あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの花嫁-05 B


ルイズとの連日に渡る追いかけっこにより、ギーシュの足は格段に速くなっていた。
走りながら魔法を唱える、走りながらゴーレムを操る、そんな同時行動を苦も無く出来るようになっていた。
だが、ルイズは更にその上を行っていた。
そもそもギーシュのゴーレム複数体を同時に相手し、あしらい続けてきているのだ。
単純な身体能力だけならば、ギーシュがルイズに敵うはずがない。
徐々に縮まる差、魔法を使う余裕も無い。そんな事をしては一瞬で差を詰められる。
背後の床から何か重い物を落としたような音が聞こえた。
ギーシュは何かを考えるより先に大きく前に飛び込む。
背後を重量の有る何かが通り過ぎていく。
ギーシュの読み通り、さっきの音はルイズが大きく踏み込んで一気に距離を詰めた音、そしてその後すぐ、袈裟に剣を振るったのだ。
床を転がってルイズに相対する。
ここまで近接されては背後を見せるわけにはいかない。
ルイズは既に第二撃を放つべく、真後ろまで大きく剣を振りかぶっていた。
予備動作が大きすぎる、ルイズの体格で扱うにはデルフリンガーは大きすぎるのだ。
そう読んだギーシュだったが、ルイズは、ただ単に、少しでも強く剣をギーシュに叩きつけてやりたかっただけなのだ。
風を切る音と共に物凄い勢いで真横から振り抜かれるデルフリンガー。
大慌てで大きく後ろに跳ぶギーシュ。
ルイズは、振りぬいた勢いそのままに一回転しながら前進、今度は更にその速度を上げてギーシュへと斬りかかる。
ギーシュは後ろに下がるしか逃げ道が無い。それでも剣の軌道をきっちり見定め無い事には体の何処かがもっていかれてしまうだろう。
既に相当な勢いがついていたデルフリンガーであったが、次にルイズはそれを体を落として全身の体重を使って強引に押さえてギーシュの正面で剣をとめる。
まっすぐに、最もかわしにくい胴中央に向けてデルフリンガー突き出す。
身をよじって必死の形相でこれをかわすギーシュ。剣はギーシュの右脇腹をかすめて後ろへと抜ける。
そこに、ルイズは更に一歩踏み込んで、ギーシュの顎に頭突きをくれてやった。
後ろに下がりながら避けていたので、その一撃で完全にバランスを崩して真後ろへと倒れるギーシュ。
その頭が、背後の壁にぶつかる。
そう、そこは既に行き止まりであった。
痛む頭を押さえながら立ち上がろうとしたギーシュの喉元に、ルイズの突き出したデルフリンガーの刃先が輝いていた。
「ねえギーシュ、貴方タフよね。両手両足斬りおとしても平気なぐらいタフであってよね。その後で……」
クスクスクスと笑うルイズ。
「下の方からこのデルフリンガーで削り取っていってあげるわ。何処まで、人って死なないのかしらね」
冷汗が全身から噴出すのがわかる。
元々そんなに冗談の通じるような相手ではなかったが、今のルイズは噂どおりの魔王配下、不死のルイズそのものだ。
冗談どころか人間の常識すら通じない相手になってしまっている。
下手な言葉は言えない、それをきっかけにルイズは激発してギーシュに斬りかかってくる。
ギーシュは慎重に言葉を選んだ。

「あ、サンだ」
「え?」

ルイズは見てて感心するほどの速度で、デルフリンガーを隠しながらギーシュの見ていた後方を振り返る。

「かかったなルイズ! とーう!」

ギーシュはその隙に廊下の窓ガラスをぶち破って外へと飛び出した。
そこは3F、笑えない高さだが、ギーシュはすぐにゴーレムを召喚する。
「ゴーレムラダー! セッターップ!!」
呼び出されたゴーレムは組体操の様にそれぞれを支えあって階段を作り出す。
その上をギーシュは一気に駆け下り、外へと逃げ出した。
ゴーレムラダーは既にギーシュの操作により崩されている。
ルイズはその視線だけで人の二、三人殺せそうな勢いでギーシュを睨みながら、窓の外へと飛び降りた。
学園の壁面は、ただまっすぐ変化無く建てられているのではない。
強度の問題から、各階の床に当たる場所が別の素材になっており、その部分は僅かに壁面から飛び出しているのだ。
ルイズは、飛び降りながらそこに片足だけを乗せ、落下速度を減速させる。
タイミングよくその足を外し、また次の階も同じ事をして落下速度を抑え、地面へと着地する。
とんでもないバランス感覚である。
そんなアクロバットじみた真似をあっさりと成功させたルイズは、即座にギーシュ追跡に向かった。

