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タバ→大尉-1

タバサが大尉を召喚してなんか帰る方法を見つけるまで主従ということで合意した。なんか馴染んだ。以下略。


 野を越える、森を越える、国境を越える。
 人智を越えた速度で駆け抜ける大尉の背には、青い髪の小さな主人。
 大尉が杖を腰掛けにして衝撃を吸収しつつしっかりとおぶってくれてはいるものの、首っ玉に力の限りしがみつく彼女の顔は些か青い。
 如何にその力と忠節を信頼している、とは言っても、猛スピードで数メイルの起伏を路傍の石の様に踏破するその背の乗り心地はどこぞのジェットコースターよりよほどスリルに溢れていた。
 ぎゅう、と押しつけられているあててんのよと言われても疑問符が浮かびそうな軽い体躯の感触。
 それは彼の鋭敏な嗅覚に流れ込む仄かなインクの香りと苦みのある草の臭気をスパイスに、甘いミルクのような少女の匂いと相まってその手の人には溜まらないものが有る。
 しかし、今その天恵を甘受する彼はそれを受けて森の木陰に駆け込んで人狼の狼部分をドンジャラホイさせるような表紙裏の方の彼ではない。
 忠実な戦争の犬にして人を食物とするヴェアヴォルフである彼が主人の無意識の誘惑に抱く感想といえば、食的な意味での「旨そうだ」という程度である。

「……」
 不意に森を駆け抜ける両足が人間の全力疾走程度まで緩まると、彼は後ろに向けて小さく鼻先をちらつかせた。
「……そう」
 するとタバサはその一挙動だけでもう村が近いため速度を落とした、という彼の意志を理解する。
 次いで足を止めてタバサを下ろした大尉に、彼女はマントを脱いで手渡した。

「吸血鬼。メイジをまず狙う」
 静かにそれを受け取った大尉はばさりとそれを翻してマントを装着し、杖を突いてメイジのフリをする。
 これだけで作戦の大綱が伝わっているのだから以心伝心これにあり、だ。
 もっとも、SS熱帯仕様コートの大男がタバサ用の小さなマントを羽織り、両腰にメーターモーゼルをぶら下げているのに杖を持つ、というその姿はずいぶんと滑稽ではあるのだが。
 そして村に向かって歩き出そうとしたタバサはその華奢な手を大尉の大きな手に取られ、しかし彼女はそのことを気にもせずに少しふらつきながら大尉と共に歩いていった。
 背に揺られて酔っているため寄りかかる物が必要だという大尉の思考と、杖がないので手を出して支えてくれるというタバサの確信。
 両者の信頼関係が作りだしたお手々繋いでの道行きは、傍目には足下のおぼつかない少女を誘拐する現場のようであった。


 村に着いたとき、タバサと大尉は大変好意的に迎えられた。
 なにしろメイジだと名乗った(タバサが紹介した)男は地獄を潜り抜けてきたまさしく獣の目をした軍人の風采なのだ。
 これならば吸血鬼を倒せるだろうと見かけからして村人が安心するのも当然のことである。
 ……同時に、12歳くらいの少女と手に手を取ってやって来たロリコン、とも見られていたが。


「……」
 村人に囲まれながら食事を取っている大尉は。タバサの方を見遣って静かに、恐ろしいほど僅かに目を細める。
 するとタバサはテーブルの端、大尉の手に届きそうにない位置にあった子羊のローストの皿を掴み、目の前が皿で一杯の大尉に向けてそれを投げた。
「……それ」
 投げると同時にタバサが呟けば、目の前の皿を綺麗に片付けつつ場所を空けていた大尉の手はひっくり返りそうに跳んできたローストを器用に保持すると同時に、ハシバミ草のサラダをタバサの前に放っている。
 極小さく乾いた音と共に木製のボウルがタバサの前に座ると、二人は一瞬だけ目を合わせてからお互いの獲物を静かに貪っていた。
 多分、ありがとうとかそれに類する事を目で言っていたのだろう。
 気が狂いそうなほど連携の取れた嵐のような食事風景に、村人達は関心しつつも悲鳴を上げて右往左往していた。

