あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ベルセルク・ゼロ-10


 『土くれ』のフーケと呼ばれる盗賊がいる。
 その手口は繊細かつ大胆。フーケに狙われて無事で済んだ宝物は今までない。
 トリステイン中の貴族を震え上がらせる、しかしながらまったく正体不明の大怪盗。
 それが、『土くれ』のフーケだ。
 そんな男か女かも不明なフーケだが、ひとつ分かっていることがある。
 フーケは盗みを行う際、『錬金』の呪文を多用する。
 宝物を守る強固な壁を、錬金によって粘土や砂に変え侵入するのだ。
 また、巨大な土ゴーレムを錬成して強引な破壊を行うこともある。
 『土くれ』の二つ名はそれらの手口からつけられたものだ。
 強力な『固定化』の魔法をかけられた壁をあっさりと錬金してしまうその実力から、フーケは少なくとも『トライアングルクラス』の『土』のメイジであろうと噂されている。
 もうひとつ―――フーケに対して分かっていることがもうひとつあった。
 それは、フーケは様々な魔力が付与されたマジックアイテム―――とりわけ、珍しいものには目がない、ということだ。


 魔法学院の庭園に、巨大な人型のゴーレムが立ち上がる。
 突如現れた土ゴーレムは太陽の光を受け、魔法学院に黒く影を落とした。
 その場所は授業を受ける生徒たちの死角となっているのか、誰一人として騒ぎだす者はいない。
 魔法学院に突如訪れた異常事態は実に静かに進行していた。
 ある一部分を除いては。
「なによなによ!? あれなんなの!?」
 学院長室を出て廊下を歩いていたルイズとガッツ、そしてパックの目にソレは突然飛び込んできた。
 窓の外で巨大な土ゴーレムが魔法学院本塔の五階にあたる部分を殴りつけている。
 当然起こるはずの轟音は不思議なことにまったくルイズの耳を打たない。
 サイレントの魔法をかけている―――? 考えてみたが答えはわからない。何より、その思考に意味はない。
 もっと他に考えなければならないことがあるはずだ。
 あのゴーレムは何のためにあのような真似をしているのか。
 ルイズははっとした。
 あの場所は―――宝物庫がある場所ではなかったか?
 だとすれば―――ルイズの脳裏に巷を賑わす盗賊の名が浮かぶ。
 巨大な土ゴーレムを操る大怪盗、『土くれ』のフーケ。
(まさか…!? フーケが魔法学院の宝物を狙っているの……!?)
 外に飛び出してくる生徒も教師もいない。どうやら気づいているのは自分達だけのようだ。
 ルイズは廊下を駆け出した。