何とかルイズを振り切ったギーシュは、マリコルヌに匿われて普段使われていない教室に隠れていた。
小太りの同級生である彼は、暢気な口調でギーシュに言う。
「何かさ、いっつもギーシュばっかモテてるよな。僕も女の子に追いかけられるなんて一度ぐらい経験してみたいよ」
うんざりした顔のギーシュ。
「冗談じゃない。今のルイズはもう女の子っていうより、モンスターだよ。キュルケも魔王モードだし、なんだってこんな事に……」
頭を抱えるギーシュだったが、マリコルヌからすれば贅沢な悩みにしか見えない。
「あんな可愛いモンスターならこっちから頼んででも追いかけられたいもんだね~」
やたらつっかかるマリコルヌにギーシュは怪訝そうな顔をする。
「可愛い? ルイズが? ……マリコルヌ、君まさか……」
驚き慌てて否定するマリコルヌ。
「そ、そういう意味じゃないよ! あくまで一般的な話さ! 大体ギーシュだって前にルイズのルックスは良いって言ってたじゃないか!」
言った記憶は無いが、まああまり追求する気も無い。
それに、多分マリコルヌもアレを見れば少しは見方も変わるだろうと思ったので、反論はしなかった。
そう、アレだ。
窓の外に見える、徐々に大きくなってきているアレ。

ガッシャーン!!

