あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの雷帝-04


そして昼食時。
概ね問題なくルイズは午前の授業を消化し、食堂に着いていた。
ゼオンがいない事についてはケガを理由として話しておいた、さすがに子供のケガを揶揄するような生徒はおらず、女生徒に至っては気遣わしげな視線を向けられさえした。

(知らないって幸せなことよね)

今までのゼオンの行動を思い返しつつ席につき、ルイズは溜息をついた。
アレは子供などという可愛らしいモノでは断じてない、自己中と暴言が服を着て歩いているような存在だ。
更に子供らしからぬ知恵と変な能力まで持っているため、始末に負えなかった。

(…けど、そこまで救いようのない嫌な奴でもないのよね)

ゼオンがわざわざ厨房まで行ってシチューを持ってきた事を思い出す。
アレも元はと言えばゼオンが悪いのだが、自らの不始末を自ら率先してフォローしていたのだ。
本当に嫌な奴なら、そんな事はしないだろう。

「…まあ、一緒に食べるくらいのことはしてあげるわ」

ルイズはいろいろ腹は立つものの、少しは許してあげるのが主の器量とゼオンが来るのを待った。
一人で食べさせるのはやはり可哀想だという想いもある、何しろ彼は子供だ、まだ親に甘えているべき時期に使い魔にしてしまったのだ。
子供などという可愛らしいモノではないと認識しながらも、ルイズは少々ながらゼオンに負い目を感じていた。


そして30分後。未だにゼオンは来なかった。
まあ『午後からはついていく』と言われただけで明確に待ち合わせをしていない以上、仕方ないと言えば仕方ないのだが今のルイズにそんな理屈は通用しなかった。
ギチギチ、と音を立ててルイズの手の中のフォークが磨り潰されていく。
これは奴の作戦なのか?自分を怒らせたら何か手に入るものでもあるんじゃないのか?
あまりの怒りにそんな益体のない事さえ頭に浮かんでくる。
と、向こうのテーブルから大きな声が聞こえてきた。
今のささくれだった精神状態には酷く耳障りに思え、そちらを見てみると3人の生徒達が騒々しく話をしていた。
いや、どうやら騒がしくテンションが高いのは一人だけのようだが。

「あのジャイアントモール、お前の使い魔だったのか!」
「一応お前顔はいいのに使い魔は正反対だな、いろんな意味で」
「何を言うんだ!ヴェルダンデこそ僕の使い魔に相応しい!僕達が巡り合う事は始祖ブリミルの大いなる導きだったんだよ!嗚呼、ヴェルダンデ!可愛いよヴェルダンデ!!」

美形ではあるものの間抜けな雰囲気を持った生徒、ギーシュがクネクネと身体を捻らせて恍惚とした表情を浮かべている。
反対にその友人と思われる二人の男子生徒はギーシュの有様に完全にひいている。
一人は皮肉のつもりで『正反対』だと言ったのだが、全く通じていない。

「だめだこいつ…早く何とかしないと…」
「手遅れだ、こいつは完全にイカレちまってやがる。何をやってもあのモグラが可愛く見えるだろうさ」
「嗚呼ヴェルダンデ、どうして君はそんなに可憐なんだい?どばどばミミズは食べたかい?そうかそうか。ああ、口からミミズがはみ出ているよ、慌てん坊だなぁ」
「この食堂のどこにお前の使い魔がいるんだよ、いるのは外だろ外。視界共有してもモグラ自身は見えんだろうに。脳内使い魔と交信するのはやめろ」
「ヴェルダンデの素晴らしさを君達にも教えてあげよう!いいかい、ヴェルダンデは…」
「聞いちゃいねえ…」

呆れる友人二人を余所にギーシュの使い魔称賛独演会は続く。
そうやって使い魔を手放しに賞賛しているギーシュを観ているとルイズは余計に腹が立ってきた。
内容はどうあれ、ああまで気に入る使い魔にめぐり合えたのは素晴らしいことだろう。
それにひきかえ自分はどうか?自分と使い魔の関係は非常に険悪だ。
もし使い魔を召喚できたなら、心を通い合わせ、喜びも苦難も分かち合う関係を夢見ていたのに。

