あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ベルセルク・ゼロ-08


 時間は少し前後する。
 ガッツが食堂を立ち去って気まずい昼食をルイズがとっていたころ、オスマンからガッツの調査を命じられた『炎蛇』のコルベールは蔵書数万とすら言われるトリステイン魔法図書室で大量に積み上げられた過去の文献と格闘していた。
 何しろ手がかりがまったくない。つまり、しらみつぶしに『何かしら呪印を刻む儀式』を古今東西、種類を選ばず追っていかなくてはならない。
 それは雲を掴むような話だった。
 しかも―――これはオスマンにも報告済みのことなのだが―――コルベールはガッツが召喚された際、用心深くもディテクト・マジックをかけていたのである。
 結果はまったくの『反応無し』。つまり、あの呪印には今のところ何の呪もかかってはいないのだ。
 にもかかわらずオスマンは呪印の調査をコルベールに厳命した。
 効力を失っている、無害としか思えない呪印に対してなぜそこまでオスマンがこだわるのか、コルベールにはわからなかった。
 コルベールはメガネを外し、目頭を押さえるとひとつため息をついた。
 とりあえずこの呪印については後回しだ。今度彼自身に話を聞いてみることにしよう。
 そう決めるとコルベールは広げていた書物を閉じ、立ち上がった。
 そろそろ授業の時間だ。教師が遅刻していては話にならない。
 コルベールが教材を片手に図書室を出ると、そこにはミス・ロングビルが立っていた。
 窓から射す光が彼女の長い緑髪を輝かせている。
 自分を待っていたのだろうか―――? いやいや、そんなことはあるまい。彼女のような美しい女性が私のような男に個人的な用があるなどと、そんなことがあるはずがないではないか。
「やや、偶然ですなミス・ロングビ―――」
「お待ちしておりましたわ、ミスタ」
 ロングビルの言葉にコルベールは仰天した。
「わわ、わたしなどを待っておられたのですか!? なぜ!? どうして!? ホワイ!?」
「研究熱心な先生に私、興味がありますの。色々お話を聞かせてくださらない?」
 コルベールは有頂天になった。ロングビルと肩を並べて廊下を歩き、少しでも彼女の気を引こうと饒舌に語る。
 ロングビルは相槌を打ちながら、時折質問を返し、話を盛り上げていた。
「ところでミスタ、宝物庫のことはご存知?」
「あまりに強力、もしくは危険なマジックアイテムを封印している倉庫ですな。それがどうかされましたかな?」
「いえ、あまりにも厳重に『固定化』と『反魔法』の魔法がかけられているでしょう? 中には何があるのかと、少し興味がありまして」
 コルベールはロングビルの気を引こうと記憶を探り、過去に宝物庫に入った時に見た品々を紹介していく。
 ロングビルのメガネがキラリと光った。
「なるほど、それだけの品が納められているのであれば、あれほど厳重に管理されているのも頷ける話です。賊に侵入されるようなことなど有り得ない話なのでしょうね」
「ところが私はそうは思わないのです、ミス・ロングビル」
「まあ、どういう意味です? ミスタ」
 理知的な男であるところを見せようと、コルベールは前々から感じていた宝物庫の弱点についての考察を披露した。
 ロングビルは興味深そうに聞いている。
「あの扉は魔法に対する対抗措置にばかり目がいきすぎて、物理的な衝撃に対する処置をおろそかにしているような気がするのです。例えば巨大なゴーレムが……」
 熱心に自説を披露するコルベール。
 コルベールが話を終え、ロングビルは妖艶な笑みを彼に向けた。
「大変興味深い話でしたわ、ミスタ」
「いやあ~はっはっは! 他にも聞きたいことがあればじゃんじゃんお尋ねください!!」
 コルベールは絶頂だった。
 そして彼は授業に遅刻した。

 食堂を出たガッツは、これからどうしようか考えていた。
 あの決闘の際、ギーシュとかいうガキは『オールド・オスマン』とかいう名前を出していた。
 とりあえずその人物を探してみようかとも思ったが、そいつがどこにいるか、皆目見当もつかない。
 『学院長』を務めているという話だから、この学院の者なら誰でも知っているだろう。そうあたりをつけたガッツは通りがかりの女生徒に声をかけた。
 ガッツは気づいていなかった。今まで通りすがっていった生徒たちが怯えるような目でガッツを見ていったのを。ギーシュとの決闘を経て、自分がどんなイメージで生徒たちに伝わっているのかを。
「おい」
「ひっ!」