窓ガラスをぶち破ってルイズが教室へと飛び込んで来る。
屋上からロープを垂らして降りてきたらしい。
窓の上まで降りた所で思い切り壁を蹴飛ばし、反動をつけて窓ガラスをぶち破って教室へと突入。
もうルイズに魔法なんて必要無いんじゃないのかと思えてくる。
ガラスをぶち破った所でタイミング良くロープから手を離す。
反動を付けた勢いは大したもので、そのまま空中で半回転しながら、教室の中ほどに居たギーシュの眼前までルイズは飛んできていた。
「このっ! 届けええぇぇぇぇ!!」
届いたら終わりだ。そんな絶叫には従えない。
空中で振るわれたデルフリンガーをまさに間一髪どころか、前髪を数本持っていかれながらも仰け反ってかわす。
それをしなければ、間違いなく顔面を真横からヤられていた。
斬り付ける所までは完璧であったルイズだが、どうやら着地まで配慮していなかったようである。
教室の中程まであっという間に飛び込める勢いそのままに、机やら椅子やらを巻き込みながら壁面まで転がってそこに叩きつけられる。
とても人がぶつかったとは思えない音がした。
必死の一撃を何とかかわしたギーシュは安堵のあまりしゃがみ込みそうになるが、そんな暇など無い事に気付く。
引っくり返った机やら椅子やらの下に埋もれていたルイズが、それらを跳ね除けながら立ち上がったのだ。
「……目測誤ったわね。次は、もうちょっと考えないと……」
額から滴る血の筋が、ルイズの頬を伝って顎から落ちる。
マントやら衣服の数箇所が大きく裂けており、そこにも赤黒い何かが見える。
ギーシュは恐る恐る口を開く。
「る、ルイズ。医務室行った方が……」
刺し貫くようなルイズの視線に、それ以上いえなくなるギーシュ。
「私のサン、大切な私のサンにちょっかいかけといて、生きて帰れるなんて思ってないわよねギーシュ」
剣を持ったまま肩に背負い、明らかに重傷に見える体ながら確かな歩調でギーシュへと歩み寄る。
「思ってないわよねええぇぇぇぇぇ!!」
雄たけびと共にルイズが斬りかかろうとしたその時、空き教室のドアが開かれた。
「ルイズちゃん! ギーシュさん!」
教室に入るなりそう叫んだ燦は、その惨状を見て絶句する。
割れた窓ガラス、乱雑に撒き散らされた机と椅子、丸くなってがたがた震える衣服を着た肉の塊、引きつった顔のギーシュに、満身創痍のルイズ。
「ど、どないしたんルイズちゃん!」
すぐにルイズに駆け寄りその体を確認する。
酷い有様だ、裂傷に打ち身打撲、そしてそこかしこに酷い火傷の痕が残っている。
ルイズは今までの怒りが嘘のように穏やかに言う。
「大丈夫よこの程度。いいからサンは部屋に戻ってなさい」
「そんなわけにはいかん! 私はルイズちゃんの使い魔じゃき!」
燦はルイズの手からデルフリンガーを奪い取るとギーシュに対し、それを構えた。
「ギーシュさん、どんな事情なのかは私にはわからん。じゃきに……私は、私はルイズちゃんの使い魔じゃき……こんなん見過ごせん」
とても辛そうな顔をしながら、ギーシュを睨む燦。左手の紋章が光り輝く。
「渡世の義理じゃ堪忍してやギーシュさん……」
その目尻から光が零れる。
「こっからはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、瀬戸燦が相手じゃ! 覚悟しいや!!」
ギーシュは、もう夢見るような目をしていた。
(ねえ、僕一体何をしたの? ここで何が起こってるの? だーれーかーおーしーえーてー)
現実逃避入っているギーシュを救ったのは、直後教室に入ってきたタバサであった。
喚くルイズを諭し、事情のわからない燦に最低限の説明をして大人しくさせ、ギーシュにはさっさとこの場から消えるよう指示する。
尚も愚痴愚痴と言うルイズに、タバサはぴしゃっと言い放った。
「サンがどんな気持ちでギーシュに剣を向けたか考えるといい」
その言葉に、ルイズは弾かれたように後ずさる。
タバサの言わんとした事が伝わった証拠である。ならば、とタバサは続ける。
「それをさせたのは他でもないルイズ」
容赦する気は無いらしい。
震える手で燦を求めて手を伸ばすルイズ。
燦は少し寂しそうに笑っていた。
その体を、ルイズは力いっぱい抱きしめた。
「ごめんね……ごめんねサン……私、貴女の主人なのに、貴女の気持ち何も考えて無かったわ」
「私の事心配してくれたんじゃろ。じゃったら私嬉しいでルイズちゃん……」
主従感動の仲直りシーンであったが、ギーシュはもう何とリアクションしたものやら。
「……タバサ、僕何かしたのかい?」
「何もしていない。けど、確認したい事がある。夜に中庭に来て」
そんなこんなで、ルイズ、燦、ギーシュの三人は教室から出て行った。
騒ぎが一段落したので、マリコルヌは首を上げる。
この騒ぎを綺麗にまとめてみせたタバサにマリコルヌは聞いた。
「一体どういう事だったんだい?」
タバサは、マリコルヌを変わらぬ無表情で見下ろして言った。
「そんなだから、モテない」
この騒ぎの解決に一切関与しようとしなかった彼に、タバサはどうやら腹を立てているらしかった。
それでも、言う事言ってすっきりしたのか、それ以上は追求せずタバサも教室を後にした。

ちなみに、その頃キュルケとモンモランシーの二人は、最初にキュルケが黒こげにした教室の掃除をしていた。
もちろん駆けつけたタバサに冷たい目でツッコまれたせいではあるが。
「何よ! 私は何もしてないじゃないの!」
そう抗議するモンモランシーも、止めなかったので同罪、とあっさりその状況を見抜かれ、不承不承だが、付き合って一緒に掃除をしていた。


翌日、教室に向かおうと部屋を出たギーシュは、ドアの所に挟まっていた手紙に気付いた。
「これは?」
時間が無いので授業中に中を読もうと思い、それを持って教室へと走って行く。
教室に着くとすぐに授業が始り、その間にギーシュは教科書で隠しながら手紙を見た。

『突然の手紙スミマセン(中略)あなたの事が好きです(中略)放課後ヴェストリ広場で待ってます。その気があれば来て下さい』

一回では手紙の内容が理解できず、もう一度読み直す。
何度読んでも、どうやらこれは、

(ラブレターじゃないですかーーーーーーーーーーーーーー!!)

