな二人にため息をついてから、もう一度妖精の去ったほうを振り向いた。

 ――妖精……。何かわかるかもしれない。

 青い髪の少女の頭に、ある女性の姿が思い浮かぶ。
 人には難しいことも、精霊に連なるものであるなら、解決する術を持っているかもしれない。
 タバサはキュルケに呼ばれるまで、じっとその場に立ち尽くしていた。



 で、結局。

 「うーん、これなんかいいんじゃない?」

 「あの……ちょっとハデなんじゃあ……」

 三人は服屋であれこれ物色をすることになった。もっというなら、エリーがキュルケの着せ替え人形みたくなっていた。タバサは我関せずでこんな場所でさえ本を読んでいる。

 「あら、これくらい。平民の女の子だって着てるわよ」

 「でも、ちょっと露出が多いような……」

 「そう? じゃあ、こっちは? このシックな感じなら、エリーにも」

 「へえ……素敵かも……。え、エキュー? 金貨で……枚? ひいい!」

 高すぎる、とエリーは悲鳴を上げた。

 「大丈夫よ、これくらい。私のポケットマネーでどうとでもなるから」

 「いや、でも…こんなに……」

 キュルケの選ぶ服はいずれも、派手ではあるが趣味のいいものばかり。しかし値段のほうも、エリーの感覚からすれば、洒落にならないものばかりだった。
 エリーとて、年頃の少女である。おしゃれにまるで興味がないわけではない。だが、“優先順位”では常に錬金術が上位にある。錬金術の中では、貴金属や装飾品を作るものもあるが、それらはあくまで研究の過程、研究成果として価値があるのだ。
 別の場合でも、あくまで“商品”としての価値であり、自分が着飾るという発想はなかった。

 「あの、やっぱり、こういう高いのは……それよりも、もうちょっとこう汚れても困らないようなやつとかが欲しいんですけど」

 「そーお?」

 キュルケはちょっと不満そうだったが、すぐに納得したらしく、

 「じゃあ、それはそれで買うとして……普段着や余所行きの服ってことで」

 もう少し庶民向けの服から何着か選び出してきた。
 エリーはキュルケの押しの強さに、少し引き気味になってしまう。
 そこに。

 「もう、冗談じゃないわよ、あの親父ッ!!」

 店の前を、文句を言いながら一人の少女が通り過ぎた。その横には、疲れたような顔の少年。

 「あれ、サイト?」

 エリーはつぶやく。

 「サイト? 使い魔くん?」

 エリーの言葉に反応し、キュルケも店の外を見る。
 ぷりぷりと機嫌の悪いルイズと、面倒くせえなあ、という顔の才人が歩いていた。

 「っと……いけない、いけない。通り過ぎるところだったわ。サイト、こっちよ」

 ルイズはちょっとあわてたように引き返し、エリーたちのいる服屋に入ってきた。

 「男ものの服がほしいんだけど。これにあうのを見繕ってちょうだい」

 ルイズは親指で才人を指しながら、店員に言った。

 「あら、ルイズ? 素敵なハニーに服のプレゼントかしら?」

 キュルケはにんまり笑いながら、ルイズに呼びかけた。

 「え? えええ?!? ちょっと、何であんたらはここに!?」

 「あら、私はエリーと一緒に服を買いにきただけよ? それとも、私たちがここにいちゃまずい理由でも?」

 「ジョーダンじゃないわよ! ただでさえ気分悪いのに、何でツェルプストーと……!」

 「……よう、エリーも買い物?」

 フンガーフンガーとやかましい“主人”にかまうことなく、エリーを見た才人はちょっと照れくさそうにたずねる。

 「ま、まあ、そうかな? サイトも?」

 こっそり尾行してきたというのがあるだけに、エリーはちょっとたどたどしい態度。しかし、サイトはそれに気づいた様子もない。

 「ああ、まあな? うちの“ご主人様”が剣を買ってくれるつうから……。でも、買えなかったけどな」

 「なんで? いいのなかったの?」

 「まあ、なんつうかなあ…。剣ってけっこう高いもんらしくってさ。まともな大剣なら、最低でも二百とか、そんなんだと」

 「大剣?」

 エリーは一瞬きょとんとする。どう見ても筋骨隆々とはいえない才人の体格からは、そんな重量のある武器を選ぶとは予想できなかったのだ。

 「で、結局適当なのがなくて、親父に悪態ついて店出ることになったんだよ。で、代わりに、服でも買ってやるって……」

 「ふーん。でも、そのほうが良かったかも。サイトの服、ここじゃちょっと目立ちすぎるもの。私も人のことは言えないけど」

 「そうかもな」

 才人は自分の服を見下ろしながら苦笑する。

 「ちょっと、いつまでもツェルプストーの使い魔としゃべってるんじゃないわよ!! 他の店に行くわよ、他の店に!」

 ルイズが才人の首根っこをつかんだ。

 「うあっと…! じゃ、じゃあなエリー……おい、引っ張るなよ!?」

 「うっさいうっさい! いいことサイト!? あんた、ツェルプストーの使い魔と口きくの禁止!! 絶対!!」

 「な、何だよ、それ。横暴だぞ!!?」

 「そうよ、エリー? そういう野暮はよろしくないんじゃなくて」

 にやにやとしたキュルケが口をはさむ。

 「うるさい、うるさーーい!!」

 ルイズが大声で叫びながら、飛び出すように店を出て行った。才人を引きずって。

 「……相変わらず、すごいなあ……」

 「というか、まわりに迷惑」

 半ば呆然とするエリーに後ろで、タバサがつぶやいた。


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