あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の王-19-2


 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは複雑な表情を浮かべていた。
 ここは笑うべき所なのか、それとも怒るべきなのか、呆れるべきなのか、絶望するべきなのか……俄に判断が付かなかった。
 目の前で陶器のグラスを片手に、窓の外を眺める珍生物。

「あら?裸のお姫様が空飛んでいる」

 こんな言葉に本気で反応する馬鹿が、一体、この世のどこに居るだろう。
 それが、目の前に居るのだ。
 名前は確かギーシュ・ド・グラモンと言った。その上、自分の恋人と言う事になっている。
 結局、モンモランシーは一粒、涙を零す事にした。それが、誰を憐れんでの事かは、自分でも判らない。
 一体、どの様にして女子寮塔に侵入したのだろう。ギーシュが自室のドアを叩いたのは、30分程前の出来事だ。
 青銅の二つ名を冠するこの恋人は、熱心に自分の美しさを褒め称え、くどいばかりに愛を囁いた。どうやら、最近、メイドとの関係を疑われている事が堪えているらしい。
 さて、どうする――――自分を一番に愛している。その言葉を素直に受け止めるべきか?
 否。絶対に否だ。一番が居るなら、二番も三番だって作る。ギーシュはそうしたタイプだ。
 デート中、目を離した隙に他の女の子を口説き始めた事は一再では無い。
 正直に言って、その女癖の悪さには閉口させられている。とは言え、嫌いな訳では無い。なんだかんだと言っても、幼馴染みだ。
 付き合いを続けるなら、治る見込みの無い病気の自然治癒を待つよりも、自分から行動を起こした方がいい。
 モンモランシーはそう考えた。幸か不幸か、その手段も手にしていた。
 袖口に隠した小瓶。700エキューもの大金を叩いて調合した、御禁制の惚れ薬。
 これをギーシュのグラスに一垂らししてやれば、もうナルシストの浮気性に悩まされる事も無い――――のだが――――

 一瞬――――いやに長い一瞬――――モンモランシーは躊躇した。
 悩む時間はたっぷりあった。正しく、それが悩ましかった。
 別に良心の呵責を覚えた訳では無い。浮気性とおさらばする方法は他にも有る。
 それでも、モンモランシーは決断した。
 透明の液体が、タルブ産の赤ワインに溶けるのを見届けると、安堵の溜息が漏れた。

「なんだ。ミス・タバサじゃないか……」

 たっぷり三分間に渡って窓の外を見回していたギーシュは、失望の声を漏らした。
 水色の髪をした少女が、エアトレックで学院狭しと飛び回るのは、今や珍しくも何とも無い光景だ。
 最近は、そのすぐ下にマリコルヌも現れる様になった。
 所で、どうして彼はエアトレックを頭に着けるのだろう。

「あら、勘違いね」

 隠密裏に作戦を完了したモンモランシーは、何気なく言った。それよりも、乾杯しましょう――――二人はグラスを合わせる。
 ギーシュは気取った仕草でワインをくゆらし、香りを楽しみ、そして一口含む。
 舌の上でゆっくりと深紅の液体を転がし、口を湿らせながら、鼻腔に香気を送り込む。
 一連の儀式を終えて、ギーシュは漸くワインを飲み込んだ。

「ふむ……」

 気障な少年は、評論家気取りで目を瞑り、判りもしないワインの味を吟味している。
 モンモランシーは同時に固唾を飲む。
 彼が目を開いて自分の姿を目にした時、惚れ薬はその効果を現す筈だ。
 調合は巧く行ったのか。効果はどの程度の物なのか。
 そして、その時、この幼馴染みの少年は、どんな態度を見せるのか――――そこまで考えた時、突然、けたたましい音を立ててドアが開く。

