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牙狼~黄金の遣い魔 第7話(Aパート)

~GARO 黄金の遣い魔~

光あるところに、漆黒の闇ありき。
古の時代より、人類は闇を恐れた。
しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、
人類は希望の光を得たのだ。

行け 疾風のごとく
宿命の戦士よ 異界の大地を
何故戦うのか それは剣に聞け
か弱き命守るため 俺は駈け続ける
闇に生まれ 闇に忍び 闇を切り裂く
遥かな 運命の果て巡り合う 二人だから
行け!疾風の如く 魔戒の剣士よ
異界の双月の下 金色になれ
雄雄しき姿の 孤高の剣士よ
魂を込めた 正義の刃 叩きつけて
気高く吠えろ 牙狼!

第7話 銀装

夜の街中に、慌しい足音が響いていた。
白い石畳に反響するそれは、急に緩に、惑いながら迷いながら逃げている。
魔法の街灯に照らされるシルエットは、一人ではなく二人。
一方は背が高く、もう一方は対照的に低い。
背が高いほうは、長くたなびくコートを羽織り、背の低いほうはスカートにマントといった装束だった。駈ける後姿から前者は男性、残る後者は女性だろうと分かる。
男性は夜の闇に沈むような黒髪。女性は自体が光を放つようなピンクがかったブロンドという、これもまた対照的な外観だった。
二人が駈けているのは、トリステイン王国 王都トリスタニア メインストリートたるブルドンネ街から一つ入った街路である。
名前をチクトンネ街と言う。
ブルドンネ街をトリスタニアの表の顔とするならば、チクトンネ街は裏の顔である。いかがわしい酒場や賭博場が並んでいるこの街は、夜を知らない歓楽街のはずだった。
だった、と書いたのは、今宵に限りチクトンネ街には人の姿がほとんど見受けられなかったからである。酔漢、客引き、夜の娼婦たちが建物の壁に背をつけて人待ち顔で並んでいるこの場所も、今宵に限り人影は全くと言っても存在しなかった。
その原因は、通りを駈ける二人の背後に迫る大勢の足音のせいだった。
何十人、否百人を越えているかも知れない、規則正しくけして乱れることのない足音は、明らかに高度に軍事的に訓練されたものだった。
どうやら二人は、軍人たちに追われ逃げる途中らしい。
しかも次第に追い詰められているようだ。前方の通りの角からも足音が響いてきた。

「!」
二人連れのうち、黒髪の青年が足音の聞こえる方向へ厳しい視線を向ける。拳を握り締め、今にも足音が聞こえる方へ突撃しようとした。
強行突破の意思を見せる青年に対し、連れ合いの少女は停める素振りを見せた。何度もかぶりを振り、青年の腕を抱き締め止める。険しい表情を見せていた青年も、困惑したかのように視線を揺らした。
二人が惑い、躊躇する間にも足音はもう直ぐその先まで迫っていた。焦りの色を顔に浮かばせ、少女は視線を巡らせる。
と、その視線が一点に停まった。
魔法により、様々な色に光り点滅する看板である。どうやら居酒屋と簡便な宿泊施設を兼ねているらしい。正確に言うならば、居酒屋で酔いつぶれた客を泊まらせ、翌朝また料金をぶんだくるシステムであろう。あるいは、給仕役の女性と客との間の納得づくの営利的な情事のためにも用いられているのかもしれない。
兎に角、四方八方から捕り方が押し寄せる現状、どこかに身を潜めやり過ごすしか方法は無い。それには、こういった施設が適任であるように思われた。
少女は意を決するようにうなづくと、青年の手を引き店内へ入っていった。
闇空に煌めくマジック・ライトの看板。
そこには、公用語でこう記されていた。
『魅惑の妖精亭』。

