「アン。実は君に紹介したい人がいるんだ。」
部屋に入ってきたウェールズの台詞にアンリエッタは不吉なものを感じていた。
先ほどまで読んでいた本を閉じて、ウェールズの方を見る。
先ほどまで読んでいた本を閉じて、ウェールズの方を見る。
思いもかけないアンリエッタの様子に、ウェールズは一瞬戸惑いを見せる。
自分の言葉のどこに、アンリエッタが真剣になる理由があったのか分からないのだ。
故にウェールズは気のせいと割り切ることにした。
自分の言葉のどこに、アンリエッタが真剣になる理由があったのか分からないのだ。
故にウェールズは気のせいと割り切ることにした。
「ウェールズ様。それで紹介した方とは?」
「きっときみも驚くよ。ぼくときみの従妹さ。
おいで、テファ!」
おいで、テファ!」
その言葉にアンリエッタが思わず目を見開く。
それと同時に、先ほどウェールズが入ってきたドアから一つの人影が部屋に入ってきた。
それと同時に、先ほどウェールズが入ってきたドアから一つの人影が部屋に入ってきた。
「あ、あの!は、はじめまして……」
テファが恥ずかしげに自己紹介を始めるが、既にアンリエッタの意識は別の所に飛んでしまっていた。
「ウェールズ様……あなたは、こんな胸がお好みなのですね。」
アンリエッタがポツリと漏らした一言に、ウェールズは思わず目が点になる。
一瞬の空白の時間が流れる。
直後、ウェールズは必死に弁解を始めた。
一瞬の空白の時間が流れる。
直後、ウェールズは必死に弁解を始めた。
「ご、誤解だ!アン。確かにぼくは巨乳は好きだけど……って違う!
今回は純粋に、ぼくたちの新しい家族を紹介したいだけなんだ!」
今回は純粋に、ぼくたちの新しい家族を紹介したいだけなんだ!」
思わず本音が漏れてしまっているウェールズ。
一方のアンリエッタは、取り出したハンカチで目頭を押さえながら声を漏らした。
一方のアンリエッタは、取り出したハンカチで目頭を押さえながら声を漏らした。
「なにもご弁解なさらなくても結構ですわ。
わたくしも必ずウェールズ様のお好みにそえるよう努力します!
ですので、待っていて下さい。ウェールズ様。」
わたくしも必ずウェールズ様のお好みにそえるよう努力します!
ですので、待っていて下さい。ウェールズ様。」
そう言ってしなだれかけるアンリエッタに、いよいよウェールズの混乱は最高潮に達した。
そんな二人の様子を呆気に取られたように見つめるテファの肩に、ぽんと手が置かれる。
「気にする必要はないさ。あれも二人のコミュニケーションさ。
もう少ししたら、演劇でも見られないようなこっぱづかしい愛の告白が見られるかもしれないよ。」
もう少ししたら、演劇でも見られないようなこっぱづかしい愛の告白が見られるかもしれないよ。」
マチルダがまるでチェシャキャットのようにニヤニヤと笑いながらそう言った。
その言葉に今一つ腑に落ちないものを感じながらも、テファは二人の様子を見守ることにした。
その言葉に今一つ腑に落ちないものを感じながらも、テファは二人の様子を見守ることにした。
そこではウェールズが、いかに自分がアンリエッタのことを好きであるかを示そうと、
二人の出会いのシーンがどれほど衝撃的であったかを必死に語っていた。
二人の出会いのシーンがどれほど衝撃的であったかを必死に語っていた。
まだまだ二人の会話は続きそうである。
なお、ウェールズが部屋に入ってきた時アンリエッタが読んでいた本は、最近女官の間で大人気の
「馬数斗霊慕龍詩四!大公之娘(ばすとれぼりゅうしよん)」(太公望書林刊 御簾論愚美留(みすろんぐびる)著)
であったが、本編とは関係がないため割愛する。
「馬数斗霊慕龍詩四!大公之娘(ばすとれぼりゅうしよん)」(太公望書林刊 御簾論愚美留(みすろんぐびる)著)
であったが、本編とは関係がないため割愛する。
そのころルイズはトリステインの街を歩いていた。飛燕がシエスタお手製の地図を読みながら先導していた。
「ここです、ルイズ。」
ルイズが立ち止まって見上げるとそこには、
『亭精妖之惑魅』
と『ルイズには読めない文字で』書かれた大看板が吊り下げられていた。
「ここがシエスタの言っていた魅惑の妖精亭でいいのかしら?」
そう問うルイズに、飛燕は笑みを絶やさぬまま、その言葉に対して頷いた。
「ここがシエスタが紹介してくれた魅惑の妖精亭で間違いないですね。
さて、それでは裏口から入りましょうか。」
さて、それでは裏口から入りましょうか。」
裏口へと回った二人は、魅惑の妖精亭の中へと声をかけた。
「ごめん下さい。シエスタから紹介されて来た者ですが……」
大きくて抜けが良く、それでいて爽やかな声で呼びかける飛燕。
その声に反応するかの様に、中で人が動く気配がした。
その声に反応するかの様に、中で人が動く気配がした。
数時間前のことである。
指令書を読み終わったルイズは一人悩んでいた。
書いてあることは簡単である。要約するならば、
書いてあることは簡単である。要約するならば、
『身分を隠して情報収集をすること』
の一言にまとめることが出来るであろう。
しかし、生まれてこの方貴族社会しか知らないルイズに取っては途方もない難題に思えた。
(昔ならきっと、何も考えずに飛び出して途方に暮れていたでしょうね。)
今のルイズは違う。
シエスタという平民の友人もできた。異世界に行くはめにもなった。
それらのことがルイズの視野を広くしていたのだ。
シエスタという平民の友人もできた。異世界に行くはめにもなった。
それらのことがルイズの視野を広くしていたのだ。
そうは言っても、簡単に名案など浮かぶわけもない。
(シエスタならきっとこんなに苦労しないでしょうね、ってそうよ!)
