あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

“微熱”の使い魔-07

「これは、アイフェに似てる…使えそう。こっちは……オニワライタケかあ」

 森の中を小動物じみた動きで歩きながら、エリーは次々とキノコやら草やら、木片やらを籠へ入れていく。何というか、すごく手馴れている動作だった。

 「あ、あのう、エリーさん? 一生懸命なところ、悪いんですけれど……その、キノコはちょっと食べられませんよ?」

 シエスタは籠の中を覗きこみながら、ちょっと気の毒そうに言った。

 「え、毒キノコなの、これ?」

 エリーが何か言うよりも先に、才人が驚きの声をあげた。

 「これって、ゲラゲラキノコじゃない?」

 同じように籠を覗いたキュルケが、キノコを手にとって首をかしげた。

 「ゲラゲラキノコ?」

 「食べたらゲラゲラ笑いが止まらなくなるってキノコよ、確か。毒キノコとはいえば毒キノコだけど、死ぬほどのもんじゃないわね」

 「へえ、こっちではそういう呼び名なんだ」

 言いながら、エリーはさらに二、三のキノコを放り込む。

 「確かにこれ食用にはならないけど……薬にはなるんだ」

 「毒薬でも作るつもり? それともイタズラ用とか?」

 キュルケは興味深げにたずねる。特に“イタズラ”の部分に力を入れながら。

 「違いますよう。栄養剤とか、酔い止め薬の材料になるんです」

 「毒キノコなのに?」

 こう言ったのは才人だった。

 「毒っていっても、成分全部が毒ってわけじゃあないし。それに、毒でもほんの少しだったら薬になることも多いんだよ」

 「ふーん……」

 持ち前の好奇心から、才人は籠の中のキノコや木片をしげしげと見つめていた。
 エリーが色々な薬を作れるのは聞いているが、それがこんなものが作られるのか。
 才人は何となく不思議な気分だった。

 「こっちの木も、薬にするわけ?」

 「ううん。こっちは、そうだね……楽器の材料とか、紙とか」

 あれこれたずねる才人に、エリーはちょっと嬉しそうに答える。
 そんな二人を、あまり暖かいとは言いがたい目で見つめる者がいた。
 エリーたちから離れた場所。草むらに身を潜めて、唇を噛んでいた。

 「何よ、あいつ……デレデレしちゃって、ほんと、みっともない……」

 視線の主は、ピンクがかった金髪の少女、ルイズだった。
 密かに才人の動きを監視していたルイズは、キュルケたちが出かけたところを、一人尾行してきていたのだ。
 ルイズは草むらからじっと才人の様子をうかがう。
 何というか、仲良くやっている。主である自分とは、まともに口さえきかないくせに。
 才人を睨む目から、いつ間にか涙がにじんでいることに、ルイズはしばらく気がつかなかった。
エリーを見よう見真似で“採集”を行っていた才人は、シエスタの腰のあたりへ目をとめた。
 お尻に注目? いや、腰にぶら下がっているものに。そこには、メイド姿の少女には似つかわしくない、大き目のナイフが揺れている。

 「シエスタさん、それ……」

 「……? ああ、これですか?」

 最初若干不審げであったシエスタは、才人が何を見ているのか気づくとふっと笑った。

 「大して意味はないかもしれませんけど、護身用のナイフです。マルトーさんが貸してくれたんですよ」

 「へえ? ちょっと、見せてくれる?」

 「気をつけてくださいね。何でも、もともと傭兵が使っていたものらしくて、よく切れますから」

 受け取ってみると、見た目以上にずしりと重い。恐る恐る抜けば、ぎらりと不気味な光沢を放つ刃が現れる。

 「おお、すげえ……」

 才人は感嘆の声をあげた。声ばかりではなく、体までも震えている。
 明確な殺傷力を持ち、そのために創造された“武器”をその手にするのは、まったく初めての経験だった。

