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狼と虚無のメイジ-02


「娘、酒などないかや」

毛皮をめくれば下半身すらも露なその娘だが、異常なこの状況に動じている様子は全くない。
よく見れば脱穀前の小麦にまみれ、場違いなことこの上無かった。

「なんじゃ、酒はないのかや。なら食べ物は……」
「ちょちょちょちょっと待ちなさいよっ!何無視してるのよ!あんた誰よ!」
「わっち?」
「あんた以外に誰がいるのよ」

娘はあたりを見回して一言。

「色々と、たくさんおるのう」
「~~~!」

まさしく、辺りを見回せばクラスメイトが大量にいる。
失笑が漏れる中、ルイズは自らの杖を、娘につきつけた。

「あんたは、誰よ!」

杖をつきつけられて、流石に娘の顔から笑みが消えた。赤い……よく見れば琥珀色に強い赤みのかかった瞳をすっと細める。

「礼儀の知らぬ娘じゃの」
「……なんですってぇ~~!」

折れんばかりに杖を握り締め、ルイズは得意の癇癪を起こす。踊りかかりそうになるのをぐっとこらえ、コルベールに向き直った。

「ミスタ・コルベール!」
「なんだね、ミス・ヴァリエール」
「もう一回召喚させて下さい!」

コルベールは当然の様に首を振った。

「ダメだ、ミス・ヴァリエール。この春の使い魔召喚が神聖なものだということは君も知っているだろう。好みの問題ではなく、彼女を使い魔にするしか無いんだ」
「でも、亜人を使い魔にするなんて!」

その様子を見て、耳つきの娘は「ふむ」と漏らした。

何やら揉めているらしい。服装を見るに教会の連中かとも思ったが、見たところ妙な獣がたくさんいる。
とすれば、たまに村に来ていた旅芸人の一座にでも迷い込んだのだろうか。
南にはまだ見たこともない獣の類も多いと聞くし……。

あれこれ娘が考えていると、話が済んだのかルイズが戻ってきた。

「ねえ、あんた名前は?」
「おや、話は済んだのかの?」

からかうようなニュアンスもあったが、娘がにこりと笑った。まるで邪気のない、可愛らしい笑顔だ。
裸身を晒すこともいとわず、すくと立ち上がって娘は言った。

「わっちの名前はホロ。しばらくぶりにこの形を取ったがな。うん、中々上手くいっとるの」

後半部分はよく解らなかったものの、ようやく娘の名前が解って、ルイズは少し安堵した。
見たところ敵意も無いようだし、契約自体は出来そうだ。
それにしても裸体を晒していると言うのに恥ずかしがる素振りがまるでない。服を着ているルイズの方が恥ずかしくなってくる。

「ホロ……ホロね」
「ん、ホロ。良い名前じゃろ」

あまり聞いたことのない無い名前だが、辺境の少数部族と言うことも有り得る。
この年で親元から引き離したのは、少し酷だったかなとも思いつつも、ルイズは詠唱を始めた。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

それが間違いかどうかはともかく、二人には幾つか見落としていたことがあった。

ルイズに関しては、目の前の存在への理解を頭の中で構築して勝手に決めてしまったこと。
ホロに関しては、魔法というものをほとんど知らなかったこと。

「……ん」
「む……?」

二人の唇が重なった。
官能的や蟲惑的と言った言葉を通り越し、二人の美少女が唇を重ねるその様は、神々しいと言っても過言ではなかった。

ようやく唇を離した時、ルイズは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
ホロは一瞬何が起こったのかと言う表情を見せたものの、にやりと笑ってルイズを覗き込んだ。

「ふむ、生娘の味じゃな?」
「な、ななななな!女同士はノーカンよっ!ノーカンッッッ!」

顔を林檎みたいに真っ赤にして、ルイズは慌てた。
つまり生娘であることを存分に周知に知らせている訳だが、本人がそれに気づくのはもう少し後だろう。
その様子をしたり顔で眺めるホロだったが、いきなり左手に異常な熱さが走る。例えるなら口が左手にあったとして、そこでがつがつと唐辛子を貪ったような。

