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ゼロの英雄-4


 ルイズの手記-4


 □月○日

「うそだ、うそだ、嘘だっ!」
 目の前には凄惨な光景が広がっていた。
 敵を見失い互いに殺し合う王党派の軍隊と、浮き足だったところへ飛び込み暴れ回る真紅の竜。
「アタラクシアよね……あれ」
 衝撃を受けたように呟くスピノザに質問を返す、壊れた人形のようにコクンと頷くスピノザ。
 あまりにも痛ましくて見ていられない。
「やっぱあたい(の使い魔)ってば最強ね!」
 こんな時に何言ってるのか、デコ娘自重しろ。
 サイトはサイトで「や、やめろ。出てくるな、俺は殺したくない……」とか呟きながら自分の左手を押さえている。
 邪気眼を気取りたい年頃らしい。ところでサイトの持ってる剣の宝石が光っているのはなんで?
 ともかく今は目の前の地獄をなんとかする方が先決だ、わたしは<エクスプロージョン>の詠唱を始め……
 不意に肩を叩かれて、詠唱を中断させた。もう、一体なんなのよ。
「あれ」
 タバサが南の空を指差す、そこには見たこともない形の船が飛んでいた。
 とにかく数が洒落にならない。
 南の空を埋め尽くす異形の空軍の群れ、その船には全て『二本の交差する杖』の紋章が描かれている。
「そんななんで、お父さまがこんなところに……」
 呆然とイザベラが呟く、ここまできたら間違いない。
 ガリアが、アルビオンの内乱に介入してきたのだ



 戦争は混迷を極めた。
 降り注ぐガリア側の砲撃と漆黒の騎士人形の群れ、ガリアは同じ始祖ブリミルを祖とする者としてレコン・キスタ殲滅を謳っては居たが、内乱に乗じて利権をかっさらおうとする意志がありありと見て取れた。
 だがそれでも今のアルビオンにはガリアの協力を拒むだけの力はない。
 ウェールズは奥歯を噛みしめた。


「哀れだな……」
 感情の見えないガラス玉の様な瞳を真紅の竜の上の人影に向け、ジョゼフはそう呟いた。
 オリヴァー・クロムウェル。
 片腕を失い、全身を火の魔法で炙られ、風の魔法で両足を寸刻みにされ。
 それでもクロムウェルは生きていた。
 全てはその右手に妖しく輝く指輪の力だ、クロムウェルはとうに死んだ自分の体を操って仮初めの生のなかで藻掻いている。
 だがそんなこと出来るはずがないのだ。
 クロムウェルの顔にはもはや正気どころか理性すらない。
 ただ死んだ瞬間に自らの体に刻んだ妄執だけを糧にして、ただ指輪の力を破壊の為にまき散らして居た。
 まるで自分のようだと、ジョゼフは思った。
「まずはあの赤い竜を落とすか」
 だからと言って感傷が入り込むような余地など、ジョゼフのどこにも有りはしなかった。
 ジョゼフは<インビジブル>と名付けた一際大きい飛空艇の上で、つまらなさそうにチェス盤の上の駒を動かした。
 船の形をした駒を動かし、赤い竜の形を囲むように配置していく。
 ジョゼフの駒の配置はビダーシャルによって伝達され、一糸乱れぬ動きでガリア飛空艇船団は空を舞う。
「撃て」
 一斉に放たれる砲弾をアタラクシアは避けようとしなかった、狂ったように飛空艇へと特攻し次々に沈めて行く。
 だが圧倒的な数の前にはいくらアタラクシアでも無力だった。
 一隻沈める間に十を超える砲弾がその体を打ち抜き、その内のいくつかが茜色の鱗の守りを貫通する。
 或いは<忘却>によって自らが戦う理由を忘れさせられていなければ、その圧倒的な機動性を生かすことが出来ただろう。
 だが狂った魔竜はただ目前の敵を討ち滅ぼすことしか、考えることが出来なかった。
「勝ったな……」
 無感動にジョゼフは呟く。
「操られたエルフは可能なら無傷で保護し……」
 ビダーシャルがそう呟こうした瞬間。
 あまりにも不吉な輝きが、戦場全てを貫いた。
「悪魔<シャイターン>の門……」
 ビダーシャルの戦慄に満ちたその言葉を、ジョゼフは確かにその耳に聞いた。



