あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの教師-05

 才人は、自分でも驚く程の憤りを感じていた。
 彼は、自身には理解し難い価値観に基づく講釈を続けている金髪の少年、ギーシュの顔を眺める。
 熱心に語る様は、成る程同性の才人から見ても美少年という範疇に収まるものだろう。自分と比べれば、どちらがそのカテゴリーに属するかと言えば、ギーシュであると認めざるを得ない。
 しかし、才人にとっては、ギーシュもまた自分の主のように、鼻持ちならない傲慢な、不愉快な他人でしかない。
 人の話を聞かず自分の我ばかりを押し通す。不満があれば無関係な者にも当り散らす。
 それだけなら、まだ才人も我慢はできていた。まだこの世界にやって来て1日しか経っていない自分としては、最大限の譲歩がそれを受け入れるというものだったのだから。
 何をどうしても元の世界に帰る事は出来ず、また自分がこの世界では平民と呼ばれる人間である以上、その立場に甘んじて行き続けるしかない。
 それに不満がないと言えば嘘になる。しかし、受け入れる努力はすべきだと自分の中の、冷静な部分がそう囁いた。主人であるルイズのように、癇癪を起こすだけなら才人にだって出来る。文句なんて未だに星の数ほど言える自信がある。不本意だが、ルイズを脅して帰れるというのなら、それだってやってやれるのだ。
 それでも、それらに意味が無いから受け入れるべきだと考えた。
 なのに、何故自分はこうも怒っていて、しなくても良い喧嘩をしているのか。
 自分の中の冷静な部分はこの世界に順応しろと囁いているが、生来持ち合わせている気の強さや反骨心、更にこの世界や現在の境遇に対する反発心が、冷静な自分を押え付けたのだろう。
 なんだ、と我ながらあまりの単純さに呆れてため息しか出てこない。
 要するに、単に我慢の限界が来ただけだ。

「ごちゃごちゃ御託が多すぎるんだよ、てめえ」

 少なくとも、自分からギーシュに頭を垂れる事などあり得ない。
 貴族の価値観も、彼の家の事も、メイジも貴族も平民も、かつてない程の憤りの中にある才人には、一切の意味を持たない。

「貴族貴族貴族ってどいつもこいつもアホじゃねえのかクソが。
 てめえだって、結局はただのガキじゃねえかよ。
 自分のした事の始末もつけられないような奴はな、どこの世界でも只のクソ野郎ってんだ」

 しかし、怒りに震えているのは、才人だけではない。

「よかろう! かける温情もこれまでだ。
 ここまで言って分からないと言うなら、その生意気な口を胴体から切り離して差し上げよう!」

 ヴェストリの広場にて対峙していた2人は、その言葉と共に距離を取り、才人は記憶の中から漫画で見た出鱈目なボクシングスタイルの構えを取り、ギーシュはバラの花を模した杖を片手に構える。
 開始の合図も無い決闘は、あくまでも余裕の態度を崩さないギーシュに向かって、才人が全速力で駆ける事が始まりの合図となった。

「予め言っておくが」

 10メイル程度の距離を駆け抜ける才人に向けて、ギーシュが片手に持った杖を一振りする。
 薔薇から1枚の花弁が散ると、何も無かった大地から戦乙女を模した青銅の像が生まれた。

「僕はメイジだ、だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね」

 目の前で突如生まれた像に対し、目を丸くして驚いた才人だったがギーシュの言葉に再び戦意が沸いたのか、手槍を持つ戦乙女の銅像の横を素通りし、ギーシュの目の前で大きく振りかぶり、拳を彼の顔面に叩き込むべく、痛いくらいに拳を握りこんだ。
 ルールに従うなら、才人は杖を持つギーシュの手を狙うべきだった。杖を奪うだけなら、そこで動きを止めてまで振りかぶる必要もない。そのまま駆け抜けて体当たりをするだけでも良かったのだ。
 だが、興奮状態にあった才人はルールの事など頭になく、とにかくこのギーシュという男の事を殴ってやるという事だけが、頭にあった。

「無粋だね君。
 乙女の名乗りには耳を傾けて差し上げるのがマナーというものだろう?」

 だから、手槍をを構えた戦乙女が、大きく腕を振りかぶっていた才人に向けて体当たりをし彼を5メイル程吹き飛ばすまで、その戦乙女の能力というものに対して、自分が何も考えていない事に気付けなかった。