(ああもうっ!どうしてこんなことになっちゃったの?)
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは走りながら心の中で憤った。
トリステインの王都トリスタニア。メインストリートたるブルドンネ街から外れた裏通りである、チクトンネ街の一角である。
前回、散々な目に遭った『虚無の曜日』からまるまる一週間経過していた。その間、魔戒法師の修行にいそしむ以外、たいした起伏も無く平穏無事な日々を過ごしていた。そんな彼女だったが、再び『虚無の曜日』を迎えたその日の朝、夜が明けるや否や速攻で鋼牙に供(とも)として王都に赴くよう促したのだった。
渋る鋼牙に対して、ルイズは前回の買い物の事を思い出させた。なけなしの小遣いで買った衣服や下着、お菓子の類はホラーとの戦闘により喪われていた。
元はと言えば、楽をしたいルイズが買い物を全て鋼牙に預けた事が原因だったのだが、その戦闘の当事者である彼にも責任があると彼女は言い張った。
鋼牙自身もそれについてはある程度思うところがあったらしい。迫るルイズに魔戒騎士は小さく吐息をつきながらうなづいた。
己の願望が通ったことに、狂喜乱舞して小一時間。手早く外出の準備を整えた二人は、学院の厩舎から馬を借り出して出発した。
(頑張って早起きした介があったわ。今回こそほんとに二人きりの外出よ!)
上手くキュルケやモンモランシーを出し抜けた事実に、思わず頬を緩ませながらルイズはトリタニアへの道を急いだ。

タバサの風竜に乗るのと比べて、二人乗りの乗馬はかなり時間を要した。トリスタニアに到着した時点で、すでに太陽はほぼ真上に位置してしまっていた。
さいわい三人娘の追手がかかる事も無く、二人は存分に買い物を楽しむ事ができた。
だが、雲行きが怪しくなり始めたのは夕刻も迫り、西の空が茜色に染まり始めた頃合だった。
なぜか街中に軍服姿が目立ち、後方に追手がかかり始めたのに鋼牙が気付いたのが最初だった。
始めのうちは、鋼牙の指摘を気のせいだと一笑に付していたルイズだったが、次第に増える士官の数に笑い事ではなくなってきた。いつしか二人とも駆け足になり、さらに後方の王軍の士官も羽付きの帽子を揺らして追跡にかかった。
こうして、王都トリスタニアを舞台にした一大追跡劇が始まったわけである。
いつしか日は暮れ、暗くなり始めた町々に魔法の照明が灯り始めた。二人の逃亡は表通りから裏通りへと移り、最終的にいかがわしさでは一番のチクトンネ街に辿り着いたわけである。
後は前述した通りである。追い詰められた二人は(鋼牙は士官たちを全員叩きのめそうとしたが、ルイズが国家と事を構えるわけにはいかないと必死に停めた)、一時姿を隠す場所を探して、とある居酒屋に潜り込んだのである。

どうやらまだ開店前らしく、『魅惑の妖精亭』の店内は、色とりどりの派手な衣装に身を包んだ少女たちが走り回っていた。
テーブルの上に積み上げられた椅子を下ろしていた丸メガネの少女が、ドアを開けて入ってきたルイズを見つけて大声で告げる。
「すみませ~ん!まだ開店前なんですうっ!あと、三十分待っていただけますか~?」
「この店に用があるわけじゃないの。裏口は何処?教えなさい」
いかにもな貴族の口調で、突っけんどんに答えるルイズ。それを聞いて丸メガネの少女は大げさに肩をすくめる素振りを見せた。
「どーしたのかしらっ?アネモネちゃん」
「スカロン店長~!」
「だめよおぉ。店内では、『ミ・マドモアゼル』って呼ばなきゃあ」
なにやらもめている気配を察したのか?店の奥から野太い声とともに奇妙ななりの男が現われた。
まず、身にまとっているのは身体の線が浮き上がるような、タイツ状の衣装であった。しかも、あちこちが大きく開いて生の肌をむき出しにしている。肩から腰にはサスペンダーの線が走り、ボディペイントのように一切合切浮き出るタイツ状の半ズボンにつながっていた。さらに下に目を向ければ、ハイソックスに加えてピンヒールの靴を履いている。
一方、それらを身にまとった本人自身で目に付くのは、圧倒的な量の筋肉だった。
見ていて息苦しくなるような、どうしようもないくらい大量の筋肉。上腕二頭筋、上腕三頭筋、大胸筋、前鋸筋……と指差して医学の資料に使えるくらいくっきりはっきり浮かび上がったそれらが、目の前でポージングしている。

