さて、夜である。空には双月と星が瞬き、それを窓から臨む魔法学院の自室では
我等がルイズ・ド・ラ・ヴァリエールがショゴスを抱き枕代わりにベッドの上で
ふてくされていた。
理由は言うまでもない、素っ裸同然の少女と抱き合っていたクザクのことである。
別にあれは使い魔な訳であるし、正直ここまで怒る必要なんてまったくないのだが
なんつーか気に食わない。
それはつまり、あれだ。胸のでかいだけの女になびくような盛りのついた犬はお仕置き
しないといけないという使命感から来る感情によるものであって。
だからその使命感から気絶してるクザクを馬の後ろに繋いで引っ張りまわして、ついでに
ヴェストリの広場に吊るしたのもそのせいで。
ああ、そうだ。何もかも全部アイツが悪い!
だから今回だって全然構う事なんてないのだ!
合点し、うんと強く頷くルイズ。
別に他意はありゃしない。胸がでかいからって言うひがみなんかじゃない。
悔しくなんかない、ないのだ。ああ、ないとも。ないともさ!
「てけり・り?」
「うぅ…………」
前言撤回、やっぱりちょっと悔しい。
やはり乙女心としてはこの鎖骨からお腹まで続くなだらかな曲線はやっぱり気になるところ。
特に自分の大好きなちい姉さまなんか見てたらもう、あれなのだ。
たっぷりと詰まった果実で曲線がなだらかどころか険しい山脈なのだ。
ああ、御年16歳になろうかという今現在においてここまで成長芳しくないのは一人の女として
胸を痛めるしか他がない。
「はぁ…………」
重い溜息しか出ない。男というのはやっぱり胸のでかい女の子でないと駄目だというの
だろうか?
こう、やっぱり、ほら、こうやって、寄せてあげて、谷間のあるほうが……。
谷間の……こう、谷間が……谷間……谷間……作って…………。
「てけり・り?」
「うぅ……」
欝だ。何でこんな事で悔しい思いをしないといけないんだろうか。
そう考えたらやっぱりクザクが悪い。こんな悔しい思いをする羽目になったのはアイツの
せいなのだ。ルイズは強く、強く、頷く。
忠実な下僕というのは、特に使い魔は、だ。ご主人様以外に目を向けたらいけないと
いうのに、あのダイジュージクザクはご主人様を放っぽり出してあんな破廉恥な
真似をしていたのだ。
別にあの下僕に好意とか抱いてるわけじゃない、ただ、気に食わないのだ。要は自分の
ものを他人に取られた悔しさなのだ。
それよりもギーシュをやっつけたというのにあの様は何だと言うのだ。
つまりはあれか? あれなのか? 女の魅力は全て胸にあろうとでも言うのか?
胸はこの世のありとあらゆる魔法と武器に勝るとでも言うつもりなのか、あれは?!
