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斬魔の使い魔08


 ヴェストリ広場の決闘から一晩が過ぎた。
 九郎とルイズは未だに目覚めない。
 治療を担当したメイジの話では、二人は極度の疲労状態になっていたらしく、そのせいで目覚めないのではないかということだった。
 とりあえず他に異常はないということで、授業は正常通りに行われた。
 その間、シエスタが二人の世話をする。
 タオルをきつく絞り、九郎の額にかけるシエスタ。
 九郎の表情は穏やかなまま、ただ静かに胸が上下していた。




 ――ろう……くろう……
 誰かが自分の名を呼んでいる。
 ――くろう……九郎――

 とても聞き覚えのある、この声は……

「――おい、九郎!」
「どわあああああっっ!! ――って、アル!?」

 声と共にいきなり目の前に現れた翡翠色の瞳の少女。
 大十字九郎の最愛のパートナー、アル・アジフだ。
 何でいきなり目の前に居るのか?
 そもそもここは何処なのか?
 ルイズ達はどうしたのか?
 色々な思考が連続して出てきてパニック寸前になったが、とりあえず本能と言うべきか、身体が先に動いていた。
 それは思いっきり抱きしめること。

「――にゃ、にゃにゃにゃにゃ!? にゃにをするー!?」

 顔を真っ赤にして暴れまわるアル。
 だが、離すつもりはない。
 この柔らかい身体。芳しい香り。間違いなくアルだ。
 アル、アルアルアルアル……アル――――

「――~~、いい加減にせんか! この発情魔が!!」

 巨大な魔力の爆発により、このまま押し倒そうとした九郎の企みは阻止された。


「夢の中? ここが?」
「そうだ」

 あれからすぐ。黙って聞け、という殺る気マンマンの目を向けられながら聞いた話しは、九郎の想像を超えるものだった。
 ここは九郎の夢の中。
 九郎が気絶した後、ルイズと額がぶつかりあい、その瞬間、ホンの僅かな思念を送ることが出来たらしい。

「と、待てよ。やっぱりお前はルイズの中に?」
「ああ、この世界に召喚されたとき、この小娘と激突した。そのときに入ってしまったのだろう」
「……出られないのか?」
「分からん。そもそも人間の中に入るということ自体が初めて、というより本来ならありえないのだ。外道の知識を内に入れるなど、人の身で耐えられるものではない」

 確かにそうだ。
 魔導書は外道の知識の集大成。その力は、人の身体も魂も容易に犯し侵し冒しつくす。
 かのウィルバー・ウェイトリイのように。

「そういえば、デモンベインはどうしたんだろうな? こっちの世界に来ているはずだけど」
「うーむ、何処かにいるという感じはするのだが、今の妾ではでは正確には分からん。だが、力を感じるということは無事なのだろう。心配するほどではない」

 この世界にデモンベインをどうこうできる存在などいないだろう。
 アルさえ無事なら召喚呪文で呼び出すという手もあるのだか、この状態ではそれは無理だ。
 その時、アルの姿が薄く透けてきた。

「ぬ、どうやらあの一瞬での思念ではそろそろ限界のようだ。とりあえず九郎よ。妾は小娘の身体から脱出する方法を模索する。汝も何とかデモンベインと元の世界に戻る手立てを探してくれ」
「ああ、分かった。任せろ」
「――後、だ」

 アルは声の質を変えた。何処となく不機嫌そうで顔も赤い。

「いいか、妾もそこまで独占欲が強いわけではない。仕方のないことだということも分かっておる」
「……あの、アル……さん?」
「この小娘に従うことも、ましてやその、く、く、く、くくく口付けなどをするのも、契約上仕方のないことであろう。妾もしておったしな」
「――お、おい!?」
「だがな! 勘違いするなよ! 赦すのはそれだけだ! それ以上の段階に進んだり、ましてや、他の女子とイチャイチャしようもなのなら……!!」

