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第六話 誘いの土人形 前編


モットが死んだ、という報告で一番驚喜したのはタバサだった。まさか、依頼をした次の日の朝に完遂するとは彼女とて予想出来る事ではなかった。
授業の合間も本の虫になれた事が幸いしてキュルケにも疑られる事は無かったが、内心ではうずくものがあった。
彼なら、きっとあの依頼も、依頼として遂行してくれる。半ば、狂気な願いが彼女の中で初めて芽生えたのはこの時だった。
モットの死、それは浴室で溺死するという、貴族として恥な事この上ない死に方であった。彼が死亡する直前、彼の邸宅で働く平民達は口を揃えて酒を飲み、酷く酔っていたと語っている。
調査をした貴族はそれに加え、不審人物がいなかった事、争った形跡もない事から、この溺死が彼の不注意によるものだと断定して、ただの恥さらしとしてあっさりと片付いてしまった。
即ち、誰一人として、魔法を全く使えぬ平民の男が、誰にも見つからず、また、どんな証拠品も残さないでモットを殺害したなどとは思う余地がなかったという事だった。
一方、モットの死の当日から住み込みのメイドとして働く筈であったシェスタは、主の死去という事で再び学院に戻ってきた。
他の貴族から仕事の誘いもあったのだが、学院が彼女に戻ってくるよう強い意向を示したのだ。
だが、不本意とは言え主の死、というのは彼女にはショックを与える。モットの死から暫く彼女は寝込んでしまったのだ。
驚く事にこの時、学院の水を得意とするメイジ達が看病を自ら申し出た。曰く、彼女には生活面で随分世話になっている。だから、早く元気になってくれないと困る、と。
ルイズには、これが直ぐに照れ隠しからくる可愛い嘘だと気づいた。
シェスタのいる部屋から出て来たモンモラシーを捕まえ、彼女の体調等の様子を尋ねた時の恥ずかしそうに拗ねる表情をは、ずっとルイズの中に留まり続けるだろう。
そんなシェスタを気にかけていたルイズが47を連れ見舞いに行ったのは二日目、燃えるような夕日が印象的な時だった。
シェスタは白いシャツを纏いベッドで横たわっていたが、ドアが開くと同時に身を起こし二人を迎える。47には、若干やつれた様に見えた。
それでも、初日に比べれば回復した方なのだろう。表情は、メイド姿の彼女が見せるそれであった。
元気そうね、ルイズが声をかけると、シェスタは優しく微笑んで頷く。47が腕から下げていた籠からリンゴを取り出すと、シェスタは驚いた様に目を見開いた。
ルイズも、彼が見舞いに行く直前に厨房から果物を貰いに行った時は同じような表情を浮かべた事を思い出す。
彼が召喚される前にいた所では、見舞いに行く時は大抵果物を詰めた籠なり、花なりを持って行くらしい。
今回は貴族が、あくまでわざわざ平民の床に伏せる所まで行くという、平民に取っては大層勿体無い事だ。それに合わせて食べ物まで持ってくれる事など想像出来る筈も無い。
47が手にしたリンゴの皮をむき手頃な大きさにカットする間、ルイズとシェスタは本当に他愛のない話を続けていた。
彼の耳に当然入ってくるのだが、何より二人の会話を盗み聞く様な罰の悪さを感じ、記憶に留める事は無かった。
リンゴを切り終え器に移し替えた頃、シェスタは表情を陰らせた。そして、二人の顔を一瞥した上でこんな事を尋ねた。
この世界に、死んで良い人なんて、いるんでしょうか、と。モット伯爵は確かに悪い噂ばかり耳にする人です。それでも、死んだら誰かが悲しみます、と。
ルイズは、それまでの空気とは一変した事を感じ取り、押し黙ってしまう。そんな事をまともに考えた事など今まで無かった、そんな沈んだ表情を浮かべ、じっと自身を見つめるシェスタを視線から外した。
死んで良い人はいない。恐らく、誰かは哀しむだろう。だが、少なくとも人間は何れ死ぬ。誰かが望む望まざるに関わらず。
47がそんな状況にも関わらず至極落ち着いた口調で応える。それから、モット伯爵が死ぬのも、きっとそういう運命だった、と付け加えた。
シェスタは、ああ、そうですね、と伏し目がちに頷く。既に彼女の中に自身の問うた事に対する答えはあった。
だが、第三者から言われなければ、納得のできるものでは無かったのだろう。



