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Mr.0の使い魔 第三十二話

「どうした、ウェールズ殿下。随分と顔色が悪いようだが?」

 くつくつと笑いを噛み殺しながら、『悪魔』が右手を伸ばす。倉庫の
奥で身じろぎ一つしない小柄な影、その纏っている布を、勢いよく剥ぎ
取った。
 ウェールズの顔が屈辱に歪む。露になったのは、三本の剣を適当に床
に刺しただけの簡素な三脚。人間大の粗雑なカカシが、ウェールズ達が
少女と思い込んでいたものの正体であった。この部屋の対面の壁の穴は、
ウェールズ達に見つからないよう彼女を階段まで移動させる通路として
空けたものだろう。その目論見は成功し、当人は甲板で猛威を振るって
いる最中、というわけだ。
 そしてもう一つ、貴族の物言いにも得心がいった。ウェールズと同様、
この男が得意とするのは風系統だ。そして、風の魔法には離れた場所の
状況を知るのにお誂え向きなものが幾つもある。加えて発動するそぶり
もなく甲板の様子を口に出した、となれば。

「【遍在】を、使ったか」
「さすがは皇太子。御明察です」

 爆音と震動が続く中、仮面じみた無表情の貴族は、肩の痛みに耐える
ウェールズを見下ろした。対峙した時と違って全く感情を見せない姿は、
己がまがい物の【遍在】だと主張しているようだ。

「凛々しき王子様よ、そろそろこの喜劇も終幕だ。最期の台詞回しといこうじゃないか」

 【遍在】とは対照的に、『悪魔』はますます愉悦を濃くする。苦しむ
ウェールズの姿が心底楽しくてたまらない、といった感じだ。「喜劇」
という挑発じみた表現も、本心からのようである。

「ふざ、けるな……!」

 落とした杖は踏み砕かれ、もはや戦う術は残されていない。それでも
ありったけの意志を込め、ウェールズは仇敵を睨んだ。
 射殺さんばかりの視線を受けて、しかし『悪魔』は怯みもしない。

「それだけ口がきければ上等だよ。さて、ウェールズ殿下」

 一拍の間。

「『王女の手紙』、『風のルビー』、『始祖のオルゴール』。
 てめェが知っているこの三つの在処、洗いざらい教えてもらおう」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第三十二話


 甲板は見るも無惨な有様だった。中央のメインマストが突然爆発し、
前側のサブマストを巻き込んで倒壊したのだ。轟音と爆煙に慌てる空賊
——ウェールズの部下達を、さらなる悲劇が襲う。まずは二人、一瞬の
うちに首を刎ねられた。不意打ちを仕掛けた敵の居場所を割り出すより
早く、新たに二つの頭が甲板に転がる。この時点で生き残りは九人。
 監視班のアーサーは、是が非でも敵を見つけようと必死だった。友を
次々と殺した憎き仇、ただ捕らえるだけでは済まさない。憎悪と憤怒を
たぎらせた瞳は、ついに怨敵の姿を発見した。煙の向こう、甲板後方の
階段口に潜むピンクブロンドの少女。もう一人、貴族の青年もいる。

「いたぞ! 階段だ!」

 それが、彼の最期の言葉となった。いきなり目の前が黄金色に染まり、
次いで耳にやかましい破裂音。薄れる意識の中、アーサーは仲間の一人
が得意だった【ライトニング・クラウド】を思い出した。


「あと八人か。纏めて相手をするのは、少し厄介だな」

 階段入り口で、ワルドはぽつりと呟いた。頭の中で考えるのは、下で
【遍在】と共に行動しているクロコダイルの事。ウェールズに敵対する
意思を示しはしたが、その裏の思惑がわからないのが不安を煽る。一体
何を目的に行動しているのか。少なくとも、主人であるルイズの指示で
ない事だけは確実なのだが。
 そのルイズは、まるで別人のように鋭い視線を空賊達に向けていた。
普段の活気、人としての暖かみは鳴りを潜め、ゴーレムやガーゴイルに
似た冷酷さを滲ませている。

「この程度なら問題ないわ」

 言うやいなや、ルイズは杖を振った。途端に、右端の男の帽子が爆発。
続けてもう一振り、今度は右から三番目の男の上着が吹き飛ぶ。手早く
詠唱の終わるドットクラスの【錬金】で、目標を爆破したのだ。至近で
炸裂した衝撃波に打ちのめされ、彼らの魂は彼岸の彼方へ飛んで行く。
 敵が狼狽えている間に、さらに一人。今度は左端の男が、かけていた
眼鏡を爆破されてのたうち回った。規模は前の二つよりも小さかったが、
欠片が眼球を傷つけたらしく金切り声を上げている。
 そして、悶絶する敵を見てもルイズは表情を変えない。部屋の掃除で
埃を掃き捨てるかのように、無感動に眺めているだけだ。

(これが、あのルイズなのか)

