あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

『風上』のしっとマスク

『総統!』『総統!』『総統!』『我らが英雄!』『しっと団万歳!』
 地下に儲けられた秘密の会場に、男達の声が木魂する。
 会場の中は割れんばかりの歓声と、そして興奮した男達の発する熱気でむせかえっている。
 男達は皆上半身裸(というかパンツ一枚)。冬のトリステインにあってはそれだけでも頭がおかしいと言われそうな格好だが。
 さらにそれに加えて男達は皆一様に、己の顔を隠す仮面をつけていた。
 裸にマスク、誰が見ても間違いない。これは変態の集まりだ。

 男達に囲まれた壇上の一人の男がいる。
 年はまだ少年というくらいだろう。背の低いポッチャリと太っただらしない体つきをしている。
 一見すればそれは壇上に立つには相応しくない風格である。しかし、少年がまとう「オーラ」は他の誰よりも強かった。
 肉体的な強さなど意味は無い。そのオーラこそが大事なのだ。つまり――モテないオーラ。
 男は拳を振り上げ、高らかに言う。

「降臨祭である!」
 男は他の者たちとは違う面をつけている。覗き穴が空いた頭全体を覆うマスク。その額には異界の文字が書かれていた。
 それはこの場の誰にも読むことは適わないはずであるが、そんな常識は男達に関係ない。
 男達は魂でその文字を読み取っている。すなわち――「しっと」と。
 ゆえに男はこう呼ばれるのだ。


                  『しっとマスク』と!


「降臨祭とはそもそもなんであるか、レイナール!」
 レイナールと呼ばれた少年らしき男性(やはりパンツ一丁にマスク)は、一歩前に出て片膝をつく。
 この偉大なる男に、自然とその膝は折れるのだ。

「はっ、元は始祖ブリミルの降臨を祝う神聖にして厳かな日であります」
 およそ6千年前、このハルケギニアに降り立ったとされる始祖ブリミル。その降臨を祝す日こそ、『降臨祭』である。
 この日だけは、たとえ戦争中であってもそれを中断するほどに神聖なものだ。
 しっとマスクはレイナールの言葉に、我が意を得たりと頷く。

「その通りである……。だがしかし! 今や、降臨祭といえば何かを勘違いした破廉恥なアベックどもがイチャつく日となっておる!」
「「「「おおおおおおおおおおお!」」」」
 しっとマスクの声に、男達は震える。そう、今宵こそ降臨祭。
 その降臨祭に何の用事も無く、こうして地下秘密会場に集う男達。
 つまり彼らには――愛人が、恋人が、彼女がいないのだ!

「与えねばなるまい……。アベックどもに天罰を!」
 自分達がここでこうして慟哭しているその時にも、抱き合い、キスをし、あるいはそれ以上の行為をしている男女がいる!
 その事実……誰が許しておけようか。
「おおおおおお!」
 ゆえに、男達は立ち上がる。ただ座して己の一年を悔やむのではなく、一つでも多くの不幸をアベックに振りまくために!
「さぁ、聖戦の始まりだ!」
 そして今、飢えた野獣が野に解き放たれたのだ!

                          ○

「ふっ、今日は降臨祭だね。モンモランシー」
「そうね、ギーシュ」
 学院の中庭で、ワイングラスを手に少女と向き合う少年。
 ギーシュと呼ばれたその少年は、ポケットから小さな包みを取り出す。

「これは僕からのささやかなプレゼントさ」
「まぁ! 何かしら?」
 受け取った少女、モンモランシーは丁寧に包まれた箱を開ける。すると中には……
「素敵!」

 きれいな宝石のあしらわれた銀の髪飾りが入っていた。
 安いものではあるまい。そのアクセサリーからは少年の愛が感じられた。
「ああ、ギーシュ……」
 感極まった少女はゆっくりと目を閉じ、
「モンモランシー……」
 少年もまた、彼女の唇に……


「待てーい!」


 触れようとしたその時。中庭に高らかに響く声があった。
「な、なんだね君たちは!」
 驚いたギーシュが辺りを見渡せば、いつの間にか自分達は囲まれていた。
 奇妙な覆面をした男と、それに従う仮面の男達。
「神聖なる降臨祭に数々の破廉恥な振る舞い……たとえ始祖ブリミルが許しても、このしっとマスクは許さん!」
「じゃ、邪魔をするな!」

 突然あらわれた変態を退治ようと、ギーシュが杖を振るう。彼の魔法に反応し、数体のゴーレムが姿を現す。
 それは並の人間など一撃で倒す強力なゴーレムである。見れば、しっとマスクもその仲間も杖など持っていない。
 たとえ彼らがメイジであっても、魔法を使うことなどできない。
「いけ! ワルキューレ!」
 ギーシュの言葉に、ワルキューレがしっとマスクに襲い掛かる。だが、
「ふん……。甘いわああああ!!!」
 しっとマスク。その裂帛の気合とともに繰り出された拳は、容易くゴーレムを粉砕する。
 げにおそろしきはしっとの力。怒れるしっとの心の前に、モテる男の魔法など通じるわけがない。

