あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

オッツ・キイムの使い魔-04

 吟遊詩人は歌い伝える。
 この伝説の始まりを―――

 それは零より始まる。
 何も持たず何も知らぬ、それは零なる者。
 己の力も、己の強さも、己の弱きことさえも、何一つわからぬ零なる者。

 それは零より始まる伝説なり。


××××××××××××××××××××××××××××××


 太陽が空を青く彩り、夜に凍えた木々たちを暖めはじめる。
 雲は黒から白へと着替え、小鳥たちが朝の歓びをさえずり、その唄を背景に人々が動き出す。
 朝がしっかりと形を成してきたその頃、ルイズはようやく再び目覚めた。

 まず湧いてきたのは怒りだった。あの平民、まだ帰ってきてないの?
 次に湧いてきたのは焦りだった。早く帰って来なきゃ、朝食に遅れちゃうじゃない。
 それから湧いてきたのは不安だった。もしかしたらあの平民、逃げたんじゃないかしら?
 昨日のことを思い出す。すごいすごいとキラキラ楽しそうな顔。ぼろぼろ涙を流す顔。理解できなくて頭がぐるぐるしてる顔。可愛いと言って、にっこり笑った顔。
 そうして最後に心配になった。
 何というか、あのころころ表情が変わる年下の少年は、どこか放っておけないところがあるのだった。
 あ、いや、でも、私の使い魔なんだから心配して当然よね。うん、当然よ。
 心の中、誰にでもなくルイズは言い訳した。

『も~! よーやく目覚めたの!?』
 着替えていると、窓から妖精が怒鳴り込んできた。どうやら見える範囲を捜索していたらしい。
 ああそういえばこれもいたっけ、と思う。脳内で存在を一時消去していたようだ。
 妖精を呼び出して嬉しかったはずなのに、あんまり生意気でやかましいので、一晩ですっかり嫌になってしまった。小さいくせに結構大きいのも気に入らない。どこがって、態度とか胸とか胸とか、胸とかが。
 早く早くと急かすレムに、あくまで口調は偉そうに、けれど内心恐る恐る問いかける。
「…無いとは思うけど、まさか逃げたってことはないでしょうね?」
『ナイわ』
 レムはきっぱりと言った。
『あの子が私を置いて、ドコかに行くわけナイもの』
 その響きは安定していて、疑惑の欠片もなかった。どこまでも信頼しているのだ。
 ルイズはほっとすると同時に、少し悔しくなる。昨日出会ったばかりの自分が劣るのは当たり前なのだが、それでも悔しかった。なによ、あれは私の使い魔なのに。
 だからつい口を出してしまう。
「…ふんだ。あんた、あんまり煩いから、捨てられたのかもしれないじゃない」
 ピキッという音がした気がする。レムの額に青筋が立った。
『アンタ、言っていいコトと悪いコトがあるわよ!
 第一、そしたらアンタなんか、捨てご主人様じゃない!』
「す、捨てご主人様って何よ! 意味わかんないわよ! この捨て妖精!」
『いつ誰が捨てられたってゆーのよう!!』
 ぎゃいぎゃいと騒ぐその内容たるや、どう贔屓目に聞いても、立派な子供の喧嘩である。
(この子とは絶対仲良くなれない!)
 実は同じことを考えていたりする。お互い様なのだった。


 使い魔のサラマンダー、フレイムの頭を撫でながら、キュルケはさて、今日はどうしようかと考えていた。
 どうしようかとは、どのようにルイズをからかおうかということである。
 何せ昨日の召喚の儀で、ルイズはよりによって平民と契約した。からかいのネタには事欠かない。
 自室のドアに寄り掛かり、廊下の様子に耳をそばだてながら、ルイズの反応を思い描く。
 ルイズが部屋から出たところを見計らって、このドアを開く。さも偶然かのように朝の挨拶をし、まずは妖精を召喚できたことを驚き、それから平民と契約してしまったことを驚こう。
 キュルケは恋愛の次に、ルイズをおちょくるのが好きなのだった。

