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オッツ・キイムの使い魔-02

 吟遊詩人は歌い伝える。
 その大陸の伝説を―――

 それは白銀の竜。魔物の王。邪悪なる絶望の竜、ディアボロス。それは世界を支配せんとする者。
 雷鳴轟き、風は荒れ、狂った魔物は人を襲った。
 大陸に満ちるは絶望の声。世界は闇に閉ざされようとした。

 しかし暗き闇の中、燦然と輝く光があった。
 それはただ一つの希望。
 それは幼き幼き少年。純白の鳥を連れ、神の剣を携えし者。
 それは闇を切り裂き、絶望を切り裂き、ただ独りで世界を守る、ただ一つの最後の希望。

 神の剣は魔物の王を貫き、希望に絶望は祓われた。
 囚われの姫を救い、ただ独りで世界を救いし少年は、勇者と呼ばれた。


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 平民―――少年の名前はウリックと言った。
 歳は14。黒いボサボサの短髪に、僅かに青みがかった黒曜石のような瞳。
 よく日焼けした肌。太目の眉。背はルイズよりも少し低い。一応筋肉はあるものの、どう見ても強そうには見えなかった。
 頭には帽子のような布。そしてスカーフとマントの中間のような布を首元に巻いている。
 上は、一枚の縦長の布の真ん中に穴を開け、そこに首を通し、腰のあたりを紐で結んでいる感じだ。横から見ると、ぐるぐると包帯(?)が巻かれた胸元が丸見えである。腰の横には短剣が結わえられている。
 ズボンとブーツは普通、かつ質素。しかもボロボロ。
 この不思議な服装は、ウリックの出身地、アツィルト大陸のもの。
 両手首に巻かれた包帯のような布も、怪我とかではなくて、ファンエティレネという地方の習慣らしい。
 そしてウリックは貴族や魔法使い(ウイザード)や僧侶(クレリック)ではなくて、何の能力もない、その上住む場所も仕事もない、根無し草の旅人だそうだ。とても残念なことに。
 現在は世界を知るための旅の途中で、レムと一緒に、オッツ・キイム中を渡り歩いている―――。


「…ちょっと待って」
「え、なに?」
 ルイズの制止に、ウリックは不思議そうに首を傾げた。
 ランプの明かりが、室内の3人、ルイズとウリックとレムを照らしている。
「オッツ・キイムの、アツィルト大陸の、ファンエティレネ…?」
「うん。あ、ファンエティレネは田舎だから知らないカナ?
 今はイエツィラー大陸の西のほうの村に泊まっていたんだケド…」
「ファンエティレネどころか、アツィルト大陸もイエツィラー大陸も、オッツ・キイムも知らないわよ。 どこなのよ、そこ?」
 言われたウリックはきょとんと目を丸くする。
「ドコって…オッツ・キイムはオッツ・キイムだよ?」
『この世界の名前に決まってるじゃナイ』
 ウリックの肩に乗っていたレムが口を挟んだ。
「は? この世界の名前はハルケギニアに決まってるじゃない」
 相手が何を言っているのかが理解できず、3人は不思議そうに(ルイズは少し不機嫌さを滲ませながら)、しばらくお互いを見詰め合っていた。

 ここはトリステイン魔法学院内、ルイズの自室。
 召喚の儀式の後、みんなが引き上げてからやっと我に返ったルイズは、失望と脱力と絶望と後悔と悲観とで気絶しそうになる身体を気力だけで支えながら、なんとか2人を部屋まで連れ帰って来たのだった。
 帰った瞬間、ベッドに倒れこんで眠ってしまいたい欲望に駆られたものの、ルイズ自身のプライドがそれを許さなかった。
(確かに私はゼロだけれど、どう見ても平民だからといって知る努力すらせず諦めるなら、それはゼロ以下の行動よ)
 それに平民とはいえ妖精をつれているし、服装も見たことがないものだ。もしかしたら、何か特殊な力を持っていたりするのかもしれない。
 そう思い、こんな時間まで事情聴取をしていたのだが―――

