あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

辞令・手紙さがし


『閃光』のワルドは、貴賓席に座るアンリエッタの左後方に陣取り、あくびをかみ殺しながら品評会の様子を眺めていた。
生徒が順番に自分の使い魔に芸をさせている。まるで児戯だ。
アンリエッタ姫が品評会に出席すると聞いた時は、仮病を使って欠席しようかとまで考えたのだが、グリフォン隊隊長としての職務と今年の二年生に名を連ねている少女の存在がそれを許さなかった。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
最後に会ったのは10年も前だったろうか。
笑顔があどけない少女は、いつの間にやら、貴族としての気品を備えた麗しいレディへと成長していた。
そして、その使い魔。
まさか平民を使い魔にするとは思わなかったが、これも彼女の素質の成せる技なのだろう。
だとすれば、彼の力もまた、その主人に相応しいものであるはずだ。
上手く行けば、二人をレコン・キスタの戦力に加えられるかもしれない。
禿頭の教師が、青い飛竜に跨る少女の紹介を終えた。

「『雪風』のタバサでした。続きまして、ミス・ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」

場が一瞬静まりかえったのを見て、ワルドは眉をひそめた。
皆、ルイズの使い魔を期待と畏怖が混ざった眼差しで見つめている。
どうやら、使い魔に興味があるのは自分だけではないらしい。

「紹介致します。わたしの使い魔、ソンゴクウです。種類は……」

ちら、と悟空を見やる。
何て言おう? 平民? 幽霊? それともサイヤ人?
迷った後、ルイズは意を決して答えを口にした。

「よくわかりません!」

ワルドを含め、その場にいる人間の殆どが頭の上に疑問符を浮かべた。タバサに至っては眼鏡がズレている。
その疑問に答えるかのように、ルイズが言葉を続けた。

「見た目はちょっと変わった平民ですが、メイジの系統魔法によく似た技が使えます!
 ええと、ここにいる方々の中にはそれを見たことがある人もいるかと存じます…」

ギトーは気まずそうに咳払いをした。
キュルケは悟空にウインクをよこした。
タバサはズレた眼鏡を直した。

「それでは、実際にご覧に入れたいと思います。まず、火っぽい系統!」

事前の打ち合わせ通り、悟空がその言葉を合図に、超サイヤ人へと変身した。
あふれ出る気力が金色の炎となって悟空の身体を纏い、しゅうしゅうと音を立てて燃え盛っている。
漆黒の髪は金色に染まって逆立ち、穏やかな目つきが獰猛な戦士のそれへと変わった。
生徒たちは騒然となり、驚きの叫びを上げた。

「な、何だー!?」
「ルイズの使い魔が金髪になったぞ!」
「フェイスチェンジだとでもいうのかー!」
「トリックだ! トリックに違いない!!」

姿形を変える手段は、ここハルケギニアにも魔法・道具を使わず幾つか存在する。
しかし、今のように他の要因の介在無しで瞬時に姿を変える方法は存在しないか、あっても知られていなかった。
悟空の変身は、ハルケギニアの住人にとってあまりにも異質だった。
ワルドは驚愕に目を見開き、冷や汗が背中を伝い降りるのを感じていた。
使い魔から発せられる威圧感が急激に増大した。それを頭で理解する前に身体が反応した。
本能的にワルドは自身のレイピアを模した杖を抜きかけたが、半分ほど抜いたところで辛うじて理性がそれを押し留めた。
あれは脅威だが、自分に向けられたものではない。意に反して前に出ようとする自分の身体に、必死でそう言い聞かせた。
信じたくはなかったが、ワルドが感じているのは紛れもない「恐怖」だった。
会場から期待通りの反応が返ってきたことに気を良くしたルイズは、更なる追い討ちをかけた。

