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ベルセルク・ゼロ-11-1


 ミセス・シュヴルーズによる『土』系統の授業が行われていたルイズのクラスに、慌てた様子で衛兵が飛び込んできた。
 衛兵と二言、三言言葉を交わしたシュヴルーズは授業の中止を声高に告げると教室を飛び出していく。
 教室に残された生徒たちはザワザワと騒ぎ始めた。
 これは何か事件が発生したに違いない、と騒ぎ出す者もいれば、これ幸いと空いた時間に女の子をデートに誘う者もいる。
「ミセス・シュヴルーズも随分と慌ててらしたけど、どうしたのかしらね?」
 退屈な授業がつぶれたことを内心喜びながら、キュルケは後ろを振り返る。
 そこには黙々と本を読み続けるタバサの姿があった。
 タバサは本から顔を上げて己の使い魔、風竜(ウインドドラゴン)シルフィードに目を向ける。
 青い鱗をきらりと輝かせたその風竜は、タバサに顔を寄せるときゅいきゅいと鳴いた。
「土くれのフーケが宝物庫を襲撃した」
「ええ!? ちょっとタバサそれホント!?」
「先程の衛兵はそう発言していた」
 タバサはそう言うとまた読書を再開した。
 キュルケはそれを聞き、しばらく考え込んでいたかと思うと、急に目を輝かせてタバサに詰め寄った。
「ねえタバサ。フーケはどうやってこの魔法学院の宝物庫に、白昼堂々侵入したんだと思う?」
 タバサは黙々と本を読み続けている。
「それに、それ程の危険を冒してまでフーケが欲しがった物って何なのかしら!! どう思う? タバサ」
 タバサは本から目を離さぬまま、ただ一言こう言った。
「興味がない」
 しかしキュルケは止まらない。
「あたしは凄くあるわ!! ねえタバサ、宝物庫に行ってみましょうよ!!」
「行かない」
 タバサの返答に意味は無かった。
 キュルケはタバサの返事を待たずにその手を取り、教室の階段を駆け下り始めた。
「それにね、これは女の勘なんだけど、今日に限ってルイズが授業を欠席してるってのが気になるの!! きっとダーリンが何か関係してるんだわ!!」
 こうなったキュルケはもう止められない。
 瞳を燃え上がらせたキュルケに引っ張られ、半ば宙に浮きながら、タバサはやれやれとばかりにため息をつくと、開いていた本をパタンと閉じた。


 宝物庫には、オールド・オスマンの緊急招集により学院中の教師たちが集められていた。
 その中には事件の目撃者であるルイズとガッツの姿もある。
 ルイズは不安げに、ガッツは興味なさげに周りの教師たちの喧騒を眺めていた。
「一体衛兵たちは何をしていたんだ!?」
「これだから平民など当てにならんのだ!!」
 何人かの教師たちが今日門番を勤めていた衛兵たちに怒鳴り散らしている。
 衛兵たちは青ざめながらただただ謝罪を繰り返していた。
「今更衛兵を責めても仕方がないでしょう。それに責は学院にいながらにして事態にまったく気付かなかった我々にもあるのでは?」
「そ、それは……」
 見かねたコルベールが衛兵を責める教師たちを諫める。
 オスマンがごほんとわざとらしく咳をした。皆の目がオスマンに集中する。
「今は責任の所在を追及する時ではない。フーケに奪われたものを早急に奪還することこそが急務なのじゃ」
 重々しいオスマンの声が響く。
 教師達は俄かにざわめき始めた。
「それ程の物ならば、王宮に報告して協力を仰ぐべきでは?」
「ならん!! アカデミーの奴らにアレの存在が知れたら嬉々として我々に提供せよなどと言うてくるに決まっとる! アレの存在を世に知らすわけにはいかん………!!」
 オスマンの剣幕に集まった者達は思わずごくりと唾を飲み込んだ。

 これ程までにこの偉大なる老人が焦る姿をかつて見たことがあっただろうか。
「それ程の物なのですか? この―――」
 オスマンの背後の壁、そこに残されたフーケからのメッセージ。
 発言した教師はちらりとそこに目を向ける。
「奪われた、『覇王の卵』という物は」
 そこに集まった者は口々に「知っているか?」「さあ?」などとざわめきあっている。
 ルイズもご多分に漏れず、『覇王の卵』、その正体に皆目見当がつかず首を傾げた。
(オールド・オスマンがあんなに慌てるなんて……どんなマジックアイテムなのかしら)
 何となく、知るわけがないと思いながらも隣に立つガッツを見上げる。
「え……?」
 ルイズは思わず声を上げた。
 ガッツの様子が、先ほどまでと一変していた。
 ガッツは目を剥き、オスマンの姿を注視している。
 ガッツは己の耳を疑った。
(覇王の卵だと……!!)

