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ゼロのガンパレード 23

胸を張ってガリア王ジョゼフの娘だと名乗りをあげるイザベラを、タバサは微妙な思いで見つめた。
別にそれを否定する気はない、否定しても始まらない。
問題は自分がその従姉妹であり、タバサというのが偽名であることを皆に知られてしまったこと。
つまりは自分が王位簒奪の咎で不名誉印を受けた王弟の娘であることを知られてしまったことである。
タバサはほんの少しだけ肩を落とした。
父の死は陰謀であり無実だと信じる彼女ではあったが、
それに同意してもらえるのはガリア国内に限られているのもまた弁えていた。
自国での事ならばいざ知らず、他国での事件の詳細を知ることなどそれと望まねば不可能である。
魔法衛士隊隊長のワルドならばともかく、魔法学院の生徒でしかない者たちが五年前の一件のあらましなど知る由もない。
ならば友人たちが知るのは自分の父が謀反者であるという上辺の事実だけの筈だった。

「ふうん、ガリアのお姫様、ねぇ」

言いながら品定めでもするかのようにキュルケがイザベラを見つめた。
視線が爪先から頭までを何度も往復し、彼女の胸で止まる。
そこをしばらく眺めた後、傍らのカステルモールに視線を移す。
訝しげな騎士の視線が返るのを待ち、腕を組んで見せつけるように豊かな胸を張った。
それを思わず凝視してしまって頬を染める青年と、別の意味で頬を染めるイザベラを見ながら口を開く。

「トリステインのアンリエッタ王女といい、こちらの自称ガリアの王女様といい、
 最近の王族ってのは変わり者が多いのかしらね。
 ミスタ・ワルド、どう思われます?」
「申し訳ないが、返答は差し控えさせていただくよ。
 僕はアンリエッタ王女の忠実な部下なのでね」

賢明にも明言は避けたワルドではあったが、横にいるギーシュの浮かべた笑いを見て顔をしかめる。
明言を避けたこと自体が雄弁な返答になったことに気が付いたからだ。
しかしイザベラはその点には思い至らなかったようで、

「自称!? あたしが騙りだっていうのかい!?」
「あら、そんな。
 なにしろ生まれの卑しいこちらとしては王族なんぞ雲の上の人ですからね。
 まさかこんなところで会えるなんて思わなかっただけですわよ」

もっともここは雲の上ですけど、と済まし顔で言い添える。
キュルケとても目の前の少女がガリア王女の名を騙っているなどと思っているわけではない。
国と時代とを問わず王族の詐称は重罪であり、発覚すれば極刑は免れない。
少女自身はともかくもそれに付き従う男までが何も言わないのだから、彼女がイザベラ王女本人であることは間違いあるまい。
だが、だからといってイザベラの態度、とりわけ親友である青い髪の少女への態度を許せるかと言えば話は別である。
横目でタバサを見る。
いつも通りの無表情であるが、それでもキュルケはそこに隠し切れない感情を見て取った。
かすかな恐れと不安、そして悲しみ。
タバサは今まで自分の素性について話したことはない。
話さない以上は何かあるのだろうとは思っていたが、まさかガリアの王族だとは思っても見なかった。
だがそれがどうしたのだとキュルケは思う。
自分が友と呼んだのは、親友だと思ったのは。
会ったこともないガリアの王族ではなく、いつも本を離さない無表情な少女なのだから。
友人を馬鹿した相手に敬意を払う必要をキュルケは認めない。
たとえそれが異国の王族であっても、だ。

「まぁまぁ、そう喧嘩腰になることもないだろう。
 従姉妹だと言われたタバサが否定しない以上、そちらの女性はガリアのイザベラ王女に間違いあるまいよ」

取り成すように口を開いたのはギーシュである。
確かに従姉妹であることをタバサが否定しないのなら彼女の言に嘘はないのだろう。
そうねと言おうとしてキュルケが首を傾げた。
彼の態度には驚きの色がなく、むしろ納得したような風情すらもがあったからだ。

「ギーシュ、あなた、もしかしてタバサがガリアの王族だと知ってたの?」
「勿論だとも。
 と言っても、モンモランシーから聞いていただけだけどね」

その答えに訝しげに眉を顰める。
ギーシュの恋人である『香水』のモンモランシー、
モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは確かに彼女たちの友人である。
だがタバサとそれほど仲がいいというわけではないはずだ。
なのに親友である自分が知らぬタバサの素性を、なぜ彼女は知っていたのだろう。
当の友人に目を移せばやはり訝しげである。するとこれは本人にとっても意外なことなのだろう。