「次いで、風っぽい系統!」
「はっ!!」

ドヮン!
悟空が気合いを込めると、大気という太鼓の膜を、巨大なマレットで叩いたような音が響いた。
その音に遅れじと一挙に溢れ出した気が、目に見える半透明の球体となって周囲の空気を押し退け、その気圧の差が荒れ狂う突風となって会場内を蹂躙した。
強烈なパワーに当てられた一部の使い魔がパニックを起こして辺りを駆け巡り、それを生徒が必死で押し留める。
貴賓席のアンリエッタが感嘆とも恐怖ともつかぬ声を上げ、ワルドは彼女を守るべくその前に立ちふさがった。
アンリエッタが悲鳴を上げているおかげで、ワルドは冷静さを取り戻し始めていた。
凄まじい風圧だ。少しでも気を抜けば一歩、二歩と押し戻されてしまう。
そうワルドは思ったが、改めて周囲の状況を確認する余裕が出ると、実際の風圧は体感するよりも弱い事に気付いた。
耐えていられるのは重心を落とし、必死に踏ん張っているからだと思ったが、彼よりも体重は軽いであろう小型の陸上生物の使い魔でさえ吹き飛ばされずにいる。
この圧迫感はやはり、あの使い魔自身から発せられる気迫のせいだ。
風の勢いと共に、ルイズのテンションも上がっていく。
スカートが風ではためいてパンツをさらけ出した格好になっているが、この高揚感の前では気にもならない。
あ、マリコルヌが鼻血噴いて倒れた。

「吹けよ風!! 風邪には玉子酒!!! 今、わたしは猛烈に――」
「ミ、ミス・ヴァリエール! もう充分です!! 使い魔を収めなさいっ!」

驚異的な質量をもって吹き荒れる風に翻弄された残り少ない後頭部に、かつてない危機を覚えたコルベールが絶叫に近い大声をあげ、どうにかルイズの色んな意味での「御披露目」は終わった。
悟空とルイズは嵐が過ぎ去ったような――実際、物凄い風圧が会場を駆け巡ったわけだが――有様の会場を見渡し、揃って「あちゃ~」と呟いた。

「つい力が入り過ぎちまった……」
「つい我を忘れてしまった……」


ワルドがアンリエッタに呼び出されたのは、太陽が地平線に半分以上隠れた頃だった。
魔法学院内に臨時に用意された、アンリエッタの部屋のドアをワルドがノックすると、中から「どうぞ」というアンリエッタの声が聞こえた。
この客間はトリステイン城内のアンリエッタの部屋と比べれば狭いが、それでも学院内では一番広い。
入り口に立ったワルドは、室内の調度品の出元がトリステイン内外問わず見栄えの良い物を選別して置かれている事に気付き、余程急ごしらえで設えたのだろうと内心苦笑した。
ワルドが部屋に入ると、中央の小さなテーブルを挟むようにして置かれたソファの上で寛ぐアンリエッタと目が合った。

「おかけになって」
「いえ、このままで結構です」

そう、とアンリエッタは笑顔を見せると、テーブルの上に置かれた果物の盛り合わせから蛙苺を一つ摘まんだ。
それをじっと見つめたまま、口を開く。

「彼女の使い魔をどう思って?」
「人を使い魔にするとは、正直驚きました」
「そうね。でも、わたくしが訊きたいのはそういうことではないの」
「彼なら道中の戦力としては充分かと存じます」
「引き受けてくれるかしら?」
「他ならぬ姫様の頼みとあれば、ミス・ヴァリエールも断れますまい」

アンリエッタはワルドを見た。

「随分と他人行儀な物言いをするのね。確か婚約者だったのでは?」
「昔の話です」
「女心を甘く見てはいけませんわよ」

そう言って笑うアンリエッタが、ワルドには高貴な姫殿下ではなく年相応の少女に見えた。
ルイズ。
彼女もこうやって私に笑いかけてくれるだろうか。
今の私が何者で、どういう立場にあるかを知っても。

「姫殿下」
「なんでしょう」
「自分も護衛として、彼女等と行動を共にしたく存じます」
「まあ」アンリエッタの目が見開かれた。
「お許しを頂きたい」
「構いません。それどころか、貴方が一緒とあればルイズもさぞ喜ぶでしょう。でも……」
「…………?」
「本当にそれが理由?」
「!」