「くっ……何よコレめちゃくちゃ硬いじゃない……!! まったく…あのハゲ随分と自信満々に適当こきやがるじゃないか!!」
 ゴーレムの肩の上で、フーケは忌々しげに愚痴をもらした。
 あまり時間をかけてはいられない。
 『サイレント』の魔法でゴーレムが壁を殴る音は消しているが、それでもいつ誰に気づかれるかわかったものではない。
 それこそあのオールド・オスマンが目覚めたりなどしたら、厄介極まりない事この上ない。
 焦るフーケの目の端に、学院から飛び出す桃色の髪が映った。
 そしてその桃髪の少女に追随して、黒一色の男が飛び出してくる。
 その姿を認めると、本来焦るべきはずのフーケはにやりと笑みを浮かべた。
「間近で見るとまた凄いねコレ。ん…コホンッ、では失礼して………でかっ!!!!!」
 ルイズの頭の上でパックがビシッとポーズをつけて叫んだ。言うわりには余裕しゃくしゃくである。
「なんなんだありゃ?」
 ガッツがゴーレムを見上げたまま尋ねる。
 再びゴーレムの拳が壁に叩き込まれた。音はしないのに空気を震わす衝撃だけは伝わってくる。なんとも奇妙な感覚だった。
「あれは土で作ったゴーレムよ。あれだけの大きさの物、少なくともトライアングルクラスのメイジじゃないと作れないわ。多分だけど…あれ、盗賊の『土くれ』のフーケだわ。きっと学院の宝物庫を狙っているのよ…!」
 ルイズはゴーレムを見上げていた視線をガッツに移した。
「フーケを捕まえるわ。協力して、ガッツ」
「断る」
 即答だった。おそらく、ルイズがこう言い出すことをある程度予測出来たのだろう。
「な、なんでよぉ!?」
「理由がねえ。別にここのお宝がどうなろうと俺の知ったこっちゃねえ」
「つ、使い魔はご主人様の命令には絶対服従なのよ!! それに、このままフーケの好きにさせるなんてこと、許せないわ!!」
「さっきのジジイにでも知らせとけ。別にお前がやることじゃねえだろ」
 至極もっともな意見である。
 だが、ルイズは激しく首を横に振った。
「いやよッ!!!!」
 その剣幕に少々意表をつかれたのか、ガッツは自分を見上げるルイズの顔にゴーレムを眺めていた目を移した。
「ここで何もせずに人を呼びに行ったらきっとみんな私が『ゼロ』だから逃げたって言うわ!! 『ゼロ』だから人に頼ることしか出来ないって……!! そんなのは嫌…嫌よ……!!」
 ルイズは唇をかみ締める。
 ルイズには『魔法が使えないメイジ』、『貴族たり得ない貴族』という劣等感が心に深く刻まれていた。
 ガッツは無言でルイズを見つめている。
 じわ…と涙が浮かんできて、それを見られたくなくて、ルイズは下を向いた。
 パックがひらひらと舞い、ガッツの肩に降りる。
 そしてガッツの耳元に口を寄せると、そっと呟いた。
「あ~あ、泣~かしたぁ~~」
 むんず。
 ガッツに掴まれた。次いで、首をくりっと捻られる。
 こきゃ。
「おふ」
 パックは奇妙な音と声を上げるとそのまま沈黙した。
 ガッツが指を開くとぽとりと地面に落ちる。パックは泡をふき、ピクピクと全身を細かく痙攣させた。
 突然視界に現れた瀕死の栗に、ルイズはぎょっと肩を弾ませた。
 直後に聞こえたガシャ―――という響きに思わず顔を上げる。
 ガッツがゴーレムに向かって一歩歩み出ていた。
「え……?」
 涙で少し潤んだ瞳が大きく開かれる。
 風が吹いて―――ガッツの広い背中、黒いマントがはためいた。

 ―――まあ、鈍った体を動かすにはちょうどいい

 ガッツはゴーレムの肩に立つフーケに鋭い視線を向ける。
 ガッツとフーケの視線が交差した。
 いつの間に装着したのか、ガッツの左手義手には既にかつての戦友リッケルトお手製の連射式ボーガンが取り付けられている。
 ガッツの右手がボーガンの引き金となる回転型レバーを握る。そして左手は真っ直ぐフーケへ向けて。

 ヒイィィィィィン――――――!!!!

 左手の鉄製義手。その手の甲でルーンが輝いた。



 フーケは考えていた。
 この宝物庫に通じる壁を破壊する手段を。
 眼下には『黒い悪魔』と生徒たちから恐れられる、大剣を背負った黒い剣士が立っている。
 フーケは知っている。
 その男がいとも容易く学院の壁を破壊してみせたことを。
(何とか……利用出来ないかねえ……)
 そこでフーケは気づく。男は自分に向けて左手をかざしていた。
 ぞわりとフーケの背筋を冷たいものが駆け巡る。
 直後に何本もの矢がフーケめがけて飛来し―――フーケは反射的にその手に持つ杖を振った。

 ドルルルルルルルルル!!!!!!

 レバーを回す。次々にボーガンから矢が放たれる。
 一呼吸の間にガッツの左手から幾本も吐き出された矢は、しかしフーケには届かない。
 フーケが杖を振るとほぼ同時―――ゴーレムの肩からせりあがった土壁が、放たれた矢をことごとく受け止めていた。
 フーケの頬を汗が伝う。
(厄介なものを持ってるじゃないか……! 剣を振るしか能がないってわけじゃなさそうだねえ!!)
 再び迫り来た矢をフーケは再度土を立ち上げ防ぐ。
 カキン―――ガッツの左手でボーガンが高い金属音を上げ、『弾切れ』であることを訴えた。
 次の矢を一秒と間を置かず装填しまた放つ。
 ガッツはゴーレムを中心に円を描くように移動し、フーケを狙った。
 だが、遥かな高みから見下ろすフーケにはその動きは見え見えなのだろう、その度にせり上がる土に矢は受け止められ、一本としてフーケには通らない。

(チッ―――どうする?)