 またガッツが何の気なしに女生徒の肩を掴んだのがまずかった。
 黒い鎧を纏い、黒い大剣を振り回す黒い悪魔。
 ギーシュとの決闘を目にし、その後様々な噂を耳にして、少女はガッツに対してそんなイメージを抱いていた。
 そんな黒い悪魔に肩を掴まれたその少女は容易くパニックに陥った。
「いやあぁぁぁ! お か さ れ る ぅ ぅ~~~~ ! ! ! ! 」
「な…!?」
 少女はとんでもないことを口走る。さすがのガッツもあまりの事態に咄嗟に判断を下せずにいた。
 おかされるぅ~おかされるぅ~おかされるぅ~。
 少女の悲鳴は石造りの廊下をよく反響しながら奥へと吸い込まれていく。
 そして悲鳴が吸い込まれていった廊下の奥からおびただしい数の男子生徒が集まってきた。あっという間にガッツを取り囲む。
 何か事態がとんでもない方向へ進んでいる気がする。なんなんだこれは。ガッツは思わず眉間を押さえた。
「貴様! ルイズの使い魔の黒い悪魔!! 貴族を愚弄しただけでなく、今度は婦女子に暴行を加えようとするとは……もはや到底見逃すことは出来ん!!」
 集まった男子を代表するように一人の男子が前に出て声を上げる。
 ルイズたちとはマントの色が違う。ガッツは知らないが、ここに集まった生徒たちは皆この学院の最上級生だった。
 先程悲鳴を上げた少女は、口上を述べた生徒とはまた別の、男子生徒の胸に顔をうずめて泣いていた。
「ひっく、ひっく……怖かったわシュナイダー」
「もう大丈夫だマリベル! この僕が来たからには!!」
 勝手にやってろ。ガッツはもはや呆れていた。何故肩に手を置いただけでこんな扱いをされにゃならんのか。本当に貴族ってやつは―――厄介極まりない。
 事情の説明をしても無駄だろう。この様子ではこちらの言い分に聞く耳を持つ者がいるとは思えない。
「いや、俺は―――」
「黙れ! 悪魔の言葉など聞く耳もたん!!」
 ほらな―――ガッツはため息をついた。
 どうしたものか。ガッツは思案する。ぼけっとしている間にすでに前後を挟まれてしまった。
 ざっと見て、前に14,5人。後ろにも15,6人。狭い廊下にひしめきあっている。
 セルピコのように空を飛ぶことが出来れば頭上を飛び越えスタコラサッサといくのだが―――いくらルーンの力を借りようと甲冑を着込んだまま人垣を飛び越える跳躍をするのは無茶な話だった。
 背中のドラゴンころしを抜く。何人かの生徒はその剣を目にしただけで怯んでいた。
 しかし―――
「恐れることはない!! こんな狭い廊下であんなデカイ大剣を振り回すことなど出来はしないさ!!」
 そう、この場所ではドラゴンころしを振ることは出来ない。ドラゴンころしを振り回すにはトリステイン魔法学院の廊下は少々狭すぎた。
 ガッツは舌打ちした。

「さあ、悪魔に聖なる鉄槌を!!!!」
 その声を合図にガッツに様々な魔法が襲い掛かった。
 炎の玉、風の槌、水の槍、土の拳、迫り来るそれらをガッツはかわし続ける。
 狭い廊下に二十余りの人数がひしめきあっているため、その全てが戦闘に参加することは出来ない。とはいえ、連続して迫り来る魔法はいつまでもかわしきれるものでは無かった。
 ガッツは手を出しあぐねていた。本気を出せば蹴散らすのは容易い。
 いくらドラゴンころしを封じられているとはいえ、打つ手はいくらでもある。
 ボウガンを始め、炸裂弾、極め付けに左手義手の大砲。
 しかしそれらは全て『対使徒用』、すなわち、威力がありすぎるのだ。使えば相手はまだ未成熟な生徒たち、確実に死者が出る。
 死者が出れば、もう負の連鎖は止まらない。死者の遺族、友人、恋人による復讐、そしてまた生じる死者、その遺族、友人、恋人―――そんな悪循環はごめんこうむりたかった。
 風がガッツの肌を撫でていく。右腕が切り裂かれていた。
 ギリ…!! かみ締められたガッツの奥歯が音を鳴らす。
 目の前に火球が迫る。咄嗟に左手を顔の前にかざす。鉄の義手に触れた火球は破裂し、炎はむき出しの顔を炙った。
「手も足も出ないようだな黒い悪魔!! 土下座して謝れば許してやらんこともないぞ!?」
 リーダー格の生徒が勝ち誇り、声を上げる。
 生徒たちの魔法が止んだ。皆一様に勝ち誇り、地に膝をつくガッツを見下ろしている。
 ガッツは立ち上がり、ドラゴンころしを構えた。
「まだ懲りないようだな…!! よかろう、徹底的に―――」
「動くな」
 ガッツの低い声が廊下に響く。思わず生徒たちは皆動きを止めていた。
「な、何を偉そうに」

 ゴッ――――!!!!