予想だにしないアンリエッタの問いかけに、ワルドの身体に緊張が走った。
見透かされている?
いつから?
顔に血が上るのを感じる。まさか、自分がレコン・キスタに所属している事がとうに姫に知れていたのか?
狼狽を表情に出さないように努めながらもワルドが返答に窮していると、アンリエッタが言葉を続けた。

「わたくし、品評会の席での貴方の行動を見て、思ったの」
「私の?」
「本当は、あの使い魔と戦ってみたいのではなくて?」

ワルドの身体から緊張が抜けた。
どうやら、本当に隠さなければならないところは隠しおおせたらしい。
照れ隠しに、ワルドは帽子を脱いで頭を掻いた。

「ふふ、姫殿下に対し隠し事はできませんな」
「女の勘は馬鹿にできませんわよ」

にっこりと笑い、蛙苺を口に含んで喉を潤すと、アンリエッタは立ち上がり、左手の甲をワルドに差し出した。

「わたくしはこれから彼女に任務を命じてまいります。そして貴方には、彼女等の護衛を命じます」
「御意」

ワルドは帽子を被り直して跪くと、口で形だけの忠誠を示し、アンリエッタが出られるよう部屋のドアを開けて支えた。
部屋を出る時、アンリエッタが「やっぱ受けよね…」と呟いたのをワルドは聞き漏らさなかった。
何のことか判らなかったが、特に何も言わず、そのまま彼も自室へと戻っていった。
自室のドアを閉めたワルドは、昼間の悟空から感じた――ワルドがそれを認めるためにはかなりの努力を要した――恐怖を反芻した。
あの時、ワルドは精神的に気圧されていた。皮肉にも風系統のメイジである彼は自身の力量故に、悟空から発せられた風を体感したことによって彼が隠し持った力量を悟ってしまっていたのである。
なるほど、確かに彼がトリステインに反旗を翻した暁には、あの使い魔の存在が脅威になる事は間違いない。
だとすれば、本来の目的を多少後回しにしてでも、ルイズとルイズの使い魔を味方に引き込んでおく必要があるだろう。
ベッドに潜り込んだワルドは、静かにそのための作戦を練り始めた……。



「相棒、どーして品評会の時に俺っちを連れてってくれなかったんだよ!」
「わ、悪ぃ、うっかり忘れちまった」
「俺もあの金色に光る奴体感してみたかったのに! そしたら明鏡なんたらじゃないけど何か変わるかもしれなかったのに! チキショー!!」

デルフリンガーの言葉は当たっていた。
この剣を握ると、原理はわからないが何故か気が増大する。
悟空も思いつかなかった事だが、デルフリンガーを握った状態で超サイヤ人に変身すれば、もしかしたら超サイヤ人の壁を超える事ができるかもしれない。
最終的には自分自身の力だけでその域に達したいが、それでも、どのくらい自己の力量を上げればいいかの目安にはなるだろう。

「悪かったな。今度超サイヤ人に変身すっ時は持っててやっからよ」
「ホントだな? 約束だぞ」

その時、悟空が部屋の前まで近付いてくる気を察知した。
この気には覚えがある。昨日来たルイズの幼馴染のアンリエッタ姫だ。

「ルイズ、また姫様が来てっぞ」
「え?」

目茶目茶になった使い魔御披露目会場の後片付けでヘロヘロになったルイズが、身を預けていたベッドの上からやっとの思いで身体を起こすと同時に、部屋のドアがノックされた。
初めに長く2回、次いで短く3回。
悟空がドアを開けると、果たしてフードを目深に被ったアンリエッタがそこに立っていた。