 スピノザは咆えた。
 人と人が、人と竜が、互いに傷つけ合うことが我慢出来なかった。
 だがそれと同時に大切な友人が自分の意志を奪われ、戦争の道具にされることが許せなかった。
 竜が邪悪の化身として人から憎まれるのはしょうがない、それこそ魔王竜の、人の天敵として生を受けた者の宿命だ。
 それでもこんなことは嫌だった、友人が――アタラクシアがあの様な狂った姿をしているのは耐えられない。
「やめてくれ!」
 スピノザはガリアの船団とアタラクシアの間に身を躍らせ、咆えた。
 その瞬間、胸に刻まれたルーンが光と言うにはあまりにもおぞましい輝きを放った。


 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、 右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。 あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは陸海空。
 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。 あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。
 そして最後にもう一人……

 ――神の心臓リィンダールヴ。無垢なるたましい神の杭。あらゆる憎悪をその身に背負い、導きし我の敵となる。


 まずティファニアが気づいた。
 次にアタラクシアが気づいた。
 その次にジョゼフが気づき。
 そしてルイズやイザベラ、タバサやウェールズが気づき。
 戦争で戦っていた兵士達が気づき。
 そして最後に死人となり動いていた者達が気づいた。

 このハルケギニアに始祖ブリミル以降初めて奇跡が起きたと言うことに。




 ジョゼフの手記-4


 □月×日

「なんだ、これは……?」
 私は自分の頬を伝う温かい液体を撫でる。
 ――私が、泣いている?

 心の中の『虚ろ』が吸い取られ、それと入れ替わるように熱いものが差し込まれてくる。
 本来なら不快な筈のそれが気持ちよく、私はただひたすらに混乱する。
 眼下の戦場を見ると、あれだけ混乱に満ちた戦争が嘘だったように全ての者がその手を止めていた。
「悪魔、悪魔が、再び……」
 ビダーシャルが頭を抱え、震えながら呟いている。
 このエルフが此処まで恐れるとは、一体何が起こったと言うのか?
「ビダーシャル、一体何が……」
 私の声を遮る、魂を吹き飛ばす悪魔の吠え声。
 その瞬間、私の心に囁きかけるものがあった。
 ――奴を殺せ。
 憎悪を失った私の心に、するりと滑り込むその声。
 ――生きとし生ける者全ての敵を殺せ。

 呆然と見上げたその先に、四枚羽の黒い竜が、ガリアの船団を睥睨していた。
「悪魔、あれは悪魔、かつて<虚無>がエルフを使って生み出した悪魔と同じ存在……この世全ての憎悪の結晶、生きとし生ける者全てにとっての敵……」
 怯えながらビダーシャルは言った。
「――悪魔<シャイターン>!」




 胸のルーンが輝いた瞬間、有り得ないほどの力が流れ込んできた。
 めきめきと音を立てて体が変形していく、二本の角は肉を裂きながら伸びて山羊のように逆巻き、羽の付け根の肉が削げて一対の翼になる。爪は鋼の剣よりもなお鋭い切れ味を持ち、瞳は血のような真紅から体と同じ漆黒の色へと変わっていく。
 スピノザは恐怖する。
 心が流れ込むどす黒い何かが、彼に囁くのだ。
 憎め、呪え、殺せ。
 嫌だ、と拒絶するスピノザの心を暗黒の衝動が塗りつぶしに掛かる。

 ジョゼフの『狂気』が
 タバサの『雪風』が
 クロムウェルの『虚栄』が
 戦場に満ちる兵士達の『憎悪』が

 魔王竜の本能を呼び起こさせ、“スピノザ”を消し去ろうと襲い掛かる。
 遅まきながらスピノザは理解した。
 これは同じだ、同じものだ。
 破竜剣と魔王竜、善と悪を人に示し人をより良い方向へと導く為のシステム、誰かが作りだした虚ろな機構。
 殺し殺し殺し、そして殺される為に呼び出される、何も生まず何も残さず世界から消されていく――虚構<ゼロ>の英雄。
 人を殺したくない、憎み憎まれるなんてまっぴらだ。
 そんなささやかな願いさえあまりにも巨大なルーンの力に消されていく。
「いやだよ、殺したく、ない……」
 心の奥の大切な笑顔さえ、ルーンは容赦しなかった。
「エチカ……ルイ…ズ……」
 哀しげな遠吠えに憎悪が混じる。

 ――その姿が変わりきった時、ただの一撃でガリアの飛空艇船団は壊滅した。




 ?月?日


「お父さま、お父ざま……!」
 目が覚めた時、そこにはぐしゃぐしゃになったイザベラの顔があった。
 初めて見る娘の泣き顔に気まずくなって視線を動かすと、水の魔法で治療を行っていた者と目が会う。
 短く整えられた青い髪、シャルルに似た無表情な顔立ち、ペタンコな胸。
 はて、何故シャルロットが私の手当てを?

