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ゼロの使い魔-闇の七人-2


 ――夜。
 学院の庭園の外れ。
 およそ生徒達も近寄らない、忘れ去られた東屋に集う影があった。
 一人、二人、三人、四人、五人、六人、七人……そして、最後の一人。
 この魔法学院に暮らす、異世界人達。
 皆が皆、音も、気配すらも感じさせずに其処にいる。
 ――およそ尋常な者で無いことは、見ている者がいれば、容易に理解できたろう。
「……で、どうすんだよ」
 誰よりも先に口を開いたのはムラージであった。
 否、そもそも、会合を開こうと言い出したのからして彼である。
 平素の――あまりにも毒舌な言動からは想像もつかない行動。
「珍しいですね、ムラージ。あなたが肩入れするだなんて」
 オチーヴァの言葉も、猫人はフンと鼻を鳴らして一蹴する。
「当たり前だ。シェスタは、俺たちに随分と良くしてくれたからな」
 その言葉に一同が頷き、或いは沈黙を持ってして同意した。
 誰にでも優しさをもって接する彼女。
 殺伐とした世界で生き、誰からも排斥された一同に取っても、
 その優しさは心のうちへと染み入るモノがあった。
 別段、彼女が行ったことは大したことではない。
 例えば不案内な場所で道に迷ったときに案内してくれたり、
 彼らにとってもっとも重要な、しかし細々とした情報を教えてくれたり、
 彼らの食事の支度を、それとなく厨房に頼んでくれたり、
 ちょっとした量の仕事を手伝ってくれたこともあった。
 繰り返して言うが、シェスタという少女の行いは、大したものではない。
 誰にでもできる、本当に、本当に些細な優しさ、善行だ。

 ――だが、それですら彼ら「闇の一党」にとっては素晴らしいものに思えた。

「なら、俺たちは、あの娘を救い出してやらなきゃならねぇ」

 誰が知ろう。

 母親からも排斥され、暴力の道しか選べなかったオーグの哀しみを。
 同胞からも疎まれ、最底辺で這い蹲って生きてきたエルフの苦しみを。
 誰も信じることができず、嘘と裏切りと偽りを生きる獅子人の孤独を。
 囚われ人となり、来る日も来る日も監視たちに苛まれた女の痛みを。
 日の光に拒まれ、血を啜りながら生きざるをえなかった男の永遠を。
 親から捨てられ、一生涯を闇の中で過ごさねばならない娘の静寂を。
 姉と共に放逐され、唯一無二の親友すら手にかけた青年の苦悩を。

 そしてオブリビオンの世界へ身を投じてしまった、蜥蜴人の絶望を。

 この世界は恐ろしいほどに光に満ちている。
 彼らが永遠に手放してしまった、穏やかな世界、日常。
 或いは。
 その象徴こそがシェスタという娘の。
 ほんの些細な、しかし価値ある優しさであったのかもしれない。

 ならば、それを護るのに何の躊躇がいるだろう。
 迷うことも、悩むこともない。
 皆の意見は一つだった。

「駄目だ」

 だが、と鋭い一言が割り込んだ。

 ――リザードだった。
「この小汚い卵食い野郎め……ッ!」
 声の主に向けて、ムラージの殺意が篭められた視線が突き刺さる。
 だが、彼は小さく首を横に振るだけ。
 無理もない。元よりこの男、他者の評価になぞ頓着しないのだから。
「夜母との契約ではない」
 寡黙な蜥蜴人、リザードはボソボソと呟くように言葉をつむぐ。
 だが、その囁くような声は、はっきりと皆の耳に届くのだ。
 ――人を惹きつける人間、もとい蜥蜴であった。
「だったらッ! 夜母の誓いとは無関係に――」
「……我らの力は夜母のもの。自らの意思で振るってはならん」
「…………なら見捨てるってのか、あの娘を!」
 ダン、と拳を柱へと叩きつけるムラージ。
 だがリザードは怯えた素振りを見せない。
 否、そもそも闇の一党には脅迫なぞ通じないのだ。

「……小難しい理屈はオレにはわからないんだが。
 誰かが望めば良いんじゃないかね。オレはそう思うぞ」

 口を挟んだのはゴグロンだった。
 巨漢のオーグが、ぽりぽりと頭を掻きながら告げる。
 つまりは誰かが――夜母の助力を望めば良い。求めれば良い。
 さすれば我ら闇の一党は動くことができるのだ、と。
 我が意を得たり、とリザードが頷いた。

「我らは肉斬り包丁であって、それ以上でも以下でもない。
 自らの意思で力を行使すれば、その時点で我らは闇の一党ではなくなる」
「………………なら、誰が望むってんだ」
「其処のお嬢さん方、なんてのはどうだろうね?」
 テイチーヴァが含み笑いと共に口にした言葉に、暗闇の奥で誰かが驚く気配があった。
 くすくすと言う笑い声。
 気付いていたのはテレンドルも、マリーも同様だったらしい。
「いらっしゃいなお嬢さんがた。わたし達は別にとって食べたりしないわよ?」
「そうそう、ゴグロンじゃあるまいしね」
 エルフが睨むのにあわせ、マリーはごめんごめんと笑っていた。
 やれやれと皆が嘆息する。
 この美しいエルフが、どうしてオーグに恋なぞしたのか。
 彼らにとっても未だに解明されていない謎の一つだ。
 ゴグロンは好んで語ろうとしないし、テレンドルは秘密だと笑って誤魔化している。
 恐らくは、一生解明されることはあるまい。

 招きに応じて現れた姿は二人。
 この謎めいた会合にすら頓着していない青髪の娘。
 そして、どこか怯えながら――否、興味津々といった様子の赤髪の娘。
 タバサと、その親友を公言するキュルケ。二人の少女であった。

「つけられましたね、リザード」
「いや“尾行させた”のだろうよ、オチーヴァ。何にせよ……歓迎された行為ではないがね。
 部外者が会合を訪れるなぞ、私が関わってから200年来で初めての出来事だ」
 叱責を篭めて、或いは何処か楽しげに語る蜥蜴娘と、吸血鬼ヴィンセンテ。
 二人に対してリザードは一つ頷き、赦されよ、と呟いた。

「まったく、ダーリンがこそこそ出かけて行くんだもの。
 何かと思っちゃったじゃない」
「………聞かせてもらった」

 まったく悪びれない二人の様子に、一党も苦笑しか浮かばない。
 だが、其処には同時に喜びがあった。
 これで、もう何を躊躇う必要も無くなるのだから。

「ならば望め」

 誰かが言った。
 或いはそれは、誰でもなかったのかもしれない。
 闇の奥から、その声は聞こえてきたのだから。

「何を?」

 タバサが。
 キュルケが問うた。

「死を」

「血を」

「暴力を」

「モット伯の血を」

「彼の死を」

「契約を」

「夜の誓約を」

 響き渡る声。

「……望めば、我らが救い出す」

 最後の声は、リザードだった。
 謎めいた蜥蜴男。だが、信頼に足る男。
 悩む必要は無い。

「望むわ」

 タバサの答えを受け、オチーヴァが重々しく頷いた。

「なら、我ら『闇の一党』が、彼に死を運びましょう」


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