(ふんだ。何よ何よ、羨ましくなんかないんだから)

不貞腐れているとギーシュが話しながら席を立ち、こちらに近づいてきた。
その途中でルイズに気づき、何を思ったのか目を輝かせて勢いこんでやってくる。
何か話しかけられても無視しようとルイズは心に決めた、今は話をする気分ではない。

「ああ、ルイズ!ルイズ!君ならきっとわかってくれるよね!彼らときたら僕の使い魔の素晴らしさを理解しようとしないんだ!嗚呼、その可憐さには薔薇も霞むよ僕のヴェルダンデ…」
「何よ、うるさいわね!あんなのただの大きいモグラでしょ、可憐でもなんともないモグラ!」

しかし内容が使い魔の話だったために思わず反応してしまった。
やはりルイズはそこまで公言できるほど絆の強いギーシュと使い魔―――しかも平民の子供等ではなく普通の使い魔―――が羨ましかったのである。

「ほら、あのルイズもそう言ってるじゃないか!決まりだな。まあゼロだけど」
「彼女、審美眼は確かだぜ?家が家だからな、まあゼロだけど」
「あんた達ほめてんの!?けなしてんの!?いえ、けなしてるのよね!?」

ゼロ、ゼロと連呼する二人の男子生徒にプルプルと震えながらルイズはいきりたった。
公然と3人から一気に否定され、ギーシュは大仰にかぶりを振る。

「ああ、何ということだ!君たちには真の美を見極める目が欠けている!古き良き貴族は死んだ!僕の可愛い毛むくじゃらを美しいと思えないなんて!」

どこか変なところが決まってしまったのか、腐ったドブ川のような目で叫ぶギーシュ。
完全にあっちの世界に逝ってしまっている。
しかしたとえキチ○イ一歩手前にしか見えなくとも使い魔を褒めるその姿はどうしようもなく、ルイズの気分をささくれ立たせた。

「欠けてるのはあんたよ間違いなく!人生かけて断言してやるわ、あれはただのでっかいモグラ!大モグラ!駄モグラバカモグラ醜モグラ!」
「く…!そこまで何度も何度もヴェルダンデが美しくないと連呼するかね君は!」

半ば意地になって連呼するルイズに、トリップ気味のギーシュもさすがに現世に帰還し顔を顰めた。
だが頭が沸騰しているルイズにとってはそんな事知ったことではない。

「事実をあるがままに断言してるだけよ!」
「何かえらくヒートアップしてるなルイズ…」
「ああ、よほど腹に据えかねるものがあるらしいな。ほら、彼女の使い魔ってアレだろ?平民の…」
「なるほど、嫉妬ってわけか」
「うるさいわよ外野!」

ギロリ、と睨みつけるとルイズの眼光に恐れをなしたのか二人とも黙りこんだ。
しかし負けず劣らずヒートアップしているギーシュは意にも介さず芝居がかった仕草で両手を広げ、同時にマントをたなびかせる。

「いいだろう!ならばこの場で見せてあげよう、本当の美というものを―――って、あ」

ぽろ、とギーシュのポケットから小壜が落ちる。
昨日もこの小壜は落ちたが、その時はシエスタの機転もあって大事には至らなかった。
一度あった事ゆえにもう起こらないと思われたが、人には何か問題があっても次はもうないと考えてそのままにする人間と、もう二度と起こらないようにする人間の2種類がいる。
そして、ギーシュは前者だった。
小壜はコロコロ、と存外に勢いよく転がっていく。




一方、ゼオンは今の時間になってようやく食堂に現れていた。
彼が食堂に来るのが遅かったのは、厨房で料理を作っていたためだった。
かつおぶしが朝の分で全部だと聞いた時、彼は肩を落とし目に見えて落胆したが、それならばと彼はホットドッグを自作したのだ。
デュフォーが作っていたのをそこまで熱心に見ていたわけではなかったため手順がよくわからず、作るのに時間がかかってしまった。
故に彼の右手にはまだ食べられてもいない、出来立てホヤホヤのホットドッグがある。
食堂を見やり、ルイズのいる場所を探す。

