あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと迷宮職人-07



ゼロと迷宮職人 第七「階」 ぼくもご家族を助けるの手伝います!


/1/


二つの月が夜空に輝き出す時刻。学生寮の個室は、どの部屋も明かりが点いていた。ルイズの部屋も
それは同じ。部屋の主人は化粧台の前で渇ききっていない髪をタオルで丁寧に拭いていた。
王都から帰ってきてすぐに、風呂に入ったのだ。やはり、人込みに塗れれば埃も付く。
汚れたままの格好でいるのは貴族として乙女としてあってはならないことだった。
アレンとは学院に着いた時に分かれた。買って来た荷物を使用人に預けるそうだ。学院の倉庫の
中に紛れ込ませるとかいっていた。それで大丈夫なのかと疑ってしまったが、よくよく考えれば
備品管理なんて面倒で細かい仕事、学院教師がやるはずもない。問題もないだろうとルイズは思った。

「それにしても……何とかならないのかしら、アレ」

ルイズは鏡に映った己の不機嫌な顔を見ながらため息をついた。アレ、とはシャベルとデルフリンガーの
舌戦である。買ったとき、武器屋の店主から鞘にしっかり収めれば静かになる、と教えてもらった。が、
アレンが喋りたいときに喋れないというのはかわいそうだ、とそれをしないのだ。

『泣いた! 全オレ感動の嵐! 不当の扱いを受ける全てのオレが感激の涙!』

アレンの言葉を聞いたデルフの言葉である。そんなわけで帰ってくる最中、シャベルとデルフの
エンドレスファイト(使用兵装:言葉)を強制観戦させられたのだ。

「帰ってきたら躾けよう。そうよ、アレンみたいなよい子に」

うむ、と頷いて雑貨を入れたタンスを見る。そこには伝家の宝刀『乗馬用の鞭』が出番を待ちわびている。

「ふふ。今夜の鞭は血に飢えているわ……もとい、鉄に飢えているわ」

くふ、くふふふ、と押さえきれない暗い笑いをするルイズ。サドッ気全開である。唐突に、ドアがノック
される。

「ふ……こほん、だれ?」
「僕だよルイズ。アレンはいるかな?」

ドアを開いて現れたのは、ギーシュだった。片手に菓子を乗せたトレイを持っている。

「いないわよ。何の用よ色男」
「はっはっは。いや、今日のお詫びにと思ってね」

机にトレイを載せる。何のことはない、厨房に行けばもらえる焼き菓子だ。

「ずいぶんやっすいお礼ね」
「う。ま、まあ、コレは気持ち、気持ちさ。用意ができたらちゃんとした物をもってくるとも」
「本当かしら……」

とりあえず一枚、焼き菓子をかじる。いつもと同じ味である。ギーシュは部屋にあるポットを
勝手に使い、茶を入れ始める。そして、来訪を告げるノックの音が再び。

「また? ……だれ?」
「アーレンくーん、あっそびーましょー」
「かーえーれー」

容赦のない返答をスルーして部屋に侵入してきたのはキュルケとタバサである。


「あれ。いないじゃない。ちょっとルイズ、アレン君どこやったのよ」
「あんたにゃ関係ない。つーか、部屋から出ていきなさい」
「んーふーふー? いーのかしら、そんなこといって」

自信に溢れた笑みでルイズを見る。見られた当人は、口元が笑いの形でひくついている。

「あ、あによその笑いは」
「今日は武器屋でずいぶんと大もうけしたみたいじゃない、ルイズ?」
「ブッ!?」

危うくお茶を戻すところで踏みとどまるギーシュ。ルイズも含んでいたら吹いていたことだろう。
飲みかけだったら気管に入っていたところだ。

「な、ななななな」
「アンタが武器を錬金? しらなかったわー、何時ゼロの汚名を返上したの? 是非拝謁させて
いただきたいわ、ミス・ヴァリエール?」

交渉とは、先手必勝である。まず殴る、ないし殴ると見せかけ、その後手を引いて油断したところに
自分の意思をねじ込む。金で爵位が買えるゲルマニア、商人がシノギを削りあう国。
そこで幾多の色恋を嗜んだキュルケである。こういった事柄は、箱入り娘であるルイズより
はるかに詳しい。秘密にしていた事柄を次々に言われ、早くもルイズはグロッキーである。

