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ゼロの英雄-幕間


 誰かの手記-1


 ?月?日

 “楔”の生き残りもわたしとラウラだけになってしまった、ラウラは無事逃げ延びられただろうか?
 心配してもその安否を知る手段はない、心配で胸が潰されそうな日々を過ごす中で事件は起こった。
「なんだあれは!?」
「鉄の……鳥?」
 鈍色をした鋼の体躯、プロペラを回し空を翔る構造体はこのハルケギニアでは想像すらされない代物。
 タルブの村に現れた飛行機を前に、わたしはコクリと唾を飲む。

 追っ手だろうか? そう思って身構えるわたしを前に飛行機は黒煙を吐きながら落ちてきた。
 “楔”で習った通りの手信号で管制し、草原へと誘導、不時着させる。
 あの場所で習った技術で人が救えるなんて、嘘みたいだった。
 飛行機から降りてきたのはササキと言う男性で、わたしの来た世界とはまた違う異世界来たらしい。
 お互いの異世界出身と言うだけに会話も弾む、いつの間にか仲良くなり、しばしば互いの元へと通う間柄になった。
 胸が高鳴る――これが恋と言うものだろうか?
 けれどわたしの手は血で汚れている、こんな女に好かれても迷惑だろう。
 そう思って身を引こうとしたら、ササキに抱きしめられた。
「俺だって人殺しだ……」
 そう言ってわたしを抱きしめるわたしの体は柔らかくて、胸がときめく。
 体の芯が熱くなり、目から涙が浮かぶ。
 今まで一度も泣いたことなかったのに、苦しいなんて感じない“人形”として生きてきたはずなのに……
「人形なんかじゃない」
 ササキはそう言う。
「お前が好きだ――お前が欲しい」
 そう言ってササキは一層わたしを強く抱きしめた、チクリと心を刺す罪悪感。
 こんなわたしでも、今度こそ“人間”として生きる資格などあるのだろうか?
「生き方など自分で選べばいい」
 ササキの手の中で、わたしは泣いた……



 それからは怒涛のような日々だった。
 一般常識からかけ離れていたわたしはササキと二人してこの世界のことについて調べたり、就職先を探さなければならなかった。
 幸い、オスマンと言う方がメイドの仕事を紹介してくれた。
 普通の人間として懸命に働き、ササキとの間に二児の子供も授かった。

 しかしどうやら過酷な訓練と投薬による肉体強化が行われたわたしの体はそう長く持たなかったようだ。
 それでも孫の顔を見れたことは素晴らしい幸福だった。
 手慰みに教えたわたしの憎むべき技が、この子の身を守ってくれることを願って――わたしは逝く。


 ここから先はわたしの遺言です。 
 今この手記を読んでいる方、それはわたしと同じようにあの世界から来た方だと思います。
 あなたがまだ帰ろうと言う意思を持っているのならこの手記をお持ちください。
 そしてもし元の世界に戻ることが出来たなら、どうかバートランドに居るであろうラウラと言う女性、もしくはその縁者の方にこの手記を渡してください。 

 わたしたちは“楔”と言う組織に育てられた工作員でした。
 しかしそれが嫌になり皆で逃げたのです。
 次々に追いかけてくる追っ手に殺され、最後に残ったのがわたしとラウラなのです。
 ラウラはわたしのことを死んだと思っているでしょう。
 あの小さな背中を最後まで守り抜けなかったこと、それだけがわたしのただ一つの心残りなのです。