「ふん、このようなモノ……。やれい! ギムリ!」
「はっ!」
 ギムリと呼ばれた少年は、壊れたワルキューレにとりつき何やらその青銅の体を触りだす。
 瞬く間にギーシュのワルキューレはその形を変えた。……等身大の超精巧なモンモランシー人形に。
「見事だ、ギムリよ」
「ありがたきお言葉!」
 仕事を終えたギムリは下がる。しっとマスクは1/1モンモランシー人形を見せ付けるように抱きかかえる。

「さて、この等身大フィギュアだが……」
「ひっ」
 自分そっくりのその人形を見せられ、モンモランシーが悲鳴を漏らす。
「我らしっと団アジトにて、毎日毎晩拝み倒してやるわああああああああ!」
「いやああああああああああああ!?」
 自分と同じ顔の人形の末路を想像し、モンモランシーは卒倒する。
「そして貴様はこうだ!」
「ぐわぁっ!」
 拳を一撃、ギーシュに見舞うと。貧弱ボーイのギーシュはそれだけで吹っ飛んでしまった。
 ここに、一組のアベックの成敗が完了した。

「総統! さすがです」
「……うむ」
 痛快なしっとマスクの一撃に、一人の団員が駆け寄ってくる。しかししっとマスクの声は苦い。それもそのはず、
「……まだだ!まだ我らには最大の敵が居る! ヤツを倒さねば、このしっとマスクは新年を迎えることはできん!」
 彼らにはまだ倒すべき敵が残っているのだ。
 一人の女のみならず、複数の女を侍らすという、しっと団にとって不倶戴天の大敵。
 その名も――

「ヒラガ・サイト! ヤツを血祭りに上げずして何のしっとマスクか! 何のしっと団か! 行くぞ者ども! 敵はルイズの部屋にあり!」
「うおおおおおおおおおおお!」
 鬨を上げたしっとマスクに団員達が呼応する。
 そしてそんなしっとマスクの熱く燃える体に、はらりと雪が落ちる。
「雪か……『銀の降臨祭』というわけか! よかろう! この雪をヒラガ・サイトの血で真っ赤に染めてやるわー!

                          ○

 ところかわって場所は遠く離れたアルビオン。そのとある街を、一人の男が歩く。
「ふっ……今年の降臨祭も一人か……」
 よく手入れされた髭の似合う、眉目秀麗な青年である。しかし彼は独り身、彼女無し婚約者無しの身である。
 男は何も顔がよければいいというわけではない、典型的な例であろう。
 自嘲気味に笑い、そして男は言う。

「寂しい降臨祭か。……しかし、今宵の私、ジャン・ジャック・フランシス・ワルドにはこれがある!」
 ばっと懐から取り出したのは小箱。これまた丁寧に包装された包みだった。
「ふっ、マチルダめ。用事で留守にするからと言っていたくせに、
こんなプレゼントを残すとは……なかなか可愛いところがあるではないか」
 それは彼の仲間の一人の女性が、彼に残したものだった。
「さて、開けさせてもらおうか!」
 彼もまた、寂しく降臨祭を過ごすことに嫌気を感じていたのだろう。ウキウキとしながら包みを開く。

「む、これは手紙か……?」
 意外なことに、箱の中に入っていたのは一通の手紙。
「ふっ、そういうことか……」
 ワルドは得心する。降臨祭、そして手紙。ならば考えられるのは一つだ。
「恋文だな! ふふふ、乙女チックなことをするやつめ……そういうのは大好きだぞ!」
 納得し、手紙を開く。だが、そこに書かれていた文面は。 


      『村で妹たちと楽しく降臨祭を過ごします。あんたはそのへんで適当にすごしてなさい。
       ロリコンのあんたを呼ぶと妹たちの貞操が危険なのであんたは呼びません。

       追伸。晩御飯はこれで食べてください』


「………………」
 絶句するワルド。そしてポトン、と何かが封筒から転げ落ちる。
 5スゥだった。
「う、うおおおおお!」
 ワルドは慟哭の声を挙げ、そして――彼の体を閃光が包んだ!

