あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Zero ed una bambola   ゼロと人形-32


 ルイズから退室を指示されたアンジェリカは素直に部屋を出た。そこには意外な人物がいた。

「うわっと!? や、やぁ、アンジェリカ君」

 何故か知らないがルイズの部屋の扉に張り付いていたギーシュが慌てて取り繕ったように挨拶をする。

「こんばんは。ギーシュさん」

 ギーシュがそこにいることにはさして疑問など持たずに笑顔で挨拶を返した。ギーシュの名前を呼んで……。

「ええと…これは違うんだよって。 あれ、こんばんは?」

 ここにいることの言い訳をしようとしていたギーシュであったが、アンジェリカは特に気にするでなく挨拶をした。
 初対面で自業自得であるが、悪印象を持たれてしまい、二度目の対面では、モンモランシーの取り成しもあったが、名前を覚えていないはずのギーシュの名前を呼んで……。
 別にロリコンというわけではない。だが可愛い女の子に名前を覚えてもらったら男としてうれしいではないか。ギーシュは内心小躍りする。
 だがアンジェリカはそんなギーシュに一切関心を示していない。彼女の興味は別のものに注がれていた。

「あ、わんこだぁ」

 アンジェリカの少し驚いた、そして嬉しそうな声に意識が現実に引き戻され、ギーシュは辺りを見回す。

「え、犬だって? どこにいるんだい?」

 初めて会ったときと打って変わり、好青年っぽく振舞ってみたギーシュの声は無視される。
 仕方なくアンジェリカの様子を凹みながら見守っていると、何も無い空間に恐る恐る手を伸ばしていた。

「何をしてるのかな?」

 ギーシュの声を聞いたからか、それとも別の要因か、アンジェリカの手はピタッと止まった。そして辺りをキョロキョロと見回し始めた。

「わんこ」

 アンジェリカが上目遣いでギーシュを見つめる。

「ん? どうしたんだい?」

 優しく問いかけるギーシュにアンジェリカは端的に答える。

「わんこどこに行ったの?」

 そう聞かれても困ってしまう。最初から犬はここにはいないのだから……。

「犬なんて見てないよ」
「でもさっきここにいたよ?」

 ここにいたと言われても困ってしまう。ギーシュは犬など見てい無いのだ。アンジェリカがいくら尋ねても知らないとしか答えられない。

「わんこ……。一緒に探して」
「え?」

 突然そんなことを言われても困ってしまう。アンジェリカは幻覚でも見ているのだろうか。それともからかっているだけなのか。
 ギーシュに彼女の真意は分からない。しかしここで断ったりしたことがモンモランシーに知られたら……。ギーシュには選択肢が一つしか残されていない。

「あ、ああ。手伝うよ…」

 アンジェリカの言葉を信じてはいない、だがそう言わざるを得なかった。
 ギーシュの言葉を聞くや否や犬を探しにあちこち動き回るアンジェリカ。ギーシュは犬などいないことが分かっているのでアンジェリカの後ろを付いて回るだけだった。傍から見ればかなり怪しい。
 アンジェリカの後を付いて回る間、ギーシュはアンジェリカが何故犬がいると言い出したのか考えていたが……結論が出ないのでその内考えるのを止めた。
 ふと気が付けば医務室のあたりまで来ていた。時間も大分経っている。そろそろ探すのを辞めないかとギーシュが声をかけようとしたがその時、怪しげな声が聞こえてきた。