(あの女は…あそこか。フン、また何か騒々しいことをやっているな)

視界の端にギーシュと言い合っているルイズが見え、ゼオンは彼女の方へゆっくりと歩を進め始めた。
ケガで休んでいるとルイズから聞いていたため、幾人かの生徒が明らかに健常体であるゼオンを見て怪訝な表情を浮かべる。
しかしそんな視線など何処吹く風と彼は歩きながらホットドッグを齧った。

(まあ初めて作ったにしてはこんなモノか)

出来の感想を胸中で洩らす。
素人の自作なのでデュフォーの作ったモノとは比べモノにもならないが、基本的に美味い物は誰が作っても大抵は美味くなるものだ。
むしろアレと比べるのが間違いだ、何しろデュフォーはアンサートーカーの力で最高に美味なホットドッグを作り出していたのだし。
つくづく反則な能力だとしみじみと実感したものである。

(…楽しかったな)

昔を懐かしみ、彼の口端に微笑が零れる。
と、彼が右足を地に下ろす直前で小壜が彼の足元に入っていき、

パリン!

踏み潰した。

「何だこれは?」

靴についた液体を眺め、ゼオンは疑問を零した。
何やら変な匂いがする液体だが、靴によくわからない液体がついているのは好ましくない。
紙などで拭うのも面倒なので、彼はそれを地に擦り付けて拭った。と、そこで。

「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

悲惨な叫びを上げてギーシュがゼオンの元へ突撃してきた。
そのままヘッドスライディング並の勢いでゼオンの足元に頭から滑り込む。

「モ、モンモランシーから貰った香水の小壜が!?ぼ、僕の宝物があああああああ!」

粉々になった小壜の破片を一つ一つ見てギーシュは悲痛に満ちた表情で叫んだ。
いきなりのギーシュの奇行に事情を知らない周りがざわつく。
当事者のゼオンにしてもよく事情が呑み込めず、ただ怪訝な表情で見ているだけだった。
そのままおいおいとギーシュはしばらく涙を流していたが、ふとゼオンの足に目が留まる。

(…この子が踏んだ…その後で足を拭ってた…?何を?僕のモンモランシーの小壜を?割っただけでは飽き足らずにそれを拭ってた?)

ゼオンが足を擦り付けて拭おうとしていた事を遠目にだが見ていたギーシュはゆっくりとその事実を認識していく。
認識が進む度にギーシュの表情が悲嘆から憤怒へと徐々に変化を遂げていった。
完全に認識が終わると、今まで見せたことのない憤怒の表情を浮かべてギーシュは立ち上がった。

「僕の、僕のモンモランシーの小壜をよくも!しかもそれだけならともかく、汚い物を踏んだかのように擦り付けて拭うだって!?いくら子供でも許せない…!!」

ギリギリ、と歯を鳴らして怒りの言葉をギーシュは告げる。
それを聞いて遠くの方で顔を赤く染める女生徒と、暗い顔をする女生徒の二人がいたが、頭に血が上っている彼は全く気づいていない。

「誠心誠意真心を込めて謝りたまえ!君の犯した罪はこのハルケギニアより重い!平民の子供といえど、悪い事をしたら謝らねばならないという事くらいわかるだろう!」

薔薇に模した杖をゼオンに突きつけ、ギーシュは叫んだ。
本気の怒りの色を滲ませての叫び声にまわりの生徒達は何があったのかと好奇心に満ちた視線を注ぐ。

「おい、やめとけって。確かに腹が立っただろうが、お前の言う通り相手は子供だぞ?そう目くじら立てるなよ」
「あのタイミングじゃ踏んじまうのも仕方ないって。んな謝れ謝れって叫んでムキになんのは大人げねーぞ」

憤怒の色を隠そうともしないギーシュをまあまあと友人二人がなだめに入った。
いくらなんでも子供にムキになるのはみっともなさすぎる、不可抗力に近い形でもあったのだし。
だがそこで更に油を注ぐかのような言動が降り注ぐ。