 わたしの最後の我が侭を、どうか、どうか……






 ヴィダーシャルの手記


 ×月×日



 蛮人どもに協力する盟約を交わしはしたが暇でしょうがない。
 ジョゼフは日がな自室に籠り、これと言って仕事も与えられない。
 普通の蛮人たちは私のことを恐ろしがって近づいて来ず、語り合うエルフの友たちもいない。
 この場所はノイズだらけで精霊たちの声もろくに聞こえない。
 エルフは種族として性欲が薄い、その長寿故に睡眠も一度取ればしばらく取る必要がない。余りに余った時間を潰すのは必然“知識欲”と“食欲”くらいしかない。
 ならばちょうど都合が良いと言うことで両方が同時に満たせる料理の本を戯れに読んでみたが、これがなかなか面白かった。
 牛の乳と卵と小麦の粉、それだけで数え切れないほどの絢爛な菓子を作り出すと言うのは我らにはない文化だからだ。
 ためしに自分でも作ってみる、うむ美味い。だが上手く作れると誰かに食べさせたくなるものだ、試しにジョゼフに食わせてみたら「うむ、悪くない」と言ってきた。
 それだけでなくもっと砂糖を減らせだの、飾りのフルーツはあれを使えだの言ってきた。
 仕方が無い、応えてやろう――そんなことをやっている間に何時しかお菓子作りが趣味になってしまった。
 いや素晴らしいのだぞ? 菓子作りは。
 まさに蛮人が生み出した文化の極みと言っても過言でなかろう。
 ネフテスに帰ったらこの文化を我らの同胞の間で広めようと決意するくらいに。
 そんなことをしている間に王宮の図書館にあった菓子のレシピは全て作ってしまった、これ以上をやるなら料理人たちに門外不出のレシピを聞くしかないが蛮人たちは怖がって私に近づかない。
 八方塞がりかと思っていたところに、以外なところから解決策が齎された。
 ジョゼフの使っている箱。
 あれを使えばサイトの故郷の菓子のレシピを調べることが出来ると言うのである。
 ジョゼフに言ってみれば「それは面白そうだ」とロマリアに使いを出してくれた、その後一両日。
 ただの箱だとは信じられないほど多くの情報がサイトの手引きで引き出され(その際不思議なことにサイトの両親から手紙が届いたと言う)様々なレシピが私の手許へとやってきた。
 珍しく高揚した心で料理に取り掛かる、まずは最初の――なんだこれは?
『カレのハートを捉えるとびっきりの特製スイーツ(ハート』
 次のページを捲ると、戯画化された少女が裸にエプロン一枚と言う姿でお玉と泡立て器を持っていた。
『裸エプロンにカレもメロメロ。甘いスイーツの後は、カレと二人で甘い時間を過ごしちゃおう』
 よく分からないが、料理をする前に裸になると言うのが異世界の流儀なのだな?
 流儀と言うのならば従わざるを得ない、私はゆっくりとローブの留め金に手を……




 誰かの手記-2


 ?月?日

 全く災難だ、なんだあのドラゴンは!?
 あれか? ひょっとしてレコン・キスタに見切りを付けた報復か?
 馬鹿姫の任務でアルビオンに向かう途中、突然飛んできた真っ赤なドラゴンに追い立てられた。
 ドラゴン風情……そう侮ったのが間違いでした!
 こちらの攻撃は一つとして通じず、繰り出した<偏在>も全て倒され、ほうほうの体で逃げ出した。
 一体なんだあのドラゴンは……
 途中愛機であるグリフォンから転げ落ち、こうして徒歩でアルビオンに向かうことになったのだ。
 おまけに精神力を使い切り何日も昏倒していたらしい、全くなんと言うことだ。
 恐らく我が愛機エスメラルダもあのドラゴンに喰われてしまっただろう。
 この屈辱いつか晴らすと心に決めてアルビオンに渡った。
 ――クロムウェルがあの真っ赤なドラゴンを操って大暴れしていた。
 うそーん。


 誰かの手記-3


 ?月?日

 破竜剣? 
 ああ、あの『どらごん殺し』のことじゃな。
 あれはそう、五十年ほど前のことになるか……
 儂が若い頃ガリアで狂った風竜が暴れ回ると言う事件があってのう。
 血気盛んだった儂は仲間に誘われるままにその竜を倒し名を挙げようと目論んだんじゃて。
 今から考えると愚かしいのぉ……
 竜の巣を見つけ踏み込んだ儂らを待っておったのは、ただただ一方的な虐殺じゃった。
 そもそも風の如く飛ぶ故風竜だと思われていたようじゃが、あれほど化け物じみた風竜などどこを探してもおりゃあせん。
 仲間を殺され、もはやこれまでかと思った瞬間じゃった。
 あの異形の剣を持った剣士が現れたのは。
 剣士はあれほど強かった竜をまるで赤子の手を捻るかのように屠ると、そのまま息を引き取ったのじゃ。
 剣士の体には傷一つなかったのに、まるで命を使い切ったかのように安らかな顔で死んでおったよ。
 なんとなく予感はあったんじゃ、魔法も使わずに鋼より堅いドラゴンの皮膚を触れずに切り裂いたんじゃぞ? その間にあった岩や滝をすり抜けて。
 儂は思ったんじゃ、恐らくこの剣は“命を代価に人を英雄に変える剣”なんじゃと。
 こんなもの世にあって良いものではない、もし剣の効力が儂の想像通りのものなら発動のさせ方こそわからんかったが一度目覚めれば恐ろしいことになる。
 じゃから儂は剣士を懇ろに弔うと、この剣をトリステイン王家に預け厳重に封印を施したのじゃ。
 使われるべき時が来たときまで、その剣がけして目覚めないようにの。
「それでは以前“どらごん殺し”が宝物庫から忽然と消えた事件と言うのは一体……」
「さぁの、数日経ってからまた同じように唐突に戻ってきたところを見ると」
 ――この剣自身、自分の意思を持っていて相応しい使い手<生贄>のところに向かうのかもしれんの




