「フフフ……。ここに聖誕せしアルビオン共和国の始まりの時を、君達の命で飾ってもらおう」
私達の目の前にいるのは、レコン・キスタの手先だったワルドと建物いっぱいの貴族派兵士達。後ろを振り返ってみてもワルドがいないだけで状況は同じ。私達は完全に包囲されていた。
「贖罪せよ、貴様の命で」
「彼女」がそう唱えると、私達を囲むように雷撃が放たれて、頼りないながらも突破口が開かれた。
「ルイズ、ギーシュ、キュルケ、タバサ。すぐにこの建物から出ろ」
「何言ってるの! あんた1人置いて私達だけ逃げるなんて、そんな事できるわけないじゃない!」
「いいからすぐに出ろ」
無茶にも程がある。いくら強くたってこれだけの人数相手じゃどうにもならない。だからって……、いくら主人を守るのが使い魔の役目でも、こんな事望んでないわよ!
「早く」
タバサが私の袖を引く。なおも留まろうとする私にギーシュも、
「彼女は無駄に命を捨てるような人じゃない。何か考えがあっての事のはずだ」
その言葉に私が頷くと、タバサが私の手を引いて建物の外まで連れていった。
(きっと大丈夫、生きて逃げてくるくらいはできるわよね……?)
建物を見つめて私はそう自分に言い聞かせているうちに、いつしか私は「彼女」と出会った日からの事を思い出していた。
私達の目の前にいるのは、レコン・キスタの手先だったワルドと建物いっぱいの貴族派兵士達。後ろを振り返ってみてもワルドがいないだけで状況は同じ。私達は完全に包囲されていた。
「贖罪せよ、貴様の命で」
「彼女」がそう唱えると、私達を囲むように雷撃が放たれて、頼りないながらも突破口が開かれた。
「ルイズ、ギーシュ、キュルケ、タバサ。すぐにこの建物から出ろ」
「何言ってるの! あんた1人置いて私達だけ逃げるなんて、そんな事できるわけないじゃない!」
「いいからすぐに出ろ」
無茶にも程がある。いくら強くたってこれだけの人数相手じゃどうにもならない。だからって……、いくら主人を守るのが使い魔の役目でも、こんな事望んでないわよ!
「早く」
タバサが私の袖を引く。なおも留まろうとする私にギーシュも、
「彼女は無駄に命を捨てるような人じゃない。何か考えがあっての事のはずだ」
その言葉に私が頷くと、タバサが私の手を引いて建物の外まで連れていった。
(きっと大丈夫、生きて逃げてくるくらいはできるわよね……?)
建物を見つめて私はそう自分に言い聞かせているうちに、いつしか私は「彼女」と出会った日からの事を思い出していた。
あの日、サモン・サーヴァントで私が召喚したのは、奇妙な衣服を纏い地面に届く程の長い金髪を持った女性だった。
「彼女」によると、自分は異世界のメイジ(彼女の故郷の世界では「聖女」というらしい)で、自分を高次の存在(聖霊や天使の類)に進化させるべく暗躍して、完全とはいかないまでも成功したのだという。
その後それを阻止しようとした相手と戦って(まあ、ニューカッスルより大きい大都市が崩壊する危険があるんじゃ止めるわよね)負けて、気付いたら召喚されていたそうだ。
はっきり言って眉唾物の話だった。子供だってもう少しまともな作り話をするだろう、その時はそう思っていた。
けれど、それは本当だった。少なくとも、「彼女」がそう思い込んでも仕方ない程度の力は持っていたという事は。
「彼女」によると、自分は異世界のメイジ(彼女の故郷の世界では「聖女」というらしい)で、自分を高次の存在(聖霊や天使の類)に進化させるべく暗躍して、完全とはいかないまでも成功したのだという。
その後それを阻止しようとした相手と戦って(まあ、ニューカッスルより大きい大都市が崩壊する危険があるんじゃ止めるわよね)負けて、気付いたら召喚されていたそうだ。
はっきり言って眉唾物の話だった。子供だってもう少しまともな作り話をするだろう、その時はそう思っていた。
けれど、それは本当だった。少なくとも、「彼女」がそう思い込んでも仕方ない程度の力は持っていたという事は。