 ―――もし貴様がこの男にとって真の友といえる存在ならば
 牛頭の黒獅子が翼を広げ、吼える。

 ―――じょ、冗談じゃねえぞ! あれがねえと、俺ぁ……!!
 最悪の魔猿が希望を断たれ、叫ぶ。

 黒い影に覆いつくされた太陽。
 その下で、赤く陽光で染められた泉で、友の傍らに落ちていた『ソレ』を見た。

 真紅のベヘリット。
 ――――覇王の卵。

 何故その名を―――異世界であるはずの、ここハルケギニアで耳にするのか。
 ガッツはオスマンに駆け寄るとその胸倉を掴み上げた。
「あ、こらまた!! やめなさいガッツ!!!!」
「貴様何をするか!! 衛兵!!」
 二人の衛兵とルイズが慌ててガッツを抑えにかかる。
 衛兵に両肩を引かれ、ルイズにマントを引っ張られても、しかしガッツはビクともしない。
「覇王の卵だと…? じじい、てめえそれをどこで手に入れた。何でてめえがそれを持ってやがる……!!」
「貴様、その手を離さぬか!! 離さねば……!!」
 何人かの教師が杖を抜く。
 しかし、ガッツの噂は教師達の間にも広まっているのだろう。
 勇ましく杖を抜いた教師達も、その足は震え、腰は引けていた。
 オスマンはその教師達にゆっくりと目配せをする。
「よい、皆落ち着きたまえ」
「し、しかしオールド・オスマン!!」
「よいのだ。さて…ガッツ君、まずはこの手を離してくれんか? 落ち着いて話をしようじゃないか。それに、栄えあるトリステイン魔法学院の学院長がこのざまでは教師達に格好がつかぬ」
 ガッツは舌を打つとオスマンを乱暴に離した。
 オスマンは己の襟元を正す。
「何故君が覇王の卵のことを知っているのか…今は置いておこう。ただ、君もアレを知っているのならばわかるはずだ。すぐにフーケの手から取り戻さねばならぬ。
もしフーケから他の誰とも知れん貴族に流れでもしたら取り返しがつかん。今、フーケの手にあるうちに迅速に取り戻さねば」
 ガッツは黙ってオスマンの話に耳を傾けている。
 しかしその顔には苛立ちがありありと現れていた。
「本来であれば儂が直々に赴きたいところなのだが……」
「いけませんオールド・オスマン!! あなたにはこの後王宮に出向き、今まで山と重なった公務をこなしていただかなくては!! ただでさえ散々延ばし延ばしにしてきたのですから……!!」
 今までオスマンの傍で静かに控えていたミス・ロングビルが慌てたように口を挟んだ。
 オスマンははぁ、とため息をつく。
「…そういうことでな。どうしても儂は動くことが出来ん……故に!!」
 オスマンはその手に握った杖を高々と掲げた。
「ここにフーケ捜索隊の編成を提案する!! 我をと言う者は杖を上げぃ!!」

 部屋の中がシン…と静まり返る。
 教師達はお互いの顔を見回すばかりで誰も杖を上げようとしない。
 オスマンがこれほど重要視するマジック・アイテムの奪還。その責任は重い。
 しかも相手はあの悪名高い土くれのフーケである。
 教師達は皆失敗を恐れ、杖を持つ手を縮こまらせていた。
 ルイズは―――そんな教師達の姿に苛立ちを感じていた。
 オスマンがあれほど事の重大性を説いたというのに。
 誰かがしなければならないことだというのはわかりきっていることだというのに。
 ここに集まった教師達はそれでも「他の誰かがやるだろう」「何も自分が率先してやることではない」と下を向いている。
 それでも貴方達は貴族の端くれなのか。
 ガッツ。ガッツを見る。
 ガッツはそんな教師達を見て明らかに呆れている。
 所詮貴族なんてのは偉ぶっているだけで、肝心な時には何もしない連中だ。
 そう、思っているんじゃないだろうか。
 そしてその『貴族』の中に自分のことも、このルイズ・フランソワーズのことも含めているのではないだろうか。
 それだけは、我慢がならなかった。
 ルイズは自らの持つ杖を高々と掲げた。
「ミス・ヴァリエール!!」
 ミセス・シュヴルーズが驚いた声を上げる。
「何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
「誰も杖を上げないじゃないですか! 失敗を恐れて縮こまって! この魔法学院で教鞭をとる者として恥ずかしくはないのですか!!」
「口が過ぎるぞミス・ヴァリエール!!」
「では君が行くかねミスタ?」
 ルイズを咎めようとした教師をオスマンがぎろりと睨む。
 教師は汗を流すとそのまま押し黙った。
「しかし、ミス・ヴァリエール一人では……」
 ロングビルが控えめに声を上げる。
「相手はあの土くれのフーケです。学院の生徒一人では……それに、その……ミス・ヴァリエールはあまり…その……」
 なんだこら。魔法が使えないダメダメイジだってか。
 ロングビルの物言いにルイズはむっとしたが、事実なので何も言い返すことは出来ない。
 その時である。
 宝物庫のドアが開き、ルイズにとって天敵ともいえる女性が姿を現した。
「私もフーケ捜索に同行させてもらいますわ」
 真っ赤な髪をたなびかせて、キュルケは胸の谷間からおもむろに杖を取り出し、高く掲げた。
 その後ろには静かに本を読み続けるタバサの姿もある。
 オスマンはキュルケの谷間に一瞬うひょっと顔を緩ませたが、皆の視線に気付くとすぐにキリリと真顔に戻った。
「盗み聞きとは感心せんのう。ミス・ツェルプトー」
「私達は廊下で談笑していただけですわ、オールド・オスマン。そしたらたまたまここの会話が聞こえてきましたの」
 もちろん嘘である。
 キュルケもタバサも思いっきりドアに耳を押し付けていた。
「なな、なんでアンタが出てくんのよ!!」
 ルイズは顔を真っ赤にして激昂し、キュルケを指差す。
 キュルケは涼しい顔でそれを受け流した。
「ヴァリエールにばかりいいカッコさせてたまるものですか」
「君も参加するのかね? ミス・タバサ」

