あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ボン太くん・イン・ハルケギニア-02

 コルベールがルイズの使い魔”ボン太くん”の中身を演じるようになってから、一週間
が経った。使い魔らしく振る舞っているおかげか、彼女との主従関係は良好である。
 だが、彼はこの現状を素直に喜ぶ事が出来なかった。成り行きでなったとは言え、ルイ
ズを騙している事に変わりは無い。その事実が彼に重く伸し掛かっていた。
 何れは本当の事を話さなければならないが、そこで終わりという訳では無い。彼女に対
するその後の対応も必要だろう。
 だから、彼はルイズの力になろうと思った。罪滅ぼしというには安易かもしれないが、
何もしないで後悔するよりはましだ。

「じゃあ、また明日ね。朝は遅れちゃ駄目よ」
「ふもっふ~」

 夜、寮塔にあるルイズの部屋から退室したボン太くん(コルベール)は、その足で自分
の部屋へと戻った。慣れた様子でボン太くんの中から外に出て、一息つく。

「ふう。今日も何事も無く無事に終わったな」

 ボン太くん(コルベール)はルイズの部屋に寝泊りせず、外から通うという形をとって
いた。使い魔の姿をしているとは言え、教え子の部屋に寝泊りするのは教師として抵抗が
あるからだ。ルイズには自分は外で寝る習慣があると説明している。
 その他にも、食事や教鞭を執る時はそれらしい理由を付けて彼女の側を離れなければな
らないのだが、ルイズにはそれが少々不満のようであった。

「さて、そろそろ始めるとするか」

 コルベールは軽く夕食を済ませた後、既に日課となっているボン太くんの調査に取り掛
かった。
 これは自らの知的好奇心を満たす為に行うというよりは、先に述べたようにルイズの力
になる為に行うといった意味合いが強い。何れは彼女自身が直接ボン太くんを操らなけれ
ばならなくなる。その時に少しでも彼女の参考になればと思い、ボン太くんの操作方法や
各種機能の解説を彼なりに纏めていたのだ。

「よし、取り敢えずはこんなところだろう」

 そして今日、漸く完成に漕ぎ着ける事が出来た。ただ、これは飽くまでも初版に過ぎな
い。ルイズからの意見や要望があれば、その都度改定を入れていこうと彼は思っていた。

 コルベールが一仕事終えた後の余韻に浸っていると、ボン太くんの左手のルーンが彼の
目に映った。そこで彼はこのルーンの正体をまだ完全に解明していなかった事を思い出す。
ボン太くん自体の調査を優先して、後回しにしていたからだ。
 このルーンはコルベールが今迄に見た事が無い形をしたものだった。現時点で分かって
いるのは、ボン太くんに触れた時にルーンが光を放つという事。
 同じく触れた時に起こる現象として、ボン太くんの情報が頭の中に流れ込んで来るとい
うのがあるので、関連性があるのではないかと彼は睨んでいる。
 何れにしろ、手持ちの資料だけでは詳しい事は調べられない。確か、フェニアのライブ
ラリーに使い魔のルーンについて記された文献が幾つかある筈だ。コルベールは一刻も早
く調べてみたいと思った。
 だが、今はルイズへの対応が先だろう。コルベールは明日の放課後、直接彼女に真実を
明かして謝罪をしようと決めていた。彼女がどのような反応を示そうとも、全て受け入れ
る覚悟もあった。

「そろそろ寝るとしよう。寝坊してミス・ヴァリエールに怒られるといけないからな」

 何時もの彼ならまだ起きているところだが、今日はもう床につく事にした。





 ――翌日。
 アルヴィーズの食堂はお昼時を迎え、多くの生徒や教師達で賑わっていた。生徒が食事
をとる一階の上はロフトになっており、教職員専用の食事席が設けられている。コルベー
ルはそこで他の教師達に混じって昼食をとっていた。