顔は見事に割れた顎と鼻の下に小粋な髭を生やしていた。髪は角刈りで、数条パラリと前髪が降りているのは、ひょっとしたらおしゃれのつもりなのかもしれない。
目だけは切れ長だが、全体の気色悪い雰囲気を助長する役割りにしかなっていない。
「あっらー?お客さんかしら?」
専門用語では、『モストマスキュラー』と言われる力瘤ムキムキのポーズを構えながら、店員の少女に声をかける。
「違いますよ~。裏口がどうとかぁ、なんだかさっきからずうっと分けわかんない事ばっかり言っててこのひと達~」
店長?
なるほど、常に身近にいるゆえ慣れてしまっているのだろう。丸メガネの少女は、目の前の男の異様な風体に動揺一つ見せず、口を尖らせて抗議した。
「あたしは今忙し~んで、店ちょ……ミ・マドモアゼルが相手してもらえますかぁ?」
言葉尻はなじる感じだが、言ってる仕草がなんとも可愛らしい。やはり客に媚びを売る商売、普段から身の内よりそういったものがにじみ出てくるのだろう。
「んーんんー?」
どうやら店長と思しき男は、顎に指を当てて小首を傾げた。十代前半の少女がすれば可愛らしい仕草も、この男がすれば気色悪さだけが先立つ。
「あら?」
ルイズを注視した男は、道端を歩いている子犬を見つけたように顔をほころばせた。
「まあ!キュートなお嬢さん!」
『モストマスキュラー』から『サイドチェスト』へと、ポージングを変えながら男は近づいて行く。
「お話があるんだったら、わたくしがお相手するわ~」
「へ、変……態?」
『ああ、こりゃあ変態だな。間違いない』
腰を振り振り、歩み寄ってくる姿に、ルイズの本能の何かが刺激される。名状しがたいおぞましい悪寒がこみ上げてきて、気がつけばうなっていた。
「うううぅ」
全身の毛を逆立たせて、背を丸めてフー!フー!とうなるその様子をキュルケ辺りが見れば、まるで猫が外敵に相対した様子にそっくりだと評価を下すだろう。
「こいつ、まさかホラーか!?」
一方、鋼牙は慌ててルイズの前方に進み出た。次第に近づいて来る男に立ち向かい、思わずコートの中へ腕を突っ込みかける。
『ちょ、ちょっと待て鋼牙!相手は普通の人間だ。ホラーじゃない』
「なに?」
だが魔戒剣を取り出す寸前、左中指の魔導輪《ザルバ》が制止の声を上げた。
「本当か?《ザルバ》」
『ああ、人間かどうか一見ものすごく怪しいが、中身は普通の人間……のはずだ。たぶん』
思わず尋ね返す鋼牙に、珍しく言いよどみながら《ザルバ》は答えた。
『今までいろんなホラーと渡り合い、人間の世界の闇を見てきたが、世の中ってなあまだまだ広いもんだな。こんなとんでもないモノが居るとは』

「……そういうものなのか?」
主従がなにやらそんな事を言い合っている間に、スカロン店長と呼ばれた妖しげなその男は、鋼牙らのすぐ間近まで迫っていた。そしてさっそく鋼牙を見つめ、感極まったかのようにポージング。
「あらまあ!イイ男!ストイックな感じがトレビア~ン!だわ」
「くっ……」
まるでそれぞれが別個の生物のようにうねる筋肉。香水と男臭い汗が渾然一体と絡まりあって昇華した香り。近づく一歩ごとに体感温度が上昇してゆくように感じられる、なんとも言えない暑苦しさ。
「キュートな女の子も、ストイックな男も、わたくしはカムカムエブリバディ~よ~」
両腕を広げて、鋼牙ルイズ両方とも抱きすくめんと迫る男。どうやらこの男、両刀使い=バイセクシャルらしい。これはいよいよもって危機である。
魔戒騎士の諌めを破り、人間相手に剣を振るう事になろうとも仕方が無い……と鋼牙が覚悟を決めたその時だった。
「!」『ちっ!追いつかれたようだぞ』
鋼牙が背にしている扉の向こう側が、不意に慌しくなった。なにやら誰何する声と、大勢石畳の上を駆け回る足音。次第次第にそれは迫り、ついに扉一枚隔てた辺りまでやってきた。
『やばいな。これぞ前門の虎に後門の狼って奴だ』
「ふ~ん」
それに対し、なにやら鋼牙の表情を見ていた男はフムフムとうなづくと手招きした。
「なにやら事情があるようね。それで追われている。だったら、こっちに来なさい」
そう言って、二人に背を向けて歩き始める。鋼牙とルイズは二人して顔を見合わせるが、背後の扉から迫る足音が聞こえてくるのに気付いて、店の奥へと入っていった。