最初に私がその力を見せつけられたのはギーシュとの決闘の時だった。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね? 僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
「我は代弁し、代行す。神は我と共にあり」
ワルキューレを生成しつつ言ったギーシュの言葉を開戦前の景気付けと受け取ったみたいで、「彼女」も自信たっぷりの笑顔でそう言い放った。
「いくぞ!」
高速で接近したギーシュのワルキューレが、手に持った2本の短剣で「彼女」を×の字に斬り裂こうとしたその瞬間、
「消し飛べ」
一瞬の出来事だった。指を鳴らすと「彼女」を中心に爆発が起きてワルキューレは盛大に吹き飛ばされた。
ワルキューレはその衝撃で関節がひしゃげたようで、手足をじたばたさせるけれどまったくの行動不能状態だ。
「な、何だと!?」
驚愕したギーシュは6体のワルキューレを生成、「彼女」に一斉突撃させた。けれど……、
「灰に還れ」
「彼女」の伸ばした手から放たれた光線が、先陣を切った長剣のワルキューレの胴体に大きな風穴を開けた。……いや、胸から上と腰から下に両断したと言った方が正しいはず。
続いて薙刀のワルキューレが上から、ランスのワルキューレが前から同時攻撃を仕掛けたものの、
「罪を裁こう」
上から攻撃しようとしたワルキューレが振りかざした薙刀に落雷3連発が直撃、ワルキューレはそのまま落下して白煙を吹いた。
その隙に前のワルキューレのランスが「彼女」の体を貫通した……かに見えた。
「無駄だ」
ランスで突き刺された「彼女」の体は消えて、本物の「彼女」はその少し後ろに悠然と立っていた。
「耐えてみろ」
そう言った「彼女」の手から人の腰程の太さの蔦が伸びてランスのワルキューレを締め上げると、何かを吸収しているかのように不気味に脈打った。
解放されたワルキューレはボロボロで、青銅の粉になっている部分さえあった。人間ならミイラ化しているところだと思う。
「そんな馬鹿なっ!!」
3体のワルキューレを瞬殺した「彼女」は、ギーシュが残るワルキューレに自分を守るような陣形を編成させたのを見て自分から打って出た。
地面から少し浮き上がって滑るように前進する「彼女」を、弓を持ったワルキューレ2体が迎撃するけれど、
「邪魔だ」
「彼女」の前に展開された魔力の盾が矢の全てを防ぎきった。
「塵と消えよ」
数えきれない程の風の刃がギーシュと残る3体のワルキューレに襲いかかる。
ギーシュはワルキューレに守られて無傷だったけれど、これでまたワルキューレのうち斧を持っていた1体が撃破された。
「死に絶えろ」
ワルキューレの足元から黄金に輝く怪物が真上に伸び上がり、すぐ上にいた弓のワルキューレをとどめとばかり噛み砕いた。
これを2連続でくり出されたギーシュは、ついに壁となるワルキューレを全部失った。
「フン……」
そのギーシュの様子を鼻で笑ったかと思うと、「彼女」は空中に開いた闇のゲートの向こうに消えて、
「!!」
直後にギーシュの背後に出現した。
「足掻け、苦しめ、絶望しろ」
「ひいいいいいっ!」
光の球がギーシュを包み込んだかと思うと突然破裂して、吹き飛ばされたギーシュは校舎の壁に叩きつけられた。完全にダウンしていて杖もどこかに吹き飛ばされたようだ。
『………』
私を含めて静まり返った観客達に「彼女」はただ一言、
「ふっ、かわいいな」
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね? 僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
「我は代弁し、代行す。神は我と共にあり」
ワルキューレを生成しつつ言ったギーシュの言葉を開戦前の景気付けと受け取ったみたいで、「彼女」も自信たっぷりの笑顔でそう言い放った。
「いくぞ!」
高速で接近したギーシュのワルキューレが、手に持った2本の短剣で「彼女」を×の字に斬り裂こうとしたその瞬間、
「消し飛べ」
