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ゼロと迷宮職人-05



ゼロと迷宮職人 第五「階」 ぼくもはじめは怖かったです


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二度目の実戦を終えたルイズとギーシュは、アレンに傷の手当てを受けていた。手当てといっても
包帯を巻くわけではない。

「ひとりをかいふくー、ひとりをかいふくー」

アレンの言葉と共に五芒星の形をした光が二人に降り注ぐ。

「……おお、痛みが引いていく。水系統……じゃ、ないね。どーみても」
「そうなのよね……って、アレン! 杖、杖!」
「あ」

慌てて杖を持つアレンにギーシュは苦笑する。

「僕の前では構わないけど、やはりほかの人がいる場合は杖を持つ癖を着けた方がいいね」
「ギーシュ、あんた……」
「そーいうもの、なんだろ? ダンジョンの事も含めて、アレンの事をことさら吹聴する気はないさ」
「ありがとうございます」

深くお辞儀するアレンを、よしてくれと手で制するギーシュ。

「さあ、それじゃいよいよダンジョン製作なんだろ? ダンジョンメーカーのお手並み、
拝見させてくれ」
「はい!」

おどけていうギーシュに力強くアレンが頷く。三人はダンジョンの一区画に移動する。
そこは初日に凸型に掘った場所だった。

「作業は凸の真ん中で行います」


■掘ってないところ □掘ったところ ★アレンのいう場所

↑階段
■■■□■
■■■□■
■■□□■
■□★□■
■■□□■
■■■■■

アレンは自分のいった場所に立つ。

「部屋は、自分のいる方向に扉を向けます。ここから三方に部屋をつければ、
この真ん中に入ることで三匹の敵と戦えるということです」
「三匹一度に倒すと何らかの品物がほぼ確実に手に入る、ということだったね。
で、肝心要の部屋は、どう設置するんだい?」
「こーします。シャベル」
「おう! 部屋だな! 部屋つくるぞ!」

やる気十分のシャベルを正面に向ける。すると、いつもの六芒星が地面に浮かび、
部屋が浮かび上がってきた。おおお、と感心する貴族二人。

「錬金! 錬金かい今のは!」
「で、ででも、木は錬金できないでしょ!?」

ルイズの言葉どおり、部屋を構成する材料は木である。

「なあアレン! 入ってみてもいいかい?」
「どうぞ。その部屋には『えさおけ』を設置しました」

入ってみればなるほど、使い魔や馬などにつかうエサ桶が設置してある。

「小さくて一匹ぐらいしか入れないけど、馬小屋のようだね……」
「狭い部屋を好む魔物は多いです。中にはもっと大きな部屋に入る魔物もいたりします」
「そーいう部屋は作らないの?」
「家具がないです」

そんな会話をしつつも、アレンは部屋を作り続ける。左側にもう一つ『えさおけ』を設置し、
右側には『わらのベット』の入った部屋を作る。

「部屋を作るのもシャベルの力なのね?」
「そうです。家具も収納してくれます」
「ダンジョンに使う家具しかもてねーけどな!」

三つの部屋を行ったり来たりしながら騒いでいたギーシュが戻ってくる。

「凄い、いや凄いね! これならば確かに地下二十階まで作れるだろうさ!」
「じゃ、次の部屋を作りますね」

といってさっさと次の場所へ移動するアレン。慌てて着いていくルイズとギーシュ。
アレンの手際はいたってスムーズだった。次々に部屋を設置し、また次の場所へと
移動する。

「アレン、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんでしょう?」

合計九つ目の部屋を作り終えたところでルイズが声をかける。

「部屋、正面と左はおなじ『えさおけ』を置くのに、右だけ違うのは何で?」

一箇所目、二箇所目は『わらのベット』、三箇所目にはゴミ箱を置いた『ゴミすてば』だった。

「『えさおけ』が一番多くもらえたから、というのが理由の一つ目。『わらのベット』の部屋に入る
魔物は武器や防具を落とすので、それを狙いたいのが理由の二つ目です」
「右に置いた理由は?」
「複数に効果がある魔法、道具は必ず左側にいる魔物からダメージが入るんです。で、一番最後に
倒された魔物からアイテムが手に入るので、それを狙ってああいう配置にしました。
……あ、でも、今そういった魔法とか道具とか持ってませんから、意味無いかな」