「腸詰めはまだあるか!?」
「ハシバミ草ありったけもってこい!」
「その豚はまだ火が通ってないぞ!!」
「ムラサキヨモギもあるだけだ!!」

 元々大食いのタバサは、地物の新鮮な苦い野草類を好きなだけ食べている。
 人の血肉を食う訳にもいかない大尉は大食らいの化物腹を誤魔化すため、やっぱり肉を好きなだけ食べていた。
 料理に携わらない村人達はメイジはやっぱり凄いんだ、なんて的外れな意見を抱きつつ、宙を舞っては消えていく料理を見つめていた。


 食後、今日は村人、特に子供を一カ所に集めて夜を越すように指示した後、一休みする為に部屋を用意して貰ったタバサは、少しばかり動揺していた。

 ベッドはひとーつ 枕がふたーつ

 ぶっちゃけ村人はタバサをメイジ(と紹介されている大尉)の『そういう用途』のお付きと見なしたのだ。
 端的に言うと愛玩用とかそんな感じのなにか。でなければ恋人と。
 そう言えば子供を村長の家に集めさせた時、村人達が子供達(特に少っていうか幼女)を隠すように動いていた様な気がした。
 タバサはそれを吸血鬼が最早これまでと自暴自棄に出て子供を虐殺しにくる事を警戒してだろう、と理由づけていたが、まさか大尉が警戒されているとは思っていなかった。
 いつ吸血鬼が襲ってくるとも知れない状況でこんな変に気を回したセッティングをする理由は、性欲を持て余してもう一つのケダモノがハンティングを開始しないためだろう。
 立ち止まったまま無表情だが年相応に青くなったり赤くなったりしている主人の困惑を読み取った大尉は、滑らかに片手でタバサの両足を後ろから払うと後ろに倒れる彼女の背にもう片腕を当てて立ち上がる。
 俗にお姫様だっこと呼ばれる状態でタバサを抱き上げた彼は、硬直したタバサを抱えてそのままベッドの前まで歩を進めた。
 小さく軽く柔らかなタバサの抱き心地は、しゃらりと揺れる青い髪とレンズの奥に揺れる瞳、緊張に流石に染まって熱を帯びる肌と手元に伝わる早鐘に相まってその手の趣味が無くても人をその気にさせてしまいそうである。
 ここで抱えられているのが某公爵家の三女辺りなら私星になりますとか脳内でのたまう所だが、タバサはそれでも大尉を信頼していた。
 抱き上げられた腕の中で大尉の顔を見上げれば、目はその奥に流れる血液だけを映しているかのように如何なる動揺も伺えない。
 すっ、とタバサの身体がベッドに座るように下ろされると、大尉は僅かに首を振る。
 そして向かいの床に向けて歩いていくと、タバサの方に振り向いてどすんと腰を下ろした。
「ありがとう」
 小さく、それこそ大尉でなければ赤毛の親友位にしか解らないような笑みを彼女は浮かべた。
 大尉は相変わらず、静かにタバサの方を見ていた。
 作戦会議はどちらが口を開くでもなく、目を合わせたときに始まった。
「……」「……(コクリ)」「……(首を振る)」「……(首を傾げる)」「……」「……わかった」
 ……これでも会議なのである。
 タバサは使い魔を召喚して以来口数がさらに減った、というのが親友の言であった。

 そして纏まった作戦は簡単。
 どちらかが囮になり、釣り上げて倒す。主に大尉が森まで連れ込みいただく。
 大尉が単独で戦っても良いが、人狼である所を見られると余り良くないため、人目に付かない森に入るまではタバサのサポートだ。
 グールと吸血鬼のどちらが大尉の釣り針に掛かるかわからないが、どっちにしろ表向き従者のタバサは襲われる可能性は低いだろう。
 最初は元から臭いが人と違うものが混ざっているのではないかと考えたが、どうも彼の世界の吸血鬼と違ってこちらの吸血鬼は臭いまで人に偽装できるらしい。
 こんな大雑把な作戦ではあるのだが、タバサはそれなりに落ち着いた様子だった。
 以前大尉から聞いた、彼の世界の吸血鬼は先住魔法こそ使わない物のハルケギニアのそれを圧倒的に凌駕する存在である。
 それをさらに大抵の場合圧倒すると言う大尉の存在は、ハルケギニアの住民として刷り込まれていた吸血鬼への恐怖を幾分和らげるに足るものであった。