「そういえばルイズ。貴方たーくさんの木材と藁束を買っていたわね。もしかしてあれが錬金の
秘薬なのかしら。ああ、知らなかったわ! そんな方法があったなんて! さっそく
学院のみんなに知らせなくっちゃ。きっとみんな大騒ぎね」

わざとトリステイン貴族のように演劇的な振り付けまでしてみせる。もちろん、キュルケ自身
木やら藁束が秘薬になるとは思っていないし、ルイズが錬金を成功したなど信じていない。
今回の購入物のことが知られれば、当然用途を詮索される。学院中の人間に、である。
わざわざ秘密にしていたことだ。きっと致命傷になるだろう、という推測の元での
発言だったが、まさにビンゴね、とキュルケは心の中で笑みながら思った。
さあ、つぎは引きだ。

「でも、今まで誰も思いつかなかった手段ですもの。秘密にしたい気持ちはわからないでもないわ。
だから、こっそり私たちに教えてもらえないかしら」

キュルケは王手を決めた。コレを嫌といえるわけがない。案の定、ルイズの体の震えは過去最高に
達している。感情が高ぶると言葉がどもるルイズだ。コレだけ震えているということはその分
怒り狂っている。が、秘密を開示する意外の道は無いのだ。そう、キュルケは思っていた。
ところが、いきなりルイズが大きなため息をついた。震えも止まる。雲行きが怪しくなった。
ちなみに、ギーシュはこの間、ルイズとキュルケを交互に見ながらハラハラするだけであった。
タバサは静かに事の成り行きを見守っている。

「そう……知りたいんだ」

ルイズの表情はうつむいている為見ることができない。それがキュルケには不気味であった。
しかしそれを悟らせることはしない。

「でも、それは私にとってとても困ったことになるわ。かといって、荷物の話を学院に広められるのも
困るわね」

まるでアレンのように平坦な口調で話し続けるルイズ。

「どうしようかしら。そうね、アレンに相談してみてからでいいかしら?」

俯いていた顔を上げる。その表情は敗北寸前の怒りではなく、反撃の一撃を決めたそれだった。
しまった、とキュルケは己の凡ミスを呪った。今までのルイズと今の彼女は違うのだ。
アレンという切り札を持っている。



「でも、大丈夫かしらアレン。あの子、人の秘密を握って脅しをかけるなんて悪いことを
されたなんて聞いたら、たとえ相手が貴族でも決闘をふっかけそう。ねえ、ギーシュ?」
「うえ!? ああ、うむ。そ、そうだね、十分にありえる話だ。例の眠りの魔法を使うと思うが、
相手が間違いを認めるまで彼は止めないだろう、ね」
「そーよねぇ。ああ、困ったわ。私としては、こんな話アレンに聞かせたくないのだけれど」

あからさまなやりとりだったが、言いたいことはよくわかる。が、ここで引くのは
上手くない。キュルケは笑顔を作って余裕を見せる。

「別に構わないわよ? アレン君がレディに手を上げるような事、するとは思えないし。
それにこっちはトライアングルが二人だもの。いくらアレン君が強くたって、私たちを
相手にするのは無謀だわ」

ねえ、と友に話を振る。タバサは頷いてみせる。実を言えば、タバサとしてはアレンを
正面から倒せるか確信を持っていなかった。が、不意と事前の準備さえ整えれば、とも
思っていた。問題はアレンに関する情報がほとんどないという事だ。
場は降着状態に陥った。アレンという切り札をちらつかせるルイズと、その切り札は
脅威ではないと開き直るキュルケ。こうなっては、実際にやりあうほかない。
そう二人が思い始めたとき、部屋に三回目のノックの音が乱暴に響いた。

「あによ!」

苛立った返事をすると、シエスタが部屋に飛び込んできた。

「た、大変です! アレン君のシャベルが盗まれました!」


/2/


時間は少々遡る。購入物を片付けたアレンは、使用人たちと一緒にサウナに入っていた。
焼いた石にかかる水。蒸気が部屋に充満する。現在、サウナの中は限界一杯まで熱くなっていた。
幾人もの男たちがうう、だのぐう、だのうめき声を上げている。アレンも眉を最大限に吊り上げて
ガマンの真っ最中だ。傷だらけの小さな体に、汗が大量に浮かんでいる。そしてその隣にいるのが
マルトーである。