 ガッツは思案した。
 以前、魔女フローラの館を訪れたときに似たようなものと戦ったことはある(といっても規模は桁違いだったが)。
 あの時は土ゴーレムの体内の『核』を破壊すればよかったが、今回のこのゴーレムには『核』というものが存在するのだろうか?
 いや、仮にあったとして―――それを見つけて貫くのは、無茶というものだ。今回の場合は対象がでか過ぎる。
 左手義手の大砲も、どれほどの効果があるかどうか。
 ガッツの顔に黒く影が差す。気づけばゴーレムの拳が自分を狙っていた。
 太陽の光を背に、土の塊がガッツに向けて振り下ろされる。
 ガッツは即座に後ろへ飛んだ。
 ゴーレムの拳が地面を叩く。地面が揺れた。空気を伝わる衝撃と、巻き起こる風がガッツの体を叩く。
 風を受けて―――ガッツは空中で体勢を立て直すとルイズのすぐ傍に着地した。
「おい、何をぼけっとしてやがる」
 ガッツはルイズを横目で見ながら声をかける。
「あ、あんた凄い武器持ってるのね…剣だけじゃ無かったんだ……」
 ルイズはガッツの左手に装着されたボーガンを指差して口をパクパクさせていた。
「そんなこたぁ今はどうでもいい。サボってねえでお前も働け」
「わ、わかってるわよ!!」
 ルイズが杖を手に詠唱を開始する。それを確認するとガッツはドラゴンころしを手に駆け出した。
「ファイアボール!!」
 後ろからルイズの声が聞こえる。と、同時に学院の壁が弾けた。
 ぱらぱらと壁の破片がガッツに降り注ぐ。
 ガッツは思わず立ち止まるとルイズの方に向き直った。
 実に呆れた表情を浮かべている。
「何してんだお前は。ちゃんとやれ」
「う、うるさいわね!! やってるわよ!!!!」
 言いながらルイズはまた杖を振るう。またもや見当違いの所で爆発が起こった。
「……俺に当てるなよ」
 ガッツはため息をつくとゴーレムに向けて駆け出した。

 再び迫ってきたゴーレムの腕を今度は前に潜り込むように駆けることでかわす。
 ゴーレムの足が目の前という位置まで即座に詰め寄った。
 こういう自分よりも遥かに巨大なものと戦う時に狙うべき箇所―――ガッツはそれを豊富な戦闘経験から知っていた。
(わざわざ二本足で立つたぁご丁寧なこった―――!!)
 ゴーレムの足元に潜り込んだガッツはドラゴンころしを横薙ぎに振るう。
 構成物質が土であるゴーレムにその一撃が通らないわけも無く、あっさりとドラゴンころしはその足を切り裂き、土煙をあげた。
 しかし一撃では足りない。ゴーレムの足はあまりに巨大すぎる。
 だがフーケがガッツの狙いに気づき、対策を立てるよりも―――ガッツの動きは速かった。
 一撃で足りなければ二撃。それでも足りなければ三撃―――!!!!
 剣を振るたびに一歩ずつ前進し、ゴーレムの足を斬り進む。
 遂にゴーレムの片足は完全に両断され、それと同時にゴーレムの胸が爆裂した。
「当たった……!!」
 ルイズは歓喜の声を上げる。絶妙のタイミングで起こった奇跡の成功。
 片足の支えを失い、さらに爆発によってバランスを崩したゴーレムの体が傾いでいく。
「くっ……!!」
 フーケは倒れゆくゴーレムの肩から魔法学院、宝物庫のある本塔の壁に向かって飛んだ。
 空中に投げ出されている格好のまま、杖を構え魔法を唱える。
 いかなる術を用いたのか、フーケは本塔の壁に『垂直に』着地した。
 そしてフーケは壁に立ち上がると倒れゆくゴーレムの足元に目を向ける。
 もうもうと立ち昇る土煙の隙間からフーケから視線を外さぬガッツの姿が現れた。
 フーケのフードの下で光る目が、ガッツを熱っぽく見つめている。
 フーケの指が、ガッツを指差す。指差したその手は、そのまま手のひらを上に向け―――くい、くいと、ゆっくり二回曲げられた。

