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新約・使い魔くん千年王国 第十章 リッシュモンの変

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《誰も二人の主人に兼ね仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛し、一方に親しんで他方を疎んじるからである。
 あなたがたは、神と富とに兼ね仕えることはできない》
  (新約聖書『マタイによる福音書』第六章より)


突如現れたアンリエッタ女王は、にっこり笑って3人を睥睨する。
「さあ、お話は全て聞かせてもらったわ、『国家の敵』リッシュモン、それにマツシタ。
 ルイズも一体、使い魔にどういう教育をしているのかしら? うふふふふふふふふふふふふ」
「へ、へ、陛下、こここここれは」
「問答無用、『レコン・キスタ』の手先の売国奴め。とうとう尻尾を掴んだぞ。モットの身柄も押さえた」
いつの間にか現れたアニエスが、ずらりと剣を抜いてリッシュモンに突きつける。尾けていたのか。
この目付けにも当然目付けをつけておいたのだが、始末されたか。不覚だった。

「ち、違います、誤解です陛下! わしはただ、彼が陛下の密命を受け、国情を調査するのに協力して」
「それならそうと、私に言って下さればよろしいのに。こんなところでヒソヒソと、国家転覆の謀計を」
「違います違います違います! マツシタ! あんた、どうにかしなさいよ!」

ええい、面倒な。ひしひしと女子銃士隊に包囲されており、怯える二人を連れて逃げるのは難しそうだ。
リッシュモンを犠牲にして逃げようか。その後タルブで独立宣言を行い、それこそアルビオンあたりと結託するか。
松下が酷い覚悟を決めた時、リッシュモンに手首を掴まれた。

「詳しい事は、あとでお聞きします! これにて御免!!」
リッシュモンが手早く呪文を唱え、杖を床に突く。すると客席の床が液体のように溶け、
すーっと3人は地下空間へ落下した。慌てて女王たちも飛び込もうとするが、硬い床のままだ。
劇場内は突然の騒ぎに、何かの余興かと喜んでいる。

「追いなさい! アニエス、このあたりの地下通路は分かりますか!?」
「調査しました、陛下! こちらです!」


劇場の地下、下水道を兼ねた地下空間。3人はひたひたと歩いている。
臭いし暗いが、しょうがない。こんな下水道が存在するだけで、王都の衛生状態はかなりマシだ。

「……やれやれ、撒けましたかな。よもやあんな場所で、女王陛下ご本人が出てこようとは」
「寿命が縮んだわ。一体どう言い訳すればいいのよ! マツシタが、余計な事言うからでしょ!」
「しょうがない、『薔薇十字団』のことも、洗いざらい話そう。
 ルイズもいるし、タルブの信奉者集団があるから、ぼくをすぐにどうこうは出来まい」

「いいや、お前たちは、ここで人知れず始末する」
アニエスの声。ふわりと路地裏の排水孔から飛び降り、用意していた拳銃で、あやまたずリッシュモンの心臓を狙う。
「閣下!」
だが、銃弾は空中で静止し、液体となって落ちた。
『危ないところであったな、リッシュモン。そして「東方の神童」、「虚無の担い手」よ』
「……お、おお、我が『守護天使』!」

リッシュモンの背中に、大きなグリフォンのような翼が生える。
ついで赤金色の角が現れ、神々しい有翼の、黄金の雄牛が彼の背後に顕現する。
ソロモン王の召喚した72の霊の一柱、『有翼の総裁』ザガム(別名をハアゲンティ)であった。


《モーセがシナイ山からなかなか下りて来ないのを見て、民が(モーセの兄)アロンのもとに集まって来て、
 『さあ、我々に先立って進む神を造って下さい。
  エジプトの国から我々を導き上った人、あのモーセがどうなってしまったのか、分からないからです』
 と言うと、アロンは彼らに言った。
 『あなたたちの妻、息子、娘らが着けている金の耳輪をはずし、私のところに持って来なさい』
 彼はそれを受け取ると、のみで型を作り、若い雄牛の鋳像を造った。
 すると民は『イスラエルよ、これこそあなたをエジプトの国から導き上った、あなたの神だ』と言った》
  (『黄金の子牛』:旧約聖書『出エジプト記』第三十二章より)


「なるほど、ザガムか。古の守護神獣でもあり、錬金術に優れている魔神だ。
 つまり『薔薇十字団』も、悪魔召喚に成功しているのか。
 さほどに強力でも凶悪でもない堕天使だな。悪人ではあるが穏健派の彼には相応しいかも知れん」