 自身の顔の側で両手を握り締めながら、地の底から聞こえてくるような声で囁く。

「岩を抱かせた後、悪魔の暗礁に沈めて、イハ・ントレイの”深きものども”の餌にするからな」


 後に九郎は語る。
『どんよりと黄色く光ったアルの目は本気でした』と。
 そうこうしている内に、アルの姿は完全に向こう側が透けて見えるほどに消えかかった。

「あー、他にも色々と重要な話があったが、もう時間がないようだ」

 誰のせいだ。
 九郎は声には出さなかった。

「最後にこれだけは伝えなければならぬ」
「何だ? ひょっとして色っぽいことか?」
「たわけ! そんなことではない! 妾の断片だ!」
「ああ、断片ね…………って、ええ!? ま、まさか!」
「うむ、また喪失した。大変だな」
「他人事みたいに言うなー!」
「喪失したのは、アトラック・ナチャ、ニトクリスの鏡、あと、クトゥグア、イタクァだ。それらも探し出してくれ」

 それだけ言うと、本格的にその身体は見えなくなった。
 もはや僅かに輪郭が見えるのみだが、それすらも消えていく。

「いや、おい! マギウス・スタイルにもなれないのに無茶言うな!」

 慌てて手を出すが、もはやその手は空を切るのみ。
 それからすぐに、アルの姿は完全に消え去った。
 最後に何かを言おうと口を動かしていた気がするが、もはや聞くことは出来ない。
 九郎は大きく息をついた。そして、力が抜けたように腰を下ろす。

「……はあぁぁぁ……ふう…………また会おうぜ、アル」

 その瞬間、視界が暗転。
 一瞬で闇に包まれた次の瞬間、光が射し込んできた。
 まず視界に飛び込んできたのは石造りの天井。

「知らない天井だ……」

 何処がで聞いた台詞を呟く。
 そのときになってようやく自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。
 白い布団と白いシーツが目に映る。
 そのまま、何となく顔を横に傾けると、そこには少し離れたベッドで自分と同じように横になっているルイズがいた。
 一瞬、その姿がアルの姿とダブって見えたが、すぐに元に戻った。

「……そうだな、アルはアル。ルイズはルイズだ」

 誰に聞かせるまでもなく呟くと、そのまま上体を起こした。
 どれぐらい寝ていたのか、バキバキとなる背中を伸ばす。

 トントンとドアがノックされた。
 入ってきたのはシエスタだ。水の入ったコップとタオルが乗ったトレイを持っている。
 こちらの姿に気付くとにっこりと微笑んだ。

「お目覚めですか? 使い魔さん」
「ああ、ええとシエスタ……だっけ?」
「はい、そうです。あの後、なかなか目覚めないから皆で心配していました」
「皆?」
「はい、厨房の皆さんに、後、使い魔さんと決闘をしたグラモン家の方も」
「グラモン家……ああ、あのギーシュとかいう奴か。へー、あいつがねえ」

 変なところで感心していたとき、突然、シエスタが俯いた。

「あの、すいません、決闘のとき勝手に逃げ出してしまって」
「いやいや、別に気にしなくてもいいさ」
「でも――」
「本当に気にしなくていいから」

 シエスタの眼を見つめ、微笑みながら続ける。

「誰だって怖いことはあるさ。本当に怖くて怖くて仕方がない、そんな時に逃げ出すのは、別に悪いことじゃない」
「使い魔さん……」
「九郎」
「――え?」
「俺の名前。大十字九郎。九郎って呼んでくれ」
「……あ、はい、九郎さん」

 にっこりと微笑む。
 先ほどの微笑とは違う。本当の笑みだ。
 釣られるように九郎も笑う。
 朝日が射し込む空間に、九郎とシエスタの笑い声が響いた。






「随分と楽しそうねえ」
『――!?』

 怖気を振るうような声がすぐ側で響いた。
 どうしてここに来るまで気付かなかったのか。
 二人のすぐ傍に、ピンクの悪魔が仁王立ちしていた。

「人が寝ている最中にラブコメなんて、随分と出世したものねえ犬」
「あ、あのぉ……ご主人様?」
「み、ミス・ヴァリエール、お気を確かに!」
「問答……無用―っ!!」

 朝日が射し込む空間に、九郎とシエスタの悲鳴が響いた。









 九郎の夢。
 消えゆく中、アルの残留思念が最後に呟いた言葉は、


「再び出会うまで、さらばだ」


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