「なに、簡単なことさ。
 モンモランシーの家は、少し前までラグドリアン湖の精霊との盟約の交渉役を何代も務めてきた家柄でね。
 タバサ、君の実家はどこにある?」
「ラグドリアン湖の近く」

これで解ったろうと言うようにギーシュは手に持った薔薇を気取った手つきで振って見せた。

「同じ湖に面しているということでモンモランシーの家はガリアとも関わりがある。
 現に彼女の何代か前のご先祖はガリアの王族に見初められたとも聞いているしね。
 だから彼女はタバサの事情も知っていたというわけさ」

そう言ってイザベラを見るギーシュの視線、王女の髪の生え際に向けられたそれを追い、
キュルケとルイズはなるほどと頷いた。
言われてみればどことなくモンモランシーと共通する面影があるような気が僅かながらしないでもない。

「もっとも、モンモランシーも気がついたのは最近だと言っていたがね。
 昔のタバサはもっと活発でお転婆で、今とはかなり印象が違っていたそうだから」

なぜ最近になって気がついたのかと言えば、これは実はギーシュとブータの所為である。
ケティとの件に関してはギーシュの謝罪を受け入れたモンモランシーではあったが、
その当人が今度はタバサと共にルイズの部屋に入り浸るようになったのだ。
恋する少女である彼女が恋人の移り気を疑うのは当然である。
ギーシュ本人は身の潔白を訴えてブータから戦術を習っていると主張したのだが、
彼はともかくタバサが戦術を習うというのはモンモランシーには納得しかねるモノがあったらしい。
彼女の知るタバサは、いつも物静かに本を読んでいる少女でしかなかったのだから。
だがギーシュがそう主張するならば、動かぬ証拠を掴むまでとタバサを観察しだし、
その過程で彼女がかつては一緒に遊んだガリアの姫だったことに気がついたらしい。

「ああ、確かに昔のこいつはお転婆だったねぇ。
 あたしの方が年上だってのに、遠慮なくどつくか噛み付くわ。
 ドレスを奪い合って、殴られて気絶したこともあったっけ」

イザベラの言葉に、にやにやと笑いながらギーシュとブータがルイズの方を向いた。

「トリステインのアンリエッタ王女といい、ガリアのイザベラ王女といい、
 最近の王族ってのは変わり者が多いのかな。
 どう思うね、ミス・ヴァリエール?」
「ギーシュ、あなた喧嘩売ってるのかしら」

言い合いを始めた二人を見ながらイザベラは我知らず頬を緩ませた。
自分を見るタバサの仲間たちの目に敬意はない。
だがそれを責めようとは思わない。自分が敬意を抱かれていないことなど百も承知だ。
王宮での貴族や使用人たちの視線を思い出す。
上辺だけは礼儀を守りながら、それでもその奥に隠しきれぬ嫌悪や侮蔑を宿らせたその視線。
それにくらべてこいつらはどうだ。
確かに敬意はないが、それだけだ。
侮蔑も嫌悪もそこにはない。
誰も自分を蔑まない、馬鹿にしない。
ただそれだけのことなのに、なんでそれがここまでも心地よいのか。
ただそれだけのことなのに、どうしてこんなにも暖かく感じるのか。
赤髪の女は敵意を見せたが、それはおそらくガリアの王女としての自分ではないだろう。
先ほどの視線の動きを思い出してちらりとカステルモールをみやり、僅かに頬を染める。
その敵意はきっと、自分の、自分だけの騎士を持っているあたしに対してのものだろう。
待てよ、と思う。では、自分とカステルモールは、つまり、その、そういう風に見えると言うことなのだろうか。
目の前の、羨ましいぐらいの肢体を持つ女が羨むような関係に見えるのだろうか?
うわ、頭がくらくらしてきた。

「し、しかし、モンモランシーとやらもよく気がついたねぇ!
 昔と今じゃ、そいつはぜんぜん違っちまったってのに!」
「ああ、それについては、一つだけ変わってなかったものがあったらしくてね。
 それに気がついたら、すぐに思い出せたそうだよ」
「へ?」

赤くなった頬を隠すつもりか張り上げた声への返答に、イザベラは呆けたような声で答えた。
変わってないものがある? 誰に?
そんなものなどあっただろうか。
かつての自分の従妹、活発でお転婆だったシャルロットと、
今のガーゴイル娘、無口で無愛想なタバサの間に、共通点などあるのだろうか。

