あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ベルセルク・ゼロ-09


 トリステイン魔法学院の学院長であるところの『偉大なる』オールド・オスマンは学院長室のソファーに背をうずめ、大きく口を開けて欠伸をした。
「ふあぁ~あぁ~あ……うんむ、眠いのう。やはりこの年になると夜更かしは毒じゃわい」
 言いながら机の上に乱雑に積まれた資料の山に目を向ける。これらの資料は昨晩コルベールがこの学院長室に置いていった物だ。
 ミス・ヴァリエールの使い魔に関係するかもしれない文献、と言われて提出されたそれらを、オスマンは激しく面倒くさがった。
「コルベール君、ワシ、ほら、もう老眼じゃからよう字も見えんのじゃ」
 そんなオスマンの言葉をシカトし、退室していったコルベールの姿を思い出す。
 オスマンはその姿に「てめえ楽してねえでてめえが知りてえんだろてめえもやれよ」的オーラを感じとった。
 そんなわけで渋々資料に目を通していたオスマン。秘書に夜更かしを窘められた時には時計は既に深夜3時を過ぎていた。
 朝の光が射し込む学院長室、オスマンはまだ開けきらぬまぶたをごしごしとこすった。
 コン、コン、と規則正しいノックが響く。オスマンは「おや?」と片眉を上げた。
 ミス・ロングビルには今学院内の設備全般のチェックを任せているはずだ。来客の予定も今日は入っていない。
「入りたまえ」
 オスマンの重々しい許可の声を合図に、扉が開く。そこにいた人物の姿を認めると、オスマンはなるほどと頷いた。
「失礼いたします。オールド・オスマン」
 桃色の髪を弾ませて恭しく入室する小柄な少女、ルイズ・フランソワーズと―――
「そろそろ訪ねてくる頃じゃと思っておったよ」
 黒い甲冑を纏い、鉄塊をその背に負った『黒い剣士』。
 ガッツが、そこにいた。


「オールド・オスマンってやつの所へ案内しろ」
 ルイズが朝の支度を終え、授業へ向かおうとした矢先にガッツはそう声をかけた。
「今から!? 無理よ、授業が始まっちゃうもの!」
「多少遅れたってかまやしねえだろ。それに、そんなもん俺には関係のねえ話だ」
 ガッツの言葉にルイズは少し頬をふくらませる。
 ご主人様の授業より使い魔個人の用事を優先させろなんて、使い魔の風上にも置けないやつだわ。
 使い魔をちゃんとやるなんて言っておいて、使い魔の自覚0じゃない。まったくもう。
 そうは思ったが、ルイズにだってちゃんとわかっている。
 ガッツがオールド・オスマンに会いたいと言い出すからには、それはきっとガッツの世界に関する件なのだろう。
 であるならば、それはルイズにとっても何よりも優先させるべき事柄だった。
「わかったわ。ついてきて」
 ガッツを先導するように、ルイズはガッツの前に立って廊下を歩く。
 大股で歩いているにも関わらず、すぐにガッツに並ばれてしまう。そのたびにルイズは無理やり歩く速度を上げた。
「こ、ここよ……ぜい、はあ」
 多少息を切らせながら学院長室の前にたどり着く。
「こっからは俺一人でいい」
「こら! オレを忘れるな!! 二人だ二人!!」
 ガッツの腰のバッグからパックが飛び出した。パックはそのままガッツの肩に降りる。
 起きたのか…とガッツは心底うざったそうな目をパックに向けてため息をつくと、ドアノブに手をかけた。
 慌ててルイズはガッツを制止する。
「ちょ、ちょっと待って! それダメ!! あんた達だけだとどんな無礼を働くかわかんないわ!!」
 言いつつドアノブを握っていたガッツの右手を両手で掴みドアノブから引き剥がした。
 代わりにドアの前に立つと、すぅーはぁー、と息を整え、コン、コン、とドアをノックする。
「入りなさい」
 ドアの向こうから偉大なる老人の声が響く。ルイズは自身の緊張感が高まっていくのを感じながら、ゆっくりとドアを押し開けた。