強いはずなのにあんな胸にたぶらかされてあの様としか思いようがない。
ツェプルストーの友達とかいう女子が何か言っていた気がするが知ったことじゃない。
クザクが少女に圧し掛かられている姿を思い出し、不退転の決意を撃ち破らんばかり
の怒りがルイズの中で吹き荒れた。
それは世界を破滅に導くような兄弟喧嘩だって指先一つでダウンできるくらいに途方もなく
激しい怒りだ。おかげで抱き枕にされているランドルフはその身体を極限まで絞り上げ
られて苦しそうである、というかかなり苦しい。
「ええ……ええ、そうよね。なぁにが胸よ。あああ、あのツェプルストーだって
胸がおっきいけど頭はすっからかんじゃない。ででで、でもちい姉さまも
胸は大きいけどちい姉さまはいっぱい色々知ってるんだから。
だだだっだ、だから、むむむ胸がちい……ちいさ………うぅ」
言えない、これ以上言えない。これ以上言ったら自分で墓穴掘った上に二度と
引き返せない後悔に苛まれることになりそうで怖くて言えない。
「てけり・り」
そんなルイズの肩を一不定形は悪夢めいた蠕動をしながら優しく叩く。
「……あんた、慰めてくれてるの?」
つぶらな瞳の奥に優しさを見てルイズはそんな言葉を口にする。
「てけり・り」
涙はこれでふいとき、と言わんばかりにランドルフはどこからかとりだしたちり紙を
ルイズの掌に落とす。いや、本当に何処から出した、それ。
まあ、それはそれとして、見た目はアレだが実に紳士的な振る舞いな、それ。
流石は卿(けい)と呼ばれる彼と同じショゴスなだけある。
「ずびぃ……」
鼻をかむルイズ、そしてちょっと鼻の天辺を赤くしてランドルフにはにかんだ。
「ありがと」
「てけり・り」
麗しき、人と人以外のちょっとした友情の芽生えであった。
我等がルイズ・ド・ラ・ヴァリエールがショゴスを抱き枕代わりにベッドの上で
ふてくされていた。
理由は言うまでもない、素っ裸同然の少女と抱き合っていたクザクのことである。
別にあれは使い魔な訳であるし、正直ここまで怒る必要なんてまったくないのだが
なんつーか気に食わない。
それはつまり、あれだ。胸のでかいだけの女になびくような盛りのついた犬はお仕置き
しないといけないという使命感から来る感情によるものであって。
だからその使命感から気絶してるクザクを馬の後ろに繋いで引っ張りまわして、ついでに
ヴェストリの広場に吊るしたのもそのせいで。
ああ、そうだ。何もかも全部アイツが悪い!
だから今回だって全然構う事なんてないのだ!
合点し、うんと強く頷くルイズ。
別に他意はありゃしない。胸がでかいからって言うひがみなんかじゃない。
悔しくなんかない、ないのだ。ああ、ないとも。ないともさ!
「てけり・り?」
「うぅ…………」
前言撤回、やっぱりちょっと悔しい。
やはり乙女心としてはこの鎖骨からお腹まで続くなだらかな曲線はやっぱり気になるところ。
特に自分の大好きなちい姉さまなんか見てたらもう、あれなのだ。
たっぷりと詰まった果実で曲線がなだらかどころか険しい山脈なのだ。
ああ、御年16歳になろうかという今現在においてここまで成長芳しくないのは一人の女として
胸を痛めるしか他がない。
「はぁ…………」
重い溜息しか出ない。男というのはやっぱり胸のでかい女の子でないと駄目だというの
だろうか?
こう、やっぱり、ほら、こうやって、寄せてあげて、谷間のあるほうが……。
谷間の……こう、谷間が……谷間……谷間……作って…………。
「てけり・り?」
「うぅ……」
欝だ。何でこんな事で悔しい思いをしないといけないんだろうか。
そう考えたらやっぱりクザクが悪い。こんな悔しい思いをする羽目になったのはアイツの
せいなのだ。ルイズは強く、強く、頷く。
忠実な下僕というのは、特に使い魔は、だ。ご主人様以外に目を向けたらいけないと
いうのに、あのダイジュージクザクはご主人様を放っぽり出してあんな破廉恥な
真似をしていたのだ。
別にあの下僕に好意とか抱いてるわけじゃない、ただ、気に食わないのだ。要は自分の
ものを他人に取られた悔しさなのだ。
それよりもギーシュをやっつけたというのにあの様は何だと言うのだ。
つまりはあれか? あれなのか? 女の魅力は全て胸にあろうとでも言うのか?
胸はこの世のありとあらゆる魔法と武器に勝るとでも言うつもりなのか、あれは?!