 オスマンの言葉にびっくりしたのはキュルケである。
 驚いてタバサを見ると、タバサは本から目を離さぬまま右手でちょこんと杖を掲げていた。
「あなたはいいのよタバサ。危険だし、興味もないんでしょう」
 キュルケの言葉にタバサはふるふると首を振った。
「心配」
「ありがとう! タバサ!!」
 キュルケは感動してタバサを抱きしめる。
「あつい」
 タバサはぽつりと呟いた。
 ルイズもなんだかんだで危険を顧みず参加してきた級友達の姿に感動していた。
 もじもじしながらキュルケとタバサの前に立つ。
 なんだかふつふつと沸き起こってくる恥ずかしさを抑えて、言った。
「そ、その……ありがとう。それと……道中よ、よろしく」
「別にアンタのためにやるんじゃないわよ?」
 キュルケはけろりと言い放つ。
 もじもじルイズはカキンと音を立てて石化した。
「あたしはダーリンのために手伝うのよ!! ダーリン!! こんな無い胸の小娘なんかよりあたしを頼ってねぇ~~!!!」
 キュルケはタバサを抱きしめたままガッツに向けてぶんぶんと手を振った。
 ガッツは無視を決め込んでいるようだ。
 ばごーん。
 石を砕き、再びルイズはその姿を現した。今度は怒りで全身を真っ赤に染めている。
「ころころと色が変わる……カメレオン?」
 キュルケの胸に掻き抱かれたままポツリとタバサが呟いた。
 ばふーん!
 キュルケが盛大に吹き出した。
「あははははは! うまいわよタバサ!! は、爬虫ルイズ!! あはははは!!!!」
「キシャーーーー!!!!」
 本当に爬虫類のような唸り声を上げてルイズはキュルケに飛び掛った。
 そんな三人のやり取りを温かな目で見つめながらオスマンは考える。
(ミス・ツェルプトー、ミス・タバサ、両名とも魔法の実力は申し分ない。ミス・タバサなどあの年齢にして王宮に認められた実力者の称号『シュヴァリエ』を持つと聞く。おそらくメイジとしての実力はここにおる教師達と比べても比類なきものであろう。そして……)
 オスマンはルイズ達のやり取りを呆れた目で眺めているガッツに目を向けた。
(ガンダールヴ……異世界から来たという黒い剣士)
 オスマンの視線に気付いたのかガッツがオスマンの方を向き直る。
 自身を真っ直ぐ射抜いてくるその眼光に、オスマンはその底知れぬ実力を予感した。
 この面子ならば、土くれのフーケに後れを取るようなことはないだろう。
 フーケ捜索隊がここに決定した。

 解散とフーケに関する情報収集を命じられた教師達がぞろぞろと宝物庫を後にする。
 その際、何人かの教師はルイズを睨み付け、露骨に舌を打ちながら去っていった。
 そんな彼らから、ルイズは決して目をそらさなかった。
 もちろん、その仕打ちが堪えなかったわけではない。
 それでもルイズは胸を張り、教師たちを強い眼差しで見据えていた。
 ぽん、とルイズの頭に大きな手が乗せられる。
 ルイズは驚いてガッツを見上げた。
「やるじゃねえか」
 ガッツはにやりとルイズに笑ってみせた。
「き、貴族として当然のことをしただけよ! こ、子ども扱いしないでよね!!」
 ルイズはガッツの手を払うとぷい、と顔をそむける。その頬にはほんのり赤みが差していた。