 オスマンはルイズとガッツに来客用のソファーを勧めた。そして自身も勧めたソファーの対面、テーブルを挟んで備え付けられたソファーに身を預ける。
 おずおずとルイズはソファーに腰掛けた。パックもソファーに飛び込む。
「うわぉ、モフモフしてて気持ちいい~~」
「こ、こらパック」
 ルイズが遠慮全く無しのパックをたしなめる。
 オスマンはパックの姿を認めると目を細めた。
「ほっほっほ、これはまた珍しいものを連れとるのう。妖精(ピスキー)の類など、数十年ぶりに見たわい。この子はお前さんの連れなのかの?」
 オスマンはガッツの顔に視線を送る。ガッツはソファーに腰掛けず、ソファーの横に立ったままオスマンを見下ろしていた。
「ちょ、ちょっとガッツ…! ちゃんと座りなさいよ、無礼よあんた……!」
 ルイズはガッツのマントの裾を掴み、くいくい引っ張って着席を促した。
 そんなルイズをまったく気にせず、ガッツは鋭い視線をオスマンに向ける。
「単刀直入に聞く。あんたは俺を元の世界に戻す方法を知っているか?」
 ガッツの言葉にオスマンは少し考えるように長く伸びた白い顎鬚をさすった。
「ふむ…『元の場所』ではなく『元の世界』ときたか……どういう意味じゃな?」
 ルイズはオスマンにガッツの状況をかいつまんで説明した。
「ほぉ~。なんとまあ、別の世界じゃと? こりゃたまげたわい」
 オスマンはルイズの説明を目を丸くして聞いている。
 どうやらこの様子ではこの老人に聞いても期待は薄いようだ。
 一番可能性が高そうだった道を断たれ、多少苛立ちを感じながらもガッツは言葉を続けた。
「それで…なんでもいい。知ってそうな奴でも、載ってそうな本でも、心当たりはねえか?」
「いやぁ、知らんなぁ~。何しろ今まで生きてきてお前さんのような例など見たことも聞いたこともないからのぉ~」
 チッ。ガッツは露骨に顔をしかめると舌を鳴らした。
 この分ではいつ元の世界に帰れるかわかったものではない。
 やはり早々にこの学院を出て街へ向かったほうがよさそうだ。
「何処へ行って何を聞いたとしても無駄だと思うぞい? 何しろこのワシが知らんのじゃ。そこらへんの有象無象が知っとるわけないわい」
 ガッツの心を読んだようにオスマンは言葉を続ける。
 ルイズは苛立ちを隠そうともしないガッツの様子をハラハラしながら見上げていた。
「なあに、この学院でもお前さんのことについて調査を進めとる。そう焦らんとここで気長にミス・ヴァリエールの使い魔を続けとったらいい。焦れば人生損するだけじゃぞ、お若いの」

 ガッ―――!! 

 ガッツの右手がのび、オスマンの襟元を掴んだ。
 そのままオスマンの体を引き上げ、無理やり立ち上がらせる。
 ガッツの顔がオスマンの目の前に迫った。
「ふざけてんのか? ジジイ」
「う、うぅ…! ごほ、ごほ!!」
 ルイズは慌てて立ち上がり、ガッツの右腕を両手で掴んだ。
「ちょ!! ちょー!! ちょーッ!! なななにしてんの!! て、手を離しなさいガッツ!!!!」
 ガッツはまったく意に介さない。
 ルイズは思いっきりガッツの右腕を引っ張り、力ずくで下ろそうとする。が、逆に自分の体が浮く始末だ。
「やれやれ……」
 オスマンが小さな声で何事か呟く。と同時に、いつの間に手にしていたのか、右手に持った杖を振るった。

 ゴォ―――!!!!

 突然巻き起こった突風が巨大な塊となってガッツの体を叩く。
 ガッツは抗う間もなく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「がっ……!」
 一瞬、息が止まる。
 石造りの壁に激突し、跳ね返りながらもガッツはしっかりと両足で着地した。
 一方オスマンは杖を構えたまま飄々と立っている。
「まったく、年寄りは労わらんといかんぞ?」
 ルイズは驚愕していた。今目の前の老人が使用したのは、おそらく『風』のドットスペル『エアハンマー』。
 数ある魔法の中で一番レベルが低いドットスペルとはいえ、オスマンはほぼ無詠唱で、かつあれだけの威力のものをまるでうちわを扇ぐが如き気安さで行使してみせたのだ。
 ルイズは『偉大なる』オールド・オスマン、その大いなる実力の片鱗を垣間見た気がした。
 そこで、はっ、と気がついてガッツに目を向ける。
 ガッツは床に唾を吐くとその背中からドラゴンころしを抜いた。
「ちょ、ちょっとーーーーー!!!!?」
「あ、やばい、あいつ相当キてる」
 ルイズは思わずぶわぁ!と目から涙を噴出し、事の成り行きを傍観していたパックは苦笑しながら呟いた。
「やれやれ、まったく近頃の若いモンは血気が盛ん過ぎていかんのう」
 オスマンが再び呪文の詠唱に入る。
 『土』『土』『土』のトライアングルスペル『グラビトン』。
 一瞬でその術式を完成させた恐るべき老人は、その杖を振るった。
 杖から迸る魔力がまるで形を持ったようにガッツの持つドラゴンころしに絡みつく。
 対象の物体に干渉し、その重さを20~30倍に引き上げる『グラビトン』。
 そんな呪文がかかったあの鉄塊を振り回すなど、人に可能な芸当ではない。
 ガッツは何事もなかったようにドラゴンころしを振りかぶっていた。
「あれぇ~?」
 オスマンの額から汗が落ちる。