 ……ちなみに、今タバサは大尉の膝の上に座っている。
 恐怖を和らげる、と言っても怖い物は怖く、頼りになる物の近くに居たいというのは人間の心理だろう。
 大尉が吸血鬼に対してどう戦うか、と話題を(無言で)切り出した時、タバサは恐怖で彼くらいにしか解らない程度に青ざめたため、静かに促されてタバサは彼の膝に腰を下ろしていた。
 薄くてふにふにのお尻が胡座を掻いたごつい太股の上に乗っかり、細く儚げな肩と肩胛骨が鳩尾から脇腹を撫で、小さな頭が胸板の上で小さく転がる。
 発育不良とはいえとびっきりの美少女であるタバサにこれをやられ、見上げたまま希に呟く声の吐息が微かに甘く鼻をくすぐるとなれば、人によっては自分と同時に生まれた息子がだだをこねる状況だ。
 まあ、大尉の方は群の仲間が怯えているため安心させよう、という程度の狼的思考しかしていなかったのだけれども。
 そしてその思考に従った大尉は指先をつぅと持ち上げると、それであれば一握の下に捻り潰せそうなタバサの頭を撫で、梳き始めた。
 優しく、ではあるのだけれど、大尉の基準であるためその愛撫は案外荒くもある。
 しかし一瞬ぴくりとしたタバサは、その狼の毛繕いにも似たゴリゴリと頭に響く少々手荒な手元に、珍しく親友以外にも解る人がいるだろう程度に心地よさげに目を細めていた。
 首を僅かに伸ばして男の手の平が自分を蹂躙する様を受け入れる少女、と言うのはなかなかいろんな意味で素晴らしいものがある。

 キュルケあたりが見ていたら良い雰囲気ね、とか言ったかも知れない。

「……食べていい」

 手早いノックの後に扉が開けて入り込もうとしていた少女は、大尉の膝の上で撫でられているタバサの発言に慌て「ごめんなさいっ!ごゆっくり!!」と叫んで扉を閉めて行ってしまう。
 この少女こそ、今回来たメイジを直接検分しようと思っていた吸血鬼なのだが、まだ日も落ちて早いというのにこんな雰囲気になっているとは思わなかったらしい。
 だが先ほどの発言はそんな甘ったるいものではなく、グールを倒した後の肉体の処遇についての話である。
 グールは元人間なので証拠になる頭さえ残し食べた事実がバレなければ後は食べてしまっても構わない、と言った程度の内容。
 その内容とメニューに大尉は心なしか満足げな表情をしている。
 元より大尉は近づいてくる少女の足音にとっくに気付いていたし、階下の村人達の声もここから聞こえているのだ。

「やっぱりあのメイジさま真性…かねぇ?」
「まあああ言うムッツリしたのはな……」
「え?なに?もう取り込み中だったって!?」
「こんな時間から?流石メイジはヤる事が違うッ!そこに痺れる憧れるゥ!」
「憧れるのかよお前!?……実は俺も」
「このロリコンどもめ!」

 その感想における大尉は、大尉に十人並みの感覚が有れば今頃キレるかゲンナリしていただろう扱いであった。
 そして落ち着きモードに入っていたタバサは、闖入者をせいぜい緊張して少し至らない行動に出た子供だろうと考え、大尉の胸に丸っこく小さな頭を転がし付けて目を細めていた。
 眼鏡を外し、添えられた大尉の無骨な手の平に自分の子供の様な手を添えて静かに頭皮で彼の感触を味わう。
 両頬に逞しい男性を感じて、タバサは静かに目を閉じ心の中で父様、と呟いた。