 誰かの手記-4

 ?月?日 晴れ 風強し

「ただいまー!」
 わたしは久しぶりの家の門を潜る。
「おぉぉぉくぁぁぁぁえりぃぃぃぃぃ!」
 お尻を揉もうとするお兄ちゃんを後ろ回し蹴りで絨毯の上に沈める、わたしのことをずっと待ってくれていたらしいラウラに向かって声をかける。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
 ラウラはもう数年前から全く印象が変わらない。
 相変わらず働き者で、胸がおっきくって、おまけにすんごい美人だ。
 それに外見上年を取らないのスキルまで追加されるとか、もう反則もいいところ。
「おかえりー、エチカおばさん」
「ただいま、大きくなったわねー。スピノザちゃん」
「ちゃんはやめてよぅ、おばさん」
 わたしの言葉に可愛い甥は口を尖らせる、その姿もすごく愛らしかった。
「ベアトリーテは?」
「マイハニーは実家から呼び出し中」
「ところでスピノザ様の行方は……」

 ――自分が呼ばれたのかと思って、スピノザ・ライプニッツはきょとんとした顔をする。

「あなたじゃないの、あなたに名前をくれて人」
「ぼくに、名前をくれた人?」
「そう、凄く優しくて、お人よしで、菜食主義者で、平和主義者で、やたらとマイペースで、ついでにドラゴン!」
「いやちょっと待ってよおばさん、最後の何!?」
 スピノザは思わず声をあげた、名前の由来が悪の代名詞であるドラゴンとはこの子にはやっぱり衝撃かな?
「いや、でもかっこいいのよ?」
「ええ、とても良い方でした。悪く言うと腰抜けですけど」
 一頻り幼い少年をからかった後、ライプニッツ家のみんなは軽く笑った。
「けど駄目ね、手がかりなし」
 思わず口調に疲れが滲んだしまったかもしれない。
 この一年、バートランド中を回ったけど手がかりなど一つもなかったから。
「そうですか……」
「最後のあれが一体なんだったのか分かれば。なんとかしようもあるんだろうけどね」
 わたしの前からスピノザが掻き消えるようにして消えたのは今から四年前になる。
「わたしね、あれきっと<モナド>が最後の力を使って何かをしてくれたと思うの」
 当時、半狂乱になって分からなかったものの。スピノザを連れ去った光には何か意思が宿っていたように思う。
「だからね、ひょっとしたらあの光はスピノザを救う為にやってきたのかもしれない」
 竜と英雄の悲しき定め、それを定めた存在が最後にちょっとした奇跡を用意してくれていた。
 ――そう考えるのはわたしの傲慢だろうか?

「だからねひょっとしたらそのうちひょっこり帰ってくるかもしれないなって……」
「エチカ様」
「エチカ……」
「わたし次の冒険で最後にしようと思う、自分で見つけて“今まで何処行ってたのよ!”って言えないことが残念だけどね」
 だからわたしは手記を書く、こうやって喋ったこと一言一言まで書き残して、もしスピノザが帰った時わたしがいなくても寂しくないようにする。
 “わたしは大丈夫だよ、スピノザ!”って言ってあげられるようにする。
 そんな風に話していたらわたしの可愛い甥が好奇心満々で声をかけてきた。
「おばさん、ぼくおばさんのお話ぼくに聞かせて!」
「ええ、いいわよ。いっぱい聞かせてあげるから」
 この世界に生まれた、優しい英雄の物語を……
 わたしがこの目で見て来たものを。




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