一瞬の出来事だった。指を鳴らすと「彼女」を中心に爆発が起きてワルキューレは盛大に吹き飛ばされた。
ワルキューレはその衝撃で関節がひしゃげたようで、手足をじたばたさせるけれどまったくの行動不能状態だ。
「な、何だと!?」
驚愕したギーシュは6体のワルキューレを生成、「彼女」に一斉突撃させた。けれど……、
「灰に還れ」
「彼女」の伸ばした手から放たれた光線が、先陣を切った長剣のワルキューレの胴体に大きな風穴を開けた。……いや、胸から上と腰から下に両断したと言った方が正しいはず。
続いて薙刀のワルキューレが上から、ランスのワルキューレが前から同時攻撃を仕掛けたものの、
「罪を裁こう」
上から攻撃しようとしたワルキューレが振りかざした薙刀に落雷3連発が直撃、ワルキューレはそのまま落下して白煙を吹いた。
その隙に前のワルキューレのランスが「彼女」の体を貫通した……かに見えた。
「無駄だ」
ランスで突き刺された「彼女」の体は消えて、本物の「彼女」はその少し後ろに悠然と立っていた。
「耐えてみろ」
そう言った「彼女」の手から人の腰程の太さの蔦が伸びてランスのワルキューレを締め上げると、何かを吸収しているかのように不気味に脈打った。
解放されたワルキューレはボロボロで、青銅の粉になっている部分さえあった。人間ならミイラ化しているところだと思う。
「そんな馬鹿なっ!!」
3体のワルキューレを瞬殺した「彼女」は、ギーシュが残るワルキューレに自分を守るような陣形を編成させたのを見て自分から打って出た。
地面から少し浮き上がって滑るように前進する「彼女」を、弓を持ったワルキューレ2体が迎撃するけれど、
「邪魔だ」
「彼女」の前に展開された魔力の盾が矢の全てを防ぎきった。
「塵と消えよ」
数えきれない程の風の刃がギーシュと残る3体のワルキューレに襲いかかる。
ギーシュはワルキューレに守られて無傷だったけれど、これでまたワルキューレのうち斧を持っていた1体が撃破された。
「死に絶えろ」
ワルキューレの足元から黄金に輝く怪物が真上に伸び上がり、すぐ上にいた弓のワルキューレをとどめとばかり噛み砕いた。
これを2連続でくり出されたギーシュは、ついに壁となるワルキューレを全部失った。
「フン……」
そのギーシュの様子を鼻で笑ったかと思うと、「彼女」は空中に開いた闇のゲートの向こうに消えて、
「!!」
直後にギーシュの背後に出現した。
「足掻け、苦しめ、絶望しろ」
「ひいいいいいっ!」
光の球がギーシュを包み込んだかと思うと突然破裂して、吹き飛ばされたギーシュは校舎の壁に叩きつけられた。完全にダウンしていて杖もどこかに吹き飛ばされたようだ。
『………』
私を含めて静まり返った観客達に「彼女」はただ一言、
「ふっ、かわいいな」
フーケを相手にした時もそうだった。
「彼女」は巨大なゴレームを相手にしないで、その肩に乗るフーケに狙いを定めた。
「なっ!?」
闇のゲートを使って突然自分の目の前に現れた「彼女」にうろたえるフーケ。
けれどすぐにフーケはもっと驚いた顔になった。無理も無い、何十本もの黄金の剣が自分の周囲を取り囲んでいたのだから。
私も「彼女」がいろんな属性の魔法を高いレベルで使えるという事はギーシュとの決闘でわかっていたけれど、「練金」までできるとは思わなかった。
「運命は変えられん」
「はひ……が……っ!」
「彼女」の言葉と共に全部の黄金の剣がフーケを串刺しにした。
「これが力というものだ!」
フーケはかろうじて生きてはいたものの、為す術無く私達に捕らえられた。
「彼女」は巨大なゴレームを相手にしないで、その肩に乗るフーケに狙いを定めた。
「なっ!?」
闇のゲートを使って突然自分の目の前に現れた「彼女」にうろたえるフーケ。
けれどすぐにフーケはもっと驚いた顔になった。無理も無い、何十本もの黄金の剣が自分の周囲を取り囲んでいたのだから。
私も「彼女」がいろんな属性の魔法を高いレベルで使えるという事はギーシュとの決闘でわかっていたけれど、「練金」までできるとは思わなかった。