「マルガリ!助けえ!」

 モンモランシーは息を飲む。空だ。咎める間も無く部屋を横断、窓から飛び出した。

「待ちなさい!」

 後を追う様にしてルイズが現れる。モンモランシーは卒倒しそうになった。
 まずい――――もし、ギーシュが自分よりも先に、この闖入者を捉えていたらどうなるか。

「ちょ、ちょっと!なんなのよ、あんた!人の部屋に勝手にねえっ……!」

 腰に手を当てて激怒するモンモランシーには目もくれず、ルイズは開け放たれた窓を見つめる。
 どうやら、空はそこから逃げたらしい。

「あら……御免遊ばせ」

 最後にギーシュを一瞥すると、ルイズはドアを閉じた。
 女子寮は本来男子禁制だが、監視も緩い。女生徒の手引きがあれば、こうして部屋を訪れるのも決して不可能では無い。
 生真面目な少女の口調には、そんな異性同士の不純な交友に対して抱く嫌悪と軽侮の念が、ありありと込められていた。

「何よ。あんたなんか、部屋に引っ張り込む所か、同棲してる癖に」

 モンモランシーはドアに向かって毒吐いた。

「行ったか?」

 窓から声がした。空は飛び降りたフリをして、窓枠に手を掛けていた。
 車椅子ごと、室内に飛び込む。

「あんたねえ……」
「取り込み中、スマンかったわ」
「今日は、一体、何で怒らせたの?」
「大した事やあらへん」

 寧ろ、褒めたんやで――――空はぼやいた。
 ルイズは家柄が良い。容姿も整っている。頭も良いし、魔法だってオーク鬼七匹を纏めて倒せる程上達した。
 ただ、惜しむらくは、趣味の方面が丸ごと欠落している。

「同い年頃のボーイフレンド作れば、もう完璧なんと違う?そう言うたら、急に怒り出してよってなあ……」
「あんた、馬鹿だわ」

 モンモランシーは呆れ返った。
 全く、ギーシュと言い、この空と言い、どうして男はこうも馬鹿なのだろう。
 本当に、嫌になる。

「とにかく、行ってよ。ドアからでも、窓からでも良いから出てって」
「いや、悪かったわ。ホンマ」

 巧くやれ――――ギーシュに目配せを送ると、空はドアから出て行った。
 モンモランシーはギーシュに向き直った。
 惚れ薬を飲んだ恋人は、一連の騒動を声も無く眺めていた。
 その瞳を、じっと覗き込む。さあ、彼が最初に見たのは、自分か。それともルイズか。

「なんだったんだろう?」

 一言呟くと、ギーシュはグラスを空けた。モンモランシーもそれに倣った。
 二つのグラスが空いても、永久なる愛の奉仕者を称する少年は、瓶に手を伸ばそうとはしなかった。

「ギーシュ……?」
「さて……では夜も更けて来たし、僕はこれで失礼するよ」

 馬鹿の一つ覚えの様に「愛している」を連発して部屋に押し掛けて来たのが、まるで嘘の様だった。
 ギーシュはそれきり、モンモランシーには一瞥も与えないまま、ドアノブに手を伸ばす。
 モンモランシーは慌てて後を追った。拒絶する様にドアが閉じた時、香水の二つ名を持つ貴族は、今度こそ本当の絶望を味わった。
 ドアの向こうから、漏れ聞こえた声。
 感極まったかの様な声で、ギーシュは確かにこう言ったのだ。

「ウホッ……いい男――――!」


   * * *


 ヴェルダンデの大きなお尻を見るのは、久しぶりの事だった。
 空はギーシュに二度目の決闘を挑まれた夜の事を思い出す。
 思えば、あの時も、怒り出したルイズに部屋を追い出され、行く所に困っていた。

「ホンマ、ルイズは短気であかんわ」

 空はぼやきながらも、ジャイアントモールの案内に従った。
 向かう先は例によって例の如く、ヴェストリの広場だ。
 一体、何の用だろう。

 あの夜、ギーシュは広場の中央に堂々屹立していた。
 今夜は少し、様子が違う。
 広場の片隅に噴水が在る。ゆらゆら揺れる水面と、立ち上る飛沫の中で、二つの月が溶け合っている。
 縁石には、金髪の少年が静かに座している。
 空の姿を認めるや、口元にそっと微笑が浮かぶ。
 はて、こいつは誰だ?――――空は首を傾げた。
 ギーシュ・ド・グラモンと言う名前を思い出すのに、数秒かかった。
 どうなっている?