餅は餅屋である。その事に思い至ったルイズは、シエスタの所へと向かった。
「情報収集……ですか?」
ルイズに呼び止められたシエスタは、少し考えた後に懐から紙を取り出すと地図を描き始めた
「ここに『魅惑之妖精亭』という叔父の経営している酒場がありますので、ここで尋ねてみてはいかがでしょうか?」
シエスタは、地図からルイズへと目を向ける。
「ありがとう、シエスタ。そうね、確かに酒場ほど情報を集めるのに向いている場所はないわね。」
そうと決まったら善は急げである。
笑顔を浮かべたルイズは、シエスタに今日訪ねても大丈夫かと問いかけた。
笑顔を浮かべたルイズは、シエスタに今日訪ねても大丈夫かと問いかけた。
「あ、はい。それでは昼休みの間に叔父に連絡しておきますね。」
ルイズの役に立てて嬉しそうなシエスタではあるが、
それでは仕事がありますのでと一言告げて仕事に戻っていった。
それでは仕事がありますのでと一言告げて仕事に戻っていった。
笑みを浮かべてシエスタの背中を見送ったルイズではあるが、一つ疑問が生じてきた。
(あれ?街までだと、普通に馬を飛ばしても往復で半日はかかるわよね。
昼休みの間にどうやって往復するのかしら。)
昼休みの間にどうやって往復するのかしら。)
しかし、シエスタは決して出来もしないことを言うような娘ではないのだ。
なんだか納得のいかないままではあるが、シエスタを信じてとりあえず疑問は棚上げをすることにした。
なんだか納得のいかないままではあるが、シエスタを信じてとりあえず疑問は棚上げをすることにした。
なお、何故かこの日から学院の七不思議に、
『怪奇!街道を爆走するジェットメイド』
なるものが生まれて、一人の青い髪の女生徒を心底震え上がらせたりもするが、本件もまた本文とは関係がないため割愛する。
『怪奇!街道を爆走するジェットメイド』
なるものが生まれて、一人の青い髪の女生徒を心底震え上がらせたりもするが、本件もまた本文とは関係がないため割愛する。
そうして魅惑之妖精亭に到着したルイズ達であった。
「はーい。あなたたちね、シエスタが言っていたのは?」
野太い声が大気を震わす。しかし、その言葉遣いは明らかに声質とあっていなかった。
思わず声を失くすルイズと飛燕の前に、声の主が姿を表す。
巨大な影がルイズ達の前に現れた。
思わず声を失くすルイズと飛燕の前に、声の主が姿を表す。
巨大な影がルイズ達の前に現れた。
ルイズと飛燕は完全に言葉を失った。
およそ190サンチほどはあるであろうその人影は、あまりにも大豪院邪鬼酷似していたのだ。
およそ190サンチほどはあるであろうその人影は、あまりにも大豪院邪鬼酷似していたのだ。
いかつい顔、分厚い胸板、丸太のような腕に足。
あまりにも大豪院邪鬼に似ていると言わざるをえない。
あまりにも大豪院邪鬼に似ていると言わざるをえない。
もちろん違う部分も散見される。
癖の大きい毛を、丁寧に油で押さえつけられた髪。
そして、大きく主を引いた唇。
極めつけは、その格好であろう。
肉体美を強調するかの様に、大きく開いた胸元からは、色々と見たくないものが飛び出していた。
癖の大きい毛を、丁寧に油で押さえつけられた髪。
そして、大きく主を引いた唇。
極めつけは、その格好であろう。
肉体美を強調するかの様に、大きく開いた胸元からは、色々と見たくないものが飛び出していた。
(べ、別人と分かっていてもこれはキツイですね。)
思わず苦虫を噛み潰してしまったような表情を作る飛燕。
一方のルイズは、まだショックが抜け切れていないのか立ち尽くしている。
一方のルイズは、まだショックが抜け切れていないのか立ち尽くしている。
「わたくしの名前は簾火論(すかろん)。この魅惑之妖精亭のオーナーよ。
シエスタがお世話になっているそうね。」
シエスタがお世話になっているそうね。」
そう言って、可愛らしくウィンクを飛ばすスカロン。
(も、もう駄目。)
壮絶なまでに似合わないスカロンの仕草に、とうとうルイズの神経が限界を迎えた。
段々と暗くなっていくルイズの視界に一つの光景が映っていた。
段々と暗くなっていくルイズの視界に一つの光景が映っていた。
「貴方達にはここで働きながら情報を集めてもらうつもりだけど、それでいいかしら?