強いはずなのにあんな胸にたぶらかされてあの様としか思いようがない。
ツェプルストーの友達とかいう女子が何か言っていた気がするが知ったことじゃない。
クザクが少女に圧し掛かられている姿を思い出し、不退転の決意を撃ち破らんばかり
の怒りがルイズの中で吹き荒れた。
それは世界を破滅に導くような兄弟喧嘩だって指先一つでダウンできるくらいに途方もなく
激しい怒りだ。おかげで抱き枕にされているランドルフはその身体を極限まで絞り上げ
られて苦しそうである、というかかなり苦しい。
「ええ……ええ、そうよね。なぁにが胸よ。あああ、あのツェプルストーだって
胸がおっきいけど頭はすっからかんじゃない。ででで、でもちい姉さまも
胸は大きいけどちい姉さまはいっぱい色々知ってるんだから。
だだだっだ、だから、むむむ胸がちい……ちいさ………うぅ」
言えない、これ以上言えない。これ以上言ったら自分で墓穴掘った上に二度と
引き返せない後悔に苛まれることになりそうで怖くて言えない。
「てけり・り」
そんなルイズの肩を一不定形は悪夢めいた蠕動をしながら優しく叩く。
「……あんた、慰めてくれてるの?」
つぶらな瞳の奥に優しさを見てルイズはそんな言葉を口にする。
「てけり・り」
涙はこれでふいとき、と言わんばかりにランドルフはどこからかとりだしたちり紙を
ルイズの掌に落とす。いや、本当に何処から出した、それ。
まあ、それはそれとして、見た目はアレだが実に紳士的な振る舞いな、それ。
流石は卿(けい)と呼ばれる彼と同じショゴスなだけある。
「ずびぃ……」
鼻をかむルイズ、そしてちょっと鼻の天辺を赤くしてランドルフにはにかんだ。
「ありがと」
「てけり・り」
麗しき、人と人以外のちょっとした友情の芽生えであった。
*
目をさましまず最初に気づいたのは先ほどまでいた森ではないという事。
辺りは暗く、それで時は既に夜。ルイズの爆発に巻き込まれてからかなりの時間が
経ったことを認識する。
あと、全身の節々が痛い。爆発に巻き込まれただけの痛みではない気がする。
開いた瞳に映るのは明かりがなく薄暗りではあるが、ルイズの部屋と似た石造りの天井。
まさかルイズが自分を此処まで連れ帰ったのか? そう思い立ち上がろうとする九朔。
がしかし、そこで自分の身に起きた異常にこれまた気づく。
「う……動けんだと!?」
異常を確かめようと己の身体を見れば両手両足をロープで完全に拘束されている哀れな
己の姿。
状況を把握しようとどうにか動く首だけを使ってあたりを見回せばルイズの部屋とは
どうやら違う。薄暗がりに見えるドレッサーはルイズのそれとはまったく趣が違い、
ゴツくてでかい。
「うふふ………目が覚めたかしら?」
かけられた艶かしい声、どうにも嫌な予感しかないのだが確認しないわけにもいくまい。
視線を上げれば180度視界の反転した世界、真逆になった其処に映るベッドの上の人影を見て
九朔は狼狽することになる。
そこに在るのは裸同然の姿の褐色の女、先ほど意識を失う前に見たシルフィードとは違い、
その肢体は女として完成しきっており、豊満な胸とくびれた腰を包む下着は扇情的な作りで
見るものを誘惑しないではいられない。また、そこから放たれるむせ返るような色香は
もはや妖艶と称して良いほどであった。そして、その女を九朔は知っている。
「汝……ルイズの学友か?」
やや上ずった声で九朔は尋ねる。名前はキュルケだったか、反転した視界の中で微笑む
その顔が怖い。
「あら、私の事を知ってくださっていたのね……嬉しいわ」
ゆっくりとベッドの上を四つん這いになってこちらに近寄ってくるキュルケ。一歩近づく
そのたびに悩ましく双丘が震える。
どうにも嫌な予感しかしないこの現状、どうにから逃げ出そうと色々策を講じてみるが
精神病院で使われてそうな拘束服だってびっくりの強靭さを誇るこの縄の前では