「よく、お越し下さいましたミスタ」
「ん、ああ……?」

 空は首を傾げた。口調がいつもと違う。

「なんや、また決闘か?」
「似た様な物です」

 ギーシュはにっこりと笑った。花も恥じらう笑顔だ。
 元々、衣服のセンスが壊滅的に悪く、仕草が間抜けなだけで、顔の作り自体は悪く無い。
 こうして控え目に振る舞えば、十分美少年で通る――――問題は、あの気障なナルシストが、どうしてこんな態度を見せているのか、だ。
 決闘と言いながら、ギーシュは立ち上がろうとしなかった。

「どうぞ。もっとお傍に」

 空は背筋に嘘寒い物を覚えながらも、勧めに従った。何の冗談か、と思った。
 突っ込みを入れたくなった時、相手の頭蓋に手が届く距離に居た方がいい。
 ギーシュは空の瞳を下から覗き込むと、続いて、二つの月に目を移した。

「こんな夜だった――――」
「あん?」
「憶えていて下さらなかったのですか?僕が初めて、ミスタに決闘を挑んだ時の事です」

 嫌な言い方だった。
 空は無意識の内に体を退いたが、後には背凭れが有った。

「初めて決闘したんは、昼の話やろ」
「それは挑んだのでは無く、僕が受けの時でしょう」

 本当に嫌な言い方だった。
 ギーシュは月と見つめ合う様にして、溜息をついた。

「……待っている間、ずっと考えていたんです」
「あん?」
「僕はどうして、貴方に決闘を挑み続けていたのだろう、て」
「モテたいからやろ」

 ギーシュは静かに首を振った。
 平民に決闘で負けた為、女の子にモテなくなった。名誉を挽回したい。そう言っていたではないか。
 それとも、あれか。シエスタが言っていた。
 ギーシュが自分に決闘を挑むのは、難敵に勝利する事により、理想を追い続ける決意の証とする為だ、と。

「……今まで、そう思っていました」

 でも、それは間違いだった。ギーシュはそう言った。
 自分の気持ちを誤解していたのかも知れないし、自分を誤魔化し続けていたのかも知れない、と。

「でも、気付いたんです――――ああっ!僕が貴方に挑み続けたのは、勝利を得る為では無かった。名誉を得る為では無かった!――――他ならぬ、貴方が目的だったのだ、と!」

 空は車椅子ごと後に退いた。口元から、夕食のシチューが軽く漏れた。
 ギーシュは素早く距離を詰める。足にはエアトレックを履いていた。

「“飛翔の靴”を研究したのもっ、杖に磨きをかけたのもっ、今、こうしてエアトレックの練習をしているのもっ――――そう!全ては貴方の為だった!貴方に近付く為だったっ!」
「待ちや!待て!待て!ボーズ!お前、おかしい!絶対、おかしいで!自分の言うとる意味判っとるんかい!」
「判っています!確かに、僕の振る舞いは始祖の教えに背くものだと!サハラの悪魔に屈する背徳の道だと!ですが、ミスタ!愛は全てを許す物っ!そうお思いにはなりませんかっ!」
「ワイは許さへんわっ!」

 空は叫んだが、ギーシュはその声を全く聞いていなかった。
 真実の愛に目覚めた美少年は、感極まったかの様に身を震わせると、一躍、車椅子へと飛びかかる。

「お慕いしているのですっ!ミスタっ!貴方は使い魔などと言う身分に甘んじるべき人間では無いっ!僕の領地に来て下さいっ!僕が貴方の生活を御世話しますっ!」
「待て、こら!ボーズ!」
「ああ、ミスタっ!ミスタっ!ミスタっ!」