飛燕といったかしら?あなた良い男ねぇ~」
飛燕といったかしら?あなた良い男ねぇ~」
顔を引きつらせた飛燕にスカロンがにじり寄っている光景であった。
男達の使い魔 第十七話 完
NGシーン
雷電「むう、あ、あれは!」
虎丸「知っているのか雷電!?」
雷電「あれぞまさしく古代中国において伝わる雌異怒(め・いど)!」
メイドとは西洋が起源であると一説には言われているが、近年の学会ではその起源は古代中国にある、というのが定説になっている。
かつて秦の時代、東海寺と西海寺という拳法界の勢力を二分した寺があった。
いざ雌雄を決する段になって、それぞれの寺は代表者を立ててその決闘にて全てを決着することになったという。
東の狭雷(さ・らい)に西の雅威(が・い)というそれぞれ天才の名を欲しいままにした二人が代表者に選ばれたのは当然の理であろう。
自分が狭雷に僅かに及ばないことを分かっていた雅威は一計を案じることにした。
勝負までの短期間で狭雷を凌駕するには、相手のことを研究し、自分の実力を瞬間的に底上げする必要がある、そう判断した雅威が
取ったのは、あろうことか女装して東海寺にて働くことであった。
怒りは肉体を鋼にし、気を大きく膨らませるという。
東海寺に女装した雅威は、数々の屈辱的なことを体験し、見事に怒りを気に変異させ、狭雷の癖を見抜くことに成功したのだ。
そうして訪れだ決戦当日、雅威はその蓄えた気を爆発させることで見事に狭雷を打ち倒して東海寺を撃ち滅ぼした。
この時見せた技を、雅威は、その技を体得するまでの経緯をとって、雌異怒と名づけた。
この故事がドラゴンロードを渡る拳法家達によってローマへと伝わり、様々な剣闘士達が女装して宿敵に仕えるようになった。
彼らは、自分達のことを故事に則り雌異怒と名乗ったという。
しかし、これは決闘の神聖さを犯すと考えるローマ皇帝コンスタンティヌスによって、
剣闘士に仕えるのは女性のみと定められ、いつしかメイドとは女性を指すようになってしまったのだ。
なお、全くの余談ではあるが、この雅威の技は一子伝承で現代にも伝えられており、
伝承者は雌異怒雅威(めいど・がい)と名乗り、誰かに仕えながら腕を磨く風習になっている。
かつて秦の時代、東海寺と西海寺という拳法界の勢力を二分した寺があった。
いざ雌雄を決する段になって、それぞれの寺は代表者を立ててその決闘にて全てを決着することになったという。
東の狭雷(さ・らい)に西の雅威(が・い)というそれぞれ天才の名を欲しいままにした二人が代表者に選ばれたのは当然の理であろう。
自分が狭雷に僅かに及ばないことを分かっていた雅威は一計を案じることにした。
勝負までの短期間で狭雷を凌駕するには、相手のことを研究し、自分の実力を瞬間的に底上げする必要がある、そう判断した雅威が
取ったのは、あろうことか女装して東海寺にて働くことであった。
怒りは肉体を鋼にし、気を大きく膨らませるという。
東海寺に女装した雅威は、数々の屈辱的なことを体験し、見事に怒りを気に変異させ、狭雷の癖を見抜くことに成功したのだ。
そうして訪れだ決戦当日、雅威はその蓄えた気を爆発させることで見事に狭雷を打ち倒して東海寺を撃ち滅ぼした。
この時見せた技を、雅威は、その技を体得するまでの経緯をとって、雌異怒と名づけた。
この故事がドラゴンロードを渡る拳法家達によってローマへと伝わり、様々な剣闘士達が女装して宿敵に仕えるようになった。
彼らは、自分達のことを故事に則り雌異怒と名乗ったという。
しかし、これは決闘の神聖さを犯すと考えるローマ皇帝コンスタンティヌスによって、
剣闘士に仕えるのは女性のみと定められ、いつしかメイドとは女性を指すようになってしまったのだ。
なお、全くの余談ではあるが、この雅威の技は一子伝承で現代にも伝えられており、
伝承者は雌異怒雅威(めいど・がい)と名乗り、誰かに仕えながら腕を磨く風習になっている。
民明書房刊 「武術におけるメイドの歴史」(平賀才人著)