「なるほどね」
ルイズたちを店の奥へ招き入れた男は、自分は『魅惑の妖精亭』の店長兼オーナーのスカロンである、と名乗った。
そして二人が店内へ飛び込んだ経緯を聴くと、納得したと言うふうにうなづいた。
「王軍の士官って、時たまとんでもないひどいことするからねえ。たまたま貴族のお嬢ちゃんと、護衛の騎士が目についたってとこかしら?集団だってことを鼻にかけてやりたい放題なんだから」
なにやら憤慨する様子は、最初の印象とは異なりかなり常識人めいたものだ。ひとしきりウンウンとうなづくと、スカロンは「今夜一晩、二人とも匿って上げるわ」と告げた。
「それは……大変ありがたいのだが、一方的に迷惑にならないのか?」
ずい分と思い切りの良い提案に、鋼牙が幾分恐縮した様子で尋ねた。だが相手は「だいじょ~ぶ!まっかせなさ~い」などと答えつつドン!と胸を叩いた。
「ちょっとしたアイデアがあるの。それなら、一方的に迷惑だなんだってことはなくなるわ。そうね~こう言えばよいかしら?『樹を隠すならば森の中』ってそんな感じ」
「はあ」

ナニやら煙に巻かれた感もある二人に、スカロンは「詳しくは娘(子供が居たのか!とか結婚できたのか!とか本当に相手は女性だったのか!とか驚きがその場を支配した)のジェシカに聴いてね~」などと言いながら表の方へ向かった。
そう言えば、スカロンとの交渉ですっかり忘れていたが、先ほどまで王軍の士官が扉の前まで迫っていたのだ。それに対してどう対応するつもりなのか?
「は~い!いらっしゃ~い!」
スカロンのだみ声に、店の奥の物陰からこっそり鋼牙たちが覗き見ると、扉が開き王軍の士官たちが店の中へと入ってくるところだった。先頭の指揮官らしい男を含めて、総勢五人。開店前とは言え、このような華やかな場所に厳(いかめ)しい制服姿はいかにも場違いだった。
「王軍の士官様がなんの御用かしら~?わたくしの『魅惑の妖精亭』は王様の認可も得ている立派な居酒屋よ~?」
「悪いが、ヒトを探している」
年の頃は二十代の後半、がっしり横幅の広い体格と伸ばした顎髭が、いかつい感じを与える士官がスカロンの前に立った。さすが正規軍の士官である。変態という言葉の意味を文字通り体現するかのようなスカロンの姿を前にしても、いかにも叩き上げといった風な容貌いささかも変わらなかった。
「あっら~、そうなの。ぜっかくの超団体様のお客だと思ったのに~」
チラリと士官たちが開けたまま扉の隙間から視線を走らせるスカロン。『魅惑の妖精亭』の前は、十重二十重の兵士たちの包囲で埋まっていた。
さすがにこれでは、一般客の入店すら遠ざかるだろう。どうやら別の意味で、兵士たちの排除を行なわねばならなくなった。その事を確信したスカロンは、次の瞬間思いがけない行動へ出た。
「まあまあ、お仕事の最中なのね。ごくろ~さま。でもね、わたくしの『魅惑の妖精亭』のモットーは……」
ここで腕を大きく巡らせてポージング。何処か乙女チックな『サイドトライセップス』から「見て!ああん私を見て!」と言わんばかり『アドミナブル・アンド・サイ』へと移りながら―。
「ラブ!」
心より愛を込めて!
「アーンド!」
聴く者の心に届けとばかりに!
「ピース!」
ポージングと共に、相手へと肉薄する!そうして―。
「……だから、たとえお仕事中の兵隊さんでも、大サービスしちゃうの」
「な、なにィっ!」
なにやら「どどどどどどどどどどど!」とかいう効果音と共にスカロンは指揮官へ迫る。その距離は一瞬で狭まり、ついに零距離となった。
完全密着したスカロンは、その両の腕(かいな)で万力のように指揮官を捉えると、渾身の力を込めて抱き締める―つまり『ハグ』を行なったのだ。