 Tシャツを脱がせにかかるギーシュ。空はその手首を捻り、一転、地面に叩き付けた。
 全く、なんだと言うのだろう。ともあれ、やられっぱなしは気分が悪い。

「おんどれも脱げっ!」
「きゃーっ!」

 上から、上半身をひん剥く。ギーシュの嬉しそうな悲鳴と、物音とが混じった。
 陶器の割れる音――――
 振り向くと、シエスタが居た。
 真っ青な顔だ。その足下ではルイズの部屋から回収して来た物であろう食器が、粉々に割れていた。
 沈黙が流れた。シエスタは“飛翔の靴”を滑らせて、本塔に消えた。
 後手に戸を閉じると、シエスタは走った。
 自分は二番目で良い。そう考えていた。それは、あくまで一番目が貴族令嬢たるモンモランシーだからだ。
 だが、今、ギーシュを組み敷いていたのは平民で、あまつさえ男で――――信じられない、信じられない、信じたくない!
 厨房に飛び込むや、シエスタは叫ぶ。

「マ、マルトーさんっ!包丁!包丁!包丁を貸して下さいっ!」
「包丁?」

 突然の要求に、料理長のマルトーは首を傾げた。額にはモット伯邸で負った刀創の跡が、今も残っている。

「料理でもするのか?」
「料理?」

 その問いにシエスタは笑った。口元だけで笑った。
 目元は相も変わらず、引きつったままだった。

「そ、そうですっ。料理ですっ。料理しちゃうんですっ!」
「で、何を作る気だ。それで包丁も……」
「とにかく!出来る限り先が尖っていて、丈夫なのがいいんですっ!」
「……わ、判った」

 戸惑いながらもぶ厚い包丁を差し出すマルトー。
 引ったくる様にして受け取ると、シエスタはすぐ様、広場へとって返す。
 一方の空――――

「……なんや。嫌な予感がしよる」
「そんな事より、ミスタ……」

 ギーシュは目を瞑って、唇を突き出した。空は迷わず、その顎を一撃。昏倒させる。
 車椅子に戻り、相手を抱え上げるのと、本塔の扉が勢いよく開いたのは、ほぼ同時だ。
包丁を手にしたメイドの姿に、空はぎょっとした。

「シエスタ……その、まあ、なんや……」

 落ち着け――――最後の一言を、空は口にしなかった。その前に、ギーシュを抱えて走り出した。
 刃物を握ったローラーメイドの瞳に、理性の色は全く窺う事が出来無かった。

「私と死んでーっっ!!」

 シエスタは絶叫した。誰に言っている?考えるまでも無くギーシュだ。
 だからと言って、自分が巻き込まれずに済む保証はどこにも無い。
 空は女子寮塔に飛び込む。
 シエスタは凄まじい速度で追って来る。壁を駆け、天井を蹴り、階段を一っ飛びに飛び越える。
 “飛翔の靴”が、まるでエアトレックだ。
 空は日本のTVゲームを思い出す。インラインスケートの包丁メイドに石造りの洋館を追いかけ回されるホラーゲームなら、ワゴンセールで980円が妥当だろう。
 それぽっちのスリルと命を引き替えにされては堪らない。
 空は逃げる。必死で逃げる。
 さしものシエスタも、半ば本気の空には追いつけない。
 背後にメイドの姿が見えない事を確認して、飛び込んだのはモンモランシーの部屋だ。
 丁度、その時、縦ロールの金髪少女は、机で頭を抱えていた。
 惚れ薬の効果で、ギーシュが空に惚れてしまったのは間違いない。解除薬を調合する予算は無い。
 そして、薬の効果が自然に切れるのは短くて一ヶ月から、長くて一年――――
 ドアが蹴り開けられた。モンモランシーは息を飲む。
 丁度、惚れ薬の作成と使用が露見した場合の量刑が、脳裏を過ぎった時だったのだ。
 場合によっては家門が潰れる。

「こらっ!マルガリっ!」

 この時、空は色々と機嫌が悪かった。怒鳴るばかりでは飽き足らず、上半身裸の少年を部屋の主人目掛けて投げつける。
 重量50㎏を超す肉の塊にのし掛かられては堪らない。モンモランシーは椅子ごと転倒する。

