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双月の女神 第九章

小気味の良い、丸木を断ち割り、転がる音が、早朝の学院の薪置き場に響く。
それを響かせるのは一人。
屈んだ姿勢で鉈を振るう、ざんばらに切った黒髪の少年。
群青色の下地に、白地の布をパッチワークに、後ろのフードと一体の、このハルケギニアには存在しないであろう、
未知の生地布で作られた服の腕を捲くり、一つ、また一つと丸木を使いやすい形に変え、薪の山にくべる。

「ふぅ。」

まだ夜と早朝が肌寒い季節ではあるものの、薪割りで、自然と吹き出た汗を拭う。
少年の名はサイト。彼自身は平賀才人と名乗っている、この学院の使用人である平民の一人。
今日は休日を示す『虚無の曜日』。朝早くに、毎日割り当てられた薪割りの仕事をこなし、休日を楽しむべく、鉈を振るって
いたのである。

「うし、後はこいつだな。・・・ったく、こんなの取ってくる時に厳選しろっつーの。」

愚痴を言いつつも、一際太い、本来ならば斧が必要な丸太を台に乗せると、先程まで右手に持っていた鉈を左手に持ち替える。
布を軽く絞り込む音をさせ、握りしめると、左手に刻まれた文字が、光を帯びて浮かび上がる。
もし此処に、ミカヤを知る者がその文字が輝く光景を見ていたならば、既視感を感じたか、驚愕したことだろうが、生憎と
観衆が存在しなかったため、それは行われた。

「しっ!」

サイトが左手の鉈を高く掲げた後、一気に振り下ろすと―――――

そこには見事に、縦割りに八分割された薪が転がった。

「ふっ、つまらん物を斬ってしまった。」

目視が困難な速度で、四度も振り下ろされたのだ。
調子の良い性格のこの少年。一人、誰もいないはずである置き場で格好をつけてみた。

「何をやってるのよ、サイト。」
「・・・・・あはは、姉さん見てたのね?」

しかし、それを窘める女性の声に、乾いた笑いを浮かべながら振り返る。
エメラルドグリーンの髪の美しい、眼鏡をかけた女性が眉を顰め、頭痛を抱えるように右人差し指を額に当てている。
学院長付秘書のロングビルだった。




ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~

第一部 『ゼロの夜明け』

第九章 『休日の街』





普段の彼女を知る学院関係者ならば聞くことは決して無い、おそらく此方が地であろう、砕けた口調で話す。

「まったく。今の光景をあの好色爺やコッパゲに見られたらどうするんだい?」
「ごめん。でも、斧振るったら今の俺じゃ粉砕しちゃうし。」

オスマンとコルベールのことを不敬な物言いで呼ぶロングビルは、目の前で起こった現象に心当たりがあるために、
そう忠告する。
頭を掻きつつ、謝るサイト。

「それはそうだけど、もう少ししっかりしなさい。
サイトが『ガンダールヴ』であることも、あの子が『担い手』であることもみだりにバラすわけにはいかないんだから。
あの子の出自も考えれば、知られれば尚更まずいんだし。」

彼女は何の変哲の無いはずの目の前の少年と、それに連なる彼女の妹分が如何なる存在かを知るがため、危惧する事項を
伝える。

学院長付秘書であるロングビルは、『フェニアのライブラリ』に立ち入る権限をオスマンから得ている。
その為、サイトの左手に刻まれているルーン文字を調べる機会があった。
その時に導き出した答えは、彼女を驚愕させ、納得させるものであった。
―――神の楯『ガンダールヴ』。
あらゆる武具を使いこなし、そのルーンから得られる力でもって振るわれる技は天下無双。
始祖ブリミルを守り、万敵を退けたとされる、不敗の騎士の使い魔。