「何だいこの音は?」

 何かの泣き声のように聞こえる。ギーシュは声のする場所を探し出した。どうやら声は医務室の中らしい。

「わんこ!」

 ギーシュが考え込んでいる間にアンジェリカは一人で医務室に入って行った。もしかしたら幽霊だったりして……そんなことを思いながらギーシュも慌ててその後を追う。

「おろーん。ここにいるのに…誰も気付いてくれないよー」

 部屋の中ではそんな声が響き渡る。犬ではないのは確かだが……。

「お? 小娘ここだ、ここ! へへ、やっと見つけてくれたか」

 アンジェリカが不満そうな顔で、鞘に入った剣を持っていた。持たれた剣はやけに嬉しそうな声を上げている。

「わんこいない…」
「そろそろ部屋に戻ったらどうだい?」

 丁度いい頃合いと、犬を探すのを諦める様アンジェリカに言った。アンジェリカは渋々頷き、手に持った剣をギーシュに差し出した。

「おいおい小娘、そりゃねーよ」

 鍔を鳴らしてアンジェリカに抗議する。

「インテリジェンスソード? 君が持ってた奴じゃないかな?」

 ギーシュの言葉に首を横に振り否定するアンジェリカ。

「じ、冗談だろ? オレだよ、デルフリンガーだよ」

 アンジェリカは首をかしげる。まるでこの剣を初めて見たとでも言いたそうな表情を見せた。
 どうしたものかとギーシュは思案する。これまでアンジェリカと接点が無かったが故に、事情がよく分からないのだ。それでも状況から判断すれば、一応この剣は依然見かけたとおりアンジェリカの物で間違いはなさそうだ。

「ギーシュ…」

 唐突に聞き覚えのある声がしたので振り向いてみればそこにはモンモランシーの姿があった。ギーシュは丁度良い所にきたと話しかけようとしたが何やら様子がおかしい。

「モンモランシー? どうしたんだい?」

モンモランシーはゆっくりと口を開いた。

「あ、あんたはケティに懲りずに……まさかそんな小さな子まで……」
「え?」

 理解不能、理解不能とでも言いたそうなモンモランシーはアンジェリカの手を取って自身の背に隠した。そう、不埒な輩からその貞操を守るために。

「もう大丈夫だからね。ルイズのところに帰りなさい」

 モンモランシーの言葉に少し躊躇しながらも部屋から出て行ったアンジェリカ。その手にデルフリンガーを持って。
 後にはギーシュとモンモランシーの二人が取り残された。

「あの…モンモランシー? 何か勘違いしていないかい?」
「勘違い? 何言っているのかしら? わたしというものがありながら……こんなところにでナニするつもりだったのかしら?」

 恐る恐る口を開いたギーシュだったが、モンモランシーは取り合うはずも無い。けれどもギーシュは不幸にも、それに気付かないのだ。

「何って…あの子が犬がいるとか言うから…」

 ありのままを正直に告げる。いつもならばここで話は終わるはずだった。だが今は違う。微妙に勘違いしているモンモランシーの思考はあらぬ方向へと進んでいくのだ。

「犬? そう…そうやってあの子を連れ出したのね…そして【自主規制】や【禁則事項】なことをしようなんて…」
「いや、だから…」

 必死に弁明するギーシュ。だがそれは無駄な抵抗だった。

「まさか犬プレイ!? ギーシュ…あなたが犬になってあの子に踏みつけてもらうつもりなんて……何てうらやま…ゲフンゲフンッ! んんっ、何て破廉恥な!」

 既にモンモランシーは決意していた。歪んでしまったギーシュの性癖を修正しなければならないと…。変な方向に思いついた彼女は即行動に移すのであった。今だ弁明を続けるギーシュを一睨みして声高に叫ぶ。

「ギーシュぅ! そこになおれ!」
「は、はい!?」

 ギーシュはモンモランシーの一喝に恐怖した。これから何が起こるのか……それは筆舌しがたい。
 顔を青くし、ガタガタ震えるギーシュ。あんなことやこんなことを想像しながらモンモランシーは彼に一歩一歩ゆっくりと近づく。
 その後彼がどうなったのか……ただルイズの部屋へ帰るアンジェリカが、誰かの悲鳴を聞いたということを記しておく。


Zero ed una bambola   ゼロと人形



 アンジェリカのいない部屋でルイズとアンリエッタは昔話に花を咲かせていた。
 とても楽しい時間。だがそれも終わりに近づいてきた。

「いけない、随分話し込んでしまったわ」
「もう帰られるのですか? 泊まっていけばいいのに…」

 ルイズは口にしてから気付いた。相手は一国の王女なのだ。そんなに簡単に外泊など出来るはずがない。ただでさえお忍びでここに来ているのだから。浅はかな自分が恥ずかしくなってくる。