『だからスグに探しに行こうって言ったでしょー!』
「仕方ないじゃない! 普通の使い魔は、どんなに離れても自力で戻ってくるのが当たり前なんだから!」
 勢いよく開いたドアの音と共に聞こえてきたそれは、キュルケを大いに拍子抜けさせた。
 せっかく聞き逃さないようにと気を付けていたのに、ベッドで眠っていても起こされそうな騒々しさだ。
 キュルケがドアを開くと、なおも口論を続けるルイズと妖精がいた。
『あの子は方向オンチだって最初に言ったじゃナイ!』
「ここまでとは思わなかったのよ!」
「おはよう。朝から何の騒ぎかしら、ミス・ヴァリエール」
 はっとしてルイズが振り向く。嫌そうな顔。一番会いたくない奴に会っちゃった、と顔に大きく書いてある。
「…おはよう。あんたには関係のないことよ」
 ぷいっと顔を背ける。
『ナニ、友達? なら一緒に探してもらいましょ!』
「と、友達じゃないわよ、こんなの」
「あら、ずいぶんとひどい言い草ね。…ところで、探すってなんのこと?」
 キュルケはにやっと笑って訊いた。なんだか楽しいことになりそうだ。直感だった。
 あんたには関係ない、と繰り返そうとしたルイズを遮ったのはレムだった。
『ウリックが迷子になっちゃたのヨ。ホラ、昨日ルイズが召喚して契約した男の子…』
「ば、ばかっ! 何で言っちゃうのよぉ!」
 ルイズは怒鳴ったが、もう後の祭りだった。
 キュルケはポカンとした表情になったが、次の瞬間笑い出した。風船が破裂したような勢いで、王宮のファンファーレすら圧倒しそうな大声で。
「あっはっはっは! ま、迷子って…使い魔が!? あはははははは!!」
 ルイズは唇を噛み締めた。だからキュルケには、キュルケにだけは知られたくなかったのに!
 笑い声に合わせて、大きな胸がゆさゆさ揺れる。今にもブラウスから零れそうだ。ああもうますます腹が立つ。
「さすがルイズの使い魔ね! 帰巣本能すらゼロ! その上平民!
 何の役にも立たなそうだし、まさにゼロの使い魔ってとこかしら!
 おっほっほ、とってもお似合いじゃない! ゼロのルイズ!」
 ルイズは何も言い返せない。全部図星だったからだ。顔は赤く染まり、拳をぎゅっと握り締めている。
 そんなルイズの様子を見た妖精は、キュルケをキッと睨みつけた。
『…ちょっと! アンタ、さっきからヒドいコト言い過ぎよ!』
 ルイズは驚いてレムを見る。自分を庇うつもりなのか。実はいい奴なのかもしれない、と少し感動した。
『ウリックをバカにするなら、私が容赦しないんだカラ! この子のコトは別にいーケド!」
「ちょっと待った」
 前言撤回、大撤回。
「なんで私のことは庇わないのよ! 大体平民で役立たずなのは本当のことじゃない!」
『なによう! 確かにウリックはちょっとおバカさんで方向オンチだケド、
 料理上手だし強いし、いぢわる貴族のルイズよりずぅーっと優しいんだカラね!』
「誰がいぢわる貴族よ、誰が!」
 またしても始まるくだらない口論。
 すっかり笑う気の萎えたキュルケは、呆れた顔で2人を眺めていた。昨日の今日で随分と仲良くなったものだ。
 ちょっと面白くない。お気に入りのおもちゃを取り上げられたような心境だった。


 激しさを増す言い争いを止めたのは、意外な闖入者だった。
 風である。
『「きゃあ!?」』
 窓のない廊下に吹いた突風は、ルイズたちの髪を舞い上げる。
 それが収まって目を開くと、青い髪が3人の視界に入った。
 キュルケの親友のタバサだ。
「…あら。タバサ、おはよう」
 おはよう、と淡々と返すタバサを見て、キュルケは首を捻った。
 先ほどの風はタバサの魔法だろう。それは間違いない。しかし、この少女がわざわざ他人の口論を止める理由が思い当たらなかった。
 誰が何を騒ごうと、サイレントでもかけて、我関せずと本を読む。それがタバサという少女なのだ。
 迷いなくルイズとレムの前に歩み寄ると、タバサは一言、ただ一言だけ呟いた。
「ウリックのさらしが切れた」
『!!』
 さらし? と聞き返すルイズと違い、レムはそれだけで全てを把握した。
『…来て! 荷物に予備のが入ってるカラ!』
 タバサは頷くと、レムに促されるまま、ルイズの部屋に入って行った。
 ウリック達と一緒に召喚された荷物を手に取ると、ルイズの部屋から出て、妖精を伴い自室へと向かう。
 てきぱきとした一連の動きに、混乱したルイズの脳の処理速度は追いつかない。
 タバサがドアを開けたところで、ようやくルイズは我に返った。
「ちょ、ちょっとあんた! 私の使い魔を知ってるの!? 今どこにいるのよ!」
「すぐに返す」
 慌てて追いかけたルイズの眼前で、タバサの部屋のドアが閉じた。
「返すって、そこにいるの!? 詳しく説明しなさいよ! いったいどういう…」
 ドアノブを回そうとする。回らない。鍵がかかっていた。
 何よ…何よ、何なのよ!
 ルイズは苛立ちに任せてドアを叩く。強く叩きすぎて手が痛んだが、それでも叩き続けた。
 みんなして好き勝手して、好き勝手言って!
 何もかもが気に入らない。自分と使い魔をバカにするキュルケも、自分がわからない使い魔の居場所を知るタバサも、自分よりも使い魔と強い絆で結ばれているレムも、自分が知らないうちにどこかに行ってしまう使い魔も。
 全部が全部腹が立つ。あれは私のものなのに。
 イライラするのとわけがわからないのが胸の中でぐるぐるして、何故か涙が出そうになって、ぐっと堪えた。
 両手をドアに打ちつける。叫んだ。

「それは、私の使い魔なのよ!!」

 そこには、静けさしかなかった。

新着情報

取得中です。