 背筋を震わせながら、ワルドも【エア・ハンマー】の呪文を唱えた。
やや手前の男の頭を、渾身の力で殴り飛ばすイメージ。狙い通り、その
男は首を折られて絶命した。残り、四人。
 敵の一人が、呪文を完成させる。先端をワルドに向けた巨大な氷の槍。
手元で一回転させ、いざ放とうとした所で砕け散った。ルイズの使った
【レビテーション】の効果だ。鋭い氷が無数の弾丸となり、術者とすぐ
隣の仲間を穴だらけにする。残り、二人。
 宙に浮かんだ二発の【ファイヤーボール】が、階段目掛けて放たれた。
すぐさまルイズは迎撃の呪文を唱え——最後の一節を残して、その口を
止める。

(まだ、遠いわね)

 移動し続ける物体を精密に、しかも二つ連続して撃墜するのは、使う
魔法にもよるがそれなりの技術を必要とする。今回は、わざわざ個別に
迎撃する必要などない。火球の目標は二つとも同じ地点、自然と双方の
軌跡は近づくのだから。

(3、2、1……今)
「【ウィンド・ブレイク】」

 両方の火球が効果範囲に侵入した瞬間、ルイズは魔法を解き放った。
虚空で巻き起こる爆発、その余波で敵の【ファイヤーボール】はあらぬ
方向へ押し流され、フネにぶち当たって炎を散らす。
 間髪入れずにワルドが【エア・カッター】を唱え、驚きに固まる最後
の二人を切り伏せた。


 砂地に垂れ下がったウェールズの右腕が、僅かに震えた。手紙の事は
自分と送り主しか知らない筈。だというのに、この男は存在していると
確信を持っている。誰がそれを伝えたのか——自分ではないのだから、
アンリエッタ王女が告げたとしか考えられない。とすると、男達は平素
から王女に近しい近衛の軍人あたり、しかも手紙の事を打ち明けられる
くらいの信頼を得ているのだ。
 では、その二人(少女を女官だと考えれば三人だが)は、何のために
『風のルビー』や『始祖のオルゴール』を求めるのか。思考を進めて、
ウェールズは最悪の結論に辿り着いた。始祖につながる品を欲している
のは、まず第一に反乱軍の連中だ。すなわち、敵の手はトリステインの
奥深く、アンリエッタの膝元まで及んでいるという事。公開すれば醜聞
にしかならない手紙も、トリステインを他国から孤立させるには格好の
材料となる。

「貴様達に教える事など、何もない」

 懐に抱く手紙を支えに、ウェールズは毅然と言い放った。従姉妹姫の
姿が脳裏に浮かぶ。彼女の命や立場を危うくするようなまねは、断じて
できない。自分の命を縮める事になっても、だ。
 ウェールズの返答を聞いた『悪魔』は、軽くため息を吐いて首を振る。
落胆と、ある程度の納得。最初から素直に応じるとは思っていなかった
のだろう。

「この指揮官にしてあの部下あり、か」

 小馬鹿にした声と共に、砂に掴まれた剣が舞い上がる。ウェールズの
背に切っ先を向け、ゆらゆらと浮かぶ様はまさしく魔剣だ。
 死を前にしたウェールズと、『悪魔』の視線がかち合う。

「己の行いは、己に還る……貴様達はいずれ非道の報いを受けるだろう。心しておけ」
「負け犬の遠吠えだな。くたばれ、ウェールズ」

 昆虫の標本を作るように、ウェールズの体は床に縫い止められた。


「ん、おい、おいおい」

 それに真っ先に気づいたのは、心臓を貫通した状態のデルフリンガー
だった。けたけた笑いながら、怪訝な顔の持ち主に呼びかける。

「旦那、王子様の胸ポケットにいいもんがあるぜ」
「あん?」

 ますます怪しげな表情になりつつも、クロコダイルは言われた通りに
ポケットを漁った。背後では【着火】でつけた炎が順調に広がっている。
ぐずぐずしていると死体と一緒に丸焼きだ。
 余計な手間を増やしたデルフリンガーの一言。ろくでもないモノなら
塩水に漬け込んでやる、とクロコダイルは仕置き方法を考えていたのだ
が——出てきたのは、血の滴る一通の便せんだった。デルフリンガーを
突き立てた時まとめて貫いたようで、半ばまで裂けてしまっている。
 何となく、嫌な予感がした。

「子爵」
「え、ええ」

 未だこの世界の文字に十分通じていないクロコダイルは、【遍在】に
受け渡して中身を確認させる。血で読めない所や破れた部分を飛ばして
読み進め、最後に【遍在】は引きつった笑みを浮かべた。甲板の方で、
ワルド本人も似たような顔をしていそうだ。

「大当たり、です」

 思わず、クロコダイルは天井を見上げた。

(始祖ブリミルってのは、相当いい性格をしてるみてェだな)

 おまけとはいえ、目的の品の一つがこんな形で手に入るとは思っても
みなかった。たまたま乗り合わせた商船をウェールズが襲い、空賊だと
思い込んだ自分達は容赦なく反撃。最後に殺したウェールズから手紙を
回収し、幕を下ろす。先刻自分で「喜劇」と言ったが、これでは三流の
茶番劇だ。
 余計な演出をしやがって、と信じてもいない神を心中で罵倒しつつ、
クロコダイルはデルフリンガーを引き抜いた。そこで、ふとウェールズ
の嵌めている指輪に目を留める。残る二品は、オルゴールと“指輪”。