その行動も無意味であった。
「逃げようとしても無駄ですわ騎士様、それには固定化の魔法をかけてますから」
死刑宣告のように聞こえたのは気のせいか、というか自分を拘束して何をしたいというのか
この娘は。
己を覗き込むキュルケの顔を見て思う九朔だが次の瞬間にその意を身をもって理解する
こととなった。
「でも、そんな事は今はどうでも良いこと……」
その瞳の色が獲物を狩る猛獣の色を帯びているのは自分の気のせいであって欲しい
と思う九朔であるが現実は早々に生易しくないもので。
「えぇい♪」
語尾に音符なんかつけちゃわれながら――――剥かれた。
「ぬぉぉぉぉぉぉッ!?」
某大盗賊もびっくりな早業、かろうじてパンツとシャツは死守したものの、ズボンをマント、
上着を剥がれ、ついでに髪飾りも解けた現在の九朔は裸シャツの美少女そのものであった。
傍から見れば苺で修羅場な乙女の園とかマリア様がガン見しちゃってる乙女の園あたりで
主役級をはれる完璧美少女が褐色の肌のお姉さまに押し倒されているの図。
――これは酷い。
「い、いきなり何をするか汝えぇぇぇぇぇぇ!」
「襲ってるの♪」
「音符を語尾につけるな! というか何故襲う!?」
「貴方に……心を奪われてしまったの」
頬をそめてイヤンとか言いながら顔を横に向けていうが、いじらしさとかそういう
のとは無縁な感じで皆無である。
「ああ、貴方は私の事をはしたない女だと思うでしょうね」
「この状況をそれ以外にどう解釈するか!」
「思われてもしかたがないの。私の二つ名は【微熱】」
「話を聞け」
「私は松明のように燃え上がりやすいの、だからこんな風に押し倒したりとかしちゃうの。
わかってる、いけないことよ」
「だったらこの縄を解け、ついでに服を返せ!」
そう叫んでみるが本人には聞く様子は全くない。
「でもね、あなたはきっとお許ししてくださると思うわ……」
人の話を聞く気が無いというかむしろそんなの関係ねえ、と強引に押し進めるつもり
なのか潤んだ瞳で裸シャツ状態の九朔を見下ろすキュルケ。
昼間とまったく同じ状態のマウントポジション、キュルケの指が九朔の胸元へとするりと
伸びた。
「くすっ」
その笑みと同時、猛獣の瞳でキュルケが九朔の胸元をがっしりとはだけた。
ブチンと音を立ててボタンが弾ける。
ちょっと待って欲しい、これは表現規制法とかこのスレの対象年齢的に実に問題ありというか
そもそも原作がそういうのだからとしてもいきなり過ぎる。
「ま、待て! 我に惚れるのは良いがいきなりどうしてこうなるか!?」
今更何を言うかといった顔でキュルケが九朔を見る。
「だって貴方ってば昼間にもタバサの召使いに手を出してたじゃない。あの子がメイドを
雇ってたなんて初耳だったけど……まあ、それはいいとしてあの現場を見ちゃったら
ツェプルストー家の女としてもこう、燃えちゃうというか私がやらないでどうするか!
ってな訳になるの。
ああ安心して。私も伊達にいろんな男子達と付き合ってきてるわけじゃないわ。
だからあんなメイドなんかすぐに忘れさせてあげる………」
「手なぞ出しておらん! そもそもどうしてそんな事になっておるかぁぁ!」
「ああ、恋は突然だわ……私の身体をすぐに焔のように燃やしてしまう……」
どこで何がナニを間違えたのだろうか。
このようなバッドエンドっぽいフローチャートはまず何処にも存在しなかったはずだ。
いや、そもそも自分の年齢を考えるとその選択肢が現れること自体が危ういような。
混乱のあまりかそのようなことを考え始める九朔であったが、その間にもキュルケの指は
肌の上を滑り上へ下へと向かってくる。
「話を聞けと……あ、こら! そこは……あ、ちょ、ま……あ……そこは……あぁ……
や……駄目ぇぇぇ……!」
言葉では形容できないような真似を受け、言う事も憚られるような状態に突入。