ルイズは目を閉じた。すぐに開く。アレンがいつもの表情をしている。

「そーいうものなのね?」
「そーいうものなんです」
「……同じ攻撃で全体にダメージが入るのなら、同時に入らなきゃおかしい、というツッコミは……
しても、意味ないんだね?」
「ないわよ」

がっくり、と肩を落とすギーシュ。つい最近までは私もああだったなぁ、と遠い自分を見るような気分の
ルイズである。

「家具が尽きたので今日はここまでです。はしご近くに『鉄の宝箱』を置いて帰りましょう」

三人は揃って入り口へと歩き出す。

「なあアレン。何でほかの部屋ははしごの近くに置かないんだい?」
「あんまり近すぎると魔物が入ってくれないんです。魔物はダンジョンにある部屋が好きだから
入り込むんです。好きな場所の近くでドタバタされると嫌だから、なんじゃないでしょうか」
「ふむ、まあはしごから入ってくるわけだから、たしかにドタバタするだろうね」

などと話をしているうちにはしごに到着。アレンが一部屋分掘って、そこに『鉄の宝箱』を
設置した部屋を作る。

「この宝箱、魔物を呼び寄せるため、じゃないとするなら何のために?」
「魔物が宝箱を見ると、これは便利だと自分の宝物を入れて鍵を閉めるんです。
魔物から鍵を手に入れて開けると、ちょっといい物が手に入ります」

開いた状態の鉄の宝箱を前にアレンが答える。

「人の、いや、魔物の心を突いた罠……見事だね」
「こんな見え透いた罠に引っかかるのもどーかと思うけど」

説明を受けなければギーシュも引っかかったんじゃなかろうかと思うルイズだったが、
口にしない。自分の使い魔がどういう反応を示すかは先ほど理解したばかりだ。

「じゃ、帰りましょう。明日から本格的なスタートです」
「おお! まっかせたまえ!」
「ちょっとギーシュ、アンタ明日も着いて来るつもり?」

言外の『図々しいにも程がある』という意味を理解せず、ギーシュは爽やかに笑う。

「もちろんさ! こんなに楽しく刺激的なこと、ほっておけるかい!」
「三人の方が楽ですよ」

アレンが同意するならしょうがない。この使い魔、普段素直だがけっこう頑固なのだ。
それに、なんだかんだといってギーシュは戦闘授業の成績上位者、いればいたで便利だろう。
ルイズはため息をつきつつ、しょうがないわね、というしかなかった。


/2/


翌日の放課後。三人は再びダンジョンを訪れた。

「う……こ、これは」
「いる、なんかいるわ」

階段を下りた二人は、ダンジョン内に昨日とは違う、明らかな気配を感じた。

「じゃ、行きましょうか。今日から3対3の戦いになります。僕が一匹倒しますので、
残りの二匹はお二人にお願いします」
「うう……それも訓練なのね?」
「はい」

がっくりと肩を落とすルイズにギーシュが気楽な顔をする。

「心配いらないさ。いざとなったらアレンが守ってくれるんだろ?」

アレンは首を振って否定する。

「それ、無理です」
「ちょ、アレン! それどういうことよ! 使い魔は主人を守るものなのよ? アレンだったら
簡単でしょ!?」

ルイズは拳を震わせてアレンに詰め寄る。アレンはギーシュを手玉に取るほどの実力を
持っていることは決闘騒ぎの時に理解している。アレンは眉の両端を少し下げて説明する。

「外だったら、できます。でもダンジョンの中では無理です。さっきも言ったとおり、ダンジョンの中、
そんなに広くありません。時には家具が障害物になったりもします。そんな狭いところで戦い合っている
最中に、庇って守るって無理です」
「つ、通路をあらかじめ広く掘っておく、というのはどうだい?」

ギーシュの提案にも、アレンは難色を示す。

「魔物と戦うためには、必ずそいつがいる隣のフロアに踏み込みます。そうすれば乱戦になります。
弓や魔法で魔物の手が届かない場所から攻撃した場合、味方を巻き込む可能性があります。
特にご主人様の『爆発』はぼくでも無事ではすみません」
「む、うう」

アレンの説明を聞いて、黙り込む二人。先ほどのカラスコウモリを思い出す。それほど速い動きでは
無かったが、それでも三人の頭上を飛び回って好き勝手攻撃してきてくれた。あんな状態の敵を
味方を巻き込まず攻撃するなんて芸当、戦闘に熟練したメイジでも難しい。おそらく、
自分の母親でも、とルイズは思った。