「ルイズ、その気持ちだけ受け取りますわ」

 笑顔を見せるアンリエッタ。だがその笑顔には先ほどと違ってどこか陰りがある。言いたいことがあるが言い出せない……。アンリエッタはそれを隠そうとはしているが滲み出てきている。
 ルイズはそれを嗅ぎ取ってしまった。見逃せるはずも無い。当然のようにアンリエッタに尋ねるのだった。

「エッタ…何か言いたいことがあるのでは?」

 ルイズの言葉にアンリエッタはハッとする。彼女は自分の感情を隠し通していたつもりだったのだ。長い宮廷生活で身に付いた処世術。笑顔という仮面をかぶり続けてきたのだ。
 しかし、それも懐かしい友人と出会ったことにより仮面に綻びが出ていたに気付けないでいた。それだけこの時間が楽しかったということである。
 本音をルイズに見破られた今、迷うことなど無いはずだ。だがアンリエッタは口を開くのを躊躇してしまう。
 アンリエッタの変化したその様子をルイズは優しく見守り、口を開くのを静かに待った。
 そしてゆっくり、ゆっくりと口を開き始めた。

「わたくし…結婚することになったのです。ゲルマニアの皇帝の元に嫁ぐことに……」
「それは……」

 ようやくアンリエッタの口から零れ出た言葉に戸惑ってしまう。結婚……それは本来ならばとても喜ばしいことに違いない。だが素直に喜ぶことなぞできない。
 ましてや形式的に喜びの言葉をかけることも憚れる。
 その声を聞き、表情も見れば誰もが理解できるだろう。アンリエッタがその婚姻を望んでいないことなど一目瞭然である。
 ルイズはアンリエッタにかける言葉が見当たらず、ただ黙ってアンリエッタを抱きしめた。

「あっ…ルイズぅ」
「エッタ…ごめんね。わたしなんかじゃこれくらいしか出来ない」

 ルイズの小さな胸にアンリエッタの頭を抱き寄せた。抱き寄せられたアンリエッタは目尻に涙を携え、その心情を吐露しはじめた。

「本当は…本当は結婚なんかしたくないの。でも仕方がないわ。この国の為なんですから……」

 本音と建前を織り交ぜて自らを納得させようとしたアンリエッタ。だが己が胸の内をほんの少しルイズに見せてしまったことにより、彼女の仮面が崩れ始める。
 ルイズが言葉をかけるよりも先に目尻にためていた涙の静kが頬を伝わり床へと落ちる。もはや溢れ出す感情を抑えきることなど出来なかった。アンリエッタはルイズの胸の中で嗚咽を繰り返し始めた。
 嗚咽を繰り返す中でアンリエッタは己の感情を隠すこなくルイズにぶつけた。

 アンリエッタは恋をしていた。片思いではない。相手と通じ合っていた、相思相愛。そして遠くない未来に二人が結婚できるようにと誓い合ったのだ。誰の意思でもない、自らの意思で……。
 だがその誓いも儚く崩れ去る。思い人の治める国での政変。初めは楽観視していた。宰相のマザリーニも特に何も言わなかったからというのもある。
 しかしそれも時が経つにつれ状況は悪化して行くばかりだった。
 マザリーニからもたらされる情報はアルビオン現王家が劣勢だという。直情的に軍を派兵するように言うも全く取り合わない。
 今のトリステインの国力ではどうだとかこうだとか言って丸め込まれてしまった。最後には現状で最もよい手を打つ、つまりゲルマニアと同盟することを了承させられた。己が身と引き換えに……。
 この身は所詮トリステインという国を守るための道具でしかなかったのだ。恋の一つですら満足にかなえられない。
 でも仕方がないのだ。思い人を見捨てることも、見知らぬ男の下に嫁ぐことも……国を守るためには仕方がないのだ。