「まさか、な」
「ミスタ?」
「……折角だ。この死体も持っていくぞ」

 血糊を振り払ったデルフリンガーを鞘に納め、クロコダイルは亡骸を
担ぎ上げた。同時に砂を傷口にまぶし、未だに溢れ出す血を乾燥させる。
二、三分ほどで加工を終えたウェールズの死体は、ついさっきまで息が
あったとは思えないほど見窄らしく、薄汚れていた。

「なぁ、子爵」

 右手の指輪を抜き取りつつ、クロコダイルは【遍在】越しにワルドへ
声をかける。

「何か?」
「おれ達が見つけた時、皇太子は既に手遅れだった。
 治療がどうこうの段階じゃあない、とっくの昔にくたばってたんだ」

 ウェールズは、随分前にこのフネの空賊に殺されていたのだ。死体は
適当な船室に放り込まれて、それきり放置されていた。それをたまたま
発見し、持ち帰ったというだけの事。致命傷は空賊によるものであり、
真新しい汚れはあくまで自分達と空賊の戦いの余波。
 そういう“筋書き”である。

「——わかりました」

 含み笑いを浮かべたクロコダイルの提案に、【遍在】は厳かに頷いた。


 ワルドの【フライ】で『マリー・ガラント』号に帰還したルイズ達は、
足をつくと同時に興奮した船員達に胴上げされた。恐ろしい空賊の魔の
手からフネを救った英雄、という扱いらしい。
 感極まって抱きつこうと迫る船長に拳骨を喰らわせ、ルイズは空賊の
フネを見やった。さっさと通過した甲板には、まだ息のある者が何人か
残っている。そこにつながる一本の太い綱。

「【錬金】」

 ポン、と小気味よい音がして、牽引ロープが中央から千切れとんだ。
あちらに残された戦力は瀕死寸前のメイジばかり。飛距離の長い魔法は
もう使えないだろうし、空を飛んで報復に来るなら途中で撃ち落とせば
いい。一仕事終えたルイズは、水夫達に逃げを命じている船長に淡々と
声をかけた。

「船長。このまま空賊船を追いかけてちょうだい」
「む、無茶言わんでください。こっちにはろくな武器がないんですよ」
「向こうの大砲は全部潰したわ。
 残ってるのはメイジ数人で、距離を開けておけば魔法も恐くないもの」

 ルイズの話を聞いても、船長は渋い顔ですぐには応じなかった。横目
でワルドの方を伺い、彼が頷いたのを確認してからようやく指示を出し
直す。
 素早い対応とは言い難かったが、ルイズは既に船長を興味の対象から
外していた。頭の中にあるのは、まだ戻ってこないクロコダイルの事。
 間違っても、敵に捕まったとか怪我で動けないとかを案じているわけ
ではない。反則的な砂の力を使うクロコダイルの事であるから、きっと
かすり傷一つなくピンピンしている。心配なのは、その能力を制御する
凶悪極まりない性根の方だ。

(好き放題暴れ過ぎて、逃げるタイミングを忘れてるんじゃないかしら)

 幾分遠くなった空賊船、その荒れ果てた甲板を見つめるルイズ。漏れ
出す黒煙が次第に増えているので、火災は刻々と広がっているようだ。
消火を行う者のいない木造船が燃え尽きるまで、もう時間はない。
 と、突如として甲板が爆ぜた。木っ端微塵になった床板と大量の砂が
空に舞う。噴水のように噴き上げる砂の柱、その上に立つ人影を見て、
ルイズは小首をかしげた。主の意を受けたグリフォンが迎えに行くのを
見送りつつ、疑問を漏らす。

「クロコダイルと、【遍在】と……もう一人?」

 頭を捕えた、にしては様子がおかしい。次第に近づくクロコダイルの
表情が、あまり嬉しそうではないのだ。仮に担ぎ上げているアレが死体
だとしても、一応目的は達成できている。ならば、もう少し明るい表情
でもよさそうなものなのに、あれではまるで葬式の参列者ではないか。
 悩んでいると、不意に肩を叩かれた。振り返ったルイズは、こちらも
また沈痛な面持ちのワルドと目を合わせる。

「どうしたの、ワルド」
「ルイズ、気を落とさないで聞いてくれ」

 そう前置きしたワルドの言葉に、ルイズは自分の耳を疑った。

「——嘘?」
「嘘じゃない。あのフネには、ウェールズ殿下が乗っていたんだ」

 それじゃあ。

「残念ながら、既に敵の手にかかって、亡くなっていた」

 任務は。

「ミスタは戦いの途中で殿下の遺体を見つけ……ルイズ?」

 失敗?

「ルイズ!?」

 暗転。
 間近に聞こえる羽音を最後に、ルイズはぷっつりと気を失った。


   ...TO BE CONTINUED

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