サウナ。そこは男の社交場。ここでもっとも尊いとされるのは、我慢強さだ。自信の根性を、
男自身の内面を競い合う場所である。……まあ、もう一つの勝負方法もあるのだが、コレは一目で
勝負がついてしまうし、敗北者の悲しみはだれも癒すことができない。なので、そちらの勝負は
めったなことではやらないのが男達の取り決めである。もちろん、口に出して決めたわけではない。
お察しください。

話を根性対決に戻す。この対決のルールはまず、先に入っていた人間が出るまであとから入ってきた
者は出られない、というものだ。が、これは最低限のもの。本当のルールはもうそのまんま。先に
出たほうが負け。実にシンプルである

毎日恒例のこの勝負、現在のチャンピオンはマルトー親方である。アレンは当初この熱さにあっさりと
ダウンしていたが、日に日に滞在時間を延ばしている。さすがは我らがシャベル、と心の中で賞賛を
送るマルトー。が、王座をそう簡単に譲るわけには行かないのだ。若い連中に言うことを聞かせるのに、
この根性比べ、地味に効果があったりする。
そうやって、皆が無言で熱さに耐えていると、いきなり入り口が全開になった。




「大変です親方!」
「ばっかやろう! 蒸気がにげるじゃねぇか!」
「それどころじゃねぇんです! シャベルが盗られました!」
「えー!?」

慌ててアレン達がサウナから飛び出す。サウナの壁に立てかけてあった魔法のシャベルが、
たしかに無い。

「どうして見張ってなかった! いや、誰が盗んだ!」
「ゴーレムっすよ! なんか土でできた簡単なのが走ってきやして掻っ攫っていきました」
「どどど、どっちにいきました!?」

アレン、使用人の一人を捕まえ激しく揺すって聞き出そうとする。

「おおお、落ち着きなせぇ。正門、正門から外へ!」
「わっかりました!」
「待ちな! 盗人とやりあうのにそのかっこはまずかろうよ!」

フルチンで走り出そうとするアレンをマルトーが止める。使用人の一人がアレンに水をぶっ掛ける。
続いてタオルが渡され、最低限だが水をふき取る。投げ渡される服を次々着込み、最後にデルフを
背負った。

「いってきます!」
「おう! ミス・ヴァリエールにゃこっちで伝えとくぜ!」

アレンはルイズに召喚されて以来、初めて全力で走った。馬さえ追い越す速度を一瞬で叩き出すと、
その勢いを保ったまま正門を抜ける。そこには、土が一山あるだけだった。足を滑らせながら、
アレンは止まる。これまでに無いほど、その顔には焦りが浮かんでいた。

「うわ、うわわ……ど、どうしたら!」

こういったトラブルに対して、アレンは全くの素人だ。対処の手段は次々と思い浮かぶ。が、経験が
絶対的に足りていないため、どれが有効なのか選択出来ない。

「探せ、相棒! まだそう遠くへは行っていないはずだ! 高いところから見るんだ!」
「う、うん!」

デルフリンガーに促され、アレンは走り出す。魔法学院を囲む壁。階段を駆け上がり、
周囲を見渡す。二つの月の明かりのおかげで、夜だというのに視界は開けていた。
しかし、犯人の姿を捉えられない。

「どこ……どこ」
「落ち着け。相棒の目なら見えるはずだ。周囲を舐めるように見てみろ」
「うん」

そうは言われても、なかなか上手くいくものではない。何度も何度も草原に目を走らせるが、
焦りが視野を狭める。一秒、二秒と時間が過ぎていく。一分、二分と時間が流れていく。
見つからない。その事実が、さらに焦りを呼ぶという悪循環に陥っていた。
そんな状態で草原の彼方を走る馬を見つけられたのは、行幸としか言いようがない。

「あれ!」
「ん? おお、見つけたじゃねーか……って、相棒。何してんだよオメ」

アレンは落下防止用の柵に足をかける。

「いく」
「ちょ、ま! オメ、ここどんだけ高いと……おおおおおおおおおお!」



全くためらうことなく、飛び降りるアレン。空気を切る音が耳に障るも一瞬。地面に落着する。
落下運動のエネルギーはアレンを玉のように転げさせた。何度かバウンドして止まると、
何事もなかったかのように立ち上がる。

「いや、知ってたけどね。相棒がヘタな鎧より頑丈ってのはね。でも、もちっと冷静に……」

走り出す。地面を蹴って滑る様に飛んでいると表現する方が正しい、そんな走り方で草原を行く。
アレンが蹴った地面はまるで巨大なゴーレムが踏みつけたかのような有様だ。
背負ったデルフリンガーを引き抜く。左手のルーンが、眩く輝いた。