「入ってもよろしいかしら?」
「ど、どうぞ」

アンリエッタが中に入り、フードを脱ぐ。中から現れた顔からは、昨日の柔和な物腰は消えていた。
決心を秘めたアンリエッタの瞳がルイズを捉える。

「ルイズ。貴女と貴女の使い魔を見込んで、お願いしたい事があります」
「わたしに……?」
「今から話すことは、誰にも話してはいけません」

今までアンリエッタがそんな前置きをした事は無かった。ルイズは彼女のただならぬ雰囲気を察し、疲労を忘れて居住まいを正した。
ドアを閉めた悟空は、それを待っていたかのように部屋の外に誰かの気が貼りついたのを感じたが、今のところは放っておいても大丈夫だろうと思い、そのままにした。
アンリエッタはふう、と溜息をつくと、真剣な面持ちで口を開いた。

「わたくし、結婚することになりました」
「…おめでとうございます」

口ではそういったものの、ルイズはアンリエッタの憂いを帯びた表情に、心から祝福の言葉をかけることができなかった。
結婚はそんな顔でするもんじゃない。もっと嬉しい顔でするもんだ、そう思った。

アンリエッタは更に、自分が嫁ぐ相手がゲルマニアである事、それがアルビオンの矛先からトリステインを守るためのいわゆる政略結婚である事、そしてその結婚を快く思わない国――アルビオン――が、
その婚姻を妨げる材料を血眼になって探しまわっている事をルイズ達に話した。
最初こそ、「ゲルマニアですって!」と仇敵の母国の名前を聞くや憤懣やるかたない思いを隠そうともしなかったルイズであったが、事が感情論でどうこうできるものではない事を知るにつれ、
その表情はアンリエッタ同様暗く沈んだものになっていった。
何よりルイズが心を痛めていたのは、アンリエッタがその結婚を微塵も喜んでいないのが、口調からありありと感じられる事だった。
聞き終えたルイズは、「そうだったんですか……」としか言えなかった。
そして悟空は、この星に「国」が幾つも存在し、あまつさえそれらがいがみ合っているという事を知って困惑した。
タバサの身の上話を聞いた時は、「トリステイン」という地方に「ガリア王国」という王都があるのだと思っていたが、どうやら「トリステイン」も国の名前で、他に「ゲルマニア」だの「アルビオン」だのといった国まであるらしい。
同じ星の人間なのに、何で仲良くできないのか? 何でわざわざ国なんてややこしい住み分けをするのか?
ナメック星もヤードラット星も、「国」という概念は無かったため、悟空にはどうしてもそれが解せなかった。

「それで、もしかして、姫様の婚姻を妨げるような材料が?」
「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお救いください……」

ルイズが顔を蒼白にして尋ねると、アンリエッタは頷き、顔を両手で覆うと芝居がかった仕草で床に崩れ落ちた。
スッ転んだり崩れ落ちたり、まったく忙しい姫と床である。
その時、ドアの外にスタンバイしている気が僅かに揺らいだのを感じた悟空は、念のため確認する事にした。

「ちょい待ち」

2人の会話を遮ると、気配を殺して部屋のドアの前まで行き、不意打ちのつもりで素早く開けた。
寄りかかっていたらしく、開けた先から人影が1つ、室内に転がり込んでくる。
姫様の身柄を狙う不届きな賊かとルイズは一瞬身構えたが、見覚えのある金髪とマント、そしていつも漂わせている薔薇の香りに気付いたルイズは構えを解き、代わりに驚きの声をあげた。

「ギーシュ? 何でここに!?」

前日のアンリエッタのように床に無様な醜態を晒していたギーシュは、名前を呼ばれるやバネ仕掛けのように素早く直立し、アンリエッタに向かって恭しく一礼した。

「ご機嫌麗しゅう、姫殿下。その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう」
「え? あんたが?」

ルイズはその意外な申し出に驚いたが、すぐに問い質したい疑惑が湧きあがった。

「ねえギーシュ。あんたどうしてここにいるの?」
「どうしてって、薔薇のように見目麗しい姫様の後をつけてみたらこの部屋に入っていったから……」
「ふーん」ルイズの顔に笑みが浮かぶ。「ここが何処なのか、判ってるわよね?」
「何処もなにも、キミの部屋じゃないか」
ルイズの微笑が冷笑へと変わる。「じゃあわたしの部屋が何処にあるかも、判ってるわよね?」
「女子寮に決まってるじゃないか」
「うんうん。でもどうやら女子寮は男子禁制って事は判ってないみたいねえ?」