『然り。我は他の悪魔のように、争いを好まぬ。ただ知識を人の子に伝えたゆえ、《神》によって追放されたのだ。
 人の子の女王よ、ここは杖を収めよ。この者は金銭を好むが、別段汝の国を裏切ってはおらぬ』

「ふざけるな、悪魔『ども』め! ここは《聖女の王国》トリステインの王都だぞ!
 汚らわしい悪魔などに指図されるいわれはないッ!!」
アニエスと銃士隊は銃弾を放つが、全て液体となって流れ落ちる。
『土は金に、石は銀に。あらゆる金属は流れる水銀に帰一し、水銀は金の母胎となるべし。
 また曰く、水は葡萄酒に、葡萄酒は血液に、血液は聖なる油となって、選ばれし者の頭に注がれん……』
弾切れだ。アニエスは激昂して剣で切りかかるが、それも『水銀』に変わる。

「せ、先住の魔法……!」
『我は悪魔の中でも弱きもの、されど真の『錬金術』により、人の子に我を傷つけることは叶わぬ。
 例えばこの地下を流れる下水を浄化し、液体を気体や固体とし、逆巻く氷雪の嵐とも成せるのだぞ、女王よ』
いくつもの石つぶてが悪魔の周囲に浮かび上がり、様子を伺うようにくるくると旋回する。

『さあ、決断せよ女王。我らと戦うのであれば、我は支配下にある地獄の33軍団を喚起せしめ、
 速やかに汝らを殺戮するであろう。いざ、勝敗を決しようか。それとも、降伏するか?』
石つぶてが、ざあっと女王たちに襲い掛かる。それらはぶつかる前に、目の前でぴたりと停まる。
よく見れば、黄金だ。

「そういうわけです、アンリエッタ女王。残念です、とても残念です。
 もし貴女が『ノン』と言えば、ぼくは貴女を拉致してタルブへ逃れ、アルビオンとでも結託するでしょう。
 トリステイン王国は、六千年の歴史に幕を下ろしますな」
松下は飄々と女王を脅迫する。ルイズはあまりの事に声も出ない。

女王は脂汗を流すが、ようやく口を開いた。


「……いいでしょう。その『薔薇十字団』について、知っていることを洗いざらい吐きなさい。
 悪魔ザガムよ、あなたの知識も必要です。アルビオン攻めの軍資金を創造していただかねば」
「陛下!!」
「アニエス、ダングルテールの生き残りの貴女が、虐殺を命じたリッシュモンを恨むのも理解できます。
 しかし、国家の命運は、私情で左右してはなりません。アンリエッタ女王の名のもとに、彼らを赦します」

女王はきっぱりと言い放つ。
アニエスはがっくりとくずおれた。崇敬する女王に復讐を否定されては、生きている意味がない。
「貴女は私の剣、私の盾。
 それに近衛隊長と言えば、元帥とも同格です。胸を張りなさい。
 復讐の炎を義憤に変え、私と枢機卿の命令に従い、敵を打ち滅ぼしなさい!」


一方、松下は。
「リッシュモンにザガム、ひとまずきみたちを『亜使徒』としよう。
 金銭や知識に執着しては、身を滅ぼすぞ。それらはもっと大きな目的のために、用いるべきなのだ」
「……それは、『千年王国』とやらの建設ですか?」
女王が微笑むが、松下は動じない。

「ええ、陛下。貴女とてお分かりでしょう、この世がいかに、地獄に近いかと言う事を。
 戦争、飢餓、疫病、貧困、無知、欺瞞、嫉妬、情欲、暴力、拝金主義。
 地獄の数を上げれば、まったく数え切れません。
 それに、悪魔よりも人間の方が、よっぽど恐ろしいのです。
 だからこのぼくは、唯一なる神の御名のもとに、この世界を一つにしなければならない。
 トリステインやアルビオン、ガリアやゲルマニアやロマリア、
 いやハルケギニアという枠組みさえ超えて、
 世界のあまねく人民が、貧窮や不幸から解放される地上の楽園。
 それが『千年王国』なのです!」

「……では、私の王権も要らないということになりますね」

「そうです! 新しい権威と新しい王国が現れ、天地が更新され、人間も覚醒して新しくなります。
 貴女は王国を担う重圧からも解放され、一人の市民として幸福な生活を送れる。
 粉挽きどころか、奴隷や乞食だって解放され、気軽に貴女と会話できる。
 それが革命の後に来る、新しい世界です!
 魔法が使えるというのは技術に過ぎない、科学が、機械工学が発展すれば、平民だってメイジに勝てる!
 その時代は、もうすぐそこです!!」

松下の大演説は、王都トリスタニアの下水道に、殷々と響き渡った。
ルイズは頭を抱えた。

(つづく)

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