 教師達はフーケの情報を求めて学院を飛び出していった。
 今、宝物庫に残っているのはオスマンとミス・ロングビル、ルイズ、キュルケ、タバサ、そしてガッツだけである。
「君たちはフーケの足取りが掴めるまでゆっくりと養生しとってくれ。教師達もそれぐらいは働かせねばな。さて……」
 オスマンはちらりとガッツに目を向ける。
 それからこほんとわざとらしく咳をした。
「皆悪いが退室してくれんか。彼と二人だけで話したいことがある」
 オスマンの言葉に従い、皆めいめいに部屋を出る。
 ルイズは少し渋って最後まで残っていたが、やがてあきらめて出て行った。
 部屋にはガッツとオスマン、二人だけが残される。
「さて…まずは確認じゃ。君は覇王の卵を知っている。そうじゃな?」
 ガッツはその言葉に答える代わりに腰元の鞄を探った。
 そこから取り出したものをオスマンに放り投げる。
 オスマンはそれを受け取り、確認すると目を見開いた。
「これは……!!」
 オスマンの手に握られた、卵形の奇妙な物体。
 目、鼻、口が出鱈目に配置された奇怪なそれは、ベヘリットと呼ばれる神の卵だ。
「あんたの言う覇王の卵ってのはそれと似たようなものじゃなかったか?」
 ガッツの問いに、オスマンは頷いた。
「うむ…非常によく似ておる……しかし覇王の卵はこれより一回り小さく、色も血のように赤かったが……」
 オスマンの言葉にガッツは舌打ちした。どうやら間違いはないらしい。
「じいさん、あんたはどうやって覇王の卵を手に入れた? あれは……俺の世界にあるはずの物だ」
「なんと…!! いや、すまんが儂もどこからこれを入手したのかは知らんのじゃ。覇王の卵はもう百年程前にもなるか、儂の魔法の師から受け継いだ物でな。儂の師も『師から受け継いだ』としか言わんかった」
 オスマンは豊かにたくわえた髭をこすりつつ記憶を探る。
「儂も実は覇王の卵がいかなる事象を引き起こすのか、どのように使えばいいのか詳しくは知らぬ。ただ、師は言っていた。
もし、覇王の卵が発動するようなことがあれば、世界は再び闇に沈む……と。儂は誰の目にもつかぬよう、この学院の宝物庫に納めていたのじゃが…うむむ、フーケめ、どこで覇王の卵のことを知ったのか……」
(……どういうことだ?)
 オスマンの答えを聞き、ガッツは黙考する。
 何故覇王の卵がこちらの世界に流れてきているのか。
 しかも、オスマンの話によれば百年以上も前に覇王の卵はハルケギニアに現れていたらしい。
 それはちょっとおかしい。理屈が合わない。

 ―――――ゴッドハンドは既に五人揃っているはずだ

 覇王の卵が百年以上も前にここハルケギニアに流れてきていて、それからずっと封じられていたのだとしたら、あちらの世界でゴッドハンドは一人欠けていなければならない。
 それとも、覇王の卵は無くなればぽんぽんぽんぽん新しいものがどこかで生まれるようなものなのだろうか。
 それとも―――――

 ガッツはがしがしと頭を掻いた。やはり自分は物を考えるのには向いていない。
 オスマンがベヘリットを差し出す。ガッツはそれを受け取り、鞄にしまった。
「それではガッツ君。覇王の卵の奪還、よろしく頼むよ」
 オスマンの言葉にガッツは眉をひそめた。
「おいおい、俺はあんたの尻拭いに付き合う気はないぜ」
「しかし君ならば覇王の卵を放置する危険性を儂以上に理解していると思うが?」
「だから何だ? 悪いがこの世界がどうなろうが俺の知ったことじゃない。それに、どんだけ忙しいか知らねえが、それを他人に任せようってのがそもそも気に入らねえ。何よりも優先してあんたが自分でやるべきじゃねえのか?」
 オスマンは目を瞑り、顔を伏せる。
「うむ、いちいちもっともじゃ。だが、偉くなりすぎるというのも考えものでな。責任っちゅう名の鎖がギチギチと儂の体を縛りよる」
 オスマンは顔を上げると真っ直ぐにガッツを見据えた。
「ならばこれは儂からの正式な依頼じゃ。君に覇王の卵の奪還を頼みたい」
「俺に何の得がある」
「君の装備一式に儂が『固定化』の魔法をかけてやろう。『固定化』の処理を行えば、油を引かんでも鉄は錆びず、『錬金』などの魔法に干渉されることもない」
 ガッツの眉がピクリと上がる。
 要するに、固定化の魔法をかけてもらえば、左手の義手も、ボーガンなどもメンテナンスレスになる上に劣化しなくなるというのだ。
 それは正直魅力的な話だった。
「いいぜ、契約成立だ」
「おお、やってくれるか!」
 部屋を後にしようとするガッツを呼び止めるとオスマンは恭しく礼をした。
「それではよろしく頼みましたぞ。黒い剣士殿」