 時間はとっぷりと暮れた深夜。
 杖を置いて悠々と散歩に出る、と言った風体で銃さえ置いて出て行った大尉は、村はずれで二つの月を見上げて毎度ながら少しばかり閉口していた。
 彼にも好き嫌いという物はあるらしく、丸く大きいのは結構だが二つもあるのは気分が悪い、と考えているらしい。
 闘争以外に興味対象が無いと思われがちだが、彼も満月に吠える人狼である以上、月への拘りはおそらく人間以上なのだろう。
 もっとも、忠誠を尽くす少佐の前でだろうとそんな拘りを表に出す事は永劫無いのであろうが。
 ふと、大尉の鋭敏な聴覚は相応の体格の人間が近づいてくる事を知る。
「良い月ですねぇ、メイジ様」
 その男は世間話でもするかのように大きめの身体を揺らして近づいてくるが、大尉の感覚にはそこに僅かな警戒、自分の挙動を伺う警戒が混ざっている事を見逃していない。
「……」
 この時の彼の顔を主人が見ていれば「やっと来たか、このグズでノロマな偏食小僧め。と思ってる」と解説してくれただろう、そもそも大尉は村長の家を出たときからこの男が付いてきている事を理解していたのだ。
 村長の家の中で不穏な会話を聞き取れる事は無かったので、グールか吸血鬼か、いずれにしてももう一方との示し合わせは無いだろう。
 そう判断した大尉は周りに他の人間の気配が無い事を確認し、静かに魚が釣り針に向けて牙を剥くのを待った。

 一方少し遡って、ベッドの上で杖を磨いていたタバサは出かける前の大尉の言葉を思い出していた。
「来る者だ」
 常人が聞けば首を傾げるだけでしかないが、タバサにとってはこう聞こえている。
「俺は今から村人に解るように出かける。だがもし誰かが部屋を訪れてくるならそれは視察に来た吸血鬼である可能性が高い」
 そしてその後の挙動から、先ほど訪れた少女が最も怪しい、という大尉の意図もくみ取っている。
 理由をただ一言「なぜ?」と問えば、大尉はぽつりと「落ち着いていた」と返していた。
 つまり、緊張からああ言った行動に出たにしては部屋に来るまでの足音が落ち着いたもので有りすぎた、という意味である。彼らの会話は解説無しには最早わかった物ではない領域に達していた。
 と、そんな風に思い返していたタバサの耳に、小さなノックの音が響いた。
 入って、と小さく答えると、ドアの向こうから出てくるのは先ほどの少女。これで彼女は黒、だろう。
 タバサは杖を磨く手をそのままに、あくまで従者が主人の杖を磨かされているという様子を保って立ち上がる。
 怪しまれてはいけない。恐怖を見せてもいけない。
 彼女はこの際杖を少し脇に丁寧に置くという武装解除を行うことにより、自分が杖の扱いに馴染まぬ従者である事をアピールしながら少女の前に目線を下ろした。
 そう言えば、この不確定名吸血鬼はエルザと言ったか、両親をメイジに殺されたと村長に紹介されていた。
 一度吸血鬼容疑者と認識してしまうと、両親は吸血鬼故にメイジに退治されたのだろう、とタバサの冷えた脳裏ははじき出している。
「……眠れないの?」
 静かに問いかけたタバサの言葉に、少女は震えながらおずおずと首を縦に振る。
 本来白々しい演技であるはずのそれは、しかしタバサの目には真実にしか見えなかった。

「ねえ、なんで吸血鬼を殺すの……?」
 怖がらないで、吸血鬼は私達が倒すから、とタバサが言った事への返答である。
 あのメイジ様杖無しで大丈夫なの?体術の心得もあるから大丈夫、などと言ったたわいない会話が途切れた時、その言葉は少女の口からこぼれた。
 疑って掛かればこの言葉は彼女が真っ黒であることの証左だろう、 人間であるならよほど奇矯な思考をしていない限りこんな事は聞かない。
 タバサは彼女を人と判断しそうになる自分を諫め、少し考え込むように一度背を伸ばして杖の載ったベッドに肘を乗せて振り向き口を開く。
「人間を食べるから」
 すると少女は人が動植物を食べる事と何が違うのか、と言葉を返しかけ、それはタバサの言葉に阻まれた。

