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斬魔の使い魔07.5


 それは九郎とルイズが目覚める前の晩のことだった。
 決闘の興奮も冷めやまぬ中、生徒は各々の時間を過ごしていた。
 各自室へと続く廊下を、キュルケは青い髪の少女、タバサとお喋りしながら歩いていた。
 と言っても、喋っているのはキュルケの方で、物静かなタバサは時々頷いているだけである。

「素敵よねえ、あの使い魔」

 この科白はこれで七回目である。
 キュルケが惚れっぽいこと、さらに不特定多数の男と付き合っていることはタバサも知っている。
 どうやら、今度はあの使い魔がターゲットのようだ。
 また何か面倒ごとに巻き込まれるのではないかと思うと、タバサは持っている杖を重く感じた。
 そんな心情を知るよしもなく、キュルケは一方的に喋り捲り、自室の側に来たことに気づくと元気よく挨拶をして去っていった。
 タバサは誰も気付かないほど小さく溜息をつくと、自分の部屋へと身体を向けた。

 ――と。

「――?」

 一瞬――
 自分に向けられた視線を感じた――ような気がした。
 振り向いて気配を探るが、せいぜい各々の部屋の中にいる生徒の気配だけで他には何も感じない。
 月明かりだけが廊下を照らす。
 しばらく探っていたが、気のせいだったと結論付け、自室へと足を向けた。

 自分の後をつける白い影には気付かずに。





 場所は変わり、キュルケの部屋。
 いつもなら男を連れ込んでいる頃だが、今日はキャンセルした。というか、むしろ振った。
 しつこい奴はフレイムで追い払った。
 今、彼女の頭の中を占めるのは、ルイズの使い魔である大十字九郎のみ。
 ベッドの上に寝転がりながら、目が覚めたらどんな風に誘惑しようか、そのことばかり思い巡らせていた。

 やはりここはスタンダードに下着姿で出迎えようか。
 いや、ここは意表をついてバスタオル一枚という手もある。
 いっそ全裸で――

 今や彼女は微熱の二つ名の如く、心が燃え上がっていた。

 そのため気付かなかった。
 いつの間にか赤い影が室内に侵入していたことに。
 気配に気付いたフレイムは威嚇するまでもなく恐怖で固まってしまった。
 フレイムの野生の勘は一瞬で理解した。目の前にいるのが己では決して敵わない存在、全く違いすぎるものだということが。
 契約の力は主を守るべきだと叫んでいるが、魂そのものが恐怖してしまい、成す術もなくただ動けなかった。
 そんなフレイムを無視し、赤い影はゆっくりとキュルケに近づいた。
 影が一歩近づくたびに、室内の温度が上昇していく。
 その頃になって、ようやくキュルケは異変に気付いた。
 すぐ傍まで来ている。
 咄嗟に杖に手を伸ばす。そして、振り向きざまに魔法を解き放った。

「ファイヤー・ボール!」

 しかし、そこには何も存在せず、放たれた火球は部屋の壁を破壊しただけだった。
 キュルケは杖を構えたままベッドから立ち上がった。
 思念でフレイムを呼ぶ。しかし、傍に来ない。

「フレイム?」

 いつもいる場所に目を向けると、そこにフレイムはいた。
 だが、その身体は完全に固まっていた。
 それが恐怖によるものだと理解するのに幾秒もかからなかった。
 あのフレイムをここまで怯えさせる存在――

「――っ!?」

 途端に恐怖が襲い掛かってきた。
 ――怖い怖い怖い怖い――
 そこまでの得体の知れない存在。それがすぐ傍まで来ていたという事実を改めて認識したのだ。
 遠くで複数の声と足音が聞こえる。
 今のファイヤー・ボールに驚いてやって来た生徒達だろう。
 その音に、キュルケは心の底から安堵した。





 同時刻――
 タバサの部屋の中。
 彼女の後を追っていた青い影は室内に侵入していた。
 それに気付いたタバサは、杖をベッドの中に寄せ、

「…………ッ!?」

 布団を頭まですっぽりと被り、ぶるぶると子猫のように震えていた。
 早く何処かに行ってと心の中で叫ぶが、謎の影は聞き入れるはずもなく、タバサのいるベッドに向かっていった。
 青い影がだんだんと近づいてくるのを気配で感じた。
 そのたびに室温が下がっているのだが、恐怖で怯えているタバサは気付かない。
 青い影がタバサを覗き込むように傍らまで近づいたその時――
 いきなりガラスが割られ、冷たい夜風が室内へと入ってきた。

「きゅいきゅい!」

 タバサにとってとても聞きなれた鳴き声が室内に木霊する。
 主の危機を察知したのか、使い魔のシルフィードが窓から顔を突っ込んでいた。

「おねえさま! 無事? きゅいきゅい」

 周囲に誰もいないのを知っていたシルフィードは、普段は喋らないように言われている人語でタバサに呼びかけた。
 タバサは謎の気配が消えたのを感じとると、ベッドからもぞもぞと這い出てきた。

「シルフィード、ありがとう」
「どういたしましてなのね、きゅいきゅい」

 その顔を優しく撫でるタバサ。嬉しそうに目を細めるシルフィード。
 と、シルフィードは何かを嗅ぐようにヒクヒクした。

「おねえさま、おしっこの臭いがするのだわ」
「――!?」

 タバサは顔を真っ赤にした。
 彼女がいたシーツの上はしっとりと濡れていた。





 この二つの出来事は、特に大事にならなかった。
 キュルケは寝ぼけて魔法を使ってしまったということで、壁の修理を自費で補うことで終わった。
 一方、タバサの方は誰も気付かなかったので騒ぎにもならなかった。

 互いに昨夜の出来事は誰にも伝えなかった。

 キュルケは、訳の分からないことに恐怖したということがプライドを傷つけたのか、自分で何とかすると意気込んでいる。
 同時に、九郎を誘うのに使えるかも、と逆に利用しようかと考えていた。
 一方、タバサの方は、夜になったら人間に変化させたシルフィードと一緒に寝ようとか考えていた。
 とりあえずお化けは怖い。調べる気にもならなかった。


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