「広い場所で戦うこともありますが、動きやすいよう分散すれば魔物が一人に集中攻撃する可能性も
あります。それに、深い階層にいけばぼく一人では手に負えない魔物だって出てきます。
ご主人様たちが強くならなければ、そこまでいけません」

そこまで言うと、アレンは口を閉じた。二人を見ながら、言葉を待っている。沈黙が三人を包む。
深い息をついて喋りだしたのはギーシュだ。

「冒険には危険が付き物。物語の主人公だって一方的に敵を倒すわけじゃない。時には危機に陥る
事もある。そー言うことなんじゃないかな、ルイズ」
「あ、あんたに言われなくてもわかってるわよ! ふん! カラスに突っつかれるぐらいどーってこと
無いわ!」

正直ルイズは痛いのも危険も御免だった。が、ギーシュだけにいいかっこさせるのは癪に触る。
何より魔法が使えないことで嘲笑されてきたルイズである。誰かができるといったことを
できないといえるはずもない。結果、このように心にもない言葉が出てきてしまう。

「いきましょ、アレン!」

半ばやけくそになりつつルイズは前へ踏み出す。

「はい、ご主人様」

アレンがその後に続き、ギーシュが緊張した表情で最後尾に付いた。

三人はダンジョンの奥へと足を進める。途中、宝箱の部屋を覗くと昨日と同じ空のままであった。
アレンの説明によれば、部屋を増やして魔物の数が増えれば確実に宝物が入るようになる、とのこと。
その後、一匹で通路にいたカラスコウモリを難なく倒し、設置した部屋の近くまで移動する。
部屋からは、生き物の気配が濃厚に漂ってきた。

「『わらのベット』の部屋に入った魔物は最初寝ています。なので起きている魔物をはじめに
倒してください。受けるダメージが減ります」
「心得たよ」
「分かったわ」

二人が頷くのを確認して、アレンが一歩踏み出す。魔物が部屋から飛び出してきた。
『えさおけ』の2部屋から飛び出してきたのは大きな猪、『わらのベット』からは
頭がネコ、体は人という獣人だった。両手に短剣を持ち、胸当ての防具をしている。
が。

「寝てる、やっぱり寝てる! 寝てるのに飛び出してくるってなんなんだ!」
「よくわかりません。魔物の習性じゃないですか? じゃ、いきます」

青銅の剣を構え、アレンが猪に飛び掛る。まるでそこに何もないように剣が滑り、
魔物が爆発する。

「一撃かっ! よし、僕もっ!」

ギーシュが勢いよく槍を突き出す。構えも動きも素人だが、何せ猪は犬より大きい。
簡単に槍が突き刺さる。悲鳴をあげるものの、猪は依然荒い息を上げる。

「今度は私よっ!」

ルイズの槍が猪に突き刺さる。小さな爆発と共に猪が消えた。

「よっし!」
「ギーシュさんの槍はなかなかいいですね。カラスコウモリよりブタイノシシのほうが
体力も防御力もあるんですが」
「はは、ほめてもらって光栄だよ。さて、それじゃ、最後の一匹なんだが……」

ギーシュは、立ったまま寝るという奇怪な芸当をかます猫獣人を見やる。

「やっぱり、見たことも聞いた事もない魔物だ……」
「ワーネコです。今までの魔物の中で一番強いですけど、すぐに倒せますよ」
「よっし、じゃあ行くわよ!」

ブタイノシシを倒して気をよくしたルイズが、ワーネコに槍を突き刺す。ザックリと
入ったが倒せず、その衝撃でワーネコが目覚める。その瞳がルイズを捉え、短剣をかざして飛び掛った。
武器を持った敵が、自分に飛び掛る。今まで一度として経験したことのないその恐怖に体が動かない。
二の腕が浅く切り裂かれた。焼け付くような痛みと共に出血する。

「いっ!」
「ルイズ! このッ!」

ギィーシュが造花の杖を振る。ワーネコの目の前にルイズがいたが、三歩進めば手が届くような距離、
誤爆することも無い。敵の足元から岩の槍が飛び出し、突き刺さった。魔物が消滅するのを確認して、
二人はルイズに駆け寄った。傷口を押さえて、ルイズは顔を伏せていた。