「……そして、彼が食べたがるから」

 そう、彼は私を食べない。『今は』決して私を殺さない。殺せば自分に不利になる、ただそれだけの酷く単純な打算。
 それ故に彼は鋼鉄のようにそれを遂行出来るだろうという信頼がそこにあった。
 そして吸血鬼は殺しても良い、食べても良い対象。
 食べても良いから食べる。あの使い魔が食事を求める事を止めるなんて、彼女には出来ない。
「彼は生きる為に殺すし、生きる為に生かす。私は彼と一緒に行く。彼は私の『味方』 ……『今は』」
 次いで杖に手をかけつつ静かに立ち上がるとそこには潤んだ少女の瞳。タバサの心はぐらりと揺れる。
「今までの発言から、吸血鬼、若しくはグールはあなた。だから私はあなたを倒す」
 しかし、彼女はその可憐な瞳より、血に染まった狼の瞳を信じた。
「私はあなたの『味方じゃない』から」
 タバサの長大な牙が少女を狙うと共に、少女の小さな牙はその姿を現していた。


 一方、タバサと少女が牙を剥く僅かに前、大尉は『牙を剥かれ』ようと最大限努力していた。
「月をごらんで?」
 男はとりあえず喋りながら、と言った調子で大尉に近づいてくる。
 出来るだけ隙だらけに見せかけているのだが、大尉に比べればへっぽこそのものでしかないこのグールは少々攻めあぐねて背を向け月を見上げる大尉の後ろに立っていた。
 不意にドンと空気が揺れて、その衝撃音を好機と見なした愚かな屍は狼の首へ牙を剥いた。


 エアハンマーの一撃は村長の家の壁を穿って少女を宙に放り投げた。
 何事かと騒ぎ出す村人が飛び出してくる前に吸血鬼を遠ざけなければならない。出来れば前に見えている森の人目に付かぬ奥まで。
 そしてそれが叶うなら大尉が言い訳の聞く速度で駆け寄ってくるまで時間を稼ぎもしたい。あの戦力を発揮出来るなら直接吸血鬼を倒そうとするよりよっぽど良い。
 部屋の穴から飛び出してフライで着地し、自分に向かって襲いくる事により森の奥に入ろうとすることを願ったポジションでタバサはウインディアイシクルを投射した。


「グゲッ!?」
 牙を剥いた屍は上記のような情けない声を上げて数mほど地面を舞った。
 弱い、と感情が冷め切った目でその姿を見遣る大尉は、得意でもない投げ技を駆使してこの死人を森に連れ込みつつ、肉を叩いて下ごしらえするルートをざっと思案していた。
 幸運なことに村人達は闘争の気配に怯えて家の奥で縮こまっているのだろう、村長の家周り以外に人の暴れ回るような音はしない。
 何が起こったのか解っていないだろう熟成された生肉は、ビタンビタンと料理されながら悠々と森の中へ運ばれていった。


 タバサにとっても村人の挙動は幸運だった。
 自分達を倒した後まだ村に居すわる積もりだったのだろう、村長の家からいくらかの人間が出てきそうな気配に吸血鬼は自分から率先して森の中に逃げ込んだのだ。
 森の中では吸血鬼の先住魔法も使用可能になるだろうが、深追いせずに防御に徹していれば大尉が間に合うだろう。
 夜の森を走る彼女は、溶ける様な闇の奥で自分の使い魔が手を差し伸べてくれているかのように感じていた。
 彼女は盲撃ちでウインディアイシクルを闇に投げ込む。両者とも人目から逃れたい、という意見は一致している為、これは狙いが別にあることを悟られぬための牽制だ。
 すると闇の中から何事か喋り声のようなものが聞こえて、タバサは吸血鬼の夜間知覚能力を少し侮りすぎたことを後悔した。
「っ!!」
 蔓草が森を舞い、タバサの杖にしがみつく。
 次いで人間の速さではない速度で駆け寄ってきた少女は、タバサの片足を蔓草に絡め取らせつつ駆け抜け様に杖を払い落とした。
 そこから先は常人である少女の力や速度で抵抗しても些か役者が足りない、タバサはあっという間に両手足を蔓草に絡め取られ、夜の木陰に磔られた。