※※※



「まあ、彼女も元気になったみたいだし、良かったわ」
二つの月が並んで空に浮かぶ夜、屋外にて魔法の練習をしていたルイズが不意にそんな言葉を漏らした。側では47がレンガ造りの壁に背をもたれてそんな彼女の姿を眺めている。
「今日の仕事っぷりを見る限りじゃあ、もう大丈夫っぽいしなあ」
その47の側で、壁に立てかけられたままのデルフリンガーが笑い声をまじえて応えた。
「にしてもお嬢ちゃん、さっきから爆発してばかりだけど一体何の魔法の練習をしているんだい」
幾度目かの小さな爆発で草が舞い上がると、デルフリンガーが溜まらず尋ねる。ルイズは杖を握る手を止め、顔だけデルフリンガーの方を向けた。
「明日また錬金の授業があるのよ」
それだけ言うと、またルイズは杖を降り始めた。先刻から爆発の起きている中心地点を良く見ると、掌におさまる程の小さな石がある。それに向けてルイズが何か唱えて、また爆発が起きた。
47が見ても、失敗続きだと分かる行為だが、ルイズの表情は絶望していなかった。その所為か、爆発の規模が徐々に大きくなっている様に見える。
「錬金とは、石を爆発で木っ端みじんにする事なのか」
「違うわよ。でも、前に比べて何かが違うの。手応えがあるって言うのか」
次第に、ルイズの声に冷静さが宿っていく。お喋りなデルフリンガーも、彼女の変化に気づき口を噤む。やがて、ルイズの呟きと、直後の爆発音しかしなくなる。
数十分の後、同じ動作を続けていた彼女の眼前で、唐突に一際大きな爆発が起きた。辺りに砂塵が立ち籠めルイズの咳き込む声が響く。暫くして砂塵が収まると、粉々になった石と、その先の大穴の開いた壁が三者の視線に飛び込んで来た。
今までのどんな魔法の失敗例よりも大きな爆発、そしてその瞬間の手応え。ルイズにしか知り得なかったが、間違いなくそれが何かの魔法の、完全なものとは言えないだろうが、成功だとすぐに確信した。
「こりゃあ確実に大目玉くらうぜ」
だが、デルフリンガーの笑い声の通り、馬車でも悠々と入れそうな大穴である。そして巨大な爆発音、誰かが駆けつけたら、間違いなく学園長室に直行だろう。瞬く間にルイズの血の気が引いて行く。
「ちょっと!早く逃げなさい!」
ところが、爆発音を聞き駆けつけたキュルケが怒鳴った事はルイズの予想に反するものだった。
意味がつかめず混乱する彼女を、巨大な影が覆う。不思議に思ったルイズが顔を上げると、其処には巨大な土のゴーレムが立っていた。途端に、ルイズの腰が抜ける。47は直ちにデルフリンガーを背負い、ルイズを抱えて駆けた。
一方のゴーレムは、ルイズの空けた大穴目掛けて拳を振り落とす。大地が揺れ、大穴が更に広がった。
遅れて到着したタバサが、キュルケとともにゴーレムを見上げるが、その巨大さを前にして手も足も出ない。ただ、ゴーレムが穴の中に手を差し込む様子を黙って見続ける。
「ありゃあただのメイジが造れるようなヤワなもんじゃねえな」
「ギーシュの造ったものと、似ているのか」
「似ているけど、もう別もんって言っても良いだろうよ。とりあえずこの場にいるお嬢ちゃん達だけじゃあどうしようもできないわな」
「……そうか」
ゴーレムの動く度に起こる、強烈な振動に身を揺さぶられながらも、47はルイズをゴーレムから離れた場所の芝生の上まで抱える。ルイズの表情を見ると、放心状態といった様子でゴーレムを見上げていた。
巨大故に、動きが緩慢なのかと47は初め考えていた。だが、意外にも彼らの目の前に突如現れたゴーレムは俊敏だった。
教師達が現場に到着するまでの僅かな時間で、学園の外まで悠然と歩いて行ったのだ。当然、教師が揃った頃には学園の中にゴーレムの姿も影もなく、残されたのは更に大きく広がった横穴だけだった。



