あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第二話 使い魔




 なのはが自分のことを『ご主人様』と呼んでくれたのを聞いて、ルイズは少し安心して再び彼女の元へ近づいていった。
 内心はびくびくものであったが、それでもめいっぱい強がってなのはを見つめる。
 彼女が膝立ちだったせいで、ちょうど目の高さが合う。ちゃんと立ったらかなり差が出そうなのを気にしつつも、ルイズは力強く言った。
 「ん、ちゃんと判ったのね。タカマチナノハ」
 「あ、なのはでいいよ」
 なのははルイズが自分を『タカマチナノハ』と呼んだ時のイントネーションが、平板で姓と名を区別していないものであることに気がつき、あわてて修正する。
 その時なのはふと違和感を覚えた。そしてそれがなんであったかすぐに気がつく。
 (言葉が、通じている?)
 (“改造の効果もあるみたいですが、それ以前に彼女の言葉は、かなり変形していますがミッドチルダ標準語から外れていません”)
 これが、なのはがこの世界、ハルケギニアに対して疑念と興味を同時に抱く第一歩となった。
 一方ルイズも、そのフレンドリーな言い方にちょっととまどったものの、すぐにそれを受け入れた。
 「なのは、でいいのね」
 「はい、ご主人様」
 ルイズはなのはの返事に、友愛はあっても尊敬の念がいまいち薄いのを感じてちょっと不快な気分になった。だが、まだ出会ったばかりの上、年上の女性であるということがその不快感を押さえつけた。その語感が、敬愛するちい姉様のものに似ていたのも一因かも知れない。
 「さて皆さん、これで儀式は終わりです。教室に戻りなさい」
 なのは達の様子が落ち着いたのを見て取ったコルベールが、生徒達に声をかける。
 生徒達はそれぞれが空を飛んで教室へ戻っていった。
 これが黒髪の少年なら驚くことだが、なのはにとっては見慣れた光景である。何事もないようにスルーした。
 残っているのはルイズとコルベール、そしてなのはである。

 コルベールはなのはに向かって、礼儀正しく頭を下げると言った。
 「いや、タカマチナノハさん、突然のことで混乱したでしょうが、理性的な応対をしていただいたことに感謝いたします。あ、申し遅れました。私はコルベール。こちら、トリステイン魔法学院の教職を拝命しております」
 「これはご丁寧に、コルベール先生」
 丁寧な物言いに、なのはもやはり礼儀正しく叩頭する。
 「で、私はこの後どうすればよいのでしょうか」
 ある意味当然の質問をしたなのはに対して、コルベールは、
 「うーん、本来ならまだ授業があるのですが、人間が使い魔として召喚されたというのは初めてのこと。ミス・ヴァリエール、本日は特別にこの後の授業を免除いたしますから、彼女にこの学院のことや使い魔としてのことを教えなさい。よろしいですね」
 「はい、判りました」
 ルイズも素直に頷く。普通の使い魔は、コントラクト・サーヴァントの呪文が成功すると、ある程度の知性の高まりとともに、ほぼ本能的に主の意に従うようになる。
 例外は召喚されたものが少なくとも人間に匹敵する高度な知性を持っていた場合であるが、それでもたいていの場合、召喚に応じている時点で主に対する好感を持っている場合が多く、使い魔が反抗したという例は記録に残っていない。
 そういう点でも、理性ある人間を召喚してしまったルイズは、例外中の例外なのであろう。
 「おお、そうそう。後申し訳ないが、そのルーンを写させてもらえないかな? 私も長年教職にあるが、こんなルーンは見たことがないものでね。少し調べてみたい」
 なのはは当然了承するつもりだったが、今の自分の立場を考慮して、ルイズの方を見、問いかける。
 「ご主人様、よろしいでしょうか」
 「ん、いいわよ」
 ルイズはかっと顔が赤くなるのを感じていた。別に変な趣味があるわけではない。
 この使い魔になってくれた女性は、自分を立ててくれている。
 今の一言で、ルイズは覚っていた。
 使い魔のルーンを教職であるミスタ・コルベールが見たがるのは当然のことだ。ルイズにしても彼が勝手にそれを写したとしても別にとがめるようなことはない。ある意味それは彼の職務の一環でもあるのだから。
 だがこの女性は、私の使い魔となったこの人は。
 問いに対して、即座に自分に対して許可を求めた。それは彼女の敬意の証であり、彼女が自分を主として立ててくれるという意思の表れでもあった。
 実のところ、身分はあっても貴族の貴族たるゆえんである魔法がまるで駄目だったルイズは、こういう無条件の敬意を受けたことがほとんど無い。実家のメイド達ですら、かすかにではあるが、ルイズに対して向けられる、そこはかとない失望感のようなものが感じ取れてしまう。
 彼らに悪意があるわけではない。むしろ世間一般やここの学院生などに比べれば、天と地ほどの差がある好意を抱いてくれている。だが、むしろ好意あるが故に、それと表裏一体の期待感が、そしてさらにそれと表裏一体の失望が見えてしまう。
 彼らとて、主は自慢できる主であってほしいのだ。ろくに魔法を使えない主に対して、愛するが故に失望してしまうほどに。
 自分が好意を受けるのにふさわしい人物ではない。それはルイズの心の奥底深くにまで巣くっている、暗黒の想いであった。
 そんな彼女が向けられた、掛け値なしの敬意。それは大変に興奮する、心地よい高揚であった。
 が、それもすぐに暗い想いに反転する。そう、彼女はまだ知らない。自分が『ゼロ』のルイズ、いつも魔法を爆発させてしまう、欠陥品の貴族であることを。
 それは暗い想い。希望と絶望が交錯し、そしていつもルイズを傷つけるに終わる、悲しい想い。
 その悲しみが、彼女の心に刃をもたらす。