 驚いて飛び起きようとして、あまりの激痛に体が引きつる。
「動いちゃ駄目」
 ゆっくりと私の身体を押さえ簡易式の寝台へ戻すシャルロット。
 その姿に、思わず言葉が口を突いた。
「どうしたシャルルの娘よ、憎っき余の命を奪うなら今以外にはないぞ?」
 小さな、あまりにも小さなその体が震える。
「いい」
 驚いた、まさか拒否するなど思ってもみなかったのだ。
「遠慮することはない、余がお前の父シャルルの命を奪ったように、この心臓に刃を突き立てるが良い」
 そう答えた途端、もの凄い一撃が顔に炸裂した。
「な、なに、何言ってるのさお父さま!?」
「ぷろぁ!?」
 テンポ良くパァンパァンと重い一撃が顔にぶつかってくる、頭がもぎ取られそうだ。
 た、頼む、やめてくれ、我が馬鹿娘よ。
「お父ざま、お父さまがじんだ、ら、わたし、どうしたら、いいのか……」
「ま、待て、やめろ、やめ……て」
 聞こえちゃいない。
 ――呆気に取られる周囲の者達が正気に戻った時には、既にジョゼフの顔はおたふく風邪に掛かったような有様になっていた。
 くすくすと言う笑いが耳に届く。
 気づけば、シャルロットが笑っていた。
 一度も見たことのない楽しげな様子で年相応の笑顔を浮かべて居た。
「シャルロット……」
 決意を込めた様子で、シャルロットは言った。
「いい……殺さない」
「そうか、分かった……」
 その笑顔がシャルルのものと重なる。
 記憶のなかのシャルルはもう一度ニコリと私へと笑いかけると。
 ――シャルロットをよろしくね、兄さん。

 底冷えのする声で、そんな言葉を放った。
「ああ、分かった」
 そう答え、にっこりと笑い返す。
 何やらまったく兄さんは馬鹿だなとか兄さんはドMだから自分を追い込まないと気が済まないんだよな、とかそんなことも聞こえた気もするが恐らくは気のせいだろう。
 ――気のせいだよな?

 しかしこれから一体どう生きればいいのか、そう考えて空を見上げる。
 そこには弱い人間達を睥睨する黒い魔王が居た。
 そうだ一撃でガリアの船団は壊滅したのだった、と強烈な頭痛に襲われる。
 まったくこの世は筋書き通りにならないことばかりだ……と思った瞬間、魔王の体の一筋の傷が走った。
「――サイト?」
 ほの青く灯る光が青と白の異国の服を包む、目に映ったのは長大な剣を携えたサイトが地面をノミのように一蹴りして魔王へと向かっていく姿だった。



「あんなの、どうしろって言うのさ!?」
 ブレス一息で山一つ吹き飛ばした化け物を見ながら、マチルダは体を震わせる。
 シエスタのおかげでティファニアは救い出した、ここは土くれのフーケらしくとっととケツ捲って逃げるのが最上だろう。
「嫌です」
 そう言ったシエスタの言葉に、思わずマチルダは目を剥いた。
「ちょっと待ちな、いくらなんでも無茶だよ!? あんな化け物相手にするなんて……」
「それでも、嫌です」
「無駄無駄、こうなった相棒は梃子でも動かんぜ」
 カタカタとデルフリンガーは語る。
 そう言ってシエスタはデルフリンガーを片手に風のようにシエスタは駆け出して行く。
「ええい、仕方ない!」
 だがマチルダも恩人を無為に死なせるような女ではなかった、口の中で小さく呪文を唱えるとシエスタに向かって杖を振りかぶる。
 それを止めたのはティファニアの白い腕だった。
「駄目、マチルダ姉さん」
「テファ、けど……」
 躊躇うマチルダにティファニアはふるふると首を振る、そしてティファニアは宙を駆ける竜を指差すと「友達」と言った。
「わたしのことを助けてくれた友達が、泣いてる」
 それはつまり、助けてあげたいと言うことで……
「ったく、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ」
「マチルダ姉さん!」
「しょうがないねぇ、けどやばくなったらアンタを担いでとっとととんずら決めるからね」
 震えながらも、最高の笑顔でマチルダ・オブ・サウスゴータは大切な妹を抱きしめた。


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