「さあ起き給え平民くん。
 君には僕の、青銅のギーシュの魔法。ゴーレムのワルキューレが全力をもってお相手しよう!!」

 ルイズが、アティや他の補習を受けていた生徒達とヴェストリの広場に着くと、そこには生徒達の人山が築かれていた。
 貴族同士の決闘はご法度であり、絵物語でしかそれを知らない生徒達にとって、どうやら2人の決闘は良い見世物のようだ。ワルキューレの拳に才人が打たれる度、立ち上がる度に小さなどよめきが辺りに響く。

「ギーシュ!」

 ルイズはそんな中、肩を震わせながら2人の間に割って入り、よく通る声でギーシュを怒鳴りつけた。

「おや、ルイズじゃないか。悪いね、少し君の使い魔を借りているよ」
「ふざけないで!」
「おお怖い。だがねルイズ、この決闘は両者同意の元で行われている正当なものだよ」
「禁止されているものに正当なんてないに決まってるでしょう!」

 それは貴族の間だけだ、と抗弁するルイズをぴしゃりと跳ね除けると、再び立ち上がった才人を打ち倒すべく、ワルキューレに命令を送る。

「済まないがねルイズ。邪魔をしないでくれたまえ」

 強かに打ち付けられた才人は、それでも不適な笑みを浮かべ再び立ち上がる。

「彼も、まだまだ元気なのだしね」

 ルイズを跳ね除け、再び突進を始めた才人の姿に生徒達の歓声がひときわ大きくなった。その中に、この決闘を止めようという意思を持つものは居ないようだ。数名の生徒は呆れたようにそれを見詰めていたが、ただそれだけだった。

「ルイズさん」

 そんなルイズに、先程からずっと彼女の側に立ち、この決闘を見詰めていたアティが声をかけた。

「ミス・アティ! お願いします。あの2人を止めて下さい!」
「何故、ですか? ギーシュくんもサイトくんも同意の上でしたら問題ないはずです。
 勿論命に関わるような事になれば止めますが、2人とも今止められる事を望んでいないのは明白です」

 穏やかで優しい印象のアティは、あくまでもその印象を保ったまま、信じられない事を口にした。ルイズも、側にいたキュルケや他の生徒達も、目を丸くしてアティを見詰めている。

「私は、どんなものでも信念に基く行動を最大限尊重します。
 確かに今止める簡単ですし、実際に私も止めたいと思っています。けど、今私が教師という目上の立場で横槍を入れれば、確実に禍根が残ってしまいます。
 だから、私は2人の意志を尊重します。
 尊重した上で、暴走するようなら絶対に止めます。それが最大限の譲歩です」

 でも、と反論をしようとするルイズを制して、アティは続ける。

「だから、止めたいと願うなら貴女がやるしかないんです。ルイズさん」
「私が…?」
「ルイズさん、どうしてサイトくんは、こんな決闘をしているか、考えられますか?」

 俯いたルイズは、アティの問いに首を横に振って答えた。

「きっと、サイトくんも分かっているんです。自分がどうしても帰れない事も、この国が貴族本位の国である事も。自分が平民である事も全部。
 でも」
「でも?」
「譲れない何かに、きっと触れられたんだと思います。
 どんな些細な問題でも、そういったものって、きっと誰にでもありますから」

 だから、と重ねてアティはルイズに尋ねる。

「貴女は、どうしたいのですか。ルイズさん」
「わ、私は……」

 ルイズの頭を、たった1日しか共に過ごしていない、才人に対する思いが駆け巡る。
 平民の癖に貴族を敬わない。命令しても文句ばかりで、碌に洗濯もできないような無能で、主人である自分を差し置いて使用人如きと意気投合し、自分の知らない所で使用人と交流を深め、あまつさえ今現在彼は必死になってやめてと叫ぶ自分を無視してまで、ギーシュと戦っている。
 やっと、やっと成功させた魔法で手に入れた、自分だけの魔法の成果なのに。