 「すごいナイフだねえ…。どんな人が作ったんだろ?」

 いつの間にかシエスタの近くに来ていたエリーがため息を吐いた。

 「頑丈そうだけど、ちょっと地味なんじゃない?」

 キュルケの評価はあまりよくないようだ。

 「きっと、実質本位なんですよ」

 「傭兵が使うわけだから、そりゃあ華美さはいらないんでしょうけど」

 エリーが意見を述べると、キュルケは少しばかり肩をすくめた。

 「マルトーさん、これどこで手に入れたのかなあ?」

 「さあ…? マルトーさん、確か傭兵をしてる人からもらったとか、そんなこと言ってましたけど……。あんまり詳しい話はおぼえてないです」

 「そうなんだ? って、あれれ? サイト? どうしたの、それ……」

 「へ」

 いきなり目を見開いたエリーに、才人はわけがわからず空気の抜けるような声を出した。

 「その、左手」

 言われるまま、才人は自分の左手を見る。刻まれたルーンが。

 うっすらと光っていた。

 「なにそれ」

 キュルケは身を乗り出して、光るルーンを見る。

 「いや、俺にもぜんぜん……なにかな、これは」

 「それって、使い魔のルーンとかいうものだよね? 私の額にもある……」
私にもあるけど……と、エリーは自分の額をなでた。

 「でも、光ったりなんてしたことないなあ。なんでサイトのは光ってるの?」

 「いや、俺に聞かれてもなあ」

 「さっきまでは光ってなかったんですよね? なんで急に」

 「さっきと違ってることといえば」

 シエスタが首をかしげる横で、キュルケの目はサイトの持つナイフに向いていた。

 ――な、なにやってんの、あいつらは……。

 わいわい騒ぐエリーたちを、隠れながら見ていたルイズは低い姿勢のままぐいと顔を近づけた。
 なんというかさびしんぼう全開の図である。

 「なにやってるんだろ、私こそ……」

 しばらく睨み続けた後、ルイズは視線をそらし、むなしげにつぶやいた。
 魔法成功率ゼロのメイジ。使い魔さえ御せないメイジ。
 というか、なんというか、自分の使い魔にさえ相手にされないメイジ。
 はっきりいって生きてるが価値あるのか?
 エリーと親しげに話す才人を見て、どうしようもなくネガティブな思考がルイズの頭から噴き出し始める。

 ――なんで、よりによって、ツェルプストーの女の使い魔なんかと、仲良くやってるのよ……!

 悔し涙を浮かべて、ルイズはうつむいた。ぽたりぽたりと涙が地面に落ちていく。
 そりゃー鞭でしばかれて貧相な飯で寝場所は床という環境を提供してくださる“ご主人様”と、普通に人間として接してくれて、親切で優しい女の子とどっちを選ぶと言われたら、ほとんどの人間は後者を選ぶ。
 よほどご主人様にべた惚れ、萌え狂っているか、さもなきゃ特殊な性癖の持ち主でない限りは。
 しかし、貴族>>>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>>>平民という常識の中で育ち、使い魔=主に服従という思考から抜けられないルイズにとって、そんなことが理解できるはずもなかった。
 そんな余裕もなかった。
 ただでさえゼロのルイズとして崖っぷちの状態で、召喚したのが平民(敵視しているキュルケも同じく平民召喚しているのが微妙なところだが)と来た日には。
 それが才人への傍若無人な態度となり、それでますます才人の心が離れていくのだ。まったくの悪循環だった。
 顔を上げたルイズは、いつの間にかエリーを見ていた。
 余裕のない心は悪感情を生み、悪感情はひどくとどまりやすい……。

 「あんな田舎者の、どこがいいのよ」

 ルイズがつぶやいた直後。

 「何かいるよ!!」

 「ひっ…!?」

 ルイズは自分の心臓が破裂したような錯覚をおぼえた。
 気づかれてしまったのか。使い魔の、ツェルプストーをこそこそとつけてきた自分の姿を。
 どうしようもない羞恥の念に、ルイズは気絶しそうになる。
 が、エリーの声はルイズに対してのものではなかった。
 エリーたちの周囲を何匹もの狼が取り囲んでいたのだ。
 才人はエリーとシエスタを後ろにかばい、ナイフを握り締めていた。本人は気づいていないが、ルーンの輝きがさらに強いものへと変わっている。

