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ルイズの大冒険-1

 ―――ずっと受け継がれてきた、おれの使命なんだよ。こうして大好きなものをかばって、いのちをかけることが。

 黒の結晶(コア)――なんの比喩でもなく、文字通りに地上を滅ぼす爆弾。それを内蔵した人形を抱えて、少年は天空を翔ける。
 もっと高く、もっと遠くへ。爆発から、世界を守るために。
 それは勇者としての使命感でもなくて、みんなのための自己犠牲でもなくて。だから、隣でいっしょに飛んでくれていた親友を蹴り落とした。
 なぜなんだと彼は叫んだ。きみといっしょにいくことはできない。きみを地上に置いていく。大切なものすべてを、この地上に置いていく。
 醜い一面もひっくるめて、人間たちのことが大好きだから。自分を育ててくれた、地上の生物すべてが大好きだから。
 だからおれは、他でもない自分自身のためにみんなをかばうんだ。
 大魔王がいない世界で、もう、勇者を不要とする世界の中で、
 自分が、ただの冒険好きな子供に戻って、再び、ときめく気持ちで大好きな世界を駆けめぐれるその日のために―――

 そして上空高く、爆発。閃光が、空を埋め尽くし―――


 手応えはあったと言っていい。ルイズは、そう思う。
 サモン・サーヴァントを行使した。「ゼロのルイズ」が、魔法を行使した。そして、爆発は起こらなかった。つまり、成功したということだ。
 魔法を成功させた経験などないけれど、名門出の令嬢として、メイジとしてのプライドがあった。
 詠唱を唱えてもなんらの現象も起きなかっただけ、などとは思わない。思ってはならない。
 裡にある不安から目を背けるように杖を振り下ろした前方を睨みつければ、しかしそこには、想い描いていたどんな獣も存在せず。
「は……?」
 疑問の声を漏らしたその先には、眠っているのか気絶しているのか、見知らぬ子供が仰向けに倒れていた。

 平民を喚びだしてどうする。周りの人垣の嘲笑の声。
 そう、まるっきり、平民のガキだ。クセっ毛の黒髪。上半身は裸、ズボンもボロボロ。服がボロボロになった結果、上半身部分が完全に破れ去ったよう。
 顔を覗きこめば、あどけない寝顔の頬に小さな傷をみとめることができた。
 どこをどうひいきして見ても、使い魔には見えない。どこからきた平民――いや、貧民かもしれない。
 儀式が成功したことへの期待は一瞬で裏切られたことも加えて、ルイズは沸騰する。
「ちょっと間違っただけよ!」
 人垣を怒鳴りつければ、返ってくるのは「ゼロのルイズ」への揶揄と、それを受けた爆笑。
 生徒に弁解しても話にならない、教師のコルベールに召喚のやり直しを要求するも、却下された。
 春の使い魔召喚は伝統ある儀式であり、学院の重要な教育課程である。ルイズひとりにだけやり直しを認めることなどできはしない。
 ルイズが願った形でないだけで、魔法の発動は成功し、儀式の手順を踏んでしまっているのだ。
 肩を落とすルイズに、コルベールが儀式の続きを促す。
「さあ、早く契約を続けなさい。次はコントラクト・サーヴァントだ」
 口吻による契約である。わたしのファーストキスの相手はこんなのか――と倒れた子供の顔を睨みつけたそのとき、そいつと目があった。

 タイミングが悪い。とルイズは少年へ心の中で毒づく。眠ったままならばまだ少しは楽にキスを済ませられたのに。
「起きたのね。で、あんた、誰?」
「おれは……ダイ。きみは……? あ、いや、ここは!?」
 覚醒した途端に、ルイズの苛ついた声の問いを投げつけられ、目をぱちくりさせながらダイと名乗った少年は答え、問いを投げ返す。
 自分のいる場所に戸惑った様子で周囲を見わたしている。
「どこの平民?」
「へ、平民!? どこのって……」
 やっぱり子供ね、問いを重ねたルイズは思う。飲み込みが悪い、とさらに苛立った。平民という言葉すら聞き慣れていない様子だ。
 早く儀式を済ませろという、コルベールや周囲の視線がただでさえうるさいのに、ここで時間をとられるのはごめんだった。
「ああ! もういいわ、後で説明するからいまは黙ってじっとしてなさい!」
「ぶっ!?」
 突然唇をふさがれた驚きで、子供が間抜けな声をあげた。