                          ○

「サイトさん。私の作った料理です、アーンしてくださいね」
 メイドが料理を彼の口元に運ぶ。

「こ、このバカ犬! メイドの料理なんか食べる前にワインでも飲みなさい! わ、私が特別についであげるわ!
勘違いしちゃ駄目よ! 降臨祭だから、降臨祭だから特別なのよ!」
 顔を真っ赤にしながら、桃色の髪の少女が彼のグラスに酒を満たす。

「……野菜も」
 無表情の少女が、小さなフォークでハシバミ草を刺して彼に差し出す。

「い、いっぺんにそんなに食えねえよ! 順番にしろ順番に!」
 そして彼、サイトはそんな彼女たちに囲まれてなんとも嬉しい事情で困っていた。
 彼の懐には二通の手紙がある「降臨祭をいっしょに過ごせなくて残念です」という内容の、
 アルビオンのティファニアと、トリスタニアのアンリエッタという二人の女性から送られたものだ。
 つまり彼は、降臨祭を謳歌していた。

「ぐ、ぐはあああああああああ!」
「総統! 我々は……もう駄目です!」
 それを窓の外から眺めていたしっと団団員は、そのあまりの毒気(=甘い雰囲気)にやられ虫の息だった。
「お、おまえたち! しっかりしろ!」
「我々は……もう駄目です。総統……あなたに全ての希望を……グハッ!」
「ぎ、ギムリイイイイイイイイイイイ!」
 血を吐き、息を絶やすギムリの(男として死んだ)亡骸を抱え、しっとマスクは血の涙を流しながら吠える。
「許さん、許さんぞサイトおおおおおおおお!」
 うおおおおお、と叫びながら部屋の中に突入するしっとマスク。


「ぐわああああああああ!」
 次の瞬間部屋の外に叩き出される。
 何のことは無い「うるさい」の一言とともに振るわれたタバサのエアハンマーに吹き飛ばされたのだ。
 このしっとマスク、男にはめっぽう強いが女にはめっぽう弱いのである。
「くっ、やはり……やはりヤツには勝てんのか!」
 少女になじられ暴力を振るわれたというその禁忌の快感に震えつつも、しっとマスクは唸る。
「我らモテない男はやつにひれ伏すしかないというのか!」
 嘆くしっとマスク。だが、その肩を叩くものがあった。

「……苦戦しているようだな、兄弟」
 振り返ってみて、しっとマスクは驚く!
「お、おまえは! しっとマスク2号!」
 誰あろう。そこに立っているのはしっとマスクと同じ覆面を被った一人の男、しっとマスク2号だ。
 もちろん、その正体は誰も知らない。覆面からなびく後ろ髪や、身につけた改造魔法衛士隊制服も誰のものかわからない。
 それでもこのしっとマスク2号、中身はかなり美男のように思われが、そんな美醜の差異はしっとの心に関係ない。
 しっとの思いに心が震えたものならば、誰でもしっとマスクになる資格がある。

 かくいうしっとマスクも、もとはただのぽっちゃり小太りの少年でしかない。
 しかし、彼のしっとに満ちた心が召喚した「しっとの神」に認められた以上。彼はしっとマスクであるのだ。
 ガンダールヴなどというもったいぶった伝説ではない、今ここにいる英雄。それこそがしっとマスク!
「ふっ……やつら好き勝手やってくれてるようじゃないか」
 窓の中の光景を見つめ、2号は拳を握る。その拳は震えている。
「2号……おまえ……」
 しっとマスクは気付く。2号の拳の震えは恐れなどではない。むしろ逆、武者震い!


「やってやろうじゃないか、1号。俺たちの力を見せ付けてやろうじゃないか!」
「お……おう!」
 ガシッ、と堅く手を握りあう。今ここに、二大しっとマスク夢の競演が実現したのだ!
「俺とおまえ、1号と2号で……ダブルしっとマスクというわけだな!」
「俺たち二人の力ならば、いかにやつらとて……!」
 頷きあい、二人は肩を合わせ高く飛翔し、窓の中、仇敵ヒラガ・サイトに狙いをつけ最大の一撃を放つ。
「「行くぞ必殺! ダブルしっとマスクキィーッ――


「うるさあああああああああああい!」 


「ぐはああああああ!?」
 蹴りが窓に触れるその直前。強く開け放たれた扉に撃墜され、二人は落下する。
 中から顔を出したのは桃色の髪の少女だ。
「あ、あんたたちさっきからうるさいのよ。こっちは忙しいんだから、邪魔してんじゃないわよ!」
 窓の中ではいつの間にか状況が変わったのか、ボコボコに顔を腫らした少年が仰向けに倒れ。
 その上で大きな杖を構えた小柄な少女と、酒瓶を剣のようにかまえたメイド服姿の少女が睨みあっている。
 まさに一触即発。この桃色の髪の少女もその戦いに参加するのだろう。

「どっか行ってなさい変態どもおおおお!」
 言葉とともに少女が唱えた呪文が発動する。
「あ……」
 眩い光が、戦艦一つを呆気なく打ち落とす大火球が、ダブルしっとマスクに向い。
 そして――
「ノワアアアアアアアアア!?」
 しっとマスクは跡形も無く消滅した。


 こうして大きな謎を残したまま、しっと団の降臨祭作戦は終わりをとげた。
 しかし、しっとマスクはその間際。一つの言葉を残す。
「あ、アイシャルリターン……」
 すなわち――スレイプニィルの舞踏祭で会おう!と。

新着情報

取得中です。