「あの程度であんなに怒ってんの?はっ、情けないわね!」

とてとてとゼオン達の方に向かいながら、ルイズは嘲笑を隠そうともせずに告げた。
普段の自分がまさにその程度以下の事で瞬間湯沸かし器の如く頭を沸騰させているという事実は思いきり棚に上げている。

「情けない?情けないと言ったのかね、君は!これは正当な要求だ、僕は間違ってなんかない!」
「子供にムキになる時点で十分情けないわよ!」
「おいコラ、ルイズ!挑発すんのやめろよ!収まるもんも収まらねーだろ!」
「本当の事じゃない。本っ当に情けないわ、おまけに男らしくない!」
「な、何だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

いっそ清々しいまでに更に心に巨大な棚を作り、情けないとルイズはギーシュに向けて連呼した。
先ほどの論戦の名残故に非常に不機嫌なルイズは挑発を繰り返し、ギーシュは怒りで顔を真っ赤にし、生徒二人はそれを宥め、周囲は見せ物を見るかのように笑う。
ルイズを含めた4人の説得と挑発と憤怒が入り乱った論争は飽きる事なく続いていった。
しかし「いいぞやれー!」と無責任に煽り立てる周囲の中、その様子を完全に呆れ返った眼で捉える視線がただ一つ。

(…何だこのバカどもは)

当事者のはずの、視線の持ち主であるゼオンは完全に取り残されていた。
いきなり足元にヘッドスライディングをかましてきた男はこれまた突如謝れと叫びだすし、そして周囲は説明もせずに目の前の金髪を説得、または挑発している。
特にその馬鹿騒ぎに思い切り加わっているのが仮にとはいえ自分の主人であるという事実が呆れを倍増させた。
まあ別にギーシュが怒ろうが何をしようが、彼にとってはどうでもいいのでホットドッグを食べる方に専念する―――が。

「平民の子供だ、教育もそこまで行き届いてるわけじゃないんだろ」

「俺たち貴族が平民の子供なんかにムキになってちゃかっこ悪いって」

(……………………このバカどもめ…………)

漏れ聞こえてくる説得内容を聞いている内に段々彼は腹が立ってきた。
今に限った事ではないが、この世界に来てからというもの、「平民の子供」、「平民の子供」としつこいくらいにどいつもこいつもぬかすのだ。
そしてその時の周囲の反応からして、それがある種の蔑称である事もわかる。
鳴りやむ事なく連呼される「平民の子供」発言にゼオンのフラストレーションは着実に増加していった。

「あんな平民のチビにそう怒るなって」

ピキリ。

それが致命的だった。ゼオンのこめかみに青筋が浮かぶ。
ファウードを強奪した際に某バカにも『てめえみてえなチビに』と言われた事があったが、その際にも平静に見えて実は彼は結構内心キていたのだ。
(即座にザケルで黙らせてやったが)
ホットドッグを食べるのを中断し、ギロリと目の前の二人を睨む。

「さっきから平民の子供平民の子供とうるさいぞ貴様ら…挙句にチビだと?」

怒りが押し殺された声にギーシュを説得に回っていた生徒二人が振り向く。
その二人の顔は揃って不満げに歪んでいた。

「何だよ、事実だろうがよ。せっかく庇ってやってんのに文句言うなよな」
「余計な御世話だ、大体子供はともかく誰が平民だ」

ゼオンの発言にルイズを含め、全員が疑問符を浮かべる。
その様子にゼオンは更に苛立たしげに眉をしかめ、全員に視線を向けた。

「オレは今は解体されたとはいえ、魔物の王族だ。そう何度もバカにされるほど安くはない」

「「「「…………へ?」」」」

あまりの予想外な発言にルイズ達の時間が停止した。
ゼオンは言いたい事を全部言い終えたからか、再びホットドッグを食べにかかる。
しかし、3…2…1…

「えぇぇええぇえええぇぇぇええ!?」

きっかり3秒後にルイズは天まで届こうかというほどの声を上げた。
同じく驚きの叫びを上げようとしていたギーシュ達だったが、あまりのルイズの声量に耳を押さえ、涙目で耳の痛みに耐えていた。
「キ、キーン、って、キーンってきた!ルイズ、君は、君は何てデカい声を耳元で…!」