ギーシュの顔から余裕が消えた。恐る恐る視線をアンリエッタから剥がしてルイズの表情を伺う。冷笑は猛禽類のような獰猛な笑みへと変わっていた。

「い、いやぁでも、ほら、ゴクウだっている事だし……」
「使い魔は対象外よくぉのアホンダラケ! ゴクウ! やっておしまい!!」
「何を?」
「ギッタンギッタンにブチのめしてやるのよ! 許可無く乙女の神聖な領域に踏み込んだ報いを死ぬほど思い知らせてやんなさい!!」
「ひ、ひぃぃ! お助け~~~!!!!」

ぽぴゅーん、と間の抜けた効果音が聞こえてきそうな勢いでギーシュは逃げ出した。
女子寮に男子生徒立ち入り禁止は実際のところ有名無実と化したしきたりであったが、仮にも王女の手前である。
風紀の乱れをわざわざ晒すわけにはいかない。
悟空はしばし呆気に取られたまま開け放たれたドアを見つめていたが、やがて気を取りなおすとルイズの反応を伺った。

「そんで、どうする?」
「放っといていいわ。あとで口封じが必要になるかも知れないけど。それより姫様のご婚姻を妨げる材料の方が大事よ」

それは一体なんなのですか、とルイズに詰め寄られ、やはり呆けた顔でギーシュの去っていった方を見つめていたアンリエッタは、我に返ると再び両手で顔を覆った。

「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」
「手紙?」

内容は教えてもらえなかった。だが、それがアルビオンの貴族の手に渡れば、間違い無くそれをゲルマニアの皇室の元へ届けられ、婚姻は解消されてしまう。
そうすれば当然トリステインと同盟を結ばれる事も無く、哀れトリステインは独力でアルビオンに立ち向かわねばならない。
それを聞いたルイズは、何が何でも自分がその手紙を取り返さねば、と決心した。
他ならぬ姫様の悩みである。わたしがやらなきゃ誰がやる!
ルイズは息せき切ってアンリエッタの手を握った。

「いったい、その手紙は何処にあるのですか? トリステインに危機をもたらす、その手紙とやらは!」
「それが、手元にはないのです。実は、アルビオンにあるのです」
「アルビオンですって!」

ルイズは、アンリエッタがこの部屋に来た理由を悟った。
その手紙を自分に取り返して欲しい。彼女は言外にそう言っているのだ。

「では、既に敵の手中に?」
「いえ……、その手紙を持っているのは、アルビオンの叛乱勢ではありません。叛乱勢と骨肉の争いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子が……」
「プリンス・オブ・ウェールズ? あの、凛々しき王子さまですね!?」

ルイズは悟空に向き直った。

「ゴクウ、今すぐウェールズ皇太子の元に瞬間移動して!」
「ええ? 無茶言うなよ」
「何が無茶よ! ウェールズ皇太子のキを感じ取ればすぐでしょ!!」
「オラ、どれがそのウェールズって奴の気なのか、実際にそいつに会ってみねえと判んねえよ」
「あう」

知ってる奴の気しか探れない。
便利過ぎる能力の、唯一にして最大の欠点だった。
アンリエッタはのけぞると、ベッドに身体を横たえた。

「ああ! 破滅です! ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、叛乱勢に囚われてしまうわ!
 そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう! そうなったら破滅です! 破滅なのです!
 トリステインは一国でアルビオンと対峙せねばならなくなります!」
「ではやはり姫さま、わたしに頼みたいことというのは……」
「無理なのは判っているわ! でも貴女しか頼れる相手がいないの! 貴女と貴女の使い魔にしか!」
「わたしの使い魔? まさか、品評会にわざわざお越しになられたのは…?」
「ええ。本当は貴女と貴女の使い魔に、これを頼めるかどうかこの目で判断するのが目的でしたの。
 そしてルイズ、わたくしの目は間違ってはいなかったわ」