「ぬ……!?」

その熱さが収まった頃、右手には妙な模様が浮かんでいた。
蛇ののたうったような、ホロの知らない文字だ。

「契約おめでとう、ミス・ヴァリエール。……しかし、珍しいルーンだね」

コルベールがしげしげとルーンを眺める。ホロも太陽に手をかざしたりして、めずらしそうに見ている。

「ところで……えー、ミス・ヴァリエール。男子諸君に余り宜しくない。彼女にマントを」
「え……あ、はい!」

見れば男子生徒の大部分が所在なさげにしている。
このあたりは貴賎の区別なく、健全な男子であれば当然だろうが。

ルイズは自分のマントを脱ぐと、ふぁさっとホロに預けた。

「か、感謝しなさいよ、貴族のマントを着れるなんて、普通は一生無いんだから!」
「くふ、ころころと忙しい娘じゃの」

一方のホロはまたも顔赤くするルイズを笑いつつ、さも当然と言わんばかりにマントを羽織った。
身体に妙な字を刻まれたのは癪だが、油断したのもまた己。大して気にしてはいなかった。

「さて、じゃあみんな教室に戻るぞ」

コルベールの鶴の一声で、生徒一同踵を返すと……浮いた。
ルイズ以外は全員纏めてだ。

「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」
「あいつ、『フライ』はおろか『レビテーション』すらまともにできないんだぜ」

ここで初めてホロは目を丸くした。

「飛んでおる」
「そりゃあ飛ぶわよ」
「人が飛んでおる」
「メイジが飛ばなくてどうすんのよ」
「メイジというのは、鳥の化身かの?」
「人間よ!」

ホロは顔を近づけると、くんくんとルイズの臭いを嗅いだ。

「少なくとも、ぬしは人じゃの」
「あたり前よ!」
「人が、飛ぶのかの?」
「魔法使ってるんだから当然でしょ!」

「ふむ……」とホロは考えた。思い出す限り、人が魔法を使ったと言うのはおとぎ話などでしか聞かない。
化生の多くは司るものに準じた、ささやかな「力」を使うことはあるが。

「ところで今は狩り入れの季節よの?」
「何言ってるのよ、春真っ盛りよ」
「近くにパスロエと言う村はあるかの?」
「聞いたこともないわ」
「……ここは、何処かの?」
「あんた……随分辺境から来たのね」

今一度、ホロは考える。
そういえば、自分の耳と尾を晒していると言うのに、「悪魔憑き」などと言った批判めいた言葉が全く無い。旅芸人でも、普通はこの辺りは気にするだろう。
教会も及ばぬ未開の地と言うこともなかろうに、この反応は少しおかしい。
そういえば眠っている時に鏡のような物をみた気がするが、あれも関係あるかもしれない。

賢いと自他共に認める頭を回転させ、改めて空を見上げると、大きな白月が二つ。
赤みがかったものと、白みがかったものが寄り添っている。

「のう、ぬしよ」
「あんたね、いい加減その言葉使い……」
「月が、二つもあるの」
「月だもの、二つあるわよ」
「わっちらは、酔ってはおらんよな」
「あんたはともかく、私は授業中にお酒呑むようなマネはしないわよ!」

はて、これはもしかすると随分困ったことになっているのでは、とホロは苦笑した。

「もう、さっさと行くわよ!」

ルイズに促され、ついて行こうとしてふと思い出す。
足元に落ちていた毛皮に、散らばっていた一山の小麦ををまとめて包んだ。

「何してるのよ!」
「この小麦がないと、わっちは消えてしまうからの」
「はあ?」

よく解らないと言った顔をしたものの、ルイズはそれを深く追求しなかった。
これ以上つっこむ気力も無かったのかもしれないが。

そんな様子は見ながら、ホロはもう一度二つの月を仰ぐと、自分の頬をつねる。


草原に小さく「アォン」と言う声が響いた。


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