 それから二時間後。ルイズ一行は青空の下で馬車に揺られていた。
 馬車といっても屋根は無く、本来荷物の運搬などに使う類の物である。
 万が一襲われたりなどした時にすばやく対応できるようにという判断だった。
 御者を務めるのはミス・ロングビル。フーケの情報をいち早く掴んできた彼女はそのままルイズ達との同行を買って出た。
 馬車の乗車スペースにはルイズとガッツが並んで座り、その向かいにキュルケとタバサが並んで座っている。
 走行する馬車の上だというのに、タバサはいつもと変わらず本を読んでいた。
「で、この馬車は一体どこに向かっているのかね?」
 ぴょこっとガッツの鞄からパックが顔を出す。
 宝物庫でのやり取りの間、ずっと庭でのびていたパックは事の次第を全然わかっちゃいなかった。
「ミス・ロングビルの掴んだ情報によるとフーケはわりと近くの森の廃墟に潜んでいるそうなの。私たちはその廃墟に向かっているってわけ」
 ルイズの説明を受けてパックはふんふんと頷いた。
「まったく、あの時オレを気絶させなきゃフーケってやつの気配を辿ってやれたのにさ!!」
 腕を組んでぷりぷりと怒るパックの発言にぎくっとしたのはミス・ロングビルである。
 彼女はおそるおそるパックに尋ねた。
「あ、あなたにはそのような特技があるのですか?」
「あるよ。このオレのセンサーをなめちゃいかんぜよ!!」
 パックの尖った耳がきゅいーんきゅいーんと奇妙な音を立てて回る。
「あ…でも」
「で、でも!?」
 ロングビルの肩がさらにびくびくと震えた。
「今回の場合フーケの気配を覚える前にどっかのDV野郎に気絶させられちゃったからさ~、お役には立てないんだよね。こうやってさ~、どっかの馬鹿がね~~」
 パックはガッツの肩に乗り、これ見よがしに自分の首を掴んで捻った。
 そんなパックにガッツのでこピンが炸裂する。
 パックはきりもみ回転で宙を舞った。
「そ、そうなのですか……」
 パックの言葉を聞いたロングビルはほっと胸を撫で下ろした。
「あれ、ミス・ロングビル今ほっとした?」
 キュルケがロングビルの顔を覗き込む。
 ロングビルは慌てて首を横に振った。
「ま、まさか! 残念だなぁ~とため息をついたんです!!」

 しばらく進んだところで馬車が止まる。
 既に馬車は鬱蒼と茂った森の中に入り込んでいた。
「これ以上は馬車で進めません。ここからは歩いて行きましょう」
 一行は馬車を降りてさらに森の奥へと進む。
「やだもう、髪の毛が乱れちゃうわ」
 道を遮る木の枝を払いながらキュルケは愚痴る。
「髪の毛なんてどうでもいいでしょ。私たちは今重要な任務の最中なのよ」
 振り返ってそう言ったのはキュルケの先を行っていたルイズだ。
 キュルケはやれやれと肩をすくめた。
「そりゃいいわよねあなたは。そもそも丹念に磨いた髪を見せる殿方がいないんだから」
「なぁんですってぇーーー!!!!」
 目を三角に吊り上げてルイズが吼える。
 ルイズのさらに先を進んでいたタバサが振り返った。そして口元に人差し指を当てる。
「しっ」
 騒ぐ二人をたしなめてからタバサは顎で前方を示した。
 ごそごそと皆タバサの傍まで歩み寄る。
 タバサが示した方向を見ると、木造の廃墟が木々の隙間から漏れ射る陽の光に照らされていた。
 全員近くの茂みにしゃがみ込む。
「あれがフーケのアジト?」
 ルイズは自分の傍にしゃがみ込むロングビルの顔を見上げた。
「おそらくは」
 ロングビルが頷く。
「それじゃ、作戦を立てましょうか」
 キュルケの言葉に頷いて、皆は小さい円を描くように座った。
「決まったら教えろ」
 そう言ってガッツだけは木の陰に佇んだままじっと廃墟を見据えていた。
 タバサが枝を使って地面に廃墟を示す四角を描く。
「入り口がここ。窓がここから見えるあそこと、おそらくは向かいにもう一つ」
「一気に全員で突入して、フーケが魔法を唱える前に力尽くで押さえちゃえばいいんじゃない?」
 キュルケは地面に描かれた図の入り口部分を指差した。
 タバサは首を横に振る。
「確かに奇襲というのは大前提。でも全員で突入するには入り口が狭い。それに、小屋に罠が仕掛けてある可能性もある。そうだった場合、一網打尽。推奨は出来ない」
 ルイズは顎に手をあててむむむ、と唸った。
「小屋の中の様子が掴めないと作戦の立てようがないわね」
 タバサが頷く。
「やはり一人偵察に赴くのが望ましい。このまま小屋内の状況を把握せずに突入するのはリスクが高すぎる。問題は誰が偵察に向かうか」
「オレ見てこようか?」
 ぬぅん―――とタバサの視界いっぱいにパックの顔が現れる。
 いつの間に来たのかパックはタバサのすぐ目の前で浮いていた。
 最初は目をぱちくりさせていたタバサだったが、やがて大きく頷いた。
「適任」
「おーけい! じゃあ行ってくる!!」
 パックはひゅん、と風を切り小屋へと向かった。
 すぐに小屋にたどり着くとそっと窓から中を覗き込む。
 ルイズ達は固唾を呑んでその様子を見守っていた。
「誰もいないよ~~?」
 パックが窓の外縁に立って大きく手を振った。
 茂みから立ち上がって、ルイズ達も小屋へ向かう。
「いつフーケが帰ってくるかもしれません。私達は外で見張りをしませんか?」
 ロングビルがルイズにそう声をかけた。
 確かにその言葉には一理ある。
 ルイズとロングビルは外に残ることに決まった。