 状況についていけず、されるがままの少年からルイズは唇を離す。
「終わりました」
 自分の頬が赤くなっているのがわかる。こんなガキに異性などこれっぽっちも意識していないが、それでも公衆の面前で男とのキスを披露してしまったことにはかわりはない。
 しかし子供の方にはそんな意識はないらしい。あろうことか、ただ唇に物を押しつけられた感触が不快だとばかりに、手の甲で唇を拭ったあと、舌で自分の唇をぺろりと舐めやがった。
 子供のやることだと思いつつも、ファーストキスをぞんざいに扱われ、さらにルイズの機嫌は悪くなる。
「うん、これで契約は完了だ、スムーズにできたね」
 嬉しそうなコルベールの誉め言葉も、慰めにはならない。子供との契約など出来て当然だと、またルイズを馬鹿にする声が飛ぶ。
 ルイズがそれに応戦しようとしたそのとき、
「つぅっ!?」
 小さく、痛がる声。少年の身体中に熱が走る。
「使い魔のルーンが刻まれてるだけよ、すぐ終わるからわめかないでよ」
 しかしルイズは首をかしげた。わめくなとは言ったものの、それ以上にこの子供が声をあげる様子はない。けっこう根性のある子なのかしら。
「な、なんだいまの熱は!?」
 熱よりも、戸惑いと驚きのほうが少年を多く占めているらしい。身体のあちこちを不思議そうに確かめる。
 コルベールは彼に近づいて、左手の甲をとった。「珍しいルーンだな」とつぶやいた。
「あ、あの! なんなんですかこれは!? あなたたちはいったい!?」
 少し声を張り上げて子供が問うも、誰も相手にしない。コルベールに促され、生徒たちはみな学園に飛びたっていく。
「みんな、飛んでる……。全員が魔法使いなのか?」
 そうして広場には、ずっと疑問を解消されないまま放っておかれたダイという子供と、ルイズのふたりだけになった。
 なんの教育も受けてなさそうな平民の子供にしては目上に対する口の利き方を知ってるわね、とルイズは珍しがる。
 どう見ても育ちがよいようには見えないが。どこかの家に奉公でもしていたのだろうかと思いながら、彼女は問うた。

「で、あんた、どこの子供よ?」


 ―――ぜんっぜん要領を得ない。なんなのよコイツ。
 学院までの道のり、歩きながら、互いのことを尋ねあいながら、ルイズの苛立ちはさらに増していく。
 このダイという子供はしきりに状況確認にしつこく、その割には言っていることがわけがわからなかった。

 デルムリン? 知らない、どこの島? トリステインの領土? なに? トリステインも知らないの?
 魔法学院っていうのも聞いたことないですって? それにしては魔法のことそのものは知っているみたいだけど。
 パプニカ? 聞いたこともない。勇者アバン? 勇者だなんておとぎ話のことなんてどうでもいいわよ
 はぁ!? 魔王? それこそなによそれ、よ、あのね、わたしは真面目に聞いてるのよ?

 そうしてルイズの自室、結局、ルイズはこのダイという子供はおとぎ話にのめり込んでいるのではなく、彼自身、真剣にルイズと会話をしていることを認めざるを得なかった。
 別世界。別の大陸の住人ではなく、別世界の住人。勇者を先頭に、人類が一致団結して巨悪と戦い続けてきた世界。それこそ、おとぎ話のよう。
 「魔法」という互いの世界で共通している言葉があることが、かえってややこしい。

「……アンタも、その、魔王軍とやらの戦争に参加してたの?」
「いや……、その、おれは、ずっと島で暮らしてたから」
 逡巡し、うつむいて、ダイは答える
「あっそ」
 ルイズは軽く落胆した。なんだ、少年兵とかだったら、ひょっとしたら見た目よりも強いのかと期待したのに。
「なんだよ?」
 その態度にムッとする――というよりいぶかしんだ様子でダイは尋ねた。
 別に。とルイズは答えた。

「アンタはわたしの使い魔だから。ひょっとしたら役に立つかも、って期待しただけよ―――」


 ―――夜も更けて。
 使い魔のルーンのこと、ダイを帰す方法はないこと。これからダイがどうするにせよ、この世界ではしばらくはルイズに頼るほかないこと。 
 そこまで話をまとめて、ルイズは会話を打ち切った。
「―――しゃべったら眠くなっちゃった。もう寝るわ。じゃあ、アンタ明日から掃除洗濯雑用ちゃんとやってね」
「おれ、どこで寝たらいいのかな?」
「床。……まあ、あんた服ないし、毛布くらいはやるわ」
 下着を放り投げ、寝床に着こうとするルイズに、ダイは問いかけた。
「……最後に、ひとついいかな」
「なによ?」
「この、るーん、っていうやつ、できれば、左手以外の場所に移せないかな? 右手でも、額でも。……左手は、特別なんだ」
「―――無理よ、どんなこだわりがあるんだか知らないけど。紋章を同じ人間の別な場所に移すだなんて聞いたこともないわ」
「……そっか、わかった」
 にべもないルイズの返事。ダイは静かに受け入れた。

 そうしてルイズが指が鳴り、ランプの明かりが消える。ふたりの一日が、ようやく終わるのだった。

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