涙まじりに泣き事を言うギーシュだったが、ルイズは全くそんな事を聞いてはいなかった。
ルイズはゼオンの方へ飛びつくような勢いで向かった。
邪魔な前の生徒二人を突き飛ばし、ゼオンの肩をつかんでガタガタと揺する。

「ちょ、ど、どどどうゆう事!?おお王族?王族って何よ!というか魔物!?あんた人間でしょ!?そんなの聞いてないわよ!」
「…うるさいぞ貴様」

ゼオンはかなりの勢いで揺すってくるルイズの手を無理矢理に、そして鬱陶しげに外した。
乱暴に外されたのでルイズはたたらを踏むが、その無礼も気にならなかった。質問の方がよっぽど重要だったのである。
体勢を崩していたが、すぐにゼオンに向き直る。

「ゼオン、とにかく答え―――」
「フン、そんなに知りたいか?…まあいい、こいつを食い終わったら教えてやる」

王族だと自分から言い出したのに、いっそ清々しいまでに傍若無人な答えをゼオンは口にした。
ゼオンは最後の一切れをゆっくり口へと運び、十分に味わって咀嚼する。
ガタガタと貴族らしくもない貧乏ゆすりをして今か今かと待っていたルイズは食べ物がゼオンの喉を通過するのを見るなり、叫んだ。

「さあ食べ終わったわね!きりきり答えなさい!黙秘は絶対許さないわよ!」

水くらいは飲みたかったゼオンだったが、ルイズの様子にそれを諦めた。
興味津々にギーシュとその友人たちもこちらを見ているのを視界の端にとられ、鬱陶しさにため息をつく。
しかし約束は約束である。ゼオンは鬱陶しげにではあるが説明を始めた。

「そのままの意味だ。オレは魔物の王族に生まれた者。王たる雷のベルの息子にして長兄だ」
「け、けど魔物ってあんた人間でしょ?おかしいじゃない!」
「オレは自分が人間だと言ってないぞ、貴様らが勝手に勘違いしただけだ。コレで満足か?」

す、とゼオンは自分の髪をかきあげた。
何がそこにあるのかとルイズ達は髪で隠れていた場所を見やり、目を丸くした。
髪に隠れてはいたが、そこには確かに人間にはないツノがあったのだ。
特にルイズの反応は大きかった、阿呆のように大口を開けて完全に固まっている。
3人の反応に「わかったか」と零し、ゼオンはかきあげた髪を下ろす。

「え~っと…じゃあ君は本当に魔物?それでどれくらいのランクか知らないけど王族?」

「お前頭が悪いな。王の息子だと言ったろう、お前の言うランクとやらとしてはオレは王子になる」

ギーシュの何気ない問いに、彼の家族の口癖がうつったのか辛辣な言葉と共に答えを口にする。
む、とゼオンの暴言にギーシュは眉根を寄せた。
それから指を振り、説明し始める。

「いいかね、君。確かに君は魔物の王子なんていう大層な身分だったかもしれない。しかし君、このトリステインの人間社会ではそれでイコール貴族と対等というわけではないんだよ―――はっ!」

その場でジャンプし、くるっと一回転してギーシュはテーブルの上に降り立った。
純粋な身体能力でそれを成したギーシュにちょっとした拍手が巻き起こる。

「フ、決まった…人呼んでギーシュ・スペシャル!」

実は彼はもやしっ子に見えて意外に結構凄いのだ、異なる時間軸ではあるが彼は大剣を投げて地面に突き刺す事すらやってみせたのである。
しかし。

(それに何の意味がある?)