「運命は変えられん」
「はひ……が……っ!」
「彼女」の言葉と共に全部の黄金の剣がフーケを串刺しにした。
「これが力というものだ!」
フーケはかろうじて生きてはいたものの、為す術無く私達に捕らえられた。
でも、でも……、今回ばかりはもう……。
「出る」
「何がよ……。ワルド……? 兵隊……? それとも……、幽霊……?」
「大技」
そう言ったタバサが指差した先を見て私は硬直した。
建物の天井を光の矢(理由はわからないけれど「彼女」に間違い無いって思った)が突き破って、建物上空で止まった。
「彼女」の纏う光が一際大きくなり……、
「神の息吹を受けよ!」
光線になって建物中に降り注いだその光が目を眩ませて、爆音とそれに比べればかすかに思えるような悲鳴が耳をつんざいた。
ようやく視覚と聴覚が回復した私達の目の前にあったのは、さっきまで「彼女」が戦っていた建物だった瓦礫の山と、その真ん中にゆっくり舞い下りてきた「彼女」の姿だった。
「これが人を超えた力だ」
悠然とっていう言い方がぴったりくるような態度でそう呟いた「彼女」の所に、私達は先を争って駆け寄った。
「あんた、まさか私達に『出ろ』って言ったのは、『ここは私に任せて逃げろ』って意味じゃなくて、『巻き込まれないように離れていろ』って意味だったの!?」
「その通りだ。ともかくこれで……いや、待て」
言葉を止めた「彼女」の視線を追うと、うず高く積もった瓦礫の山の1つが崩れ落ちて、中から1人の満身創痍のワルドが這い出てきた。
「ふ……。さ、流石だ……、と褒めておこうか……。さ、最後に聞かせてくれ……。あ、あれだけの兵を一瞬で……。お、お前は何物だ?」
「元英国聖霊庁長官にして高次の存在、そしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、ミルドレッド・アヴァロン」
「こ、高次の存在!? ル、ルイズの使い魔がだと!? ……こ、こんな……バカな……私は……。う……うあぁ……あ、あれ……は……? あ、ああ……光が……見える……」
そう呻いたのを最後にワルドは動かなくなった。
「出る」
「何がよ……。ワルド……? 兵隊……? それとも……、幽霊……?」
「大技」
そう言ったタバサが指差した先を見て私は硬直した。
建物の天井を光の矢(理由はわからないけれど「彼女」に間違い無いって思った)が突き破って、建物上空で止まった。
「彼女」の纏う光が一際大きくなり……、
「神の息吹を受けよ!」
光線になって建物中に降り注いだその光が目を眩ませて、爆音とそれに比べればかすかに思えるような悲鳴が耳をつんざいた。
ようやく視覚と聴覚が回復した私達の目の前にあったのは、さっきまで「彼女」が戦っていた建物だった瓦礫の山と、その真ん中にゆっくり舞い下りてきた「彼女」の姿だった。
「これが人を超えた力だ」
悠然とっていう言い方がぴったりくるような態度でそう呟いた「彼女」の所に、私達は先を争って駆け寄った。
「あんた、まさか私達に『出ろ』って言ったのは、『ここは私に任せて逃げろ』って意味じゃなくて、『巻き込まれないように離れていろ』って意味だったの!?」
「その通りだ。ともかくこれで……いや、待て」
言葉を止めた「彼女」の視線を追うと、うず高く積もった瓦礫の山の1つが崩れ落ちて、中から1人の満身創痍のワルドが這い出てきた。
「ふ……。さ、流石だ……、と褒めておこうか……。さ、最後に聞かせてくれ……。あ、あれだけの兵を一瞬で……。お、お前は何物だ?」
「元英国聖霊庁長官にして高次の存在、そしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、ミルドレッド・アヴァロン」
「こ、高次の存在!? ル、ルイズの使い魔がだと!? ……こ、こんな……バカな……私は……。う……うあぁ……あ、あれ……は……? あ、ああ……光が……見える……」
そう呻いたのを最後にワルドは動かなくなった。
――この日、レコン・キスタは崩壊した。