「それでも、私はあんな風に傷付いて欲しいだなんて思わない! あいつは、サイトは私の使い魔です!」

 顔を上げたルイズの頭を撫でて、アティはポケットからサモナイト石を取り出し、祈るように胸の前で両手を合わせていたルイズの手に、それを手渡した。

「それなら、きっと貴女には出来る事があるはずです。
 誰かを思いやる真摯な願いは、きっとどんな世界にも響きます」

 サモナイト石を手にしたルイズの背を押し、今も必死にワルキューレと戦いを続けている才人へ、アティは声を張って教える。
 この不器用な少女が、決して彼の事を嫌っている訳ではないのだと。
 1人で戦う必要はないのだと。

「サイト君!
 距離をとって!」

 極度の興奮と緊張、そして疲労の極地にあった才人がアティの言葉に反応したのは、穏やかな印象ばかりのアティから鋭い言葉がかかったからだ。
 手槍を突き込んでくるワルキューレから逃れ、一時でもワルキューレの動きを止めようと、足元の石をギーシュに向けて放る。放物線を描いてゆっくりと放られた石には、ギーシュの身体を傷つけるような威力は無い。精々服に汚す程度の事しかできないだろうが、ギーシュはわざわざワルキューレを呼び戻し、その石を手槍で叩き落させた。
 才人を追いまわし、執拗に肉薄し続けていたワルキューレが、彼の側を離れる。

「お願い、サイトを助けて……私の願いに、応えて!」

 サモナイト石と杖を持った両の手が熱を帯び、ルイズの身体を再び説明し難い感覚が襲う。緊張から視界は狭まり、ルイズの目には、才人から離れ小石を叩き落したワルキューレの姿だけが、やけにはっきりを映って見えた。

 お願い! と心の中で強く願うと、両の手の熱はその熱量を光に変える。
 その色は、どこまでも白い光だった。

「召喚!」

 言葉と共に、手元の光はルイズの掌を抜けて頭上へ延び、さらにその輝きを強め周囲の生徒達がその眩さに目を細めた瞬間。
 4本の光り輝く剣がワルキューレの頭上に現れ、瞬く間にワルキューレの身体を貫き、青銅で構成されたその身体を地面に縫い付けた。

「なっ、何だこれは!?」

 それに最も驚いたのは、ワルキューレを破壊されたギーシュだ。
 突如として現れた剣は、決して周囲の誰かが投げ入れたものではなく、確かにその場で現れたものだ。魔法で作られた氷の刃でも、錬金で作られたものでもない。
 彼が、ルイズやキュルケ達のようにアティの補習を受けていたのなら、それがシャイン・セイバーと呼ばれる召喚術であると理解できたかもしれないが、その存在を知らないギーシュは、慌てて杖を振り、隠し玉を登場させる。
 落ちた花びら6片が、速やかにワルキューレとなる。

「あらギーシュったら、平民如きに本気になったのね」

 態度を一変させたルイズは、堂々とワルキューレと才人の間に立ち言った。
 その言葉から、ギーシュは先程の剣を呼び出したのがルイズである事を直感し、怒りの矛先をルイズに向ける。

「さすが、ゼロのルイズには貴族の誇りがないようだね。
 貴族の決闘に横槍をいれるなんてね!」
「あらギーシュ、それは貴族の決闘でしょう? 貴方も言ってたじゃない。才人は平民、それもわたしの使い魔。
 ねえギーシュ、それなら私、貴方のモグラを今の剣で突付いて遊んで良いのかしら?」

 嗜虐的な笑みを浮かべるルイズに、高圧的な態度を取り続けていたギーシュの動きが止まる。
 しかし、そんなルイズの顔を見ていない才人は、突然乱入したルイズの肩を引くと、彼女を守るように両手を広げた。

「勝手な事、言ってんじゃねえよ。
 これは、俺とあいつのケンカだ。お前には関係ない」
「ルイズよ」

 背中に投げかけられた言葉に、才人は目を丸くする。

「は?」
「シャイン・セイバーがまだ残ってるから、好きにすれば良いわ。
 でも忘れないでね。私どんな勝負でも負けるのが大っ嫌いなの。だから、私の使い魔にも負けは許さないわ。
 頑張って……サイト」
「……おう。お前の使い魔だからな、負ける訳にはいかないだろうがよ、ルイズ!」