「髪の色、てんじゃないよね?」
「まさか。確かに珍しいが、ガリアの貴族ならその色をしていておかしくはありますまい」

当のタバサもまた驚いたようにギーシュを見た。
かつての自分と今の自分で変わらぬものがある。それはタバサには新鮮な驚きだった。
変わってしまったと思っていた。
もう戻れないと思っていた。
世間知らずのシャルロット・エレーヌ・オルレアンはもう遠い昔にいなくなって、
ここにいるのは北花壇騎士のタバサだと思っていた。
何度もこの手を血に濡らし、憎悪に心を焦がした。
何度もこの手で叔父を殺すことを夢見た。
その為ならどんな犠牲も払うつもりだった。
母が喜ばないことなど承知していた。
誇り高かった父上が、誰よりも優しかったあの人が今の自分を見たら悲しむだろうことは解っていた。
だがそれでも、それでも自分は選んだのだ。
もう戻れない道を歩き出すことを選んだのだ。
たとえ叔父を殺し、母を治すことが適っても、そこにはもうシャルロットはいない。
父や母に愛されたお転婆な姫は、純真無垢な姫君はもう消えてしまったのだから。
もう、どこにもいないのだから。
なのに、ギーシュは、いやモンモランシーは言うのだ。
タバサの中にまだシャルロットはいるのだと。
知っている者が見れば解るような、変わってないものが一つあるのだと。

「教えて。それは、なに?」

すがるような声に、ギーシュは暖かい瞳で彼女を見ると、ゆっくりと口を開いた。

「君のその、見ていて胸がすくような食べっぷり。
 それだけは昔から変わってないそうだよ」
「……おおきな世話」



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「イザベラ姫にシャルロット姫か。驚いたな。ガリアの王女が二人も揃うなんて」

武装船イーグル号の船長室で、壁にかかった遠見の鏡を見ていた金髪の青年がしみじみと首を振った。
空賊団の頭目としての変装を解いたアルビオン皇太子ウェールズ・テューダーである。
鏡面には捕虜として捕らえた貴族たちの姿が映っている。
いずこの間者とも知れぬ者たちを捕らえた以上、その正体を探るのは当然のことであった。
水晶で飾られた杖を弄びながら、横の副官に目を向ける。

「これは偶然だと思うか?」
「偶然とは始祖ブリミルのお導きを言うのですよ、殿下」
「では問い直そう。始祖ブリミルは我々に何を求めているのだと思う?」
「始祖ブリミルの考えは我々俗人には解りかねます」

答えながらも副官の手は止まらず、流れるように書類をしたためている。
拿捕した船やその積荷に関する書類、その補填に関わる指示書などである。
確かに空賊を装ってはいるが、彼らが誇りあるアルビオン空軍であることに変わりはない。
民人からの略奪はもっての外であり、そのような悪名を受けることは許されない。
祖国が亡国の瀬戸際にあるとなれば尚更である。
もはや自分たちの敗北が必至なのはウェールズ以下の全ての船員が自覚している。
ならばこそ、その最後において自らの手で誇りを辱めるようなことは出来なかった。

「殿下。二隻の新たな船名はいかがいたしましょうか」

副官の問いかけにふむと首を傾げる。
貴族派を名乗る反乱軍に奪われた『ロイヤル・ソヴリン』号が『レキシントン』号と名を変えたように、
新たな持ち主となった船は名を変えるのが慣わしである。
本来ならば他の貴族とも諮って変えるべきではあるがその時間もなく、この船に乗っている上級貴族は王子ただ一人だけであった。
何か参考に、と巡らせた視線が鏡に映る客人たちの様子を捕らえた。
どうやら今度はルイズたちが自己紹介をしているらしい。
鏡越しの視線に気がついたのか、使い魔だという大猫が確かに王子の方を見てにやりと笑った。
それにしても器用な猫である。

「猫、では軍船らしくないな。獅子や虎はもう使っていたか。では豹でどうだ」
「では『ジャガー』号と」
「もう一隻は、確か、船長が熊のような大男だったな、『ベアー』号とでもしておけ。
 どの道、避難民を安全な場所へ送り届けるまでの僅かな名だ」