脳裏にルイズと同じ髪色のしかしそれとは真逆のボディバランスを誇るグラマラスな
美女に筆舌に尽くしがたい官能的な行為を受けている様が浮かんだのは誰の記憶
だったろうか。
だが、そんなギリギリのところで窓の外から闖入者は現れる。救いの主である。
「キュ、キュルケ……ま、まさか君にそのような趣味があったとは……」
そこにあるのは今にも顎間接を外しかねない勢いで大口を開ける青年の姿。
彼にはどうやら九朔が女子に見えたようである。
「ベリッソン!」
それはつまりキュルケがいたいけな珍しい女子を押し倒し、あられもない行為をしようと
していると見えたわけでハンサムな青年の鼻からは夥しい鼻血が。
片手で抑えてはいるが致命的っぽい量に見えなくもない。
あと、状況が状況なだけに既に無窮の空の彼方へ意識を離しかけていた九朔にはここが
三階であるとか彼が魔法で浮いてるとかは想像できるわけがなく、
「二時間後に!」
「へぶらっ!」
キュルケの魔法で火の玉が名も無きと共に窓枠と一緒に飛んでいったのを眺めているしか
なかった。
「ふぅ。では今の続きをしましょ騎士様」
「や……やめろ汝……あ、いやぁぁぁぁぁぁ……」
もう色々と限界近い九朔へキュルケの腕が再び襲い掛かるがしかし、
「キュルケ! その……えっと、その女子は……だ、誰だ!?」
「スティックス!」
またも闖入者現る。
「今夜は僕と一緒に過ごすはずなんだが……ああしかし……ああ……ああ!」
困惑気味に、しかしながらその光景に魅せられたのか篝火に近寄る蛾の如く部屋へ
入ってこようとする彼であったが
「四時間後に!」
「あみば!」
篝火に寄り過ぎた蛾は焔に炙られ窓の下へと落ちていく運命であった。
「ふぅ……時間をあまり無駄にしてはいけないわね。夜が長いなんて誰が……あら?」
恋する乙女の顔で頬を染めつつ言うキュルケだったが、その相手である九朔は、友よ今こそ
駆け抜ける時! と、この期を逃すまいと必死の様で拘束されたまま前進するところ。
無論キュルケには九朔を逃がすつもりなど毛頭これっぽちも一ミクロンもあるわけがない。
追い込まれた狐はジャッカルよりも兇暴なのだ、別に追い込まれてないが。
「えいっ」
そんな訳で杖で一振り、フライで浮かばされては拘束された手前、言葉どおり手も足も
出るわけもなく浮いた身体はそのまま弧を描いてベッドの上へと逆戻り。
そして待ち構えるのは猛獣の瞳で九朔を射抜くキュルケ。
ベビードールは言うも憚られる行為の所為でもう全裸に近い。
「そんなわけで、さあ!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
そしてキュルケは腕を広げ、滝の如く泣き叫ぶ九朔へとダイヴする。
が、二度あることは三度ある。
「キュルケ!」
「そこな……女子? い、いや男(おのこ)は!」
「何処ぞの男子か!」
「マニカン! ギムリ! エイb……じゃなくてエイジャックス!」
コミック力場ここに極まれり。
世界がどこかで歪んだなどともはや知ったことではない。
最後の一人の名前が版権的な意味合で際どかったりするが知ったことではない。
そんな三人は口調がおかしいまま彼等は二の句も三句も無く、
「――フレイム」
サラマンダーに焼かれ、
「「「うわらばっ!」」」
世紀末救世主的モヒカンな断末魔を残して窓の外から消え去った。
さあ、これでもう邪魔者はないとばかりに情熱的な捕食者の瞳が九朔を捉える。
覚悟はいいか、否、できるわけが無い。
沈黙が部屋の中を包む。絶望が九朔を覆う。
世紀末救世主だってこんな展開から救ってくれる訳ではないようである。
「愛してるわ騎士様! さあ、今こそ私と共にヘヴンッへ!!」
「何処の誰だ汝は!? あ、いややめて……そこは……あぁぁぁぁぁ………」
そこからめくるめくる官能的展開を誰もが期待するであろう。