 程なくコルベールはルーンを写し終える。それを見計らって、彼女は己が使い魔に声を掛ける。
 「行くわ、いらっしゃい」
 なのはは少し不審に思う。ついさっき、いいわよと声を掛けられた時に比べ、今の声はあまりにも冷たく、また、悲しかった。



 人気のない通路をしばらく歩き、二人はとある部屋――ルイズの部屋へと到着した。
 個人向けの寮の一室にしては、広さも調度も上質のものがそろえられている。文明の発展度合いの差を考慮すれば、おそらくは一流のホテル並みなのでは、と、なのはは推測した。
 ルイズはなのはに椅子に座るよう示唆した後、自分もその向かいにある椅子に座った。
 お茶の一つもほしいところであったが、使い魔にはこれから教えなければならないし、自分で入れるなど考えの範疇外だったので、そこは我慢する。
 「さて、なのは」
 ルイズはあえてなのはを呼び捨てにする。何となくなのはさんと親しみを込めて呼びたくなるのを意志の力で押さえつけながら。ルイズは実家の環境故か、明らかに年長に見える女性に対して威圧的に出るのは苦手であった。キュルケのようなタイプならともかくとして。
 「あなたには使い魔としていろいろやってもらうことがあるんだけど……」
 ここでルイズは少し考える。主な使い魔の仕事を頭に思い浮かべ、目の前の女性に当てはめてみる。
 「まず、使い魔は主人の目や耳になる……感覚の同調が出来るはずなんだけど、それは無理みたいね。ま、これは仕方ないわ」
 「ああ、ありますね、そういう能力」
 なのはは親友とその使い魔の事を思い出しつつ答える。ちょっと寂しさがこみ上げてきたが、そこは無理矢理押しつぶす。
 「感覚、繋がってませんよね」
 「そうみたいね」
 もっともルイズにしても、猫や鳥ならともかく、妙齢の女性とそういう感覚が繋がってしまったらかえって不便そうな気がしていた。
 「あ、でも、ひょっとしたら」
 と、目の前のなのはがなにやら思いついたような様子を見せた。
 何事かしら、と思った瞬間、聞いたことのない声がいきなり響いた。
 (念話は通じるかな)
 「な、なに! 今いきなり頭のに中に声が!」
 (あ、通じたんだ。試しに声には出さないで、頭の中で答えてみて?)
 (頭の中で?)
 (あ、そんな感じ。念話は出来る、と)
 「念話?」
 そんなやり取りが頭の中を通り過ぎた後、ルイズは改めてなのはに聞いた。
 「うん。こっちではあんまり一般的じゃないのかな?」
 「一般的も何も初めて聞いたわ」
 「そっか~。じゃあ、ここではたまたまなのかな。こっちの地元だと、割と当たり前のことだったから」
 「そ、そうなんだ」
 ルイズはびっくりしたものの、あまり驚くと何となく田舎ものっぽく思われるような気がしたので、その辺は突っ込まないことにした。
 「でも、これって便利よね、うん。どのくらいまで届くのかな」
 「さあ、ここでどのくらいかは判らないけど、お互い知ったもの同士なら、かなり遠くまで届くと思うわ」
 これについては機会があったら実験してみようと言うことにした。