 「そんな……昼間にこんなに狼が!?」

 「何かえらいことになっちゃったみたいね」

 シエスタは震える声で叫ぶ。キュルケは挑発的な笑みを浮かべて、杖を狼たちに向ける。
 エリーは持ってきたフラムを両手に持ち、緊張の面持ちで狼たちを睨んだ。
 睨み合いの後、大きな一匹がひと声鳴いた。
それが合図であったらしい。
 うなり声をあげ、狼たちが一斉に襲いかかってきた。
 キュルケは杖を振り、火炎を狼たちに放つ。燃える炎に焼かれ、数匹が悲鳴を上げた。

 「このお!」

 飛びかかる狼に、エリーがフラムを投げる。BOM! という爆発を浴びて、狼が吹っ飛んだ。
 出鼻をくじかれて、狼たちはわずかに怯んだようだ。しかし、退散する気はないらしい。
 思った以上に数は多く、数匹やられた程度ではどうということはないようだ。

 「隙をうかがってるわね……」

 杖をゆらゆらとさせながら、キュルケは笑う。だが、その顔には汗が浮かんでいる。
 俊敏で数の多い狼たちに対して、彼女らは少々不利なようであった。いつしか、杖やフラムを持つ手に力が入る。
 最初は油断していたので何とかなったが、次は向こうも狡猾に動くだろう。
 ごくりと、エリーは喉を鳴らす。そのエリーの前に立っていた才人の姿が、いきなり消えた。

 ――ええ?

 目の錯覚? エリーがあわてている瞬間、黒い風のようなものが狼たちを薙ぎ払っていった。

 「なんなの!?」

 キュルケも驚いていた。
 だが、一番驚いているのは、狼たちだろう。
 仲間が次々と血煙をあげて倒れていく。中には、真っ二つに両断されたものもいる。まさにほんの一瞬で、半数以上の狼が地に伏していた。

 「はあ。はあ。はあ……」

 サイトが、ナイフを構えたまま狼たちを睥睨していた。呼吸は荒いけれど、疲れたという印象はない。

 「さ、サイト、すごい!」

 「サイトさん……」

 「まさか、君にこんな特技があったなんてね」

 三人の少女たちはみな賛辞の視線を才人に送る。
 しかし才人はそれに応える様子はなく、ぽかんとした顔で自分の手を見つめていた。

 「な、何よ……あいつ! すご…いえ、ちょっとはやるんじゃない!!」

 陰でそれを見ていたルイズも、キュルケやエリーと同じく驚嘆していた。
 ただの平民だと思っていたのに、よもやこのような剣術を習得しているとは思わなかった。
 ルイズは完全に才人の見せた力に気を取られ、周囲のことなどわからなくなっていた。
 がさり……という音を聞くまでは。

 ――がさり?

 音に気づいたルイズがハッとした途端、うなり声をあげた狼がルイズにとびかかっていた。
 思わず顔をかばったルイズの腕に、鋭い牙が突き立てられた。

 「きゃあああああああーーーーーーーーーーーー!!?」

 「誰?! 人が!?」

 突然の絹をさくような悲鳴に、エリーは愕然とする。

 「いけない! ルイズ!!」
キュルケは顔色を変えて叫んだ。

 「るいずって、ミス・ヴァリエールですか!? どうして!?」

 「あのバカ! なんで、こんなとこにいるんだよ!!」

 青くなるシエスタ。怒ったように叫ぶサイト。

 「大変だよ、助けないと……。 う…!!」

 「もちろんよ! 死なれてたまるもんですか!! ……ち! 鬱陶しい連中ね!!」

 ルイズを助けようとするキュルケ、エリー。だが、狼たちはルイズの悲鳴で勢いを取り戻したのか、再び牙をむき出し威嚇しだした。

 「こいつめ!」

 エリーがフラムを投げる。爆発に飛びのく狼たち。だが、今度はクリーンヒットとはいかない。
 しかし、よけた先にキュルケの炎が炸裂。焦げた肉の臭いと共に狼たちが倒れ伏した。