「あー……あっちゃー。切れてる。相棒、切れてる」
「シャベルを、返せ……」

声こそ小さなものだったが、それに込められた感情は重い。好き勝手喋る、戦いになると逃げ出す、
皮肉が通じないなど、色々問題のあるシャベルだが、それでもアレンにとっては大切な存在である。
シャベルは道具ではなく仲間。それを連れ去られ、アレンの心は乱れに乱れていた。

「シャベルを、返せ!」

アレンの叫びと同時に、ルーンの輝きはさらに強いものとなった。

そのころ、学院でロングビル、盗賊として土くれのフーケと名乗る女は、抑えられない笑いを
フードの下で浮かべ、馬を飛ばしていた。魔法学院にあるという宝を狙うため、セクハラに耐えて秘書を
やっていたのだが、その目的はなかなか達成されなかった。というのも宝物庫にかけられた
『固定化』の魔法が思いのほか強力だったためである。諦めようかと思案していたそんな時、
使い魔として召喚された子供と貴族の小僧が決闘騒ぎを起こした。そして、魔法のシャベルを
知ったのである。

土を自在に操るマジックアイテム。貴族どもが放っておくはずもない。何かしら理由を付け
子供から取り上げるのは目に見えている。子供から盗むという事に引け目は感じたが、
どうせ遅かれ早かれ取られる物。ならば、自分が盗み、売って金に買え孤児院の子らの生活費に
変えたほうがよっぽどマシではないか。そう思ったフーケはその日からシャベルに狙いを変えた。

が、盗む機会はなかなか訪れなかった。何せ、ドットとはいえメイジを手玉に取る子供である。
直接奪い取るのは上手くない。ならば少年がシャベルから離れたところをと狙ってみるも、
何時でも何処でもシャベルを持ち歩く。こうなったら寝込みを襲うかとも思ったが、数日観察を
続けると、サウナの時だけは手放すことが分かった。

すぐにサウナから出てきてしまうため、無理かとも思ったが、数日経つと入っている時間が徐々に
長くなっていった。さらに日が過ぎればあの子供はもっと長くサウナを使うのでは、
と思い様子を見ること今日まで。絶好の機会がやってきた。
いつもは見張りとして平民が荷物置き場にいるのだが、今日に限ってやや離れたところに立っていた。
フーケはあずかり知らぬところだが、デルフとシャベルの言い争いに嫌気が刺したのが原因である。
急いで馬を用意し、計画実行。足の早いゴーレムに掻っ攫わせ、盗み出すことに成功したのだった。

「あのボーヤには悪いことをしたねぇ」

少々の罪悪感にそんな言葉が漏れた。あくまで独り言のつもりだった。

「だったら、さっさとオレを相棒に返せ!」

なので、いきなりこんな言葉が返ってきたのに驚いて、危うくシャベルを落とすところだった。

「な!? なな、あ、インテリジェンスソード……じゃない、インテリジェンスシャベル?
なんだってまた……」
「返せ! 返せ! アレだ、おりゃダンジョンメーカーのシャベルだ! お前のもんじゃない!」
「うっさいね! おまえはこれから好事家に売られるんだ。そこでよろしくやりな……
ダンジョンメーカー?」


「へん! やだね、相棒以外のやつに使われてやるもんか!」

知らない単語に首を傾げるも一瞬、困ったことになったと頭を抱える。もしこのシャベルの意志が
能力にも作用するなら、ただ喋り散らすだけの道具となってしまう。高く売るなど夢のまた夢。
返せ返せと連呼するシャベルをどうするべきか。

「……言うこと聞かないと、ドロドロに溶かすよ?」

とりあえず受け答えはするのだから脅してみることにした。

「ちょ、おい! まて! アレだ、オレひ弱だからそんなことされると、困る!」

こうかはばつぐんだ!