それにしても、とウェールズは鏡を眺めた。
『マリー・ガラント』号改め『ジャガー』号の船員から聞き込んだところでは、
彼らはトリステインのマザリーニ枢機卿の密命をアルビオンに向かう途中だったとのことである。
鏡面の向こうで名乗る男もまたそれが真実であると告げている。
トリステイン魔法衛士隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
“閃光”の二つ名を持つメイジであり、マザリーニ枢機卿の懐刀としても知られる男であった。
武官としてトリステインに駐在した事のある部下に確認しても間違いはないとのことである。
その彼が、なぜにあのような少年少女たちを率いてアルビオンに赴いたのか。
枢機卿の密命とはなんなのか。
思い悩むウェールズの耳に、今度は一同の中心となっていた少女の名乗りが耳に入る。

「ルイズ……そうか、彼女がアンリエッタの言っていた友人か」

トリステイン王女の名を呟く際、隠し切れぬ痛みの色が王子の面に浮かんだが、
確かにそれを見たはずの副官は黙して何も言わなかった。
首を振って追憶を振り払うと、彼らの任務について想いを巡らす。
滅亡の瀬戸際にある国に密命を与えた部下を送り込む、その理由など多くはない。
であるならば彼女らの任務は、おそらくは自分と父に亡命か避難を促すためのものだろう。
とは言っても現王である父がそれを受け入れる筈もない。
故にその対象は自分で間違いあるまい。

「さすがだな、マザリーニ枢機卿。貴族派の次なる目標を早くも察したか」

ウェールズが知る限りアルビオン王家の直系の血を引く者はこの世界に三人のみ。
父と自分、そしてアルビオン王弟にしてトリステインの先王だった叔父の娘であるアンリエッタだけである。
アルビオン王家断絶を目論む貴族派にして見れば、アンリエッタがいる限りその目標は達成されない。
ならば彼らがアルビオンを掌握したあと、トリステインに攻め入るのは明らかである。
そして国力で劣るトリステインにそれを跳ね除ける力はないだろう。
しかしもしもウェールズが生存していたのならば。
国内の王党派、反貴族派とも言うべき勢力を統合してトリステインの味方となることも可能であろう。
そしてそれ故にこそ、マザリーニはウェールズが死ぬことを喜ばない筈である。
だが、と王子は思う。だが、それは自分には認められないことだと。
例えそれがトリステインの敗戦を後押しすることだと知ってはいても、
アルビオンの王子である自分にとっては自国の民こそが守るべき宝なのだった。
結局のところは、そういうことだ。
自国の民と異国の民を選択の秤に載せ、父と自分は自国の民を選んだ。
例えその罪で地獄に落ちるとしても、その選択に後悔はなかった。
彼は大きく息を吸い、そして吐いた。

「私は甘いか?
 これ以上、同じアルビオンの民が殺しあうのを見たくないと、
 我々で最後にしようと思うのは」
「確かにお甘いですな、殿下。
 だがお忘れめさるな、そんな殿下と陛下だからこそ、我々は忠誠を誓ったのだと言うことを」

目をつぶれば、多くの顔が浮かぶ。
誇り高きアルビオン貴族として、共に語らった友人たち。
その一部は貴族派となり、あるいは既に始祖の元へと旅立ってしまった。
運命と言うものが少し違っていたのならば、未だに同じ酒を飲み交わすことが出来たであろう懐かしい顔ぶれ。
もう戻らない、もう戻れない、遠い日々。

「ああ、そうだな。
 これで、最後にしよう。
 同じ国に生まれた者同士が殺しあい、傷つけあうのはもうごめんだ。
 アルビオン王家の誇りを胸に、始祖ブリミルに拝謁するとしようじゃないか」

言いながら、ウェールズはしかし胸にひそかな不安を抱いていた。
ルイズが来たと言う以上、今回の密命はアンリエッタの承認を得ているのだろう。
想い人に送る使節に唯一無二の友人を選ぶのはいかにも彼女らしい。いやトリステインらしいと言うべきか。
それはともかくも、ルイズはアンリエッタかマザリーニ枢機卿の親書を携えていることだろう。
問題はそれがどちらがしたためたものであるか、だ。
アンリエッタならばまだいい。あの優しい少女は心を通わせた自分を想って亡命を薦めてくれるだろう。
だがマザリーニならば。枢機卿である彼の筆によるものならば。
もしも彼が王家の血を絶やすことを憂い、始祖ブリミルの血脈に繋がる者の勤めを、
その血を次代に受け継がせる為に命を繋ぐことを要求してきたのならば。
アルビオン王家の一員である自分と父にそれを拒否することが出来るのか、と。

『…………!』

耳に飛び込んだ怒声がウェールズの意識を現実に引き戻す。
鏡の向こうでイザベラがルイズに食って掛かっていた。




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