 「しっつこい奴らだな! そんなに俺たちを飯にしたいのかよ!?」

 才人がナイフを構えると、それだけで狼たちは警戒したように後退する。

 「まずいわね、急がないと本当にルイズが……」

 狼たちを見ながら、キュルケはつぶやく。

 「サイト! ここはいいから、ルイズさんを助けて!!」

 エリーは才人に向かって叫んだ。
 才人はおう、と叫ぶ。すぐにうなずきルイズのいるほうへと走り出した。途中にいる狼たちを斬り伏せて。

 「…ぎぃ! ぎゃあああ!!」

 狼の爪や牙に蹂躙され、ルイズは悲鳴を上げ続けていた。そこには獣に襲われる無力な少女がいるだけで、貴族の誇りをかかげる普段の令嬢はどこにもいなかった。
 幸運であったのは、襲ってきた狼が一匹であったこと。そして、その狼がまだ若く、狩りの未熟なものだったということだ。これが熟練した個体であれば、ルイズは一瞬で急所をやられ、絶命していたであろう。
 だが、ルイズにそんなことなわかる道理はなく、悲鳴と絶望の中でもがき続けるだけだった。
 才人のナイフが、狼の急所を突き刺すまでは。
「この野郎ーーー!!」

 ルイズにすっかり気をとられた狼は、風のような速さで接近してきた才人に気づく間もなく、刃を首筋に受けて絶命した。

 「おい、大丈夫か?」

 「ふ、ふえ…?」

 才人は血とほこりでぼろぼろになっていたルイズを助け起こす。

 「生きてるな。よし」

 ルイズが一応無事である確認すると、才人はエリーたちのほうを向き直った。
 その時には、炎と爆弾にやられて狼たちは逃げ出していた。どうも先ほどの勢いは一過性のものだったようだ。

 「サイトー! ルイズさんはーー!?」

 エリーがサイトのもとへ駆け寄ってくる。

 「ああー、大丈夫。腕に怪我してるけど、どうにか生きてるよ」
「良かった……」

 それを聞いて、エリーはホッとした表情になる。それを見て、才人の表情も和らいだ。
 そんな二人を横で見ていたルイズは、どこか暗い表情でうつむいた。

 「あ、ルイズさん、大丈夫ですか? ……急いで手当てしないと」

 エリーはルイズのそばに座ると、傷を負った腕を見る。

 「ほっといてよ……」

 ルイズはつぶやく。だが、それはまるで蚊の鳴くような小さなものだった。当然エリーには聞こえていない。

 「シエスタさーん! リュック持ってきてー! ルイズさんの手当てしないと!」


 採集の帰り道。ルイズは才人におんぶされていた。腕を噛まれただけではなく、どこかでひねったのか足首も痛めていたのだ。腕は応急手当がなされ、包帯をまかれている。

 「それにしても、お前何で一人であんなとこいたんだよ? 散歩か?」

 才人は背中のルイズに若干厳しい声で言った。
 しかし、ルイズは無言。

 「おい……」

 「よしなよ」

 返事のないルイズに、ムッとする才人をエリーが止めた。短いが強い口調だった。

 「今色々言ったって無理だよ。あんな目にあったんだから」

 一歩間違えば食い殺されていたのだ。それは凄まじいショックだろう。
 エリーの言葉に、才人も納得したのかそれ以上は何も言わなかった。
 キュルケも何か言いそうな顔ではあったが、エリーの意見にちょっと苦笑し、口を閉じたままにしていた。

 「でも、才人さんも人が悪いですね? あんなすごい特技を隠してたなんて」

 無言になった場を変えようとしてか、ちょっとはしゃいだ声でシエスタが言った。

 「隠してたわけじゃないよ。あれは何つーか、体が勝手に動いたんだ。ナイフとか剣とか、全然扱ったことなかったのに……」

 「嘘でしょう? だって、あれとても素人の動きとは思えなかったよ?」

 エリーはまじまじと才人を見る。

 「ほんとだって。俺だって、嘘みたいな感じなんだ。自分のことなのに」

 「そういえばあの時、左手のルーンが光ってたよね? ひょっとして、それと関係があるのかな?」

 エリーの意見に、才人は自分の左手、そこに刻まれた使い魔の証を見た。今は、光っていない。

 「そういうことは、コルベール先生にでも聞いてみたら? 何かわかるかもよ」

 キュルケの意見に、才人はそうっすね、とうなずいた。

 ルイズは終始無言だった。
 ただ、才人の背に、そっとを頬を寄せて。


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