どう努力しても顔がにやけてしまう。
(参った。やっぱり僕の魅力は遍く学園中に知れ渡っているらしい……いやーまいったなーあっはっはっはっは)
授業中なので声を出さずにいるのに苦労する。
(全ての花を愛でるこの僕だ。もちろん行くとも、どんな麗しい花が待っているのか)
サンとも仲良くなってるし、最近はどうもこういうの調子良いな~などと浮かれるギーシュ。
最早授業など耳に入らない。
妙に高いテンションのまま、ギーシュはその時を待ち続けるのだった。

放課後、ヴェストリ広場、そこでギーシュは花束を手に手紙の主を待ち構えていた。
そこに現れたのは、燦であった。
「おお! あの手紙の主はサンだったのか! 全く、あんな回りくどい事しなくても……」
しかし燦はきょろきょろと辺りを見回している。
「あれ? 私ルイズちゃんに呼ばれて来たんじゃけど。ギーシュさんも?」
「ん? ルイズと待ち合わせかい? それは、何とも間が悪いなぁ」
そこで全身を包帯でぐるぐる巻きにしたルイズが茂みの中から立ち上がる。
「ギーシュ! 貴方の悪行もここまでよ!」
建物の影からはキュルケが現れる。
「もう言い逃れは出来ないわよ。神妙にしなさい」
ギーシュにも燦にも何が何やらわからない。
そこでルイズはびしっとギーシュを指差しながらしてやったりとばかりに言い放つ。
「聞きなさいサン! ギーシュはね、ラブレターをもらったからってひょこひょことこんな所に姿を現すような軽薄な男なのよ!」
ルイズの一言に、ギーシュはその場に凍りついたように固まる。
そして続くキュルケの言葉がとどめとなる。
「ふん、私達の書いた嘘のラブレターにもこんな簡単に引っかかるなんてね。鼻の下伸ばしちゃってみっともないったらありゃしないわ」
ルイズもキュルケも燦の側に歩み寄って説得にかかる。
「ねえサン、貴女ならきっともっと相応しい相手が居るわ」
「そうよ、良い男なら私が幾らでも紹介してあげるから、だからそんなに焦ったりする事無いのよ」
そして二人揃ってギーシュを睨む。
「と、いう事で……殺すとしましょうか」
「そうね、サンを弄んだ罪、綺麗さっぱり清算してもらいましょう」
またもデルフリンガーはルイズの手の中である。
「よー、なんだか最近の娘っ子、どんどん人間離れしてきてる気がすんだけどよー。つかお前本当にメイジか?」
やはりデルフリンガーの台詞は無視である。
ヴェストリ広場はとても広い、走って逃げてもキュルケの魔法からは逃れられず、近接すればルイズが襲ってくる。
まさに絶体絶命。
そこに、息を切らしながらタバサが駆け込んできた。
「……はあ、はあ……間に合った」
その後ろには同じく息を切らしているモンモランシーの姿があった。
「何よ……はあ、はあ……こんな所に引っ張りこんで……」
全員がタバサに注目しているのを確認した後、タバサはおもむろに咳払いする。