「アレン、ルイズに治療を!」
「はい!」

『ひとりをかいふく』の術を唱えるアレン。傷はすぐさま癒え、血の後さえ消えた。

「ルイズ、大丈夫かい?」
「だっ、だい、ヒック、じょう、うう……」

ギーシュの問いかけに、ルイズはまともに答えることができなかった。喉が上手く動かない。
いつもの様に、この程度へっちゃらよ、ということができない。
怖かったのだ、痛かったのだ。震えと恐怖が体を縛る。涙がこぼれるのを押さえきれない。
そんなルイズの手を取るアレン。暖かい掌だ。

「ご主人様……」

泣き止まぬ主に途方にくれるアレン。そんなやりとりを見ながら、ギーシュが口を開く。

「さっき、冒険には危険が付き物といったのに、これを言うのもなんなんだが……僕達には少々、
危険が過ぎるのかもしれない。そりゃ、アレンほど強ければ違うのだろうけど」
「ぼくだって、はじめは弱かったです……」

ギーシュの言葉に、アレンが呟くように答える。

「いや、でも、それなりに訓練を積んだのだろ? でなければアレンみたいな子供ががこんな
危険な場所、作るはずがないし入ることもない。大人がやるよ」
「いえ、それがそうもいかなかったんです」

アレンはルイズの手を取ったまま、訥々と自分の身に起きたことを語り始めた。

林業と家具製造を生業とする村、サウスアーク。その生命線である森に、魔物が住み着いた。
国に退治を依頼するも、あちこちに出没する魔物を退治するので手一杯の状況。
そんなころ、アレンは偶然「魔法のシャベル」を拾ってしまった。
このシャベルは初めて持った相手を相棒とし、それ以外の人間には自分を使わせない。
なし崩しにダンジョンメーカーにされたアレンは、迷宮を作り魔物と戦うことになった。

「……アレンがダンジョンメーカーになった理由はわかった。でもアレン一人で魔物と戦う
理由にはならない。ダンジョン作るのはアレンの役目でもいいかもしれないが、
戦うのは大人がやるべきだったろうに!」

義憤を覚えて言葉を荒げるギーシュ。アレンは微妙に困ったような顔をした。

「ぼくも、はじめは何で自分がって思いました。でも、小さな村でしたし、仕事がなかったのは
ぼくだけでした。それに、後からですけど一匹と一人が手伝ってくれましたし」
「一匹って……いや、それでも後からだろう? はじめは一人だったんだろ?
たった一人で魔物退治なんて、なんで引き受けたんだい」
「村長さんに言われたってのもありましたし、シャベルに急かされたってのもありますけど……
ダンジョンの仕事をすることで、村のみんなが喜んでくれましたから」

それが、アレンの根幹。誰かが喜んでくれるというのは、嬉しい。親切にされると嬉しい。
だから、辛くても怖くても、ダンジョンを掘った。魔物と戦った。アレンはルイズに向き直る。

「ご主人様、ぼくもはじめは怖かったです。でも頑張れました。強くなれました。
ご主人様もきっとできます。ご主人様は一人じゃないです。ぼくもギーシュさんもいます」
「そ、そうだとも!」

空元気の気勢を上げるギーシュ。二人にそこまで言われては、ルイズも今のままではいられなかった。
アレンに手を握ってもらっていたおかげか、震えも涙も止まった。目元を拭って顔を上げる。

「と、当然じゃない! 私もやる、やってみせる! み、見てなさいよ。すぐにアレンより
強くなって見せるんだから!」

さっきとは違う、ルイズの意思そのままの言葉だ。怖いのも痛いのも嫌だという気持ちは
変わらないが、それでも前に進むという心が定まった。そこで、今だアレンが自分の手を
握ったままであることに気付くルイズ。顔が赤くなる。

「ア、アレン。手、手!」
「あ、はい。もう大丈夫ですね」

手が離れる。温かみが離れる。一瞬、もっと繋いでいたいという気持ちが浮かぶが、すぐに全力で
否定する。

「よし、それじゃあ再開といこう! なんだったら、残りの魔物は僕が全て倒して見せよう!」

実を言えば、ギーシュもルイズと同じく、危険も怪我も嫌だった。が、周りに観客がいれば
かっこつけなければ気がすまないのがギーシュである。顔で笑って心で泣いて。男は辛いよと
心中で呟く。