誰もこんな絶望から救ってくれる正義の味方などいないと思うだろう。
誰もこんな天国から突き落とす悪魔の手先などいないと思うだろう。
むしろこんな展開を望んでる破廉恥な人間もいるかもしれない。
そんなことを望まない清く正しく真っ当な人間もいるかもしれない。
しかし真実は何時も一つだ。
もはや二度と戻る事の出来ない身体になろうとした九朔の前でドアが開かれた。
暗い部屋にロウソクの灯より明るい光が差し込む。
それは救いの朝日といえた、だが同時に惨酷な処刑場の鐘の音だった。
現れるルイズ、脇に抱えられたショゴス、同時浮かぶルイズの修羅相。
もはや言うまでもなかった。
振上げられる杖、同時見計らったように飛び退くキュルケ。
振り下ろされる杖、九朔の眼前が清らかで真っ白な閃光に包まれていく。
辺りは暗く、それで時は既に夜。ルイズの爆発に巻き込まれてからかなりの時間が
経ったことを認識する。
あと、全身の節々が痛い。爆発に巻き込まれただけの痛みではない気がする。
開いた瞳に映るのは明かりがなく薄暗りではあるが、ルイズの部屋と似た石造りの天井。
まさかルイズが自分を此処まで連れ帰ったのか? そう思い立ち上がろうとする九朔。
がしかし、そこで自分の身に起きた異常にこれまた気づく。
「う……動けんだと!?」
異常を確かめようと己の身体を見れば両手両足をロープで完全に拘束されている哀れな
己の姿。
状況を把握しようとどうにか動く首だけを使ってあたりを見回せばルイズの部屋とは
どうやら違う。薄暗がりに見えるドレッサーはルイズのそれとはまったく趣が違い、
ゴツくてでかい。
「うふふ………目が覚めたかしら?」
かけられた艶かしい声、どうにも嫌な予感しかないのだが確認しないわけにもいくまい。
視線を上げれば180度視界の反転した世界、真逆になった其処に映るベッドの上の人影を見て
九朔は狼狽することになる。
そこに在るのは裸同然の姿の褐色の女、先ほど意識を失う前に見たシルフィードとは違い、
その肢体は女として完成しきっており、豊満な胸とくびれた腰を包む下着は扇情的な作りで
見るものを誘惑しないではいられない。また、そこから放たれるむせ返るような色香は
もはや妖艶と称して良いほどであった。そして、その女を九朔は知っている。
「汝……ルイズの学友か?」
やや上ずった声で九朔は尋ねる。名前はキュルケだったか、反転した視界の中で微笑む
その顔が怖い。
「あら、私の事を知ってくださっていたのね……嬉しいわ」
ゆっくりとベッドの上を四つん這いになってこちらに近寄ってくるキュルケ。一歩近づく
そのたびに悩ましく双丘が震える。
どうにも嫌な予感しかしないこの現状、どうにから逃げ出そうと色々策を講じてみるが
精神病院で使われてそうな拘束服だってびっくりの強靭さを誇るこの縄の前では
その行動も無意味であった。
「逃げようとしても無駄ですわ騎士様、それには固定化の魔法をかけてますから」
死刑宣告のように聞こえたのは気のせいか、というか自分を拘束して何をしたいというのか
この娘は。
己を覗き込むキュルケの顔を見て思う九朔だが次の瞬間にその意を身をもって理解する
こととなった。
「でも、そんな事は今はどうでも良いこと……」
その瞳の色が獲物を狩る猛獣の色を帯びているのは自分の気のせいであって欲しい
と思う九朔であるが現実は早々に生易しくないもので。
「えぇい♪」
語尾に音符なんかつけちゃわれながら――――剥かれた。
「ぬぉぉぉぉぉぉッ!?」
某大盗賊もびっくりな早業、かろうじてパンツとシャツは死守したものの、ズボンをマント、
上着を剥がれ、ついでに髪飾りも解けた現在の九朔は裸シャツの美少女そのものであった。
傍から見れば苺で修羅場な乙女の園とかマリア様がガン見しちゃってる乙女の園あたりで
主役級をはれる完璧美少女が褐色の肌のお姉さまに押し倒されているの図。