 「で、ほかには秘薬の材料集め……は、ちょっと無理って言うか意味ないわね。元々そういうのは、『人の手の届かないところにあるもの』を取ってこさせるためなんだもん」
 「確かに。そもそも私、秘薬の材料の見分けなんて付かないし」
 「ええ、だからそれはパスね」
 二人がそろって頷く。
 「後は雑用と護衛なんだけど、護衛はともかく、雑用は出来る? 出来なくてもやってもらうけど、腕前は確認しておきたいから」
 なのはは苦笑しつつも強引なご主人様に対して返事をする。
 「一応は出来るけど、なんて言うのかな、生活様式が私のところとここじゃ全然違うから、すぐにこなせって言うのはきついかも。でも一応は何とかするね」
 「ん、お願い」
 さすがにルイズも頭ごなしに命令する気はしなかった。ここでも姉に似た人物に対しての苦手意識が見え隠れしている。
 「それにね、どっちかって言うと護衛の方が得意かも」
 「へ?」
 さすがにこの一言はルイズにとっても意外だった。
 「そうなの? そんな風には見えないけど」
 「あ、私、元のところじゃ軍人に近い仕事してたから」
 近いと言うよりほぼ軍人だが、管理局は軍事行動はしても厳密には軍隊ではない。というより軍のシステムをも取り込んだ巨大な組織である。
 さすがに中世レベルと思われるこの世界で、管理局の概念を説明するのは、なのはにとってもまだ難しかった。
 「それはちょっと意外ね……ま、いずれ見せてもらうわね。そう、そっちから聞きたいことはある?」
 ルイズはその一言を言ったことを心底後悔することになった。
 なのはからの質問はそれこそありとあらゆる事に及んだのだ。地理、歴史、文化、魔法、学生生活etc、etc……
 結果、夕食の時間になったという知らせが来るまで、ルイズは質問攻めにされた。しかも夕食後も聞く気満々なのが見て取れる。うっとうしかったが、
 「使い魔としてルイズ様に正しく仕えるためには、こちらでの一般常識や基礎知識を覚えておくことは必須です。ルイズ様も常識を知らない使い魔が粗相をするのは恥ずかしいのではありませんか? 使い魔の恥は主人の恥になると思いますけど」
 と、いかにもな正論をぶちあげられて返答に詰まってしまった。
 それが正解なのが何とも癪である。
 結局、この日は寝るまでなのはに対するハルケギニアのレクチャーに費やされてしまった。
 (でも、それって彼女があたしに仕えてくれるっていう証なのよね)
 そう思うと、何ともいえないむずがゆい気分になってしまうルイズであった。



 寝床は床に藁束を敷いたものであった。さすがに床に寝ろとはルイズもいえなかったが、一緒に寝ようとも言い出せず、この辺が妥協点になった。ちなみに藁の量はたっぷりで、サイトが寝ていたものより多い。
 「後で予備のベッドは何とかするから、しばらくはこれで我慢してね」
 まあ干し草のベッドというのも、草の量が充分ならそれほど寝心地の悪いものではない。たっぷり空気を含むので、意外と暖かいのだ。
 しかし、なのははルイズが寝込んでもまだ起きていた。一緒にこちらへと持ち込まれたパソコンを起動し、ルイズから聞いた話を片っ端から打ち込んでデータ化する。
 (驚いたな……なんかかなり風変わりな世界みたい。中世レベルの文明なのに、妙に進んでいるところも多いし)