「その前に、ワーネコが落としたアイテムを拾いに行きましょう。魔物がいた部屋にありますから」

そんなギーシュの心情など当然分からぬアレンは、『わらのベット』を設置した部屋へと入っていった。

「そういえばそーだったわね。すっかり忘れていたわ」
「魔物の宝物か。ちょっとワクワクするね」

そんなやりとりをしているうちに、アレンが部屋から顔を出した。

「む。うーん、まあ、これはこれで」

独り言をこぼしつつ、ちょっと眉の端を下げながら戻ってくる。手には粗末な袋があった。

「なによ、ハズレだったの?」
「いえ、装備品がほしかったんですけど、カツオブシでしたから」
「なんだいそれは?」

アレンが袋の中身を二人に見せる。そこには、なにやら木の削りカスのようなものが入っていた。

「干した魚をスライスした調味料です」
「調味料!? ……聞いた事も無いが、調味料かぁ」
「バズレね……ま、次に期待しましょう」

落胆する二人に、アレンは励ますように少し笑ってみせる。

「でも、茹でたホウレンソウにかけて食べるとMPが上がりますから、メイジのお二人には
これはこれでよかったかもしれません」

ルイズとギーシュ、二人は顔を見合わせる。なんともいえない、微妙な表情で。

「……ルイズ、僕の記憶が確かならば、MPとは確か精神力のことだったね?」
「ええ、そのとおりよ。間違いないわ」
「……これも、そーいうものとして流すべきなのかな?」
「そーするべきだわ。理由を聞いても答えは多分返ってこない。けど、さすがに私もこれは無理ね」
「そうかい、じゃあ、いいんだね?」
「ええ、行きましょうか」
「ああ、行こうか」

二人のやりとりを不思議そうな顔で見るアレン。メイジ二人は深呼吸をすると、アレンに向けて、絶叫。

「なんなんだいそれはッ! さすがにそれはありえないよアレン!」
「そーなんですか?」
「そーなの! いい? 人の精神力は生涯を通じても大きく変動することは無いの! 精神力は
魔法を使う力の源。魔法を多く使うためにはドットからライン、ラインからトライアングルと
クラスを上げるしか方法は無いの!」
「しかぁし! もしそれが本当ならば、メイジ6000年の歴史で変わることの無かったその
大前提が覆されてしまう! 嘘だろ、さすがに冗談だろ!?」
「嘘じゃありませんよ。疑うのでしたら、今夜食べてみればいいのでは」

エキサイトするメイジ二人に、アレンはそう提案する。息を切らせていた二人は、顔を見合わせる。

「た、たしかに。そうすれば真実が分かる」
「そ、そうね。分かったわ、今夜私が食べて……」
「待った!」

押し止めるように手を上げるギーシュ。その目はこれまでに無いほど真剣だ。

「その役目、このギーシュ・ド・グラモンに任せてもらいたい」
「あんでよ! あんた、自分が精神力上げたいだけじゃないの!?」
「その気持ちがないといったら嘘になる。が、理由は別にある。ルイズ、君は自分がどれだけ精神力を
持っているか、把握しているのかい?」
「う!」

痛いところを突かれるルイズ。魔法が使えずことごとく失敗するルイズは、何の魔法をどれだけ使えば
精神力が空になるのか、全く分かっていない。というか今まで精神力が空になったためしがない。

「その点僕はバッチリだ。ワルキューレを七体錬金すれば僕の精神力は空になる。ほかのメイジに
この話をできない以上、この役目は僕しかできない」
「う、うう。で、でもっ!」
「ご主人様、カツオブシならこれからも手に入りますよ」

アレンのフォローに、眉を怒らせつつも反論を止める。かなり納得がいかないが、現状ギーシュに
確認してもらうしか方法は無い。

「わ、わかったわ。じゃあ、実験台はギーシュってことで」
「……嫌な響きだが、納得してもらえたことには感謝しよう」
「じゃあ、残りの魔物も退治しましょう」

アレンが促し、ダンジョン探索が再開された。この日の収益は短剣「ワーネコダガー」一本、
「ガラスのゆびわ」一つ、そして件の「カツオブシ」一袋。銅貨は400枚を超え、換算すれば
銀貨4枚分に相当した。普段ならばその成果に驚くところなのだが、精神力上昇確認実験に
頭が一杯で、それどころではないルイズとギーシュであった。