「ひ、ひいっ!」
全身の筋肉を余すところ無く浮き立たせたタイツが、指揮官の肌に密着する。ほとんど無きに等しい布地越しに伝わってくるほの暖かい体温。グリン!とポージングを変えるたびに躍動する筋肉の束が触覚を刺激し、弄(もてあそ)ぶ。
「うわああああああっ!」
未だかって味わったことのない、名状しがたい感覚に、男は絶叫した。
だが拒否の絶叫すらも、当の本人には別の意味に聴こえているようだ。
「まあ、照れ屋さん。そんな貴方には、わたくしの熱い想いをプレゼントしちゃうわ」
全身全霊をもって拒否反応を示す男の姿に、初々しい乙女の如く頬を染めると、スカロンはさらに己の顔を近づけていった。
そして……ついに。
「隊長さん!貴方に、幸あれ!」
離れた店の奥からでも聞こえてくるくらい、強烈な吸引音が響く。
こわごわと覗き込んだルイズが、顔面を蒼白に変えて気を失いかけた。すんでのところで踏みとどまり、鋼牙に向き直る。手をバタバタとさせて何かを指差すので、仕方なく鋼牙自身も扉の陰から覗き込んだ。
そして、見るんじゃあなかったと後悔する。
スカロンの唇は、指揮官のソレと思い切り密着していた。時折舌を入れられるのか、指揮官の身体は、ビクン!ビクン!と陸に打ち上げられた魚のように暴れていた。
抵抗していた指揮官の身体が徐々に力を失い、ぐったりとしてゆく。
「ぷはぁ」
しばらくして、スカロンは男から離れていった。スカロンの唇と、男の唇の間を銀色の線が結んで伸びて……そして切れた。
「うふふ……トレビアーン(ハァト)」
なにやら満足げな表情を浮かべて、スカロンは口元をぬぐった。
「隊長!隊長、しっかりしてくださいっ!」
「衛生兵―っ!衛生兵―っ!」
床に倒れた指揮官を部下が担ぎ上げ、店の外へと運んでゆく。開いた扉の隙間から、スカロンが外へと歩み出ると、『魅惑の妖精亭』をあれほど厳重に囲んでいた兵士たちが一斉に退いてゆくのが見えた。
「撤退―っ!撤退だーっ!」
「奴に触れることは、死を意味する!」
しばらくして、『魅惑の妖精亭』の周囲から完全に士官たちの姿が消えた。
兵士たちの姿が消えた後の表の通りには、客らしい男たちの姿がちらほらと戻ってきていた。中には、撤退してゆく兵士たちの姿を見かけたのか、一体ナニがあったのか恐々と覗き込んでいる者達も居る。
ソレを認め、スカロンは集まってくる客に向かって優雅に腕を打ち振った。
「レディ~ス、アンドゥ、ジェントルマン。お騒がせしてごめんなさ~い!『魅惑の妖精亭』間もなく開店よ~」

それを聴いた男たちの顔に喜色が戻り、次々と店の前に集まり始めた。

開店直前の『魅惑の妖精亭』。
店内では、客を迎える準備を終えた少女たちが、今や遅しと正列していた。
皆、この店のユニフォームなのか様々な色のキャミソールに身を包んでいる。ぽっちゃりぎみな子はその豊満さを、スレンダーな子はその優美さを強調する不思議な衣装だ。
それら少女の前に進み出て、スカロンはおもむろに口を開いた。
「は~い!妖精さんたち!」
腰をキュ!とひねりつつ、スカロンは店内を見回した。
「「「「「はい!スカロン店長!」」」」」
「ノ~ン!ノンノンノンノ~ン!」
少女たちが一斉に返事をするのに、スカロンは右人差し指を振って否定する。
切なげに『フロント ラットスプレッド』のポーズを取りながら。
「店内では、『ミ・マドモアゼル』って呼びなさいって、あれほど言ってるでしょう?」
「「「「「はい!ミ・マドモアゼル!」」」」」
「ん~ん……トレビアン!」
感極まったように『アブドミナル&サイ』のポージングへと移行する。
「さて、まずはミ・マドモアゼルから悲しいお知らせがあるの。実は、この『魅惑の妖精亭』の売り上げが落ちてきてま~す!実は、最近東洋から輸入され始めた、『お茶』を出す『カッフェ』なるお店の一群が、わたしたちのお客を奪いつつあるの!……だからぁ」
テーブルに飛び載り、さらに妖しいポージング。お店の少女たちが振り仰ぐ中、彼岸の彼方を求めるように腕を伸ばし-。
「『お茶』なんぞに負けられないの!頑張るわよ~!『魅惑の妖精亭』のモットーは!」
「「「「「モットーは!」」」」」
「ラァブッ!」
「「「「「ラブ!」」」」」
「アーンドゥ!」
「「「「「アンド!」」」」」
「プゥィースゥッ!」
「「「「「ピースッ!」」」」」
「そのと~り!トレビアンッ!」
全身の筋肉をうねらせて、スカロンは喜びに打ち震える。むんむんと熱気にゆだる(実際に汗でしとどに濡れそぼっていた)身体を傾け、背後を指差す。
「さて、妖精さんたちに素敵なお知らせ。今日はなんと、新しいお仲間が増えます」
ソレに答えるように、黒髪の少女が男女を伴って背後から進み出た。少女たちが一斉に拍手を始める。
「じゃあ、紹介するわね。ルイズちゃんと、コーガ君!こっちへいらっしゃ~い」
出てきたのは、まっ白なキャミソール姿のルイズと、ウエイター姿の鋼牙だった。ルイズは、赤みがかったブロンドを結い上げ、横の髪を小さな三つ編みにしていた。キャミソールの上体は、ピッタリと密着し、身体の線を浮彫にしている。ざっくりと開いた背中は、熟しきらない少女の可憐さと儚さを諸共に強調していた。