派手ではあるものの、全く意図の見えない行動にゼオンは内心で突っ込んだ。
確かにその行動と、恐らく誰も呼んだことのない技名に一体何の意味があるのかは大いに疑問ではあった。
しかしそんな内心の呟きなど当然ギーシュには届かず、絶好調に右腕を振り上げる。
「礼儀に気をつけ―――」

薔薇を突きつけ、ギーシュは何かの演目のように叫んだ。

「僕にさっきの事を謝りたまえ!」

すてーん。

恥じる事など何もない、『僕は…まっすぐ立ってるぜ』と言わんばかりのあまりにも堂々としたギーシュの謝れ宣言に友人二人がすっ転ぶ。

「お前まだそれに拘ってたのかよ!?」
「当たり前じゃないか!まだ数分も経ってないんだから!」
「いや、時間的な問題でもねーんだが」
「我が家訓に賭けて!僕は!君が謝るまで!要求をやめない!」
「「いや家訓関係ない」」

綺麗にハモらせて、生徒二人は大きくため息をついた。
また説得せねばならんのかと彼らはうんざりした面持ちだったが、結論から言うと説得は行われなかった。
何故なら。

「うふ、ふふふふふふふふふふふふふふふ!」

途中でとても不気味な、イイ笑い声が遮ったのである。
発信源を全員が見やると物凄く嬉しそうな顔でルイズが含み笑いをしていた。
周りの人間は不気味に感じてずざっ!と後ずさったが、そんな事は気にもとめない。
彼女は生涯最高と言ってもよい程の幸せの中にいた。

(わたしは、わたしは、とうとうやった…もうゼロなんかじゃないのよ!)

そうだ、ゼオンが魔物という事は自分は召喚に成功していたのだ。
人の言葉がわかるという事はゼオンは韻獣であるという事である、数多いハルケギニアの魔物の中でも人語を操る魔物は非常に少ない。
それだけでも凄いというのに王族である、王族。しかも王子。

「うん、ちゃんとわたし出来てた。わたしすごい。魔物の頂点呼んだわけだからもうすごすぎるわね、使い魔を見ればそのメイジの実力わかるんだから王子呼んだわたし無敵ね、あらやだこれはもう罪だわ」

ルイズは先ほどのギーシュを思わせるようなトリップに浸った。
目が常人とは間違いなく違うところを見ている。
今までさんざんゼオンに煮え湯を飲まされ、召喚に大失敗したと思っていただけに成功していたと知った時の彼女の喜びは何十倍にも高まった。
と、何を思ったのかルイズはそのヤバげな目をギーシュに向ける。

「うん、認めてあげるわギーシュ。あんたの使い魔『少しは』いいんじゃない?わたしには敵わないけど?もう天地って感じ?」
「な、何だって!?ヴェルダンデが圧倒的に劣るっていうのか!?それ以上の侮辱は許さないぞ、ルイズ!」

この上なく絶好調なルイズは先の意趣返しか、使い魔を引き合いに出してギーシュを更に挑発し始めた。
主人バカであるギーシュは当然激しく反応し、今度は使い魔の事で論戦が起き始める。

「何だこのカオスは…」
「いやもうホントわけわかんねえ」
「同感だ」

ゼオン達3人は思いを一つにしてジト目でルイズ達を見やった。
しかしそんな3人の冷め切った瞳も全く彼女達には届かず、尚もヒートアップしていく。

「だってわたしの使い魔の方が凄いし?魔物の王子だし?」
「いいだろう!ならどっちの使い魔が優れてるか互いの使い魔同士の決闘といこうじゃないか!君の使い魔が負けたならば僕のヴェルダンデの素敵さを認め、そしてさっきの事をそこの使い魔に謝らせたまえ!」
「はん、望むところよ!反対にあんたが負けたら二度とわたしにゼロとか言わない事を約束してもらうわ!さあ行くわよゼオン!」

びしぃとギーシュに指を突きつけ、ルイズは獣か何かをけしかけるかのように叫ぶ。
しかし、そう命令を下されたゼオンの方はといえば。
「…バカバカしくて付き合ってられん…」

心底呆れたと言わんばかりの言葉を残し、踵を返して彼女たちに背を向けた。
テンションの高まったルイズにとっては予想外の、そしてゼオンの性格を考えれば当然の反応にルイズは思わずつんのめった。