「仕方がないのよ…。だって、わたくしは王女なんですから…」

 アンリエッタは自分自身に必死に言い聞かせる。全て仕方がないのだと……自分は悪くないのだと……。
 一方のアンリエッタの告白を聞いたルイズは戸惑ってしまう。ゲルマニアに嫁ぐこと、アンリエッタの思い人がアルビオンのあの方であることも当然驚くべきことだ。
 しかし戸惑いの原因は他にある。どうしてこうも簡単に諦められるのだろうか。彼女にとっての思い人の価値は「仕方がない」の一言で切り捨てられる程度の存在だったのだろうか。
 親友の心が分からない。お互いが離れ離れになった時間が、余りにも長すぎたのだろうか。彼女の言葉は何処までが真実で何処までが偽りなのか分からない。いや疑っては駄目だと首を振るう。
 親友を疑うなど有るまじき行為だ。
 もし自分だったらどうだろうか。アンリエッタのように簡単に切り捨てられるだろうか。もしアンジェリカと別れる事になったのならば……自分なら決して諦めない。
 一度掴んだわたしの者をはなしてたまるものか。アンリエッタを抱きしめる手に力を篭めた。

「ああ、ルイズ」

 悲しそうな、どこか嬉しそうなアンリエッタの声。それを聞いたルイズは体が硬直した。アンリエッタの嬉しそうな声、そう逃げていただけなのだ。
 彼女は悲劇のヒロインを演じる事によって、全ての責任を他所に押し付けていただけなのだ。仕方がない、全ては国を守る為なんだと……。
 そう思ってしまうとルイズの中にあった友情が急速に冷めていく。結局アンリエッタは自分が一番大事だったのだ。彼女の姿がいつか見た夢の男たちも言っていた。
 仕方がないと……そうやって自分を正当化させていく、その姿がアンリエッタと重なるのは何故だろうか。

「ねえルイズ。お願いがあるの?」

 息を大きく数回吸ったアンリエッタは落ち着きを取り戻し、ルイズにそう切り出した。

「何でしょうか?」

 無理難題が押し付けられそうな予感がする。それもきっと引き受けざるを得ないのだろうとルイズは冷静に考えた。
 ルイズの考えを他所に、アンリエッタは悲痛な面持ちでルイズに縋り付く。

「手紙を…手紙を取ってきてもらいたいのです」
「手紙ですか?」

手紙を取って来るだけなら自分に頼まなくていいものを、ルイズは怪訝な表情を浮かべる。それもアンリエッタが次の言葉を継げた瞬間、驚き、呆れてしまう。

「アルビオンの…ウェールズ皇太子の元へ行き、手紙を受け取って欲しいのです」

信じられない。よりによって渦中のアルビオンへ行けなどと言われるとは露にも思っていなかった。呆気に取られたルイズに気付くことなくアンリエッタは言葉を続ける。

「あの手紙がアルビオンの敵方に渡ればゲルマニアとの同盟は反故に…ルイズ、引き受けてくれますよね?」

 アンリエッタの言葉をゆっくりとかみ締める。今までの会話もこのための布石だったのか。この親友だと思っていたこの人は友情さえも自分の、国のために利用するのか。
 ルイズに裏切られたという悲しみや怒りは湧いてこない。ただ胸の内から嫌悪感が生じるだけだった。

「わかりました」

 端的に小さく答えたルイズに喜ぶアンリエッタだがその言葉に感情がこめられていないことに気付かない。
 大げさな手振りでルイズとブリミルに感謝の言葉を述べると『水のルビー』と『手紙』を手渡した。それは思いつきでもなく、事前に準備していたことに他ならない。
 今から思えば最初から全て演技じみていた。ルイズも今更この場を壊すのも忍びないとそれに乗り、頭を下げた。

「この任務にはトリステインの未来がかかっています」

 演技も終盤に差し掛かり満足げなアンリエッタ。もうそれに付き合う必要はないと、退室をそれとなく促した。

「そうですわね。そろそろ帰ることにします。ルイズ、くれぐれもお願いしますね」

 ルイズは部屋を出るアンリエッタを送り出し、恭しく頭を下げた。

「ええ、わかっっています。安心してください、姫さま」
「え? 今名前を……」

 恭しく送り出し、扉を閉めた。外でアンリエッタが何かを言っていたがよく聞こえない。大きくため息を一つ吐いた。

 アンリエッタにルイズを駒として扱う意図はなかった。ただ他に信じられる者などおらず、藁にも縋る思いで彼女にこの依頼を頼んだのだ。親友ならばきっと引き受けてくれると信じていたのだ。
 確かにルイズは彼女の信頼に応えて依頼を引き受けてはくれた。だがその心は離れていった。
 結果としてアンリエッタとルイズの間に深い溝が出来てしまったのだ。それはルイズが一方的に離れて行っただけ、彼女はこの距離を埋め、再びルイズとの距離を縮めることができるのだろうか……。