「なな、何するのよっ!私が何をした、て言うのっ!?」

 しでかしてしまっているのを、承知で言った。
 まさか、平民の空に惚れ薬の事が判る筈も無い。

「何もしいへんっ……いや、させてへんからやろ」

 案の定、空は見当外れの事を言った。

「お前があんまり勿体付けよるさかい、ボーズがおかしなりよったわ。ったく。どないすんねん、ホンマ」

 どうやら、空はギーシュが欲求不満のあまり、男に走ったと考えているらしい。
 さて、どうしよう。
 空は今、そこそこ金を持っている筈だ。ギーシュとの仲も悪く無い。
 素直に話して協力を仰ぐか……しかし、ここまで決定的な弱みを握られて大丈夫な相手なのかどうか……。

「とにかくや。ちゃちゃっ、と一発抜いたれ。そしたら、ボーズも目醒めるやろ」
「ななな、何言い出すのよっ。そ、そんな事、出来る訳無いでしょっ!こいつはねえ……」

 ギーシュを抱えながらも、なんとか体を起こす。と、開け放たれたドアの向こうに、“あの”メイドが居た。
 手にした包丁には、驚かされたが、そうした意味では、別に害は無さそうに見えた。

「そ、そんな。ギーシュ様……私の責任です!」

 いつから聞いていたのだろう。どうやら、空の言う事を真に受けたらしい。
 別の意味で、害になりそうだ。

「そうですよね!貴族とは言え、健康な男の人ですものね!なのに、私ったら気付いて差し上げられなくて!……そりゃあ恋人が堅物の上――――」
「上、何よっ!何が言いたいのっ!」

 モンモランシーは激高した。脱いだら凄い巨乳メイドの視線が、一瞬、自分の薄い胸を撫でたからだ。
 痩せっぽちの背高のっぽ。セックスアピールが乏しい事に、縦ロールの金髪娘はルイズ以上のコンプレックスを抱いている。

「せや。丁度ええ。ボーズもエアトレック始めた事やし、お前が調律したれば喜ぶわ」
「調律?なんです、それ?」

 首を傾げるメイドに、空は耳打ちする。忽ち、シエスタの頬が薔薇色に染まる。

「え?……あらあらあら……まあまあまあ……やだあ……そんな……でも……恥ずかしいっ」

 頬に手を当てて、シエスタは身をくねらせる。
 調律とやらが何を意味するのかは判らないが、どうやらギーシュがとても喜ぶ事らしい。勿論、性的な意味で。

「恥ずかしいけど……でも……私……ギーシュ様だったら……」
「そや。その意気や。いったれっ。奪ったれっ」

 場所も人目もわきまえず、色ボケメイドはシャツのボタンに手をかける。
 明らかに面白がって、空が煽り立てる。

「あんた達ねえ……」

 モンモランシーは頭が痛くなった。

「人の話を聞いてっ!」

 その時だ。
 ギーシュが小さく唸った。危険を察知して、忽ち空は姿を消す。
 目を覚ました少年は、ぐるりを見回す。
 自分を抱きかかえるモンモランシー。上半身の衣服をはだけ、両腕から豊かな乳房が零れ落ちそうなシエスタ。
 それは、本来、ギーシュにとって、天国と地獄を一つに合わせた様な光景である筈だ。
 所が、薬に冒された脳は、その人格からは到底、出る筈の無い言葉を捻り出した。

「うわっ。女だ――――」




 “空”に二つの月が浮いている。
 柔らかい光の中で、ほっそりとした、小さな影が一転。
 城壁を駆け、尖塔を蹴り、短いスカートを羽根の様にはためかせて宙を舞う。
 本塔の尖塔にウィールを滑らせながら、タバサは女子寮塔を見つめる。
 一つの窓に覗くのは、振りかざされる杖と、猛り狂う水流。煌めく白刃。飛び交う悲鳴――――
 夜空の散歩は本当に飽きない。色々な物が見える。
 その度に、タバサは短く呟くのだ。

「なんでやねん」


 ――――To be continued


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