 部屋の中にあるあらゆるものを巻き込んで、凄まじい速度をもってドラゴンころしが薙ぎ払われた。

「うきゃーーーーーーーーー!!!!!!!」
「あ、あほーーーー!!!! こんな狭いとこでそんなモン振り回すなーーーーーーー!!!!!!」
 咄嗟にルイズはテーブルとソファーの間の床に伏せ、パックはドラゴンころしによって破壊されたソファーや観葉植物、その他雑貨もろもろの破片をよけまくっていた。健闘むなしくパックの後頭部に木片が刺さる。
 オスマンは咄嗟にフライの魔法を唱え天井まで飛び上がることで、間一髪鉄塊から逃れていた。
「当たってたーーーーー!!!! 今伏せなかったら当たってたーーーーーーー!!!!」
 ルイズは思わず叫んでいた。見るとさっきまで自分が座っていたソファーの背もたれが半ばから消失している。
 心臓がバクバク鳴っている。怖かった。死ぬかと思った。
 ルイズはガッツをキッと睨み付ける。でも涙目だ。
「ちょっとガッツ!!!! ご主人様に向かってなんてことすんのよぅ!!!!」
 ガッツは宙に浮くオスマンを睨み付けていた。
「シカトすんなぁ~~~!!!!」
 ルイズは肩をいからせて叫ぶも、ガッツはまったく振り向きもしない。
「い、今のは胆が冷えたわい……」
 オスマンは宙に浮いたまま、自分の足元に目を落とす。
 ほんの少しかすっただけだというのに、靴底がべろりと持っていかれていた。
 ゆっくりと床に降り立つと、ガッツの持つドラゴンころしを注視する。
(なんなんじゃあの剣は…?)
 オスマンは思考する。あの剣には確かに『グラビトン』の魔法をかけたはずだった。
 しかし、オスマンにはわかる。
 あの剣は『グラビトン』の影響を受けてなどいなかった。
「君のその剣じゃが…あぁ、すまない。出来ればもう剣を下ろしてくれんか? 先程のワシの態度については謝罪しよう。まことにすまんかった」
 ガッツは構えていたドラゴンころしを下ろす。そして話の続きを促した。
「それで…この剣がどうかしたか?」
「うむ…その剣じゃが、どうもあらゆる魔法による干渉を受け付けぬ様な特性を持っているように感じられる。何か特別な魔法がかけてあるのかのう?」
 ガッツの持つドラゴンころし。確かにこれは普通の剣ではない。
 見た目、その威力、あらゆる点で確かに普通ではないのだが、それだけではない。
 『魔』を斬り続けてきたが故に、『魔』を斬ることに特化した剣。
 それがドラゴンころしの持つ、他のどんなマジックアイテムでも持ちえぬ特性だった。
 とはいえ―――それが、オスマンの言う『特性』に繋がっているのかはわからない。
「さあな……どうも普通の剣じゃねえことは確からしいが……よくは知らねえ。興味もねえしな」
「そうか……ふむ、何か材質に秘密があるのかのう……」
 ルイズは思い出していた。ガッツを召喚したあの日、『レビテーション』を使ってもガッツの剣だけ浮かべることが出来なかったことを。
 ガッツは剣を背中にしまう。
 その時、ノックすらなくドアが開かれた。
「オールド・オスマン!! やりましたぞ!! ついにこのコルベール、あの呪印が掲載された文献を発見いたしました!!!!」
 やけに古ぼけた本を片手にコルベールが部屋に飛び込んできた。
 最初は喜色満面だったコルベールも、部屋の惨状に気がつくと驚きに目を見開いた。
「やや、これは!? 一体何事ですかオールド・オスマン!!」
「何でもない。ワシが寝ぼけて魔法を連発してしまってのう…いや、二人には迷惑をかけた。いよいよワシもボケてきたかのう……」
 切なげにオスマンはため息をつく。コルベールはあっさりとそれで納得したようだった。
 よく見るとコルベールの目の下には深い隈が刻まれている。寝不足が彼から正常な思考能力を奪っているようだ。
「おや、ミス・ヴァリールとその使い魔の……確か、ガッツ君でしたかな? 二人ともここに何の用事だったのです?」
「ええい、いいからさっさと用件を言わんか! 呪印が掲載された文献が見つかったじゃと!?」
 オスマンに急かされ、コルベールは慌てて持ってきた本のページを捲る。
「ええと…これ、このページです! 御覧下さい!!」
 オスマンはそのページにざっと目を通すとゆっくりとガッツに向き直った。
 ガッツに見えるよう、本を開いたままガッツの方に向ける。
「ここに描かれているこの呪印……君の首に刻まれているというものと一緒で間違いないかの?」
 ガッツの左目が大きく開く。
 オスマンが指差すそこには、確かに『生贄の烙印』が記載されていた。
「これは……!? おい、これには何て書いてあるんだ」
 ガッツから見ればまったく意味のわからない記号がページの上を踊っている。
 しかし、オスマンもコルベールも首を振った。
「あまりに古い文献過ぎて、今使われている文字とはまったく系統の異なるもので書かれています。解読には相当な時間がいるでしょう」
 コルベールの言葉にガッツは舌を打つ。
 オスマンがゆっくりと口を開いた。
「ガッツ君……先程は言い方が悪かった。君にとっても、このままこの学院に留まるのがおそらく最善なのだ。我々は全力でこの文献の解読に取り掛かる。それ以外にも出来るだけ君の力になろう。
そうして、君が元の世界とやらに帰るまでの間…ヴァリエール嬢の力になってはくれんだろうか? 使い魔というものは、この世界、メイジにとっては非常に重要なものなのじゃ。君という使い魔
がいる以上、ヴァリエール嬢は新たな使い魔を呼ぶことも出来ん。勝手な願いとは承知しておるが……どうか」
 オスマンはゆっくりとガッツに向けて頭を下げた。ルイズは気まずそうにガッツを見上げる。
 ガッツもルイズを見る。しばらく、不安げに揺れるルイズの瞳を見つめていた。