ミカヤのいた『テリウス』ともまた異なる世界から召喚されたのがサイトだった。
特殊な出生の過去を持つ彼の召喚者は、人と関わりを持つことを憚られるが為、ロングビルと共に育った孤児院から外に
出られない生活を送っていた。
同じ孤児院の中でもロングビルを除けば最年長であるため、自らの出自を恐れない友人を欲し、『サモン・サーヴァント』
を行使したことにより、彼は現れた。
サイトも召喚当初は困惑し、元の世界に帰れない事を嘆いたこともあったが、暴漢が孤児院に押し入って来た時、薪割りに
使っていた鉈一振りで守ったことから、元来の前向きな性格も後押しし、友人として、守人として契約を交わした。
その契約者は傾国の、と例えても大袈裟では無い掛値無しの美少女であり、何よりサイトが好む、女性の誰もが羨むであろう
神懸り的なプロポーションを誇っていた。
何分に年頃の少年だったが故に、下心抜きでは無かったことは否めなかった。

「俺が伝説の使い魔だって言うけど、何か自覚無いんだよな。
確かにこのルーンが刻まれてから、左手に「武器になり得る物」を握ると、すごい力が出るんだけど。」

物心ついて以来、異世界で武具や凶器とは無縁の生活をして成長して来たサイトは、その類の扱いの心得を持っていなかった。
二人が酒場で給仕として働いている時に客として訪れたオスマンに目をかけられ、学院に秘書として、使用人として
雇われるまでの間、危険な目に遭うことが多々あり、それを潜り抜けられたのは一重に、このルーンの力によるところが
大きい。

「私から言わせれば、素人が動きが早くなって、腕っ節が強くなった程度でしかないね。
この学院まで連れて来るにも、危なっかしくて冷や冷やものだったんだから。」
「まぁ、そうだけどさ・・・・・。」

そう言い切るロングビルにぐうの音も出ないサイト。
ちょうどその時、馬車を引く音が聞こえる。

「お?シエスタ?」

貴族の外出の為に馬車を手配したであろう、使用人仲間の少女を見かけたサイトは目を凝らす。
すると、それを待っていたように、一組の女性と少女が乗り口まで歩み寄るのが見える。
この学院では既に貴賎問わず名の知れた銀髪と桃色髪の二人。ミカヤとルイズだった。

「すげぇ・・・・・。」

噂に違わぬミカヤの美貌に、たちまちに魅了されるサイト。最も、彼の場合は彼女のことを別の形で知っていたこともあり、
噂以上と評価を修正していたが。
―――――サイトの世界には彼女の姿似の絵が存在し、『科学』と彼が呼ぶ魔法じみた技術でもって造られた、
テリウス大陸の戦史を追体験できる遊具が存在している。
彼はその中の一幕をミカヤの立ち姿を通じて思い返し、郷愁の念を浮かべていた。
余りにも遠い所に来てしまったのだと痛感させられると同時に、何故、「あちらの世界」での「仮想の人物」がいるのか、
疑念を抱く。

「見とれてないで。
ノルマはこなしたんでしょう。私達も馬を借りに行かないと時間がないよ。」

すると、ロングビルから、頭に軽い小突きが落ちた。

「いて、そうだった。確かトリスタニアで武器を買うんだったっけ?」
「そう。早く行くよ」

気を取り直し、腕まくりした衣服を正すと、踵を返す彼女に続くサイト。

「ツテがあるから、私の知っている武器屋に行くけどいいかい?」
「ああ。姉さんが選んだものなら間違いないし、お願いするよ。出来れば・・・、タルブ製の剣なんかとか欲しいんだけど。」
「ヒヨっ子が贅沢言わないの。」

そんなやり取りをしつつ、学院内の宿馬場へと二人は歩いて行った。





「本当に助かりました、シエスタ。」
「馬車の手配も付き人として来てくれるのも助かるけど、どうして私達に?」

一方、ミカヤとルイズは馬車を手配してくれたシエスタに礼を言い、軽い自己紹介を終えたところで、今回の同行の理由を
聞いていた。

「ミカヤさんへの感謝の気持ちでもありますし、何より私も王都に用がありますので。
それに、ミカヤさんの主人であるミス・ヴァリエールにも、一度は御挨拶に伺いたいと思っておりましたから。」
「そうなの。改めてよろしくね、シエスタ。」
「此方こそ、ミス・ヴァリエール。」

召喚されてから、自身を導く道標となっているミカヤとの触れ合いにより、平民との当たり方も丸くなりつつあるルイズ。
柔らかな笑みを向け、そう話す彼女にシエスタは笑顔で返す。
そのまま彼女は御者台に乗ると、二人に催促をする。