 言葉と共に、才人は地面に縫い付けられたワルキューレに向かって走り出した。
 距離的にはさほどの時間もない場所だが、その間にはギーシュの生み出したワルキューレが6体、内1対はギーシュの側を守っているので計5体が、突如動き出したサイトに反応し、それぞれの武器を手に才人の元に殺到する。
 才人は、5体のワルキューレが自分の元に辿り着けないのを確信していた。
 初めて心を通わせる事の出来た彼女が、ルイズが勝てと言ったのだ。そして自分は勝つと言ったのだ。

「だから、負ける訳がねえっつんだ!!!」

 突き刺さった剣は4本。その内1本、ワルキューレの足を貫いていた両刃の長剣を手にし、振り返りざまに後方から殺到するワルキューレに全力で斬りかかる。
 まずは、また距離を取らなくてはいけないと考えていた才人は、その1戟はあくまで牽制のつもりで振ったものだった。
 しかし、その一振りは才人に最も近づいていたワルキューレの手槍を捕らえると、まるでバターを裂くように、手槍共々ワルキューレの体を両断していた。
 あっさりとワルキューレを倒されたギーシュは目を見開くが、彼に背を向けている才人はそんなギーシュの驚愕を知る事はない。
 ルイズの召喚した剣の力か、淡い白い光を放つ剣を持っていると、あれだけ苦戦し続けていた筈のワルキューレを相手にしても、全く負ける気がしなかった。
 風のように動く体が、淀みのない動きで剣を操る。
 袈裟懸けに斬りつけて、1体。
 手首を返し、返す剣で逆袈裟に斬り、2体。
 剣から毀れる光を伴う才人の太刀捌きは、見る者を魅了し、対峙する者を威圧する。まるで華麗な舞のような才人の動きに、それまで唯の野次馬だった生徒達は、徐々に才人に向けて歓声を送る。
 側面から突き込まれた手槍を避け、横薙ぎに胴体を両断し、3体。
 未だにギーシュに背を向けてワルキューレを倒し続ける才人に、ギーシュは声を上げる事無く杖を振り、自身を守る為に側に置いていた、虎の子のワルキューレを突進させ、前後から挟み撃ちにする。

「サイト! 後ろ!!」

 ルイズの言葉に反応し、才人は大きく跳躍し目の前のワルキューレの頭上を越えた。振り返ると挟み撃ちには失敗したが、合流したワルキューレ2体が、左右に分かれて才人に向かって同時に槍を構えながら突進する姿が見えた。
 才人は、しかし冷静に判断し、まずは左から向かってくるワルキューレに狙いを定め、それまでの最大速度で肉薄した。才人の素早さに反応しきれないワルキューレは、手槍を構えた状態のまま、手足を斬られ、鈍い音を立てて地面に転がった。
 最後の1体が、ギーシュを守るべくその元へ向かっているが、その姿は誰の目にも、敗北を恐れ逃走する敗残兵の姿にしか見えなかった。

「これで! ラスト! だああああ!!」

 頭頂から股間まで1本の線が走ると、その線に沿ってワルキューレが両断される。ゆっくりと崩れるワルキューレの影から、剣を構える才人の姿を見たギーシュは、腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。
 そして、剣の切っ先がギーシュの眼前に迫った時、彼は杖を地面に放り、敗北を宣言した。

「僕の負けだ……」
「……そしたら、ちゃんと、謝れよ。二股してた女の子と、あと、シエスタにも」
「ああ、約束するよ。貴族の誇りにかけても、ね」

 どこか晴々した表情でいうギーシュを見ていると、才人もまた、決闘以前に感じていた憤りが綺麗に消失しているのを感じた。体中が痛いのに気分はとても晴れやかで、疲労が無ければギーシュと肩を組んでお互いの健闘を称え合いたいとすら思えた。
 しかし、そろそろ限界だ。
 がくがくと、もう少しでも立っていたくないと主張する足を踏ん張り、腰を落としたままのギーシュに握手を求めようとしたが、満身創痍な自分と比べて、傷一つ付いてないギーシュの顔を見ると、やはりほんの少し憤りを感じた才人は、伸ばした手を握りゆっくりと、ギーシュに向けて拳を下ろした。

「でもな、やっぱり1発殴らせろ」

 力の篭らない拳がギーシュの頬を捉えると、才人は速やかに意識を手放しその場に崩れ落ちた。
 彼を助けたルイズの剣は、彼が意識を手放すと同時に、その姿を消していた。

新着情報

取得中です。