 この日アンリエッタは一人の友を失った……。それでも静かに彼女の無事を祈るだけだった。



Episodio 32

Insieme con la richiesta dell'amico vicino
親友の頼みごと



Intermissione



 ロングビルは驚きを隠せないでいた。突如彼女を攻撃してきたのはルイズの姉、エレオノールだった。
 エレオノールが攻撃を加える理由は彼女の口ぶりから推測できる。どうやら己の正体がばれてしまったようだし、こちらの行動も先読みされていることから彼女の能力が高いことが窺える。
 最初に攻撃を受けた時のアレはエアカッターと思われる。優秀な風のメイジ……それに比べてこちらは手負い。
 それにしても一つ疑問が残る。最初の奇襲の時に仕掛けられた魔法…アレは間違いなく己の命を狙って放たれたものだ。
 彼女の任務は捕縛ではないのか、あるいは生死は問わないと通達されているのか……。
 いずれにせよここで捕まるわけにはいかない。テファニアを守るためにも……。杖を握る手に力が入る。その時エレオノールが高らかに声を上げた。

「悪いけど貴女にはここで死んでもらうわ。妹の…ルイズのために!」

 エレオノールはそう呟くと杖を振るった。風の刃がロングビルに襲い掛かる。
 ロングビルは悪態をつきながら目の前に土の壁を作り出し身を伏せ、風の刃から身を守りながらエレオノールに言い返す。

「あんたに殺される筋合いはないよ!」

 とは言ったものの状況は悪い。恐らく相手は一人の筈がない。何処かに伏兵がいるかも知れない。そう考えると迂闊に動くことが出来ない。
 得意のゴーレムを作ろうかと考えたがすぐに却下する。今の自分は怪我で本調子でない。作るにしてもリスクが大きすぎる。ゴーレムの制御でがら空きになった自分が狙い撃ちされるだろう。
 エレオノールは壁に向かって何度も魔法をぶつけてくる。恐らく誘き出すための作戦だろう……。何か打つ手はないか必死に考える。
 そして……辺りの風が消えた。何事かと慌ててエレオノールがいるであろう場所を覗き込む。そこにはエレオノールの姿がなかった。

「何処に!」

 特に意識していた訳ではない。ロングビルは土の壁を消してしまった。まさかエレオノールが壁の反対側に潜んでいたことなど知る由もなかったのだ。
 エレオノールは土の壁を作り出し、そこに隠れるロングビルに対し、魔法を幾度もぶつけていたのはこのためだったのだ。
 魔法をぶつける事によって相手に接近するのを誤魔化し、チャンスを窺っていたのだ。
 伏兵などいなかった。確実に相手を仕留めるための策だったのだ。だが今頃気付いてももう遅かった。驚きのあまり対処が遅れる。杖を振るおうと素早く構えた。
 訪れるであろう風の魔法から身を守るため……。

 エレオノールの動きに思わず目を瞑って構える。だが待てども風の吹く音が聞こえない。それどころか何の衝撃も襲ってこない。ただロングビルは腹部に激しい熱さを感じた。
 何事かと恐る恐る視線を下に動かす。エレオノールの手にはナイフが握られ、その刃が自らの腹部に突き刺さり服を赤く染めていたのだ。それを知覚したとき、熱さは激痛に変化した。
 エレオノールがナイフを引き抜き血が辺りに滴り落ちる。体中から力が抜け、ロングビルは思わずその場に倒れこんでしまう。

「な、なぜ……?」

 何故魔法でなくナイフで刺すのか。捕縛が任務でないのか。何が目的なのか、エレオノールに問う。
 エレオノールは息を荒げ、肩を上下させながらロングビルを見下ろし口を開いた。



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