 ドラゴンごろしが壁にぶち当たり、しかし勢いは衰えず剣は石造りの壁に食い込み、火花を上げながら切り裂いていく。
 再び壁からその姿を現した鉄塊はそのまま少年の鼻先を掠め、反対側の壁にぶち当たり、ようやくその動きを止めた。
 真一文字に切り裂かれた壁から外の光が射しこんでくる。光が廊下に舞う砂埃を照らし上げていた。
 パラ―――カツン。砕かれた壁の欠片が床に落ちたその音が、無音の廊下に響いた。
「正義の味方ごっこは終わりだお坊ちゃんたち。これ以上は真っ二つになりたい奴だけかかってくるこったな」
 ガッツはドラゴンころしを背中にしまうと悠然と歩き出した。
 モーゼが海を割り渡るが如く、ガッツの前に立つ生徒たちは皆端により、その道をあける。
「ば、化け物だ……」
「俺、もうあいつに手をだすのやめるよ……」
 ガッツの姿が見えなくなって―――口々にそう呟きながら生徒たちは散っていった。
 生徒たちが誰もいなくなったその廊下に、コツコツと、足音が近づいてきた。
 ガッツにより作られた真一文字の明かり窓、そこから射す光がその人物の足元を照らし出す。
 黒いヒールを履きこなす艶かしい足―――ミス・ロングビルは切り裂かれた、いや、切り砕かれた壁を右手で撫でると、妖しげに、しかし美しく―――笑った。

 以上が、ガッツがルイズの部屋に戻るまでに起きた事の顛末である。
 それからちょっとしたやり取りを経て、ルイズによるご主人様宣言を受けてから、ガッツは余計なことを言っちまったなと若干後悔していた。
 ルイズは既にネグリジェに着替え、寝息を立てている。今日は珍しくパックはまだ眠ってはいなかった。
「で、どうすんの? やるの? 下着の洗濯」
 パックがにやにやしながら問いかけてくる。
「やるか。あの侍女…シエスタっつったかな、あいつに頼む」
「そうだよねえ。画的に問題だもんねぇ~~」
 パックのニマニマは止まらない。ガッツは無視を決め込むことにした。
 と、パックの顔が突然真面目なものに変わった。
「ガッツ……部屋の外、何かいる」
「……」
 ゆっくり、物音を立てぬよう立ち上がる。また貴族の坊ちゃんの類だろうか。
 だとすればまた面倒くさい話だが―――
「いや、この気配は人じゃないよ。悪い意志も感じないなあ」
 パックがその考えを否定する。人ではない、という部分にきな臭いものを感じたが、烙印には何の反応もない。万が一にも使徒だということは無さそうだ。
 だとすれば誰か生徒の使い魔、ということだろうか。
 どっちにしろ、このままではにっちもさっちもいかない。
 ガッツはドアを開ける決断をした。
 ルイズを起こしてはまた面倒なことになる。ガッツは出来るだけ物音を立てないようドアを開けた。
 ドアを開けた途端襲われる、といった事態になることは無かった。ガッツはそのまま廊下へと足を踏み出す。
 灯りが消されて真っ暗なはずの廊下が煌々と赤い光で照らされている。その理由はすぐにわかった。
「きゅるきゅる」
 廊下に巨大なトカゲがいた。色は真っ赤で、尻尾の先が燃え盛っている。こちらを見てきゅるきゅると人懐っこそうな声をあげていた。
「フレイムだ。キュルケっていう姉ちゃんの使い魔だよ」
 パックがガッツに説明した。なるほど、言われてみれば見覚えがある。確かに、この生き物はいつも赤毛の女の傍にいたはずだ。
 そんなやつが廊下にいて、さらにこちらを見つめてくるのはどうしたわけなのだろう。
 わけもわからず様子を伺っていると、隣の部屋のドアが開けっ放しだということに気がついた。
「きゅるきゅる」
 そしてフレイムはいつの間にかガッツのマントの裾を咥えている。そのままくいくいと引っ張り出した。
「おいおい」
「いいじゃん、ついていってみようよ」
 そのままフレイムに後に従ってついていくと、開けっ放しだった隣の部屋に通された。
 ガッツが部屋に足を踏み入れると同時にドアが閉じられる。
 パックはまだ入室していない。扉の向こうから何やらパックが喚いているのが聞こえた。
