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三人05


ガリア王宮ヴェルサルテイルの一角、薄桃色に彩られたプチ・トロワと呼ばれる小宮殿の中で、
一人の少女が苛立たしげに足を踏み鳴らしている。
年のころは十七ぐらいだろうか。ジョゼフ王の娘、ガリア王国王女イザベラであった。
「あのガーゴイルはまだ来ないの?」
「は、はい、シャルロット様は、既にご到着されているのですが……」
年配の侍女が思わずこぼした言葉に、イザベラは瞬時に反応して手を伸ばす。
「『あれ』はただの人形。ガーゴイルで十分だって、何度言ったらわかるのかしら」
「は、はい……申し訳、ありません……」
っつと当てられた指先に怯える侍女の様子に満足したのか、イザベラはふんと鼻を鳴らすと、
特別にしつらえた玉座にだらしなく腰掛けた。
「到着しているならさっさと呼んできて。あれの都合なんてわたしに関係ないし」
「で、ですが、その、イザベラ様に迷惑がかかると……」
「呼べ」
明らかに侍女たちはシャルロットを庇っている。着替えでもしているのか?
何にしろ、今すぐ呼べばあれが困るのは間違いないだろう。
イザベラは下劣な笑みを浮かべながら、侍女に最後通牒を突きつけた。
あれの困った顔、正確には困ったことを必死に隠そうとしている顔ぐらいは見られるだろう。
嫌らしく歪む口元を隠そうともせず、イザベラはタバサを部屋に招き入れることになる。

イザベラの期待は叶えられ、彼女はタバサの困った顔を見ることになるが―――
彼女自身が、それ以上に困ったことになるとは予想していなかった。

「……で、あんたの後ろにくっついてるのは何?」
ようやく姿を現したタバサは、その後に大量の同行者を従えていたのだ。

「私はタバサちゃんの使い魔やからー」
「うちはやっぱり歩ちゃんが心配やし……」
「二人が行くなら私も行かないとあかんような気がしてな」
「リインははやてちゃんといつも一緒ですー」
「はやてがどうしても行くって言うから、私が……しょうがないじゃない!」
「お話を聞いてなの」
「ミス・コノエが行く所、常にマリコルヌの影あり!」

「ああああああ!何でこんなぞろぞろ連れて来たのよ!ホントあなた馬鹿ね!バカバカ!」

思わず立ち上がって叫ぶイザベラ。
まだ準備ができていないと嫌がるタバサをせかしたのは彼女なのだが、
そんな事情は思いつこうともしないらしい。
何だかここにいるはずのない人が混じっていたような気がするが、
気にしたら死のような気がしたのでそのことは黙っておき、とりあえずタバサを罵ることにした。
「ねえ、あんたは神聖なる北花壇騎士団の任務を軽く考えてるんじゃない?」
「北花壇?」
「北花壇騎士団ってなにー?」
「あ」
「チッ」
秘密をぽろっと暴露してしまったイザベラに視線が集まり、微妙な空気が流れる。
「あんた……今、舌打ちしなかった?」
「してない」
一瞬明らかに責めるような目をしたタバサだが、今現在はいつもの無表情に戻っている。
タバサか、それとも侍女の誰か……。
表面上取り繕っても、やはり腹の底では誰もが自分を馬鹿にしているのだ。
本来の立場を忘れた簒奪者の娘として。その証のように、あきらかにシャルロットに劣る自分を。
勝った気分になることはできる。命令して優越感に浸ることはできる。
でもその勝利を認めてくれる者など誰もいない。いるはずもない。

イザベラは脱力して玉座に座り込むと、脇に置いた書簡を放り投げて言った。
「……北花壇騎士団七号のあんたの任務よ。さっさと片付けてきなさい」
タバサは一礼し、踵を返す。

それと入れ替わるように、同行者の一人が進み出る。
八神はやて。十九歳の自称『魔法少女』であり、自らが望んだ生粋の―――部隊長であった。
「王女イザベラ。ちょっと、お話したいことがあります」
「残念。私はそんなに暇じゃないの」
「そう言わんと。私の経験、有能すぎる部下の扱いとか、どうですか?」
有能すぎる部下の扱い。その言葉に興味を引かれたのか、イザベラは体に力を入れて次を促す。
「……続きを」
「有能すぎる、私より強い部下ってのも考えものでなあ。特に大変なのは意見が対立した時やね」
「対立した時……どうするの?」
「さすがに実力行使してくる事はないけど……実力に裏打ちされた発言は、それだけで脅威や」
「……そうね。不満げに黙ってこっちを見てる時が一番恐いわ」
「せや!あの娘らわかってないんよ、自分らがどれだけの存在なのか―――」
「そうね、あいつももっと認識するべきだと思うわ。自分の存在が脅威を与えるってこと―――」

はやてに見透かされたのか、それともそれが『共感』とでもいうべきものだったのか。
いともあっさりと、人が違ったようにはやてとのお喋りに興じるイザベラを、タバサは驚きを持った目で見ていた。
タバサの討ち果たすべき仇であり、殺されて当然の哀れな存在であると思っていたイザベラが、
まるでただの女の子のように笑って、お話して……。
彼女もまた楽しそうに笑う人間であると、タバサの目の前で証明されてしまったのだ。
何かが崩れていくような、驚愕に目を見開くタバサの脇をまた、誰かが通り抜けた。

会話が途切れる時を見計らったかのように進み出たのは、タバサの使い魔。大阪と呼ばれた少女。
何も考えていないようでやっぱり何も考えていない彼女が一体何を考えたのか、
イザベラの頭に右手をのせ、ゆっくりと撫で始めた。右手に描かれたルーンが、微かに光を放つ。
「ちょ、何する気!」
「イザベラちゃんも、寂しかったんやなあ」
「ば、馬鹿にして!やめなさい!あ……に……」
「にゃふん」
「にゃふん?」
あまりの心地よさに陶酔しきっていたイザベラは、自分の発した奇声でようやく我に返り、叫ぶ。
「さっさと行きなさい!任務を果たせなければ全員死刑!いいわね!」
その叫びにもしかし、「ひゃー大変やー」「どないしよー」「死刑は勘弁やー」
などとイマイチ危機感のない返事しか帰ってこない。そして、イザベラもそれを嫌いになれない。

「本当に……なんて嫌な奴ら!」
誰もいなくなった玉座でイザベラはそう呟いたが、
少し顔が赤くなっていたので、それを信じるものは誰もいなかった。


ガリアは、少し平和になった。


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