「今回の騒ぎ、真相が全部わかった」

その言葉の意味はわからない。だが、タバサが何か重大な事を掴んだらしいことはわかったので、全員が静かにそれを聴いている。

「全ての元凶、犯人は……」

ぴっと指を刺す。

「モンモランシー」

その一言に全員が口々に喚きだす。
「何よそれ! どういう事なのタバサ! ギーシュ埋めて全て解決じゃないの?」
「そういえばタバサ最近何か調べてたわね、説明してよ」
「もー、どーでもいいよ僕ぁ」
「タバサちゃんかっこえー」
「な、ななななな何を言ってるのかしら? ぜ、ぜぜぜ全然意味がわからないわ、おほほほほほほ」
喚く面々を手をあげて黙らせる。
「まず、サンの様子が変わったのが四日前、正確にはその夜」
モンモランシーがその言葉に反応して僅かに震える。
「その夜にあった事、ギーシュとサンに確認した。その時の会話、そして飲んだ飲料。サンがギーシュを気にしはじめたのはこの二つがきっかけ」
全員タバサの言葉に静かに聞き入る。
「言葉はひとまず置いておいた。これが原因だった場合、私に出来る事は何も無いから」
キュルケはうんうんと頷く。
「飲料であった場合、そこに何らかの薬物が使用されている可能性がある。そして……」
きっとモンモランシーを睨むタバサ。
「モンモランシーは秘薬の材料をその数日前に手配している。これは裏も取ってある」
むすーっと拗ねた顔になるモンモランシー。
「その材料が何なのかもわかってる。そしてそこから作り出される薬は、惚れ薬。状況から鑑みるにギーシュに飲ませようとして誤ってサンが飲んでしまった」
完全にへそを曲げ、そっぽを向くモンモランシーに、タバサは畳み掛けるように言う。
「作ったのがモンモランシーなら、解毒薬が作れるのも貴女。すぐに、作って」
「ふん、なんで私がそんな事……」
みなまで言わせず、タバサは言葉を続ける。
「断るのなら、二匹の獣を野に放つ。私はもう止めない」
間を合わせたわけでもないだろうに、ちょうどその時、モンモランシーは自分のすぐ側に立っているルイズとキュルケに気付いた。
真後ろからモンモランシーの首筋にデルフリンガーを当てているルイズ。
正面に立ち、顎の裏に杖の尖った先端を突きつけるキュルケ。
二人共、何やら全身から瘴気のようなものが漂っている。
この二人の行ってきた数々の暴虐の限りを一通り把握しているモンモランシーは、即座に全面降伏を申し出るのだった。


その日の夜には、出発の準備は整い、ルイズ、キュルケ、タバサ、モンモランシー、燦の五人がラグドリアン湖へと向かう事になった。
モンモランシーが解毒剤を用意するのに必要な材料がそこにあるというのだ。
他の材料は全て揃った。後はそこで手に入る物のみで、それが揃い次第即座に作成、解呪せよとのルイズ、キュルケの厳命により、必要な物も全て持っていく。
ギーシュは連れていかなかった。燦がこの状態なので、それを見ているルイズとキュルケの精神衛生を考慮に入れたのだ。
時間等色々と文句はあったモンモランシーであったが、とても口に出せる状況ではなかったので黙っていた。
馬車を飛ばしてあっという間にラグドリアン湖。
モンモランシーの呼びかけに応じて水の精霊が現れる。
交渉はモンモランシーに任せていたのだが、旗色が悪くなってくると、ルイズ、キュルケの機嫌があからさまに悪くなっていく。
必死の形相で説得に当たるモンモランシー。
その甲斐あってか、妥協点を提示してもらえた。
アンドバリの指輪を手に入れろというそれを聞いたルイズは、遂に堪忍袋の緒が切れた。
「モンモランシー、私は邪魔しないよう大人しく聞いてたわよね? ねえ、それなのに条件付きってどういう事かしら?」
キュルケは精霊相手に無理強いする気は無いのか、それ以上の追及はしなかったが、ルイズを止めようともしない。
何とかそれで納得してもらおうとルイズを説得にかかるモンモランシー。
「あ、あのねルイズ。相手は精霊だし、交渉の一部始終は聞いてたわよね? し、しょうがない部分もあると思うのよ……」
ちらっと水の精霊を見やるルイズ。
「そう……じゃあ交渉役交代ね」
そう言って何故か背に背負っていたデルフリンガーに手をかける。
ギーシュがサンと仲良くなってからというもの、ルイズは常にこれを側に置いていた。
真っ青になるモンモランシー。ルイズは脅しとかでなく本気でヤるとわかっているのだ。
「それ交渉じゃないし! お願い待ってええぇぇ!! もう一度だけお願いするから! だからそれだけは待ってちょうだい!!」
二人ですったもんだしている間に、燦が水の精霊に声をかける。
どうやら燦は、ここに来た理由を正確に把握していないようだ。
「大事な物だっていうのはわかる。でも、私達にもそれ必要なんよ。どうか分けてもらえんじゃろか」
水の精霊は燦の姿を見て、少し驚いた様だ。
「ほう、ガンダールブが居たのか」
「巌娜亜流武? ああ、あれな、瀬戸内にも似たようなのおったわ。族の名前じゃろ」
「ならば構わぬ、持っていくがよい。ガンダールブならば約束を違える事も無かろう」
その言葉に飛び上がって喜ぶ燦。
「ホンマに? ありがとう水の精霊さん! 私、絶対そのあー、あー、あんどー、とろわー指輪持ってくるきに!」
残った四人は目をむく。散々渋っていたのが、燦が話した途端あっさりと承諾されたのだから。
「その件はガンダールブに任せる故、私はしばし休むとしよう……」
モンモランシーに解呪薬の材料である水の精霊の涙を渡すと、そう言い残し、水の精霊は水中へと消えて行った。
キュルケが不思議そうにルイズに問う。
「ねえ、ガンダールブって何?」
「多分族の名前だと思うんじゃけど、あの人元ヤンなんちゃうん? ほら、族ってそういう繋がり大事にする言うし」
「……人、ねえ……で、それが何でサンを知ってるの?」
燦はにっこり笑う。
「さあ? ようわからんけど、信じてもらえたし、私も信頼に応えられるよう頑張ってアンダーソン君の指輪探してみるわ」
「名前ぐらい覚えときなさい、アンドバリの指輪って言ってたわよ。後クロムウェルって奴が盗んで行ったとかなんだとか」
ルイズは面倒そうな顔をする。
「で、そのクロムウェルって誰よ?」
モンモランシー、キュルケ、タバサ、燦の四人は揃って首を傾げた。
『さあ?』
クロムウェルはレコンキスタの大将として現在アルビオン戦真っ最中の渦中の人なのだが、全員時事に疎い様だった。