「さぁ、参りましょう。」

手綱を握るシエスタにミカヤとルイズは頷くと、馬車へと乗り込み、一路王都へと向かった。






―――――トリステイン王国王都トリスタニア。
城下の繁華街ブルドンネは、休日の賑わいを見せていた。
道路には人々が行き交い、子供達が笑いながら駆け回り、道なりに店舗が垣根を連ね、商人が品物の売り込みに
声を張り上げる。
その光景に、二人と共に大通りを歩きながらミカヤは、復興後のデインでの暮らしを思い返した。
老若男女、貴賎、種族を問わず、ヒトが溢れた懐かしき故国の街。
行幸からの帰国では必ずと受けた、栄光を賛美する声と熱烈な出迎え。時には民らに混じり語らい、宴においては杯を交わし、
歌う。
街並みを眺めつつ、この国もそうあればと願わずにはいられなかった。

「ねぇ、ミス・ミカヤ。」

右隣につき、歩くルイズの声に思考を戻すミカヤ。

「何、ルイズ?」
「ミス・ミカヤは他に何か欲しいのは無いの?」

そう聞かれ、思考するミカヤ。
旅の為に用意していた最低限の持ち物以外持っていなかったミカヤは、まずはルイズとシエスタ達とで、着衣その他の日用品の
購入を済ませていた。

「日用品は此方でも購入出来たけれど、魔導書や杖の方は替えが無いわ。」

魔導書と杖は魔法や力を行使する度に磨耗していき、やがて負荷に耐えられなくなり、魔導書は燃え尽き、杖の宝珠は
砕け散る。
特に使用頻度が多い魔導書と杖は予備が欲しいところではあったが、このハルケギニアでそれを求めるのは無理だろうと
考えていた。
手元には決戦の折に女神の加護により固定化と神性を付加された、最上位の光の精霊魔法である『レクスオーラ』の書が
あるが、鍛え直している最中の自身が扱うには負担が大きい。

「あ、それでしたらミカヤさん。」

そこに、何かを思い出したように言葉を挟んだのは後方に控え、荷物を持つシエスタだった。

「私がお世話になっている武器屋にこれから行きたいんですけど、もしかしたら掘り出し物があるかも知れません。
ミス・ヴァリエールも、良ければ。」
「武器屋?それがシエスタの用事なの?」
「はい。」

ルイズにそう返すシエスタの提案に、暫し黙考するミカヤ。
テリウス大陸の武器屋ならば魔導書、杖も売られていた。もしかすれば、誤召喚等でテリウスから流れ着いた、この世界では
文字通り、掘り出し物が存在する可能性があった。

「そうですね。では、案内をお願いします。」
「はい。ピエモンの秘薬屋の近くの裏通りにあります。」
「え~、あそこに入るの?」

ミカヤの了承を受けて、シエスタの告げた場所に不満を漏らすルイズ。
貴族である彼女は、歓楽街は元より、貧困層が住む裏通りに踏み込みたがらない。

「ルイズ、私が初日に食堂で話したこと、覚えているわね?」
「あ・・・・・。」

向き直り、真剣な表情で諭すように告げたミカヤに、ルイズははっとする。
そう、末端と言われる一人一人に至るまで心を砕き、その人々の痛み、求めるものを共有するからこそ、
『貴き一族』―――貴族なのだと説いた彼女の言葉。
それを思い出した。

「・・・ごめんなさい、ミカヤお姉さま。
シエスタも、ごめんなさい。」

ならば知らねばならない。
末端として、富める者達を支える者達の、もう一つの姿を。
『姉』の教えに従い、頭を下げたルイズ。

「そう、それでいいの。」
「ミス・ヴァリエール、そうお気になさらないで下さい。」

素直な彼女にミカヤは優しい笑みを向け、シエスタは感銘を受けたように目を細め、微笑む。

「では、参りましょう。此方です。」

シエスタがそう告げ、3人は裏通りの入り口へと足を向けた。


―――――神の頭脳と神の楯、神の楯の左腕はここに邂逅する。

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