「ふう…」
「おや、どうかされましたか? ミスタ・コルベール。少々お元気が無いようですが、何
かお悩み事でもおありですか?」

 斜向かいに座っているシュヴルーズが心配そうに声を掛けてきた。彼女に分かるくらい
のはっきりとした溜息をついてしまったのかと、コルベールは内心苦笑する。

「あ、いえ、ごく個人的な事です。それに大した事ではありませんので、どうかお気にな
さらずに」
「そうですか。それならよろしいのですが」

 コルベールに元気が無い原因――それは今日、彼がルイズに行おうとしている事に対す
る葛藤だった。
 ルイズがどのような答えを出そうとも、全て事実として受け入れると心に誓った筈だっ
た。だが、もし彼女がショックを受けた時の事を考えると、果たして真実を明かす事が本
当に良い事なのか分からなくなるのだ。

(何時まで経っても煮え切らないとは、私も情けないな…)

 自嘲気味に思考を巡らせていると、一階が騒がしい事に気付く。教師達の内の何人かが
ロフトの手摺りから下の様子を伺う。コルベールも食事を中断して階下を見遣った。

「君が香水の瓶を拾うから、二人のレディが傷付いたじゃないか! この責任はどう取る
つもりだね!」
「申し訳ありません。どうかお許しを…」

 コルベールの視線の先、一階では騒ぎが起こっていた。
 金髪の男子生徒が黒髪の給仕の娘に向かって嫌味ったらしく説教をしている。男子生徒
はグラモン家の子息、ギーシュであった。対して給仕の娘はその場にへたりこんで力無く
頭を垂れ、男子生徒に対し、ひらすら謝罪を繰り返している。そして二人の周囲を多くの
生徒達が取り囲んでいた。まるで街角の大道芸を楽しむかのような感覚で二人のやり取り
を見ている。

「何があったんでしょうね」
「どうせ浮気がばれたんだろ。いい加減にして欲しいもんだよ。盛り時の犬じゃあるまい
し」

 コルベールの近くで下の様子を見ていた教師二人が呆れながら言った。どうやら給仕の
娘のせいでギーシュの二股がばれてしまい、その事に腹を立てた彼が給仕の娘を叱り付け
ているらしい。
 だが、これだけの騒ぎにもかかわらず、誰一人として止めようとする者はいなかった。
それは給仕の娘が平民だからだろう。
 貴族は平民に対して差別意識を持つ者が多い。自分より価値の低い人間の肩を持つ事は
貴族としての誇りに傷を付ける事になる。だから誰も助けようとはしない。そういった人
種なのだ。
 中には差別意識を持たない者もいるが、彼らの場合は事情が違う。彼らが助けに入ろう
ものなら、差別意識を持つ貴族達から異端扱いされ、たちまち孤立してしまうだろう。そ
うなる事を恐れているから、動けないのだ。
 コルベールは一階に続く階段に向かって駆け出していた。どの道このまま騒ぎを放って
置く訳にもいかず、誰も止めないのであれば自分が行くしかないと思ったからだ。
 その時、人だかりを掻き分けてギーシュの前に進み出た人影があった。

「いい加減にしなさいよ、ギーシュ! 悪いのはあんたでしょうが!」

 人影の正体はルイズであった。臆する事の無い表情でギーシュを見据えている。

「どうして僕が悪者になるのかね? 君は頭がおかしいんじゃないのか?」
「おかしくなんかないわ。だいたい、あんたが二股かけてたのがいけないんじゃない。は
っきり言って自業自得よ。それを給仕の子のせいにするなんて情けないわね」

 周囲のあちこちからルイズの言う事に賛同する声が上がった。その様子にギーシュは気
圧されるが、負けじと口を開く。

「だ、だが、平民ごときにプライドを傷付けられた僕の立場はどうなる! 君も貴族なら
今の僕の気持ちが理解出来るだろう?」
「理解なんか出来ないわよ。プライドの高い人間が貴族じゃない、何事にも正々堂々と向
き合うのが貴族っていうの。自分の失態を他人に擦り付けるような奴に貴族を名乗る資格
は無いわ。ただの卑怯者よ!」