その日の内に燦の解毒が完了し、普段通りの毎日に戻った。
少し変わったのは、キュルケが少しルイズと距離を置くようになった事。
ラグドリアン湖への道中、タバサに「最近ルイズと沸点が変わらなくなってきた」と言われたのが余程ショックだったらしい。
物凄い勢いでルイズは抗議したものだが、全身包帯ぐるぐるな様でそれを言われても、誰一人として聞く耳持つ者など居なかった。
「……わ、私は怪我する程無茶してないわよ」
弱々しくそう言ったキュルケは、相当ヘコんで見えたそうな。

意気揚々と学園へと戻った五人を向かえたのは、半泣きになっているギーシュであった。
「君達! 男の純情を弄ぶのがそんなに楽しいのか!? ええ! 何とか言ってみたらどうだい!」
何を言っているのかわからない五人であったが、ギーシュが懐から差し出してみせたのは、そう、ラブレターであった。
『突然の手紙スミマセン(中略)あなたの事が好きです(中略)明日の放課後ヴェストリ広場で待ってます。その気があれば来て下さい』
五人揃って顔を見合す。
「……ちょっとキュルケ、貴女またやったの?」
「知らないわよ、ルイズじゃないの? もしかしてタバサ?」
「違う」
「ギーシュさん、モテるんじゃな~」
その手紙を、横からひったくるようにモンモランシーが奪い取る。
問答無用でびりびりに引き裂いて、そこらに投げ捨てた。
「ギーシュ、誰がやったかは知らないけど、これで文句は無いわよね」
男泣きに泣くギーシュは、こくこくと頷く。
それを慰めるモンモランシー。
「モンモランシー、僕ぁ、僕ぁ……ラブレターもらってさ、一人で浮かれて……バカみたいじゃないか……そうだよ、いつまでもルイズに勝てない僕なんかがモテるなんてありえないんだ……」
「大丈夫よギーシュ、貴方は人に好かれる優しい人よ、私が保証するわ。さあ今日はもう寝ましょう」
こうして、一つ下の女生徒ケティ・ド・ラ・ロッタの一世一代のラブレター作戦は花と散っていった。

そして翌日、朝一番の便でタバサへと手紙が届いた。
タバサはその中身を確認した後、少し考えて返信を書く。
『現地には直接向かいます。解決し次第連絡差し上げます』
そしてのんびりと学園で数日過ごした後、解決した旨の連絡を本国へ送る。
本国からタバサに送られた命令は『ラグドリアン湖氾濫の原因と思われる水の精霊退治』であったのだ。
ラグドリアン湖氾濫の目的はアンドバリの指輪、その件を燦に任せて休むと言っていた水の精霊は、既に氾濫なんて真似はしていないだろう。
「たまには、役得」
日ごろ苦労の多いタバサは、中庭でお茶をいただきながらそんな事を呟いていた。


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