 動きを止められたタバサは、自分の杖を手に目の前に歩いてきた少女に目を向け、落ち着いた様子ではっきりと口を開く。
「……あなたは何故メイジを殺すの?」
 タバサの姿を嘲おうとしていた少女は、彼女の言葉に動きを止めた。
「両親の敵なのは解る。でも殺せば殺すほどメイジはあなたを追いかけるようになる。何故逃げないの?」
 死を、自らを殺してくれるほどの闘争を求めている、と言うのでもない限り、わざわざ事を構えるという姿勢は面倒を増やすだけでしかない。
「うるさい!あなたに何が解るっていうの!?両親を殺された私の気持ちが!!」
 激昂する少女の声は森の中に高らかに響き渡る。
 両親の敵だから殺したい。その発想はタバサには痛いほど良く理解出来た。しかし、了承は出来ない。
「……私にも親の敵のメイジがいる。でも、メイジの全てを殺したいとは思わない」
 タバサが淡々と森の奥に耳を澄ませながら続ければ、少女は逆鱗に触れられた様な表情で杖をタバサの足に投げて叫んだ。
「うるさいっ!うるさいうるさいうるさーい!!人間に何が解る!!私達に狩られる人間風情が!!」
 半ば泣き叫ぶように少女の声が森を貫くと、タバサは足の痛みを食いしばり、珍しく誰にでも何となく解りそうなほどの小さな笑みを浮かべ、呟いた。
「残念。今、狩りをしているのは『私達』」

アオオォォォォォォォォォォォォォン!!!

 頭上から鳴り響いた激烈な遠吠えに顔を上げた少女は、もう何も言うことは出来なかった。
 それは白い闇で、禍々しい獣で、『今は』彼女の走狗。
 片手に食べ残しの頭をぶら下げた狼が舞い降りて、少女は、もう何も言うことは出来なくなった。


 真っ黒な夜を、白い闇と共に通り抜けていく。
 彼の小脇には恐怖でその最後を飾られた頭が二つ。
 彼女は『今は』狩られない。
 『今は』彼の『味方』だ。
 しかし、それは一体いつまでなのだろう。
 足の軽い打撲が少しだけ痛む彼女の手を取り、狼男は森の中を、騎士の様に堂々と歩いていった。


 ……夜が明け、村は発覚した吸血鬼とグールの正体に上を下への大騒ぎとなっていた。
 ごろりとテーブルに転がる生首達の切断面は、ウインディアイシクルで叩き切り直して魔法で倒したように加工してある。
 しかし男の首の方は大尉がうっかり脳みそまで味見してしまったらしく、左半分をそぎ落とすことになり大変過激なダメージっぷりとなっていた。
 その件について「……やりすぎ」と怒られたところ、珍しく尾を丸めた様に肩を落とした大尉が観測出来たのはタバサだけの秘密である。
 ちなみに吸血鬼については、元人間でなく生来こういう生き物であるため食べた物の美味しくはなかったらしい。
 村人達は吸血鬼の正体に驚き、タバサ達の偉業を称える為の宴会を今にも始めようとしている。

 そしてタバサは傍らに立つ使い魔を見上げた。
 鋼鉄で出来た様に、自らの雪風よりもずっと冷徹に、しかし灼熱の狂気を伴ってそれは地面に立っている。
 腰には二本の巨大な牙、その瞳は遙かな故郷を見つめている。
 彼はいつまで自分の『味方』でいてくれるのだろう。
 しかし、『今は』彼は『味方』なのだ。
 タバサはそれを確かめるように、小さな手を伸ばして大尉の手を取る。
 すると、大尉は無表情のまま、だが静かにそれを握り返してくれた。
 それは彼女が望むことを彼が理解して機械的に行っただけの結果に過ぎないが、タバサはそれでも満足だった。
 タバサは本日二度目の、と言っても少々意味の異なる誰にでも解りそうな笑みを浮かべ、大尉の身体に少し重みを預けた。

 そう、今だけでもいい。彼は私の味方なのだから。



村人達 「「「「「「「「「「(やっぱあれロリコンだァーッ!!!)」」」」」」」」」」

 ギャフン



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