アンリエッタはちらりと悟空を見た。その目は先程とは打って変わり、希望の光が覗いている。

「お任せ下さい! たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、何処なりとも向かいますわ!
 姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!」

ルイズは膝をついて恭しく頭を下げた。

「『土くれ』のフーケを捕まえた、このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」
「このわたくしの力になってくれるのね、ルイズ・フランソワーズ! 懐かしいおともだち!」
「もちろんですわ! 姫さま!」

2人が女同士のスイーツな友情を確かめ合っている間、悟空がこの星に存在する「国」という概念の理不尽さに頭を悩ませていると、アンリエッタが彼の方を向いた。
悟空が視線に気付くと、アンリエッタはにっこりと笑い、明るい声で言った。

「頼もしい使い魔さん」
「ん?」
「わたくしの大事なおともだちを、これからもよろしくお願いしますね」そう言うと、アンリエッタは左手の甲を上にして差し出した。
「いけません、姫さま! そんな、使い魔にお手を許すなんて!」
「いいのですよ。この方はわたくしのために働いてくださるのです。忠誠には、報いるところがなければなりません」

お手を許す?
聞き慣れない単語に、悟空は内心首を傾げたが、ルイズの記憶によれば甲に口付けをすればよいらしい。
気乗りしなかったが、これも貴族としての挨拶のようなもんだろうと思い直し、悟空はアンリエッタの甲にとりあえず口をつけた。
悟空の唇が触れた瞬間、アンリエッタは数分前にワルドも同じ場所に口付けをした事を思い出した。
(ワルドとこの使い魔だったら、どっちが受けかしら……?)
一瞬、そんな邪まな考えが頭をよぎり、アンリエッタの口の端が淫靡に歪んだ。

「姫さま? どうなさいました?」怪訝に思ったルイズが声をかける。
「な、何でもありません」

アンリエッタは気を取りなおすと、ルイズから羽ペンと羊皮紙を借りて、一通の手紙をしたためた。
憂いた顔で少し考えると、末尾に一行書き加え、小さい声で呟く。

「始祖ブリミルよ……。この自分勝手な姫をお許しください。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるをえないのです……。
 自分の気持ちに、嘘をつく事はできないのです……」

そう言うと、アンリエッタは書いた手紙を巻いた。杖を振ると、巻いた手紙に封蝋がなされ、最後に花押が押された。
その手紙をルイズに手渡し、アンリエッタは言った。

「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、貴女がたの目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう。
 ウェールズ皇太子に会ったら、この手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」

それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜くと、ルイズに手渡した。

「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が心配なら、売り払って旅の資金にあててください」

ルイズは深々と頭を下げた。

「この任務にはトリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、貴女がたを守りますように」



NGシーン

「無理なのは判っているわ! でも貴女しか頼れる相手がいないの! 貴女と貴女の使い魔にしか!」
「わたしの使い魔? まさか、品評会にわざわざお越しになられたのは…?」
「ええ。本当は貴女と貴女の使い魔に、これを頼めるかどうかこの目で判断するのが目的でしたの。
 そしてルイズ、わたくしの目は間違ってはいなかったわ」

アンリエッタはちらりと悟空を見た。その目は先程とは打って変わり、希望の光が覗いている。

「お任せ下さい! たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、何処なりとも向かいますわ!
 姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!」

ルイズは膝をついて恭しく頭を下げた。

「『土くれ』のフーケを捕まえた、このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」
「このわたくしの力になってくれるのね、ルイズ・フランソワーズ! 懐かしいおともだち!」
「もろちんですわ! 姫さま!」
「今、何と?」
「へ?」
「確か、も、もろ……」

そこまで言って赤面してしまったアンリエッタを見て、ルイズは、自分が取り返しのつかない言い間違えをしてしまった事に気付き、叫んだ。

「ビ…ビッケモンバーック!!!」

ルイズ・フランソワーズ、16歳。
その身に染みついた腐の精神、未だ抜けず。


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