「まさか、東方の人間だなんてね」
 話を聞いた結果、どうやらウリックとレムは、ルイズとは世界の呼び名すら違う、遠い場所から召喚されたらしかった。
 トリステイン王国どころか、ゲルマニアもガリアも、その他どんな地域の名前も知らない。
 最初は単なる田舎者かと思っていたのだが、ここまで知らないとなると、どうやらこの大陸の人間ではないと認めるしかなさそうだ。
 もちろんエルフでもなければ、砂漠に住んでいたわけでもない。あとの残る地域は、今となってはこの大陸の人間が誰も知らない、遥かなる東の地。そこしか有り得ない。
「ボクも知らなかったよ、西にこんな地域があるなんて。世界って広いんだねー」
 数千年前から交流が絶えた地域同士なのだ。地名や文化、服装の違いがあるのは当然のことだろう。
 ルイズは溜め息をついた。
 珍しい地域の人間ということで、興味がないわけでもなかったが、いずれにせよ平民は平民。しかも特殊能力は皆無。残念にも程がある。
 しかもウリックたちの地域では、妖精は確かに珍しいけれど、別に伝説級というほどでもないらしい。ガッカリだ。
 そして更にもう1つ、溜め息を付きたくなる理由がある。
「それにしても、広場でみんなして空を飛んだ時はビックリしたなぁ。魔物たちともみんな仲良さそうだったし、ガッコウってスゴイね!」
 目をキラキラさせて、ニコニコと屈託なく笑うウリック。
 ルイズはこめかみに手を当てた。なんだか頭の頭痛が痛いような気がする。
 トリステイン王国のこと、学院のこと、魔法のこと、使い魔のこと。ウリックは何を聞いても見ても、目をキラキラさせて「スゴイ」を連発している。
 そしてそれこそが、ルイズの目下の悩みだった。
 どうやら東方――オッツ・キイムは、こちらと比べると、魔法も衣食住の文化も遅れている田舎のようだ。東方はエルフの影響で発展していると聞いたけれど、結局のところ噂は噂でしかなかったらしい。
 ただでさえ平民なんかなのに、その上、田舎者。同級生からの野次が今にも聞こえて来そうで、ルイズは眉を寄せた。
 それに魔法のことをやたらと誉めるのも気に入らなかった。
 何故なら、彼女にはそれが使えないから。彼女はゼロだから。ウリックが魔法を誉めるたびに、使えない自分が惨めな気分になっていくから。
 自分の気持ちも知らずにはしゃぐ少年が、ひどく癪に障った。

 そしてルイズは、惨めな自分から目を逸らすために、ウリックを睨みつけると、出来る限り呆れたような声を出した。一つ大きく溜め息をついて。
「まったく…本当に田舎者なのね」
 自分よりこの少年の方が、ずっとずっと惨めなのだと言いたげな声で。
「そんなにバカみたいに騒いじゃって」
 ウリックのはしゃぎ声が消えた。その瞳が不安げに揺れている。
 この何の苦労も哀しみも知らなそうな、お気楽な少年を黙らせたことで、プライドが少しだけ満たされる。ルイズは悦に入ったように、目を瞑って続けた。
「見た目通り頭が悪いのね。冒険者だっていうけど、全然強そうになんか見えないし」
 プライドを満たしていくのは、暗い悦びだった。
「どうしてアンタみたいな平民が、私の使い魔になっちゃったのかしら」
 薄く笑って、目を開けた。

 しかし、その笑みは、すぐにピシリと固まって消えた。
 ウリックが、ボロボロ涙を零していた。
 大きな黒い瞳から洪水のように、次から次へと溢れている。
「ちょ…ちょっと! そそそんなに泣くことないじゃない!」
 ついさっきまで意地悪を言って優位に立ったと思い込んでいたルイズは、焦った。泣かせたかったわけじゃない。彼女の知り合いに、こんなに簡単に、しかもこんなに泣く人間はいなかった。どう対処したらいいかわからないのだ。
「…………う~……」
 ウリックは口を一文字に引き結んで、ルイズを睨みつけている。ただし溢れ続ける涙のせいで、迫力は全くのゼロである。
 ようやく湧いてきた罪悪感が、じわじわとルイズを追い詰めていく。
『ルイズ…あんたねぇ…』
 ウリックの肩で、レムもじろりとルイズを睨みつけている。こっちは思いっきり怒っているらしく、ほぼ無言だがかなりの圧力がある。
「ななななによ! 私、ほほ、本当のことしか言ってないじゃない!」
「……………」
『……………』
「う……………」
 無言の睨み合いが続いた。ウリックから漏れる嗚咽だけが、部屋に響く。