 ―――はぁ

 ガッツの口から、この世界に来てからもはや癖になりつつあるため息がこぼれる。
「また近いうちに来る。行くぞ、ルイズ」
 踵を返し、扉へ向かう。バサ―――とマントがたなびいた。
 慌ててルイズはガッツの後に続く。
「あ―――」
 廊下に出て、先を歩くガッツの背中を見つめたまま、ルイズは気がついた。

 ―――初めて、名前呼んでくれた

 何となく嬉しくて、少しだけ走ってガッツを追い抜く。
「使い魔はご主人様の後ろに従って歩くものなのよ!! ガッツ!!」
 怒ったような口調とは裏腹に、振り向いたルイズは―――花のような笑顔を浮かべていた。


 パックはちゃんと回収した。


 学院長室では、オスマンが唯一無事だったミス・ロングビル用のソファーに沈み込んでいた。
「つ、疲れたわい……もうあんな修羅場はごめんじゃ!!」
 コルベールは既に寝不足の体をおして授業へ向かっている。
 オスマンが杖を振るうと散らばった家財道具の破片が一箇所に集まった。
「ミス・ロングビルに新しいモンを注文してもらわなきゃならんの~」
 呟き、立ち上がる。寝不足の体にガッツとのやり取りは堪えたのだろう。猛烈な眠気が襲ってきていた。
 学院長室を出て、自室へ向かう。
 廊下を歩いている間、オスマンの頭の中ではあるピースが組みあがり始めていた。
(『異世界』から来た『烙印』を持つ『黒い剣士』……なるほど、噛み合ったわい)
 しかし、この事実をガッツやルイズに伝えるわけにはいかない。
 これからの歴史に、これから起こる出来事に、ソレは不要なことなのだ。
 オスマンは自室のベッドに倒れこむように飛び込むと、ゆっくりと眠りに落ちた。


 そしてオスマンが眠ったのを見計らったように―――トリステイン魔法学院、その宝物庫の前に、巨大な影が持ち上がった。


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