 細かいところでは下水の処理だ。なのはは以前、こことよく似た中世ヨーロッパでは、いわゆる屎尿の処理が不完全で、その悪影響に大変困っていたという記述を見たことがあった。
 だがこちらではその辺が完璧に処理されていた。さすがに水洗でこそ無いものの、汚物はきちんとまとめられ、悪臭等もきちんと魔法を利用した秘薬等で処理されていた。
 さすがにそういうことは貴族レベルの生活水準でないと出来ないようであったが、庶民レベルでもそれなりの処置は取られており、しかもそれがごく当たり前のことのようであった。
 そのほか、食事の前に手を洗うとか、細かい衛生の概念がごく当たり前の常識として広まっている。細菌のさの字も知らない社会においてである。
 その辺を何気なく突っ込んでみると、始祖の時代からの伝統らしい。
 (始祖の時代って……6000年前よね。考えてみると、すごいのか遅れてるのか、どっちなんだろう)
 地球では中国でもせいぜい4~5000年程度。まともに記録が残っているのはせいぜい2~3000年前までである。さらにいえばここ4~500年間で文明が一気に進歩している。対してこちらは6000年前からそれほど変わりばえのない歴史が続いているらしい。
 それもこれもこちら独自の魔法のせいか、となのはは思う。
 何故かものすごく嫌そうにしていたが、一応簡単な説明は受けた。地水火風の系統魔法、そして伝説の『虚無』。あとエルフといわれる先住民族が使うといわれる『先住魔法』。明らかにミッドチルダ式ともベルカ式とも違う、この地独自の魔法だ。
 自分をここに召喚したのもこの魔法である以上、調査してみる必要性があることをなのはは感じていた。
 「これが一緒に来たのはついていたわね」
 なのはは傍らに置かれたスキャナーを眺める。これがあれば、きわめて緻密に、どのような魔力が魔法の発動の際働いているかを詳しく調べられる。
 機械操作そのものにはある程度の自信があるなのはでも、専門的な知識もいるこれらの機器は自分では有効にに操作できない。が、レイジングハートが意外とこの手のものの操作には長けている。自分の外部システムとして利用できるからだ。
 伊達に自分で自分の改良プランを提出できるインテリジェンスデバイスではない。
 だがそれは細かいことだ。それよりも重要なのはこちらの魔法原理である。
 ざっと聞いただけでも、こちらでは魔法が万能のツールのようであった。魔法さえ使えれば、大規模な科学技術の進歩がいらなくなってしまう程度の汎用性を持ち合わせた魔法体系。
 ミッド式やベルカ式は、その大半が戦闘目的の魔法である。それ以外のものも、災害救助など、軍事目的のものからの転用が多い。日常生活に有益な魔法はあまりないのが実情である。
 さらになのはは考える。一番気になっているのは、こちらの度量衡……単位系統であった。
 名称はともかく、1メイルという長さがものすごく引っかかっていた。
 1メイルはほぼ地球やミッドチルダでの1メートルに相当する。ミッドチルダと第97管理外世界・地球は基本的に同位世界であり、こういった単位とかにおいての共通点は多い。
 どの管理世界・管理外世界でも、ある程度発展した世界の場合、長さの単位は1メートルの整数倍に落ち着いていることが多いのだ。その理由はもちろん、地球の円周を基準にした文明が多いからである。
 だが、このハルケギニアの地においてはきわめて不自然なことであった。ここの文明においては始祖ブリミルの影響がきわめて大きい。こういう文明形態の場合、度量衡の基本単位は始祖の体の長さや体重が用いられる場合が多い。
 メートル法ではなく、尺貫法やヤード・ポンド法の考え方である。だが、この地の単位系は明らかにMKS系の流れを汲んでいた。偶然の一致というには不自然なまでに。
 たとえここが同位世界だとしても、1メートルの定義には地球の大きさの測定という概念が必要である。だがここには明らかにそんなものはない。
 その辺の事情は、なのはにとって興味深いものであった。
 「なんかいろいろ裏がありそうだけど、データの分析と蓄積はお願いね、レイジングハート」
 “はい、マスター”
 まだまだ考えたいことはあったが、さしものなのはも限界になり、未知の世界において初めての眠りに落ちていった。


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