一方の鋼牙のウエイター姿は、いかにもな場違いな感覚に満ちていた。一見してキチンと着られているのだが、何処か違和感が残る。まるで抜き身の剣をリボンで飾り立てているような、そんなチグハグな印象だ。隣に居たルイズは内心「やっぱり鋼牙は魔戒騎士以外の姿は似合わないのよねえ」などと、まるっきり場違いな感慨を抱いていた。
華の様な少女と、ぎこちなさの残る青年。二人の新入りの姿に少女たちから再び拍手が沸き起こった。
顔を赤らめたルイズと、相変わらず鉄面皮の鋼牙二人を並ばせて、スカロンは説明を始める。
「実はぁ、二人は、さるところのご令嬢と、その警護の騎士だったのぉ。でも二人は道ならぬ恋に落ちてしまって、とうとう手に手を取って、なぁんと!駆け落ちしてしまったのよぉ!」
「な!」「おい!」
思わず抗議しかかる二人に、『ここはわたくしに任せて』と言うようにウインクをするスカロン。
嘘というものは、100パーセント嘘であったら誰も信じようとは思わないものだ。だが、90パーセントの嘘に、10パーセントの真実を混ぜればどうだろうか?この場合、いかにもな貴族の立ち振る舞いのルイズと、動作に隙が無い鋼牙を、平民出身とするには無理がある。ならば身分については偽る事無く、周囲の同情を引くような身の上話を聞かせればどうにかなるだろう。
どうやら、それがスカロンの狙いだったようだ。
実際、スカロンの話を聞いた少女たちは同情して、あちこちで鼻をすする音を響かせた。ソレに対して、「静粛に!」とでも言うようにスカロンはパンパンと掌を打ち合わせた。
「それじゃあ、二人とも、妖精さんたちにご挨拶」
「ル、ルルルルル、ルイズです!よろしく、お願いします!」
「……コーガ・サエジマだ」
前に押し出されて、挨拶をするルイズと鋼牙。さすがに居酒屋の女給の格好をさせられて、心中穏やかで無いだろうが、その憤りをルイズはかろうじて押し留める。おそらく、己をこのような境遇に追いやった、王軍の士官連中に心の中で盛大に恨みの文句をまくし立てているのだろう。うつむいたまま呟く言葉の端に、「コノ恨ミハラサデオクベキカ」とか何とか聞こえた気がしたが、たぶん幻聴だろう。
「はい拍手!」
スカロンが促し、一段と盛大な拍手が沸き起こった。
スカロンが壁にかけられた、大きな時計を見上げる。どうやら、開店の時間らしい。
「ミュウウジック!ス、タートッ!」
スカロンが指を弾くと、店の奥に置かれた魔法仕掛けのオルゴールが派手な音楽を演奏し始めた。同時に上に乗った男女のアルヴィーが、派手なダンスを踊り始める。
スカロンは、興奮した声で宣言した。
「さあ!開店よぉっ!」
次の瞬間羽扉が開き、待ちかねた客たちが店内になだれ込んできた。