 ガッツとキュルケ、そしてタバサの三人が小屋の中に足を踏み入れる。
 タバサは小さな声で何事か呟くと杖を振った。
 どうやら魔力探査魔法、『ディテクト・マジック』を唱えたらしい。
「魔法の罠は小屋内には仕掛けられていない」
「隠し部屋の類も無さそうね……」
 キュルケは床を調べながら呟いた。
「人の気配もしないよ」
 パックもそれに続く。
「というか変よこの部屋。いくら何でも埃がたまりすぎだわ。本当にフーケはここをアジトに使ってたのかしら?」
 ガッツは部屋の中を注意深く見回した。
「覇王の卵はあったか?」
 キュルケは首を横に振った。
「そもそもあたし、覇王の卵がどういうものか知らないのよね」
 ガッツは鞄からベヘリットを取り出した。
 キュルケとタバサはガッツの手に握りこまれたそれを覗き込む。
 キュルケを「うぇっ」と声を上げ、タバサは何も言わず目を瞑ると仰向けに倒れこんだ。


「ミス・ヴァリエールは『覇王の卵』をご存知?」
 小屋の外。
 ロングビルは周囲の森を睨みつけるルイズにそう声をかけた。
 ルイズはロングビルの方を振り返るとふるふると首を振った。
「いえ、存じません。フーケが宝物庫を飛び出す際に、ちらりと目にした程度です。何か、ネックレスのようにも見えましたが……ミス・ロングビルはご存知なんですか?」
「ええ、少しね。以前、オールド・オスマンがお酒の勢いで仰っていたの。持つ者に巨万の富を与えるとも、神をも超える力を与えるとも言われる奇跡のマジック・アイテム……その話を聞いたとき―――とても欲しいと……そう思ったわ」
 ルイズは眉をひそめる。
 何故ロングビルが突然こんな話を始めたのか理解できなかった。
「ようやく手に入れた幸せの宝箱。でも、その宝箱の開け方がわからない。そんな時、どんな気持ちになるか想像がついて?」
 ロングビルは自分の胸元に手を差し込んだ。
 その細い指が胸元から引き抜かれる。その指につままれ、細い紐が胸元から覗いた。
 そのままするすると紐は引き抜かれ―――やがて、血のように真っ赤な球体がその姿を現した。
 ロングビルの右手からぶら下がった覇王の卵が、太陽の光を受けて紅く輝いた。
「ミス・ロングビル……!! それはまさか……!!」
 ルイズの端正な顔が驚愕に歪む。
 ロングビルが一歩、ルイズの方へと歩みだす。
「きっとあなただってこう思うわ。どうしても開けたい。そのためなら――――」
 さらに一歩。
 ルイズが小屋の方を振り返る。
 ロングビルは駆け出した。
「―――手段は選ばないってね!!」


 小屋の中にルイズの悲鳴が響き渡る。
 その声にタバサは飛び起きた。
 ガッツは即座に小屋の入り口へと駆け出す。
 ガッツ、タバサ、キュルケの三人とパックは小屋を飛び出した。
 タバサとキュルケは目に飛び込んできた光景に声を失った。