※※※



翌日、47はそのゴーレムというのが、土くれのフーケという盗賊によるものだと知らされた。
何でも珍しい宝を求めて様々な場所に己の魔力で生み出したゴーレムとともに出没するらしい。今回は学院の所蔵庫から破滅の書なるものを盗んだという事だ。
盗賊なのに、やり方が随分荒々しいものだと広場の隅で軽蔑に似た思案をしていると、顔を真っ赤にしたルイズに強引に腕を引っ張られ、学園長室まで連れて行かれた。
そのまま、ややバランスを崩したまま入室すると、オスマン及びロングビル以外にタバサと、キュルケ、そして学院の教師とおぼしき人物数名が並んでいた。
皆によると、学院が総力を挙げて調査した結果、フーケの潜伏しているであろう場所が判明したという。
そこで、学院から調査団を派遣してフーケの盗み出した破滅の書を回収、出来るのならばフーケの捕縛を行う。その為の人員をオスマンが集めていたという訳だ。
だが、そのフーケという人物は、ハルケギニアにその名を轟かす程の高い実力を持つ魔法使いだ。
そして、所蔵庫は魔法の結界によって厳重に防備されていたのだが、それを容易く打ち破ってしまった事もあり、学院の教師達は尻込みをしてしまった。
オスマンがこれを嘆き、途方に暮れている所に所蔵庫に横穴をあけた張本人、ルイズが我こそはと調査団に加わる事を志願した。
キュルケとタバサも、数少ないゴーレムの目撃者として参加する意志を示す。彼女達の内情は、勿論、無鉄砲な行動をとったルイズを気遣う気持ちもあったのだろうが、それを口にはしない。
魔法を使えないルイズはともかくとして、キュルケとタバサは学院内でも実力の高い方に位置している。
取り分けタバサに至っては、この時ルイズとキュルケも初めて知った事だが、シュヴァリエ、即ち爵位を持つメイジだ。
つまるところタバサは下手な教師よりも腕の立つ魔法使いといっても過言ではない。これに少しは安心した教師陣は彼女達に調査を任せる事を決めた。
そもそもフーケがこれから向かう場所にいるという確信はない。学院として、自らの尻拭いを出来るだけリスクの少ない方法でする事で面子を保ちたい、そんな意図を47は肌で感じ取っていた。
オスマンの表情を覗く。微かにだがため息を漏らしていた。47と似た事を考えていたのだろうが、学院長という立場からあまり教師陣に強く言う事も難しいのだろう。
ルイズ、キュルケ、タバサ。この三人に合わせて、情報収集に当たっていたロングビル、そして各々の使い魔達が調査団に選抜しフーケの向かった古小屋に向かう事が決まった。
当初は47もこのメンバーに不安を覚えたが、先導するロングビルもまた嘗てメイジであった事を知る。
「それでは、一時間後に出発したいと思います。それまでの間に準備をしておいてください」
ロングビルの静かな声が、室内を満たす。
47は考える。調査をするという名目では確かにこのメンバーでも問題は無いだろう。
しかし、仮にフーケとやらが姿を現したらどうなるか。昨晩のゴーレムは、ルイズの魔法で弱まった壁にとは言え一撃で粉砕してしまった。
それが人体であれば、まず致命的な怪我を負うのは間違いない。或いは、これで彼女達の魔法使いとしての実力を把握出来る。だが、これは使い魔に取っては護衛だ。使い魔としての任を果たす以上、無用な事態は避けるべきだ。
懐のシルバーポーラーは毎日整備を欠かしていない。いざとなれば発砲する必要も出てくる。
無論、あのゴーレムを倒すというのは余りにも荒唐無稽といえる。ここで、47はギーシュとの決闘を思い出す。青銅のゴーレム達はギーシュが戦闘不能になった途端に消えていた。
現象は未だ理解出来ないが、理屈として生み出した人間の集中力が途切れれば消えるという事になる。
ならば、問題はターゲットがどんな人間か、だ。これは移動中にでもロングビルから聞く事である程度把握出来るだろう。魔法相手でも臆する事は無い。いつも通り任務をこなすだけだ。
少ない情報をもとに己の行動方針を定めた47は、妙に自信ありげなルイズの小さな背中を眺めていた。



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