 かかっておいで―――――

 フーケの唇は―――そう動いていた。
「へ……」
 ガッツもまた、その口元に笑みを浮かべた。

 上等じゃねえか―――――

 ヒイィィィィィィン――――――――――!!!!!
 ガンダールヴのルーンが輝く。
 ガッツはフーケもルイズもまったく予想だにしていなかった行動に出た。

 ガッツは地に向かって倒れゆくゴーレムの体を駆け上り始めたのだ。
「なななぁーーーー!?」
 ルイズが驚愕の声を上げる。
 ザム、ザム、ザム―――!!!!
 ゴーレムが倒れる速度―――それよりも速くガッツはゴーレムの肩まで一気に駆け上る。
 その時点でガッツの位置はフーケよりもやや上。
 ガッツはゴーレムの肩を蹴り、フーケに踊りかかった。
 ドラゴンころしを大きく振り上げる―――!!
 しかし、フーケが驚き我を忘れていたのは一瞬。
 フーケは、笑った。

「元よりここまでの『架け橋』は私が作ってやるつもりだったけど……そうくるとは予想外だったよ!! 大したやつだねアンタは!!!!」

 ガッツがドラゴンころしを振り下ろす―――だが、それより速くフーケは自身にかけていた魔法を解除すると地面に向かって落下した。
 ガカァ―――――!!!!
 ガッツのドラゴンころしは狙うべき対象を失い、そのまま壁を大きく斬り砕いた。
「フライ!!!!」
 落下していたフーケの体が宙へと舞い戻る。
 重力に抗う術を持たぬガッツはそのまま自由落下を開始した。
「ガッツ!!!!」
 ルイズは咄嗟にレビテーションの魔法を紡ぎ、杖を振る。背後で爆発が起こった。
「うきゃッ!! もう……なんで………!!!!」
 ルイズは涙目になりながらガッツに目をむける。
 ガッツは咄嗟に壁を蹴り、近くに生い茂っていた木へと落下方向を変えた。
 バキバキバキ―――――!!!!
 何本もの枝をぶち折りながら、しかし何とか落下の勢いを殺したガッツは両手両足を地につけて、這いつくばるように着地した。
「がッ……!!」
 それでも学院の五階にあたる部分から落下したのだ。その衝撃は凄まじい。
 全身に走る激痛を噛み殺しながらガッツは立ち上がりフーケの姿を追った。
 ―――目の前に倒れたはずのゴーレムが聳え立っていた。
「……んだとぉ」
 思わず呟く。フーケはその肩に舞い戻っていた。
「礼を言うよお兄さん。おかげで何とかなりそうだ」
 嘲る様なフーケの声が響く。男とも女ともつかない、中性的な声だった。
 ゴーレムが大きく腕を振りかぶる。
 ガッツの一撃によって深々と傷がつけられた壁に、その拳が叩きつけられた。
 衝突の瞬間、ゴーレムの拳が『鉄』に錬金される。
 壁は拍子抜けするほどあっけなく破壊され、ゴーレムの腕は塔内に侵入した。
 フーケがゴーレムの腕をすべるようにして塔内に侵入していく。
 しばらくの後に出てきたフーケの手には、何かペンダントのような物が握られていた。

「さ、用はお終い。またね、お嬢ちゃん。真っ黒な剣士さん」
 フーケの乗ったゴーレムが動き出す。
「に、逃がさないわよ!!!!」
 ルイズが後を追おうと駆け出したその時、ゴーレムの体が一気に崩れ落ちた。
 ゴーレムの体を形成していた大量の土砂が舞い上がり、1m先も見通せぬ程の土煙が立ち昇る。
「う…ごほッ!! ごほッ!!」
 思わずルイズは顔を手でかばうと目を瞑った。
 バサ―――という音がルイズの耳を叩く。
 おそるおそるルイズが目を開くと、いつの間にか目の前にやってきていたガッツがマントで土煙を遮ってくれていた。
「あ、ありがと………」
 ルイズはポツリと礼を漏らす。
 ガッツは答えず、もうもうと立ち昇る土煙を睨み付けていた。
 土煙が晴れた時―――フーケの姿はきれいさっぱり消え去っていた。



 数分後、のんきに眠りこけていたオスマンの元にフーケ襲来の報が届く。
 最初は寝ぼけ眼でこっくりこっくり聞いていた老人も、盗まれた品物の名を聞くとその顔を蒼白に染めた。
 思わず部屋を飛び出し、宝物庫へと駆け入る。
 その壁に残された文字を見て、オスマンはがっくりと膝をついた。
「おぉ…何ということじゃ……何と…いうことじゃ……!!」
 その顔を両手で覆う。その声には極度の焦燥が滲み出ていた。
 同行していた衛兵はそれ程のものなのかとごくりと唾を飲み込み、壁に目を向ける。
 そこにはこう書かれていた。


 覇王の卵、確かに頂戴しました―――――土くれのフーケ


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