「じゃあ、言うことを聞きな」
「だ、ダメだ。相棒は一人だ……」

先ほどより否定の言葉は弱い。これならば説得できるかもしれない。そんな時、自分が着た方角から
なにやら奇妙な音がしてきていることに気付いた。ハンマーで地面を叩くような重い音。

「……なんだい、ありゃ」

それは光だった。眩く輝く光が、自分目掛けて一直線でやってくる。こちらの足は馬であるというのに、
距離は刻一刻と狭まっていた。学院の教師がゴーレムでも放ったか、とも思ったが、月光に照らされる
姿が妙だった。小さい。まるで子供のような大きさだ。それなのにこの重音の響き。ゴーレムで
なければメイジしかないが、走る速度を上げる魔法など聞いた事がない。が、奇妙な魔法を使う人間に
心当たりがないわけではない。

「あのボーヤ、か。あんなこともできるのかい」

実際の所、魔法で速度を上げたわけでなく純粋な身体能力プラスアルファなのだがフーケに
分かるはずもない。何はともあれ、と策を練り始める。
子供の精神力がどれほどのものかはわからない。それが尽きるまでに振り切れればいいが、
馬が潰れてしまっては移動速度が格段に遅くなる。ならばここで足止めをしっかりすればいい。
幸い、魔法学院との距離は大分離れている。教師たちが加勢にくるまでの時間はそれなりかかるはずだ。
そこまで考えると、フーケは馬の速度を緩め、止めた。降りて待つ。輝きはすぐさまフーケの目の前に
やってきた。

「シャベルを……かえせ」

息を切らせて目の前に立つアレン。奇妙に力が沸くと同時に、体力が減っていくという
奇妙な事態に普段なら気がつくのだが、今はそれどころではなかった。左手のルーンの輝きにも
気付いていない。対するフーケは、早速足止めを開始する。

「そうは言われてもねぇ……こっちもはいどうぞ、とはいかないよ。どうしてもコイツが必要
なんでね」
「……必要?」
「ああ。実は……家族が悪いやつに捕まっちまってね。これと交換すれば返してくれるって
言うんだ。だからアンタにゃすまないが、こいつは返せない」

構想一分のデタラメ話である。フーケとしてもどうよ、と思ってしまう話である。が、しかし
ここしばらく観察してアレンがいかに『良い子』かを知っているフーケだ。こんな話を聞けば
戸惑うなり思案するなり隙ができるはずだ。そこを突いて足元に錬金で泥沼を作り、さらに石に
変えて身動きを封じるという策である。案の定、先ほどまでの必死の形相はどこへやら、
アレンの表情は驚きに染まった。早速杖を振ろうとするフーケ。が、しかし。

「わかりました。ぼくもご家族を助けるの手伝います!」



危うく杖を落としそうになった。

「……へ?」
「だから、お手伝いします。人攫いなんて悪いことです。許せません。だから、そいつを懲らしめて
ご家族を救い出しましょう」

フーケは、アレンに対する己の評価が間違っていたことを悟った。この子は『良い子』ではない。
『とても良い子』だ! と。あるいはアホの子とも。義理も縁も無いが、将来が心配になった。
とりあえず、話が妙な方向へ向いているので戻そうとする。

「い、いや、そこまでしてもらう必要はないさ。それにほら、アタシはアンタのシャベルを盗んだ
悪者だよ?」
「理由があったのならしょうがないです。シャベルのことは、その、確かに色々思いましたけど……
でも、一番悪いのはご家族を攫った人じゃないですか。貴方に言うのは違ってると思いました」
「ああ、うん。まあ、そうだけど……あー、でもほら、アンタ子供じゃないか。危ないから止めて
おきなよ。相手は……メイジ! メイジだよ?」
「大丈夫です。危ないことは慣れっこです」

頭を抱えたくなった。この子頑固だ。そういえば観察してたころも主の子相手でも引かない時は
引かなかったなぁ、と思い出すフーケ。というか、何でアタシはこんな話をしてるんだ。
さっさと泥石作戦を決行してしまえばいいじゃないか。そう気付いたので杖に力を込める。

「さあ、行きましょう! ご家族を助けましょう!」

ダメだ。キラキラと輝く瞳がこっちをガン見してる。不意打ちなんてできたもんじゃない。
こうなれば適当なところに連れて行き、巻いてしまうのが一番か。フーケは深く息を吐くと、折れた。

「あー……じゃあ、馬に乗りな……」
「はい!」
「おい! ねーちゃん! そーいうことだったら、今はオレを相棒に返せよ!」

ぐは、と呻くフーケ。確かに、話の流れからするとここは返すところだ。せっかく盗んだお宝を
手放す羽目になるとは、とフーケは天を仰ぐ。赤と青の月が綺麗に輝いていた。



新着情報

取得中です。