 ―――――ロングビルがルイズの喉元に鈍く光るナイフを突きつけていた。

 ナイフを持った右手とは逆、ロングビルの左手には覇王の卵が巻きつけられている。
 それを目にした瞬間、ガッツの中にどす黒い感情が燃え上がった。
(本当に……ありやがった)
 確かにロングビルの手にあるそれは、『あの日』見た物とまったく同じものだった。
 ガッツの脳裏にかつての仲間たちの死が駆け巡った。
「ミス・ロングビル!! あなた一体……!?」
 状況がまったくつかめないキュルケは未だ混乱の中にいた。
「こいつが土くれのフーケよ!!」
 ロングビル―――フーケの腕の中で、足を震わせながらもルイズは気丈に叫んだ。
 そこにいる全員がようやく状況を理解する。
「自己紹介する手間がはぶけたねえ。そう、あんた達が探していた土くれのフーケはこの私だよ」
 フーケは笑う。そこにはルイズ、キュルケ、タバサの三人が知るロングビルの面影は微塵も無かった。
 タバサが杖を強く握り、フーケの隙を窺うように身を屈めた。
「おっと動くんじゃないよ!! そこのおチビさんもね!!」
 フーケは全員に見せ付けるようにルイズの喉元にナイフを押し当てる。
 タバサと、ちょこちょことフーケの背後に回ろうとしていたパックは動きを止めた。
 ルイズは悔しさで唇を血が出るほど噛み締めた。
「さて、この子の命が惜しかったら持っている武器を捨てな」
 タバサとキュルケは持っていた杖を地面に放り投げた。
 フーケはガッツをぎろりと睨む。
「あんたもだよ、ゴツイ使い魔さん。ご主人様の喉にもう一つ大きな口が作られてもいいのかい?」
 ガッツは背中のドラゴンころしに手をかけた。
「だめよ! ガッツ!! こんな奴の言いなりになんかならないで!! 私はどうなってもいいから!!」
 ルイズがその目に強い光を湛えて叫んだ。
「なっ!? 正気かいお嬢ちゃん!?」
 フーケはルイズの喉にさらに強くナイフを押し当てる。
 薄く皮が切り裂かれ、ルイズの喉を赤い血が一筋流れていく。
 しかしルイズは涙を零しながらもフーケを見上げ、キッと睨み付けた。
「貴族はッ!! 盗賊の脅しになんか屈しない!!!!」
「……!! この娘……!!」
 フーケの頬を汗が伝う。
 喉に冷たい金属の感触を感じたまま、しかしルイズはフーケの目から視線を決して外さない。
(こんな小娘にこの土くれのフーケが圧倒されているだと……!! 馬鹿な……!!)
 ガラン―――――
 ガッツはドラゴンころしを背中から外すとそのまま手放した。
 ガッツの足元にドラゴンころしが横たわる。
「そんな……!! ガッツ、どうして!?」
「お前に死なれちゃ俺も困るんでな」
 ぶっきらぼうにガッツは言い捨てた。
 ルイズは弱々しく首を振る。その目から大きな涙がぽろぽろと零れ落ちた。

(私は―――なんて)

 自らのせいで作り上げられた絶望的なこの状況。
 それだけではない。
 フーケに歩み寄られたあの時。
 自分は必死で小屋に駆け込もうとしていた。
 助けを求めることに必死で、杖を抜くことさえしなかった。

(私は―――ナンテ無力ナンダロウ)

 ぽろぽろと零れる涙を、ルイズはどうしても止めることが出来なかった。

「あなたの目的はなんなの? フーケ。偽の情報まで使って、私たちをこんな所まで連れてきた理由は?」
 キュルケはフーケに問いかけた。
「ふふ、簡単よ。この覇王の卵ね」
 フーケが左手を掲げる。覇王の卵がその指からぶら下がり、揺れた。
「盗んだはいいけど使い方がわからなかったの。だから、ここに貴方たちを呼び出して……こうやって、優しくご教授願おうと思ったわけ」
 フーケはルイズの頬を優しくなでて微笑んだ。
 キュルケはふん、と鼻を鳴らす。
「お生憎様、そんな気持ち悪い物、今まで見たことも聞いたことも無いわ」
「右に同じ」
 タバサも続く。
 しかし、フーケは余裕の表情を崩さない。
「あんた達はそうかもしれない。でも、あなたはどうかしら? ヴァリエールの使い魔の黒い剣士さん」
 フーケはガッツを見る。
 その場にいる全員の視線がガッツに集中した。
 ガッツは不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、知ってるぜ」
「やっぱり!」
 ガッツの答えにフーケは歓喜の声を上げた。
「宝物庫でのあの反応、知らないはずは無いと思ったよ!! じゃあ早速教えてもらおうか。
情報を出し惜しみして私をイラつかせないでおくれよ。手元が狂ってあんたの可愛いご主人様にまた傷をつけちまうかもしれない」
「心配すんな」
 ガッツは鞄に手を突っ込むとベヘリットを取り出した。
 それを見たフーケは目を丸くした。
「それは…覇王の卵? いや……色と大きさが微妙に違うようだね」
「ああ、こいつとアンタの持ってるそいつは夫婦石でね。片方だけじゃ何の力も持たない。二つ揃って初めてこいつらはその効力を発揮するのさ」
「なるほど……そういうことだったのかい。じゃあ早速そいつを渡してもらおうか」
 ガッツは首を振った。そしてルイズを指差す。
「その前にそいつを離しな。そうしたらこいつをくれてやる」
 フーケは笑い、ルイズの喉にさらに強くナイフを押し付けた。
「アンタ、自分が取り引き出来る立場だと思ってるのかい?」
 ガッツとフーケはしばらく睨み合っていたが―――やがて、ガッツは観念したようにベヘリットを差し出した。
 しかしフーケはその場から一歩も動かない。
「こっちへ投げな!!」
 フーケはあくまで用心深くガッツにそう命じた。
「わかったよ。じゃあ―――落とすなよ」
 ガッツの指がベヘリットを大きく空に弾いた。
「なにを……」

 反射的にベヘリットを目で追ったフーケの目に―――太陽の光が飛び込んできた。

「しまっ……!!」
 もろに太陽を直視したフーケの目が一瞬眩む。
 だがその一瞬、その一瞬でガッツには十分だった。
 フーケが目を閉じた瞬間に距離を詰めたガッツはナイフを持つフーケの右手首を捻り上げた。
 そしてそのままフーケの腹を思い切り蹴り飛ばす。
「ぐぅッ!!」
 フーケの体は宙を舞い、背後にあった茂みに突っ込んでいった。
 ガッツは落ちてきたベヘリットを掴み取る。