「…わ、わかったわよ! 言い過ぎた! 私が悪かったわよ!」
 やがて折れたのはルイズだった。
 他人と喧嘩腰で言い合うことは多くても、無言の涙には敵わなかった。年下を泣かせるのも趣味じゃない。
 そもそもがやつ当たりである。先ほどの暗い悦びも、ウリックの涙でどこかに吹き飛んでしまい、残ったのは罪悪感だけだった。
 睨むのを止めたレムが、ふふんと勝ち誇って笑った。
『そういう時は”ゴメンナサイ”でしょ?
 まったく、貴族ってゆーのはみんな素直に謝れナイのかしら?』
「うるさいわね…」
 ウリックはともかくこいつはムカつく、とルイズは思った。ていうかみんなって誰よ。
 レムに頭をなでなでされて、ウリックはようやく泣き止んだようだ。なんて泣き虫だ。小さい頃の自分の100倍くらい泣き虫だ。貴族は泣けない。
「えへへ。ありがと、レム」
 もう笑っている。少し鼻声だが。
 やっぱりお気楽な少年だと思ったが、苛める気はもう起きなかった。

 なんだかすっかり疲れてしまったルイズだが、そこに更に追い討ちがかかった。
『ルイズ。アンタね、先に言っておくケド』
 まだ怒りが抜けきらないレムだった。
『あんまりウリックのこと苛めるなら、私たち、使い魔なんか止めてスグに帰るからね』
「はぁ!?」
 驚いたのはルイズだ。使い魔が勝手に帰るなんて聞いたことがない。
「そいつと私は、”コントラクト・サーヴァント”で契約したじゃない! ほら、そのルーンが証よ!
 それがある限り、そいつは私の使い魔なんだから!」
『こんな魔法くらい解けるわよ!』
「そ、そうなの!?」
『…そ、そうよ!』
 半分嘘である。
 レムは多少の解呪はできるし、もしかしたら”コントラクト・サーヴァント”も解けるかもしれないが、未知の魔法をどうこう出来る保障もない。ここに天才な魔法使いでもいれば可能だろうが、今は自分とウリックしかいない。
 それでも、自分とウリックしかいないからこそ、レムは強気に出た。自分がウリックを守らなければ。この2年、ウリックと旅を続けてきたレムは、彼の姉のような心持ちなのだった。
 レムの声は明らかに動揺が混じっていたが、それはルイズも同じ、いや、ルイズの方が動揺していた。
 前述したが、この大陸において、妖精は伝説上の生き物だ。自分の魔法くらい、解除出来てもおかしくない。だからルイズは、レムの虚勢に気付かなかった。
「でもっ…だ、大体、衣食住はどうする気よ!それに、東方なんて遠いし、エルフもいるし…」
『私たちは元々旅人なのよ。そのくらい、自分たちでナントカできるわ。
 体力だってあるし、私たちは聖地とか関係ナイもの。帰るだけなら、エルフが邪魔するワケないじゃない』
「ぐっ…」
 先ほど聞いた話では、オッツ・キイムでは、エルフが人間と戦うことなど有り得ないのだという。だからといって襲われない保障はないが、妖精が一緒にいれば見逃される可能性も高そうだ。
 ルイズは考える。こいつらが契約破棄して帰れば、今度こそ人間以外の使い魔を呼べるんじゃないかしら?
 しかし、”サモン・サーヴァント”はやっと成功して「これ」だったのだ。次はもっと酷いものが呼ばれるか、もしくは成功しないかもしれない。
 そもそも、死んだならともかく、逃げられたという理由はよくない。再召喚は認められないかもしれない。逃げられて、手元に残るものがゼロでは、良くて留年。下手をすれば、放校もありえる。
 いつもの、ゼロと囃し立てる声が聞こえる。ゼロ。ゼロ。ゼロのルイズ。駄目なゼロのルイズ。
 うるさい。
 ウリックを見た。ボケッとしている顔はマヌケだし、やっぱり身なりは貧しいけど、それでもゼロじゃない。これと契約してる間は、少なくともゼロじゃない。これは呼び出して召喚できた。
 ゼロじゃない。この平民こそが、私の初の魔法の成功相手なのだから。