「ごめんなさいね。妖精さんに用はないの」
 部屋の奥から声がするのと同時に蝋燭に火がつき始め、真っ暗だった部屋が仄かに照らされる。
 部屋の奥、ベッドの上に下着だけを身に着けたキュルケが悩ましげに寝そべっていた。
 キュルケの豊満な胸は黒い下着に押さえつけられ、はち切れんばかりである。
 キュルケの褐色の肌を蝋燭の炎が照らし、扇情的な光景を作り出していた。

「…で、何の用だ?」
 なんとなく察しは付きながらも、ガッツは一応問う。
 キュルケの目が恥ずかしげにふせられた。
「あなたはあたしをはしたない女だと思うでしょうね……」
 ガッツは無言でそれに応えた。
「でもしょうがないの…紹介したでしょ? あたしの二つ名は『微熱』。あたしの体はすぐに燃え上がってしまう……でも、誰でもいいってわけじゃないの! あたし、あなたに恋してる! あなたには他の男には無いセクシーさがあるわ!」
 熱っぽくキュルケは語る。動こうとしないガッツに業を煮やしたのか、ベッドから立ち上がるとガッツに歩み寄った。
 そのままガッツに胸を押し付ける。甲冑に押しつぶされた胸はぐにゃりと柔らかくその形を変えていた。
 その頃パックはというと―――
「エマージェンシー! エマージェンシー!! 現在隣の部屋でエロエロな事態が展開されております!! ルイズ、ウェイクアーーーップ!! 現在隣の部屋でキュルケ×ガッツちょめちょめ中ぅ~~~!!!!」
 なんてことを叫びながらルイズの部屋を飛び回っていた。
「むにゃ、うぅるさぁ~い……もう、何騒いでんのよ~~」
 しばらくそんな様子でむにゃむにゃ言っていたルイズだが、パックの言葉の意味が染み込むにつれて、その顔を憤怒で赤く染めていく。
 ぶわぁ!! と体にかけていた毛布を剥がすとネグリジェ姿であることも気にせず廊下に飛び出した。
 そのままの勢いでキュルケの部屋のドアを蹴破る。
「どりゃあ~~~!!」
 ドーン!!とドアを蹴破り、部屋の中に飛び込んだルイズはその光景を見て固まった。
 ガッツはキュルケの肩を掴み、その体を離そうとしていた。
 しかし、それは見ようによってはガッツが下着姿のキュルケを抱き寄せているようにも見えるわけで。
「な、なななな、なにしてんのよあんたたちぃ~~~~!!!!!!!」
 ルイズはネグリジェ姿のままブンブンと鞭を振り回し始めた。
 当然そんな姿で激しく動けばちらちらとけしからんものが覗くのだが、ルイズはそんなことを気にする余裕など失っていた。
「きゃあ! ちょ、ちょっとこらルイズ! 落ち着きなさいよあんたってば!!」
「うぅるさいうるさぁ~い!!!! こ、この泥棒猫ぉ~~!!!!」
 ルイズの勢いは止まらない。ルイズの振り回した鞭は空中で爆笑していたパックを叩き落とし、キュルケにもその矛先を向けた。
「ちょっとヴァリエール、乙女の肌に傷をつける気ぃ!?」
 キュルケはぐっ、と目を閉じた。だが、いつまでたっても痛みは訪れない。
 ガッツがガシ、とルイズの右手を捕まえてそのまま部屋から引きずり出していた。
「離しなさいガッツ!! くおら!! 離せえぇ~~~!!」
 ルイズのわめきを完全に無視して、ガッツはルイズを引きずったまま、部屋へと消えていった。
「ガッツ……あたしをかばってくれたのね……!!」
 キュルケは一人、残された部屋で勝手に感動していた。
 パックはキュルケの部屋でのびたまま取り残された。
 キュルケの部屋の窓の外で動く影があった。六人の男がレビテーションの魔法で体を浮かべ、唖然と部屋の中の様子を眺めている。
「キュルケが待ち合わせの場所に来ないから様子を見に来てみれば……」
「黒い悪魔…! 既に我らがキュルケをたぶらかしていたか!!」
 男たちは悔しそうに唇をかみ締めている。中には涙を流している者までいた。
「あぁ僕のキュルケが…僕のキュルケがあぁ~~!!!!」
「あの様子では既にヴァリエールも……!! おのれ! おのれおのれおのれィ!!!!」