これまでに述べたが、スカロン経営する『魅惑の妖精亭』は基本的には居酒屋だが、給仕役の少女がきわどい格好で応対することで集客する形態の店だった。店内を薄物一枚の女性が動き回り、客はその様子を酒の宛(あて)として呑む事になる。
従ってウェイターの格好をした鋼牙は、店内に用は無い。皿洗いなどの雑用をするのがせいぜいだった。
ハルケギニアの世界の時代背景は、鋼牙の世界の中世十七世紀に当たる。その時代、本来ならば植物油や動物性の油脂で作られる石けんは、非常に貴重品であり、同重量の黄金と取引された。洗剤代わりとして、フラー土、白い粘土等を混ぜて水に溶かしたものが用いられたようである。石けんで洗われた後の洗濯排水が、下層階級に分け与えられたという記述すらある。
しかるに、ハルケギニアの世界には普通に石けんが流通しているようだ。トリステイン魔法学院では、毎朝洗濯が行なわれているくらいである。
従って、『魅惑の妖精亭』の食器洗いでも普通に石けんが泡立てられて用いられていた。これは、ハルケギニア内での石けんの普及ぶりを証明するものである。衣装の関係と言い、一部では鋼牙の居た世界の十九世紀に近い部分もあるようだ。
鋼牙にとって、食器洗いは始めてではない。
冴島大河。鋼牙の父親であり、先代牙狼であった彼と共に、幼少の鋼牙はあちこちを歩いた。その内訳は、まだ心もとない幼子である鋼牙に魔戒騎士の何たるかを実地に学ばせる事にあった。
そのため時には鬱蒼(うっそう)と茂る山々を巡り、荒涼たる原野を駈け、波涛荒れ狂う海沿いをさ迷い歩いたのだ。
当然、自ら口にするものは捕らえ、調理し、後始末も自分で行なった。簡易的なものながら、食器も自分で洗ったのだ。
屋敷に帰れば、代々冴島家に仕えてきた執事の裔(すえ)である、倉橋ゴンザが彼の生活一際を取り仕切ってくれた。おかげで魔戒騎士として己の全力を、ホラー退治に傾けることができたのだが、幼少の頃のそうした思い出は喪われる事はない。
流し場に案内された鋼牙は、ただ黙々と食器を洗い続けた。
こちらからはルイズの姿は見えないが、何とか対処できているだろう。……たぶん、そのはずだ。だてに、オスマンの元で魔戒法師としての修行を積んではいない。修行の中には体術、法術の訓練のみならず、精神面の鍛錬も含まれている。彼女と出会った直後の性格ならば、たぶん問題を起こしていただろうが、現時点では拙いながらも他人に合わせることができるようになっているようだった。
「ちょっと!お皿が足りないわよっ!」
威勢の良い声と共に現れたのは、このハルケギニアでは珍しいストレートの黒髪の少女だった。どことなく、見覚えのある顔の輪郭。太い活発そうな眉の持ち主だ。
確か、店長であるスカロンの娘だと言っていたはずだ。名前はジェシカ。
「……すまん」
いつの間にか、考え事をして手が止まっていたらしい。そのために客に出す料理の皿が足りなくなってしまったのだ。