学院に帰った三人は、厨房のマルトー親方に「おひたし」を作ってもらう。それを食べたギーシュは、

「カツオブシのしょっぱさがホウレンソウにとても合っている。サイドメニューにピッタリだね」

と評価。そんなことを聞きたいんじゃない、とルイズに叩かれる事になる。


/3/


そして、翌日の放課後。遂に精神力上昇確認実験が開始されることとなった。場所はほかのメイジに
見られぬよう、使用人たちの宿舎の裏である。

「ギーシュ、確認するわ。今日、魔法は使った?」
「コモンマジックを含め、一切使っていない。精神力は満タンだ」

腕を組んでギーシュを見るルイズ。アレンはいつものと如く落ち着いたものだ。一番落ち着いていないのは
もちろんギーシュである。腕が少し震えている。

「じゃあ、始めて」
「分かった……錬金!」

造花の花びらが中を舞い、地面に落ちる。そこから七体のゴーレム、ワルキューレが姿を現した。
ギーシュ、錬金を使った状態から動かない。それどころか、額から脂汗を流し始める。表情も
固まっている。

「ギ、ギーシュ! どうしたの!? 成功? 失敗? 副作用!?」

ギーシュは答えない。震える杖を一体のワルキューレに向ける。それは主の命令に従って、
隣のワルキューレに刃を振り下ろした。当然ながら、斬られたワルキューレに傷が入る。
ルイズはその有様に小さく悲鳴を上げる。狂ったか、やはり危険だったのだ。食べなくてよかった。
そんな失礼なことを思われているなど露とも知らず、ギーシュは傷の入ったワルキューレに
杖を向ける。

「錬、金!」

搾り出すような声。ワルキューレの傷が見る見るうちに塞がり、元の状態に戻った。

「……できたよ、ルイズ。出来てしまったよ。こうなっては認めるしかない、このギーシュ・ド・
グラモンの精神力は、確かに、ほんの少しだが、上がっているッ!」
「あ、あああ……」

頭を抱えるメイジ二人。ここに、メイジの歴史6000年、変わることの無かった大前提が
崩れたのだ。そんな二人に、更なる爆弾発言をかますのがアレンである。

「ダンジョンで手に入る食材で上がるのは精神力だけじゃありません。全部で6種類。
体力の『HP』、精神力の『MP』、腕力を現す『つよさ』、身のこなしを表す『はやさ』、
頑丈さを表す『じょうぶさ』、そして知力を表す『かしこさ』です。今のダンジョンにはありませんが、
そのうちかしこさを上げられる食材をもつ魔物も呼び寄せませよう。魔法の威力が上がるから、
メイジのお二人にはいいとおもいます。でもまずはHP、とつよさ、じょうぶさを重点的にいきましょう。
この三つを上げておけば大抵の魔物が相手でも平気になりますから」

何気なく主訓練計画を練り始めるアレン。二人はアレンを見みて、次にお互いの顔を見る。
二人は揃って空を見上げた。ああ、今日も空が青い。

「ルイズ、正直に言おう。僕は今の言葉を聞かなかったことにしたい」
「ええ、私もよ」

二人は空を見上げたまま、しばらくそのままでいた。首が痛くなってきた。

「しかしね、やはりそーいうものとして流すわけには行かないね、これも」
「そうね……」

二人は疲れきった表情をアレンに向けた。小さく首をかしげるアレンの可愛さが、今はとても憎たらしい。

「どうしました?」
「聞くけど、それって食べれば食べるほど上がるのかしら?」
「上がりますよ。あ、ただし一日一食までです。他の食べ物を食べてもいいですけど、能力が上がる
料理は一日一回しか効果がありませんから」
「なあアレン。それってダンジョン行かなくても、強くなれないかい?」

その言葉に、眉根に皺を寄せるアレン。

「強くなれるわけないじゃないですか。それは能力が高くなるだけです。どんなに能力が高くても、
必要な時に必要な行動が取れなければ意味がありません」
「そうか……そうだね、そのとおりだよ、うん」

はははー、と渇いた笑いをすると、ギーシュは仰向けに倒れた。それにルイズが続く。
アレンがご主人様! と騒ぐがさすがに取り合う気力がない。

「……ルイズ」
「あによ」
「前にも言ったし、これからも言うことになるかも知れないけど、いうよ。君は、本当に、とんでもない
使い魔を召喚したね……」
「私もそう思うわー……」

渇いた笑いを上げ続ける二人。アレンは涙目になると、大人を超高速で呼びに行った。



結局この日はダンジョン探索はしなかった。ルイズもギーシュもしこたまワインをがぶ飲みし、
ぶっ倒れたからだ。時には酒に逃げたくもなる。この日がそうだった。





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