 男たちの悔し涙はその夜、枯れることはなかったという。
 部屋に戻ったガッツはルイズからヴァリエールとツェルプトーのどろどろな因縁を散々聞かされていた。
 太陽が未だ昇らぬ深夜。いっそ眠りたいと思ったのは初めてかもしれないと、ガッツは思った。



 翌朝、ガッツはルイズに言われたとおり、日が昇りずいぶん経ってからも未だ幸せそうに寝息を立てるご主人様を起こしにかかった。
「むにゃ、う~んなによぉ~~……もうあとごふん…むにゃ」
 構わずガッツはシーツ(下に敷いてるほう)を引っ張った。ごろんと音を立ててルイズは壁とベッドの間に落ちる。
「な、何!? 何ごと!? ここどこ!?」
 わずか30cm程の隙間に器用に落ちたルイズはしばらく状況を把握出来ず、何やら喚いていた。
 ガッツがルイズのネグリジェの後ろ襟を掴み、引っ張りあげる。にゃーんってな感じでルイズはベッドの上に舞い戻った。
「お、起こすにしてもやり方ってあるでしょ!?」
「人に起こせっつっといて起きねえのが悪い。水を汲んでくるぜ」
 ガッツはさっさと部屋を出て行った。
「く、負けないわよ…! 絶対私を主人だと心の底から認めさせてやるんだから……!!」
 もそもそとガッツが出て行った隙に服を着替えながら、ルイズは呟いた。
 ガッツが水を汲みに井戸へ向かうと、そこには見覚えのある人物がいた。かつてここで出会った時と同様に、洗濯をしている。
 シエスタだった。
「よう」
 ガッツは井戸の水を汲み上げながらシエスタに声をかけた。
「ガ、ガッツさん!!」
 シエスタはよほどびっくりしたのか目を大きく見開いて声を上げた。
 そのままガッツを見上げて固まっていたかと思うと、気まずそうに目をふせてもじもじし始めた。
「?」
 ガッツはその様子を妙に思いながらも井戸から水を汲み上げる。
 水はルイズが顔を洗うためのものだ。桶一杯あれば事足りる。
 汲み上げた水を持ってきた桶に移す。その作業はすぐに済み、ガッツは部屋に戻ろうとした。
「あ、あの! ガッツさん!!」
 立ち去ろうとしたガッツにシエスタから声がかけられる。
 ガッツは振り向いた。
「あ、あの、決闘の時、逃げ出しちゃってごめんなさい……私が原因であんなことになっちゃったっていうのに……」
 何か様子がおかしいと思ったら、そんなことか。ガッツは思った。
 実際ガッツはそんなこと全然気にしてなどいない。
「決闘になったのは俺が余計なことを言っちまったせいらしいからな。お前が悪いわけじゃねえ。気にすんな」
「は、はい……あ、あの時は私なんかのためにありがとうございました!!」
「おう」
 ガッツはそう言って歩みだそうとする。シエスタは続けて声をかけた。
「これからもよかったら厨房に寄って下さい!! マルトーさんも喜びます!!」
「ああ、腹が減ったらまた寄らせてもらう」
「そ、それとガッツさん……」
「……?」
 シエスタは急に声のトーンを落とした。怪訝に思い、ガッツがシエスタの顔を見ていると―――
「ミス・ヴァリエールとミス・ツェルプトーに二股かけてるってホントですか!!?」
 そんなことをのたまった。
 これにはさすがのガッツもずっこけそうになった。
「待て。何でそんな話になってる」
「学院中で噂になってるんです…『黒い悪魔』が二人に手を出して痴情のもつれからミス・ヴァリエールがミス・ツェルプトーに凶刃を振るったって……」
 勘弁してくれ。何の呪いだこれは。烙印の新たな効力か? ガッツは頭を抱えた。
 それからシエスタの誤解を解くのに時間がかかり、部屋に戻ってからルイズに叱責された。
「…? 何よ、人の顔じっと見て」
 この癇癪少女が噂のことを知ったらどうなるか―――ガッツはどんどん面倒くさくなってきている周囲の状況に、また思わず眉間を押さえていた。


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