素直に謝ると、鋼牙は急いで皿洗いを再開した。危なげない手つきで皿を洗う魔戒騎士の姿に、最初ジェシカは目を眇めてみていたが、小さく息をつくと彼の隣に立った。
そうして、黙って洗うのを手伝い始める。
決して、鋼牙が洗う速度が遅いわけではない。二人がかりで洗い始めたおかげで、洗浄済みの食器は見る見る積み重ねられていった。
「コーガ・サエジマって珍しい名前ねえ?」
不意に、ジェシカが話しかけてきた。どうやら、これが目的で食器洗いを手伝ったらしい。とりあえず鋼牙としては返事のしようがないので「そうか」と曖昧な答えに留めた。
「ひょっとして、アレ?ロバ・アル・カリイエの出身?だとしたら、その髪の色も説明つくのよね~?」
「?」
疑問が面に出たのか、ジェシカはクスリと笑う。
「自分も同じ髪の色じゃあないかって?そう、あたしもねー、実は東方の血を引いてるんだ」
遠い先祖が、ロバ・アル・カリイエ―おそらく、この世界のアジアに相当する区域だろう―からやってきて、村に住み着いたのだという。
「ものすごくおっきな、“つきのかみさま”に運ばれて、ご先祖様はタルブ―あ、あたしの出身ね―の草原に降り立ったって。そうして、そこで一人の女の子と知り合い、結婚したの」
大勢子供が生まれ、またその子供から大勢の孫が産まれた。だから、タルブの村はかなりの人口がこの黒髪だという事だ。
「……なるほど」
その話を聞いて、鋼牙はあるいは自分と同じ様にこの異世界に流れついてきた人物が居るかもしれない、などと推測した。
黙考する鋼牙に、ジェシカは東方がどんな世界か尋ねた。
「ロバ・アル・カリイエじゃあ、馬のない鉄の馬車が何千台も走ってるって、本当?羽ばたかない鉄の鳥とか、平民でも遠くにあるものを見たり聴いたりできるの?ご先祖様の言い伝えをお祖父ちゃんはいっぱいしてくれたわ。でも、タルブに残ってる“つきのかみさま”は、ただの銅像に過ぎないから、最近じゃあご先祖様の話は、みいんな嘘だっていう村の人も多くなっちゃったのよね」
わずかに眦を下げながら語るジェシカに、鋼牙はなるほどと心の中で首肯した。
魔法と言う、物理法則を無視した力をよりどころとした世界の人間には、端(はな)から魔法に見放された世界の産物は、理解しがたいだろう。
「……君の祖父の語ったことは、本当だろう」
鋼牙はジェシカに肯定の言葉を返した。
「俺の元居た場所が、君の先祖の出身地と同じかどうかは知らん。だが、少なくとも今聞いたような様子だったことは、確かだ」
「へえ……そっか」
ソレを聞いたジェシカは、ふんわりと嬉しそうな表情を浮かべた。
「ありがと……ん?」

表のほうが騒がしい。耳を澄ますと、スカロンがなにやら感極まった様子で叫んでいるようだ。「トレビア~ン!」とか「ラブ アンド ピース!」やらなにやら聴こえてくる。
問いたげな鋼牙の様子に、ジェシカは「あはは~」と困惑気味に笑った。
「びっくりしたでしょう?あたしのお父さん」
「多少は、だが」
『ああいった人物は、ホラーには憑かれにくい』と言おうとして、鋼牙はその言葉を飲み込んだ。裏表のない、すなわち己の欲望を溜め込まず発散でき、けして陰にこもる事のない性格の人間は、ホラーに犯されにくいのは自明の理である。
「昔はねえ。ごくごく普通の人だったのよ」
苦笑を交えながら、ジェシカは話を続けた。
「お母さんが亡くなって、半年ぐらい経ったころかな?村はずれの小道で、行き倒れていたヒトをお父さんが見つけたの。そのヒトはねえ。なんと言うかその……」
濡れた指でスカロンの居る方向を指差し。
「あーんな格好をしてたのよ」
意識を取り戻したその人物と、スカロンはすっかり意気投合したらしい。最終的には師匠と弟子と言うか、兄貴と弟と言うか、大変親密な関係を樹立し、今のような変態に成り果てたそうだ。
ひたすらむさくるしい筋肉ダルマに、肌もあらわなピチピチタイツ。ポージングを極めながら迫る、変態的なプレイテクニックと言った、一連のスカロンのスタイルは、救助したその人物を見習ったものなのだと言う。
「でもそのヒト、ある日突然。『我輩は学院に帰らなければならないのよっ!』とか叫んで、どこか行っちゃったのよね~。ひょっとして魔法学院の先生だったのかしら?」
「さあ、な」
それには、鋼牙も頸を傾げざるを得ない。トリステイン魔法学院にあのような変態的なスタイルをした人物が居たかどうか?居たすれば、必ず目に付いたはずだ。
もっとも、自分がこの世界に来たのはほんの数ヶ月前に過ぎない。それよりも前には、そういった人物が学院に居た可能性も考えられた。
「今の話で少なくとも分かったことがある」
「?」
怪訝そうな表情のジェシカに鋼牙は告げる。
「ジェシカ、君はそんな父親でも、大好きなんだろう?」
「う……ん」
そうして、付け加えられた鋼牙の言葉に、ジェシカは薄く哂った。
「まあ、俺もああいった人物は嫌いじゃあない」

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