――これは酷い。
「い、いきなり何をするか汝えぇぇぇぇぇぇ!」
「襲ってるの♪」
「音符を語尾につけるな! というか何故襲う!?」
「貴方に……心を奪われてしまったの」
頬をそめてイヤンとか言いながら顔を横に向けていうが、いじらしさとかそういう
のとは無縁な感じで皆無である。
「ああ、貴方は私の事をはしたない女だと思うでしょうね」
「この状況をそれ以外にどう解釈するか!」
「思われてもしかたがないの。私の二つ名は【微熱】」
「話を聞け」
「私は松明のように燃え上がりやすいの、だからこんな風に押し倒したりとかしちゃうの。
わかってる、いけないことよ」
「だったらこの縄を解け、ついでに服を返せ!」
そう叫んでみるが本人には聞く様子は全くない。
「でもね、あなたはきっとお許ししてくださると思うわ……」
人の話を聞く気が無いというかむしろそんなの関係ねえ、と強引に押し進めるつもり
なのか潤んだ瞳で裸シャツ状態の九朔を見下ろすキュルケ。
昼間とまったく同じ状態のマウントポジション、キュルケの指が九朔の胸元へとするりと
伸びた。
「くすっ」
その笑みと同時、猛獣の瞳でキュルケが九朔の胸元をがっしりとはだけた。
ブチンと音を立ててボタンが弾ける。
ちょっと待って欲しい、これは表現規制法とかこのスレの対象年齢的に実に問題ありというか
そもそも原作がそういうのだからとしてもいきなり過ぎる。
「ま、待て! 我に惚れるのは良いがいきなりどうしてこうなるか!?」
今更何を言うかといった顔でキュルケが九朔を見る。
「だって貴方ってば昼間にもタバサの召使いに手を出してたじゃない。あの子がメイドを
雇ってたなんて初耳だったけど……まあ、それはいいとしてあの現場を見ちゃったら
ツェプルストー家の女としてもこう、燃えちゃうというか私がやらないでどうするか!
ってな訳になるの。
ああ安心して。私も伊達にいろんな男子達と付き合ってきてるわけじゃないわ。
だからあんなメイドなんかすぐに忘れさせてあげる………」
「手なぞ出しておらん! そもそもどうしてそんな事になっておるかぁぁ!」
「ああ、恋は突然だわ……私の身体をすぐに焔のように燃やしてしまう……」
どこで何がナニを間違えたのだろうか。
このようなバッドエンドっぽいフローチャートはまず何処にも存在しなかったはずだ。
いや、そもそも自分の年齢を考えるとその選択肢が現れること自体が危ういような。
混乱のあまりかそのようなことを考え始める九朔であったが、その間にもキュルケの指は
肌の上を滑り上へ下へと向かってくる。
「話を聞けと……あ、こら! そこは……あ、ちょ、ま……あ……そこは……あぁ……
や……駄目ぇぇぇ……!」
言葉では形容できないような真似を受け、言う事も憚られるような状態に突入。
脳裏にルイズと同じ髪色のしかしそれとは真逆のボディバランスを誇るグラマラスな
美女に筆舌に尽くしがたい官能的な行為を受けている様が浮かんだのは誰の記憶
だったろうか。
だが、そんなギリギリのところで窓の外から闖入者は現れる。救いの主である。
「キュ、キュルケ……ま、まさか君にそのような趣味があったとは……」
そこにあるのは今にも顎間接を外しかねない勢いで大口を開ける青年の姿。
彼にはどうやら九朔が女子に見えたようである。
「ベリッソン!」
それはつまりキュルケがいたいけな珍しい女子を押し倒し、あられもない行為をしようと
していると見えたわけでハンサムな青年の鼻からは夥しい鼻血が。
片手で抑えてはいるが致命的っぽい量に見えなくもない。
あと、状況が状況なだけに既に無窮の空の彼方へ意識を離しかけていた九朔にはここが
三階であるとか彼が魔法で浮いてるとかは想像できるわけがなく、
「二時間後に!」
「へぶらっ!」
キュルケの魔法で火の玉が名も無きと共に窓枠と一緒に飛んでいったのを眺めているしか