「ちょ、ちょ、ゼオン!?」

あまりにも流れと空気を無視した言動に驚き、ルイズは振り向くがゼオンは本当に関わる気がないらしく足を止めもせず、出口へと向かっていく。

―――そうだった。こいつが魔物の王子だって事が判明してもこいつの性格まで変わるわけじゃないんだった―――

当然と言えばあまりにも当然な事にルイズは今更ながらに思い至り、夢心地な気分から急転直下、彼女の気分は地獄まで叩き落とされた。
使い魔に見捨てられたルイズの様子に暫しギーシュは目を丸くしていたが、次第ににんまりと表情が変わっていく。

「あっはっはっはっは!さすがゼロのルイズ!全然使い魔を御せてないじゃないか!」
「う、うるさいわね!」

ギーシュの揶揄にルイズは叫ぶが、その声には力がこもっていなかった。
『使い魔を御せていない』、それは正しく真実であったからだ。
まあその責任のほとんどはルイズではなく、ゼオンにあるのだが。

「まあ仕方ないな!それにそこの子供は確かに魔物なんだろうけど、王族だっていうのは自己申告だ!本当かどうかわかったものじゃない!」

ハッとしてルイズは口元に手をやった。
確かにギーシュの言う通り、魔物である証拠は見せられたが王族だという事はあくまでゼオン自身が言っていた事である。
彼が王族である証拠については何もないのだ。
テンションの高まったギーシュの口上は尚も止まらない。

「たとえ王族だったにしてもだよ?それが強いかどうかは別問題じゃないか!」
「そ、そんな事ないわよ!こいつ記憶読んだりとか変な能力持ってるし!」
「そんなのは強さに全く直結しないな!その子がすごく弱い貧弱王子だったとしても不思議は」

「言うな、ゴミが。ならばお前の使い魔とやらにその証を刻んでやろう」


静かに、怒りに満ちた声が響く。
全員の背筋にぞくりと寒気が走り、一斉にその声の元へと視線を向けた。
その先には、ゼオンの後ろ姿があった。
バチリ、と右手の上で小さな雷を弾けさせ、冷たい視線を携えてゼオンは振り向く。

「ゼオン…?」

あのまま食堂を出て行ったと思っていたため、ルイズは呆然としてただ彼の名を呼んだ。
ゼオンはそちらをちらりと一瞥したが、すぐに視線を外してギーシュに射抜かんばかりの視線を向ける。

「どこでやる。まさかここでやるなどとバカな事はヌカさんだろうな」

言葉こそ何気ないモノではあったが、そこには恐ろしいまでに強い怒りが込められていた。
その気迫に気圧され、ゴミ呼ばわりされたにも関わらずギーシュは怒ることさえ忘れている。

「う、うん。そそそうだね、ここ、こっちだ。ヴェストリの広場でやろう」
「そ、そそうだな。うん、それがいい」
「あ、ああ。そそうしよう」

その怒りから逃げるように足早にギーシュ達は進んでいった。ゼオンもまた後を追い、彼らは食堂の出口へと歩いていく。
未だ呆然としているルイズを通り過ぎる。
しかし、その途中でゼオンだけはぴたりと足を止め、ルイズを見ようともせずに言った。

「言っておくが勘違いするな。オレは貴様の名誉なんかどうでもいい。オレはただオレのプライドのためにあのゴミの使い魔を処理するだけだ」

それだけ告げるとゼオンは今度こそ食堂を出て行った。
告げられた言葉にルイズは眉根を寄せ、不機嫌になる。
そんな事などわかっている。あの使い魔が自分の事を考えて決闘を受諾したなど万が一にも有り得ないのだと。

「わかってるわよ、そんな事!覚悟しときなさいよ、そこまで言って負けたりなんかしたら許さないから!」

肩を怒らせ、ルイズもまた食堂を出ていく。

だから―――気付かなかった。
ゼオンが何故まだ食堂を出て行っていなかったのかを。
ギーシュが口上を述べていた時に彼が足を止めていた事を。
そしてその足を止めたのはゼオンへの侮辱が聞こえた時ではなく、その前だった事を。
何故、あれほどまでにゼオンが怒っているのかを。

“さすがゼロのルイズ!”

誰も気づかない。彼自身も含め、その理由に誰も―――気付かない。
主役達のいなくなった舞台にはただ、観客の喧噪のみが残っていた。


新着情報

取得中です。