 コルベールはルイズの言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。彼女は『ゼロ』と呼ば
れ、蔑まれている。にもかかわらず、それに臆する事無く自分の信じる道を行こうとして
いる。
 それなのに自分はどうだ。彼女に本当の事を打ち明けると決めた筈なのに、本当はまだ
迷っている。彼女から言わせれば、自分も卑怯者になる。今のままでは彼女の力になる資
格など無いだろう。

「君はもう少し賢いと思っていたけど、頭の中もゼロのようだね。よろしい、どちらの言
い分が正しいか、貴族らしく決闘で決めようじゃないか!」
「お、おい、やめろよギーシュ。貴族同士の決闘は禁止されてるだろ?」

 ギーシュの近くにいたキャラリーの内の一人が慌てた様子で言った。

「構わないさ。ここまで言われたのなら、後には引けないからね。僕も正々堂々と戦うま
でさ」

 ギーシュはやる気のようだ。薔薇の花をかたどった自分の杖を既に構えている。対する
ルイズも怯んではいるものの、一歩も退かない様子であった。

(これはまずい!)

 コルベールは焦った。ルイズの魔法が起こす爆発は強力だが、ギーシュの得意とする
ゴーレムの編隊攻撃に対しては相性が悪い。彼女が一方的に負けるのは目に見えている。
一刻も早く決闘を止めさせなければならない。
 だが、それでは貴族としての信念を貫き通そうとしている彼女の気持ちを踏み躙る事に
なるだろう。それを避ける為の手があるとしたら、あれしかない。

 コルベールは食堂の出口に向かって走り出した。食堂にいる者達は皆、ルイズとギーシ
ュに注目している為、彼に気付く者はいない。そして、急いで自分の部屋に戻り、ボン太
くんの中に入り込む。

(今の私の役目は彼女の力になる事だ。待っていてくれ、ミス・ヴァリエール)

「ふもぉぉぉぉぉっ!!」

 ボン太くん(コルベール)は雄叫びを上げながら部屋を飛び出した。そのまま全速力で
食堂を目指す。
 とにかく走る。ひたすら走る。その勢いは誰にも止められない!

「きゅい~~~~~~~~~~っ!!」

 途中で動物の鳴き声が聞えた。そう言えば巨大な竜のような生き物を体当たりで弾き飛
ばしたような気がするが、今はそれどころではない。気にする間も惜しんで走り続ける。
 そうしているうちに食堂が見えてきた。入り口から中の様子が見える。ルイズとギーシ
ュはまだ互いに相手を見据えたままであった。どうやら間に合ったようだ。
 だが、そこで油断したのがいけなかった。入口の段差に躓いてしまったのだ。

「ふもっ!?」

 足が縺れて前のめりに倒れるボン太くん(コルベール)。しかし、勢いは止まらず、慣
性の法則に従ってそのまま転がり続ける。

「ふも~~~~~っふ~~~~~っ!!」

 最早、生きる弾丸と化したボン太くん(コルベール)はルイズとギーシュを取り囲むギ
ャラリーの輪に勢い良く突っ込んだ。

「おーい、何時まで睨み合ってるんだよ! さっさと始めろよ゛ぼぉっ!!」
「ぎゃひぃん!!」
「マリコルヌッ!!」

「一体、何事だにぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」

 ボン太くん(コルベール)の暴走は、数人のギャラリーとギーシュを巻き込んだところ
で漸く止まった。

「ボ、ボン太くん!?」

 突然現れた自分の使い魔に驚くルイズ。

「君ぃ、いい加減そこをどきたまえ」

 ボン太くん(コルベール)の下敷きになっていたギーシュが、ボン太くん(コルベー
ル)を押し退けて立ち上がった。全身埃まみれである。

「君はルイズの使い魔だな? 神聖な決闘を邪魔するとはどういうつもりだね!」

 ボン太くん(コルベール)は常備している筆談用の羽根ペンと羊用紙を懐から取り出し、
筆を走らせる。書き終わったところでそれをギーシュに見せた。そこには達筆な字でこう
書かれていた。

『君の決闘の相手はルイズじゃない。この僕だ』



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