「ルイズ!!」
 キュルケとタバサがルイズに駆け寄った。
 タバサは冷静にルイズの喉の傷を観察する。
「薄皮が一枚切れているだけ。これならすぐに治る」
 キュルケはほっと息を吐いた。
「オレに任せて」
 パックがルイズの喉元まで飛んできた。
 パックの背中から生えている羽が細かに揺れる。
 りん粉が舞い、極上の傷薬がルイズの傷に染み込んでいく。
 あっという間に流れていた血が止まった。
「これは………」
 キュルケもタバサも目を丸くしてその様子を見つめている。
 パックは得意げに胸を張った。
 そんなパックの頭に温かい雫がぽたりと落ちた。
 ルイズの目からは涙が止め処なく流れ続けていた。
「ごめんなさい……」
 ルイズはぽつりと呟いた。
「な、なによルイズ! あなたらしくもない!!」
 初めて見るルイズの弱気な姿にキュルケは狼狽してしまった。
「しょ、しょうがないじゃない! あなた『ゼロ』なんだから! 大丈夫、あなたが足を引っ張ることぐらい折込み済みよ!!」
「……ごめん」
「あぅ」
 ルイズを奮起させようと、キュルケはわざと性悪な言葉を投げかける。
 いつもなら食って掛かってくるようなキュルケのセリフにも、ルイズはただ謝るばかりだった。
 あまりにもバツが悪くてキュルケはそれ以上言葉を続けることができない。
 ガッツがドラゴンころしを拾い上げた。
「何をぐだぐだやってやがる。来るぜ」
 まるでガッツの言葉を合図にしたかのように、目の前の大地が盛り上がる。天を突くまでに隆起した大地は、やがて巨大なゴーレムの形を形成した。
 ゴーレムがその巨大な腕を振り上げる。
「叩きつけてくるわよ!!!!」
 キュルケが叫ぶと同時にタバサとキュルケは後ろに飛んだ。
 ガッツもすぐにその場から離れる。
 ルイズは動かなかった。
「ルイズ!!!!」
 キュルケの悲鳴が上がる。
「ちっ!!」
 ゴーレムの拳が間近に迫る。
 ガッツが咄嗟にルイズに向かって飛び込み―――ゴーレムの拳が地面に叩きつけられた。
「ダーリン!! ルイズ!!」
「……!!」
 土煙がもうもうと舞い上がる。
 キュルケとタバサの位置からゴーレムを挟んで反対側に、ガッツとルイズの姿が確認できた。
 キュルケとタバサは安堵の息を漏らす。
「大変だ! あのねーちゃんの気配がどんどん離れてく!! 逃げられるよ!!」
 パックの声が響く。パックはキュルケの肩に取り付いていた。
「追跡が必要」
「といってもこれじゃあ……」
 タバサとキュルケの目の前には土の巨人が立ち塞がっている。
 巨人はまるでここから先には行かせないぞと言う様に二人の前に仁王立ちしていた。
「行け!! こいつは俺たちで何とかする!! そのチビを連れて行きゃああの女の居場所もわかるはずだ!!」
 土煙の向こうからガッツの声が響く。
 しかしキュルケは首を振った。
「無理よ!! いくらダーリンでもこれを相手にするなんて無茶だわ!! …? タバサ?」
 キュルケはタバサの方を振り返る。タバサはキュルケのマントをくい、と引っ張っていた。
「彼の言う通りにする」
「えぇ!?」
「今はフーケの確保が最優先……それに、きっと彼なら大丈夫」
 いかなる故か言葉に確信を含ませてタバサは言い切った。
 キュルケは到底納得できなかったが―――確かに、それしかないことは理解していた。

 キュルケは頷いた。
「よろしくね、パック。落ちないようにここに入ってるといいわ」
 そう言うとキュルケはパックをつまんで胸の谷間に押し込んだ。
「むぎゅ…ぷは」
「あん……もう、変な動きしないでよパック」
「こりゃ失敬」
 タバサは指を口に当てる。タバサの吹く指笛の高い音が森に響き渡った。
 すぐにタバサの使い魔、風竜シルフィードが飛んできて二人の目の前に降り立った。
 タバサとキュルケはシルフィードの背に乗り込んだ。
「ダーリン! 死なないでね!! そしてフーケを捕まえたらご褒美に私をぎゅっと抱きしめてね!! 約束よ!! それとルイズ!!」
 飛び立つ直前、キュルケは声を張り上げる。
「アンタがそんなだとこっちも張り合いがないのよ!! さっさといつもの調子取り戻しなさい!!!!」
 バッ―――!! と音を立て、シルフィードが翼を広げた。
「あなたのさっきの啖呵、とてもかっこよかった」
 とても小さなはずのタバサの声は、他のどの雑音にも負けず凛としてその場に響き渡った。


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