なかった。
「ふぅ。では今の続きをしましょ騎士様」
「や……やめろ汝……あ、いやぁぁぁぁぁぁ……」
もう色々と限界近い九朔へキュルケの腕が再び襲い掛かるがしかし、
「キュルケ! その……えっと、その女子は……だ、誰だ!?」
「スティックス!」
またも闖入者現る。
「今夜は僕と一緒に過ごすはずなんだが……ああしかし……ああ……ああ!」
困惑気味に、しかしながらその光景に魅せられたのか篝火に近寄る蛾の如く部屋へ
入ってこようとする彼であったが
「四時間後に!」
「あみば!」
篝火に寄り過ぎた蛾は焔に炙られ窓の下へと落ちていく運命であった。
「ふぅ……時間をあまり無駄にしてはいけないわね。夜が長いなんて誰が……あら?」
恋する乙女の顔で頬を染めつつ言うキュルケだったが、その相手である九朔は、友よ今こそ
駆け抜ける時! と、この期を逃すまいと必死の様で拘束されたまま前進するところ。
無論キュルケには九朔を逃がすつもりなど毛頭これっぽちも一ミクロンもあるわけがない。
追い込まれた狐はジャッカルよりも兇暴なのだ、別に追い込まれてないが。
「えいっ」
そんな訳で杖で一振り、フライで浮かばされては拘束された手前、言葉どおり手も足も
出るわけもなく浮いた身体はそのまま弧を描いてベッドの上へと逆戻り。
そして待ち構えるのは猛獣の瞳で九朔を射抜くキュルケ。
ベビードールは言うも憚られる行為の所為でもう全裸に近い。
「そんなわけで、さあ!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
そしてキュルケは腕を広げ、滝の如く泣き叫ぶ九朔へとダイヴする。
が、二度あることは三度ある。
「キュルケ!」
「そこな……女子? い、いや男(おのこ)は!」
「何処ぞの男子か!」
「マニカン! ギムリ! エイb……じゃなくてエイジャックス!」
コミック力場ここに極まれり。
世界がどこかで歪んだなどともはや知ったことではない。
最後の一人の名前が版権的な意味合で際どかったりするが知ったことではない。
そんな三人は口調がおかしいまま彼等は二の句も三句も無く、
「――フレイム」
サラマンダーに焼かれ、
「「「うわらばっ!」」」
世紀末救世主的モヒカンな断末魔を残して窓の外から消え去った。
さあ、これでもう邪魔者はないとばかりに情熱的な捕食者の瞳が九朔を捉える。
覚悟はいいか、否、できるわけが無い。
沈黙が部屋の中を包む。絶望が九朔を覆う。
世紀末救世主だってこんな展開から救ってくれる訳ではないようである。
「愛してるわ騎士様! さあ、今こそ私と共にヘヴンッへ!!」
「何処の誰だ汝は!? あ、いややめて……そこは……あぁぁぁぁぁ………」
そこからめくるめくる官能的展開を誰もが期待するであろう。
誰もこんな絶望から救ってくれる正義の味方などいないと思うだろう。
誰もこんな天国から突き落とす悪魔の手先などいないと思うだろう。
むしろこんな展開を望んでる破廉恥な人間もいるかもしれない。
そんなことを望まない清く正しく真っ当な人間もいるかもしれない。
しかし真実は何時も一つだ。
もはや二度と戻る事の出来ない身体になろうとした九朔の前でドアが開かれた。
暗い部屋にロウソクの灯より明るい光が差し込む。
それは救いの朝日といえた、だが同時に惨酷な処刑場の鐘の音だった。
現れるルイズ、脇に抱えられたショゴス、同時浮かぶルイズの修羅相。
もはや言うまでもなかった。
振上げられる杖、同時見計らったように飛び退くキュルケ。
振り下ろされる杖、九朔の眼前が清らかで真っ白な閃光に包まれていく。
「このっ…………変ッッッ態ッッッッがぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
爆発音、どこかでウィップアーウィルのけたたましい鳴き声がした