 ルイズは溜め息をついた。今日だけで何度目だろうか。
「…仕方ないわね。少しは待遇を考えてあげてもいいわ」
 レムは勝利の喜びを噛み締めた。それにしてもこの子、どこまでも偉そうだ。アイツもいつも偉そうだったケド、貴族っていうのはみんなこうなんだろうか。
 ウリックがおずおずと口を挟む。
「えーっと…結局、どうなったの?」
 聞いてたけどぼけ~っとしてたのでよくわからなかったらしい。
 凛々しさの欠片もない顔を見ながら、ルイズは本日最大の溜め息をついた。
「…あんたは私の使い魔。詳しいことは明日説明するわ。OK?」
「らじゃー!」
 やっぱり帰らせれば良かったかもしれない。ルイズは後悔した。


 すっかりめっきりとっぷり疲れきったルイズは、今日はもう寝ることにした。
 後は明日考えよう。もう全部明日でいい。とにかく寝たい。
 ウリックはベッドの隣のマットに寝かせる。床に寝せようとしたら、またレムに睨まれたので、メイドに持ってこさせたのだった。
 レムの寝床は、テーブルの上に置いた小さな麻籠だった。中に柔らかな綿と布が敷かれている。
 服を脱ぎながら、これを洗濯させるのはセーフかどうか考えて、ウリックを見た。
 ウリックはマットの上で伸びをしていたが、ルイズの視線を感じると、なに? と首を傾げた。
 ……また妖精に睨まれても面倒だし、明日でいいか。正直もう、何もかもが面倒くさい。
 ルイズは何でもないと言って、素肌の上からネグリジェを着た。
「かわいーパジャマだね」
 パジャマじゃなくてネグリジェよ、田舎者。
 明日から色々教育する必要があると、そう思った。

 さぁ寝ようと横になり、ランプを消す。
「それにしても」
 ウリックの声は消えなかった。
「何よ」
 目を瞑ったまま、不機嫌に声を出す。
「こっちって、ずいぶん月が大きく見えるんだね。オッツ・キイムの2倍はあるよ」
「…こっちの方が、月に近いんじゃない?」
 眠いので適当に答える。
 適当ながらも、なんかもっともらしいので、私って天才じゃね?とルイズは思った。
「こっちの月は、ほんのり青と赤だし。オッツ・キイムでは両方とも同じ色だったよ」
「近いから色がはっきり見えるのよ、きっと」
 ここに本当の天才がいれば色々ツッコミを入れてくれるに違いないのだが、ここにいるのは半分眠っているお嬢様と、童話好きで世間知らずの田舎者。妖精は既に寝ている。
 したがって、ウリックの反応は、
「なるほどぉ…ルイズって頭いーね」
 であった。暗くなければ、ウリックのキラキラそんけーした瞳が見えたに違いない。
「まぁね、当然よ」
 今日一日、色々あってボロボロになったルイズのプライドだったが、最後の最後にようやくちょっとだけ満たされた。暗い悦びではなく、バカバカしい、でも明るい喜びだった。
「そうそう…言い忘れてたけど、あんたが先に起きたら、私のこと、起こしてよ…」
 ルイズの言葉に答える声はなかった。
 よくよく聞けば、寝息が聞こえた。さっきまで起きてたのに。寝つきが良すぎる子だ。
「ご主人様より、先に、寝るなんて…生意気、ね……」
 そのへんもよく教育しなくちゃ…そう計画しながら、ルイズの意識は少しずつ闇へ落ちていく。
 そして完全に落ちる間際、ウリックの寝言が聞こえた。

「…シオン」

 おそらく人名だろうという認識をしたかしないかのところで、ルイズの意識は途絶えた。


××××××××××××××××××××××××××××××


 しかし十年ののち、絶望は黄泉返った。
 絶望は世界を再び覆い、勇者を殺し、希望を殺した。

 希望を失いし大陸で、それでも立ち向かう者たちがいた。
 法力国の少年と、勇者の妹と、小さな妖精と。
 彼らの辿り付く未来や、如何に、如何に―――

 ―――その世界の名はオッツ・キイム―――

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