あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第四部 第4話 『作戦』 下


 若い風竜と竜騎士は、王宮に向けて飛んでいる。その竜騎士は、目を丸くしてゼロ戦を
見つめていた。
 ゼロ戦は轟音を響かせながら、、風竜の横を並んで飛んでいる。
「あ・・・あれは、一体何なんですか!?生き物ですか?」
「アイテムよ。東方の飛翔用アイテム」
「ふっふーん!この風竜さんでもぉ、あの飛行機には追いつけんですよぉ!」
「ねぇ、えっと、セブランっていったっけ?・・・正直な所、王宮では今、どうなってる
の?」
 セブランという若い竜騎士は、真面目な顔で語った。


 貴族は軒並み参戦を宣言、トリスタニアには王軍と諸侯軍が集結中。
 艦隊はラ・ロシェールにて演習中。
 姫殿下の政治的スキャンダルにもかかわらず、表だってレコン・キスタに与する姿勢を
見せる貴族は現在の所はいない。むしろ、国家王家を超えた恋物語、運命に弄ばれる悲劇
の二人、として国民の同情と義憤を誘っている。
 祖国防衛と王家への忠義という大義の下、トリステイン軍の士気は高い。

「――この戦争に負ければ、例え王家を裏切りレコン・キスタへ走ったとしても、トリス
テインは戦力を失い、戦後処理で国土はズタズタに引き裂かれ、他国から更なる侵略を許
すことになるでしょう。保身を謀り己の領地だけを守る、なんて至難の技です。
 結局、誰もが分かってるんです。勝ち負けは別として、この国は他国の侵略を許さぬ、
という姿勢をハルケギニア全土に示さねばならないことを」
 ルイズは、真剣にセブランの話を聞いている。翠星石は、インカムから話をゼロ戦に伝
えていた。

 ジュンは、翠星石からの話を真紅とデルフリンガーに話している。
「・・・士気は高い、か。王宮の人も、あの姫さんの話を上手く使うなぁ」
「レコン・キスタの動きは無いようだけど、ワルドのような人が裏でうごめいているので
しょうね」
「ま、それがマツリゴトってヤツだわなぁ。この6000年、散々見てきたぜ」
「でも、もう僕たちも、その政治の一部に組み込まれているんだよな」
 そんな、政治の裏舞台にうんざりしつつ、ゼロ戦と風竜は彼方にトリスタニアを見つけ
た。




 白い石造りの建物が目立つ美しい街、だったはずの首都トリスタニア。だが眼下には、
美しいとは言い難い無骨な光景が広がっていた。
 郊外の平野には、多くの天幕と人間の大集団が見える。集結しつつある軍が、首都に入
りきらず郊外に駐屯しているようだ。練兵の真っ最中らしく、あちこちで騎馬隊と歩兵隊
が整然と走り回っている。
 街一番の大通りとされるブルドンネ街も、兵士達が数多く歩き回っている。槍やら鎧や
らが光を反射して、あちこちでキラキラ輝いてる。
 下町から川を挟んだ貴族の邸宅外、そして王宮上空には、多くの幻獣が飛んでいる。上
空の警備も厳重なようだ。


 そして街では、聞き慣れぬ音を立てて飛んでくる物体に、騒然となっていた。
 酒場で昼間から酔っぱらっていた傭兵も、天幕で軍議をしていた貴族も、宿泊する傭兵
の相手に忙しい宿屋の主人と従業員達も、外へ飛び出し空を見上げている。
「・・・な、なんなのあれぇ!?新種の竜?」
「…あ!ねぇジェシカ、もしかしてあれがシエスタの言ってたヤツじゃなぁい!?」
「あー!そうか、あれがシエスタが言ってた、魔法学院の秘密兵器『ひこおき』ね!」
「すっごーい!風竜と並んで飛んでるわよぉ!あれが、ただの平民の子供が操ってるだな
んてぇ・・・トレビア~ン!」
 紫サテン地シャツから胸毛をもじゃもじゃとのぞかせる宿屋の主人と、色とりどりの派
手な衣装を着た給仕の女性達が、ゼロ戦を見送った。




 首都トリスタニアの中ほどには、シャン・ド・マルス練兵場がある。
 練兵場には数々の連隊旗が翻り、数万の兵士でごった返している。
 その人垣がゆっくりと左右二つに分かれる。分かれて出来た道の先には、先に降り立ち
インカムで誘導するルイズがいる。
 ゼロ戦は、人垣の間に出来た細長い隙間に着陸した。

「ミスタ・グラモン、助かりました。おかげで無事着陸出来ましたよ」
「なぁに、大したことではないよ。礼は父に言ってくれたまえ」
 ゼロ戦から降りたジュン達を一番に出迎えたのは、ギーシュだ。彼はド・グラモン家の
軍を預かる長兄と共に、諸侯軍の士官として参加していた。といっても、士官としての訓
練など受ける時間はなかったのだが。

 ルイズはギーシュの父、グラモン元帥に頭を下げてから、ジュン達の方へ走ってくる。
「おっと、君の主も来たようだ。ひこおきはグラモン家が責任持って預かろう。迎えのマ
ンティコア隊も来てるから、早く城へ行きたまえ」

 ルイズと使い魔達は、あの鉄の鳥は何だとざわめく兵士達の間を抜け、迎えのマンティ
コアに乗せられて、城へ向かった。




 城門をくぐったルイズ達を、警護のメイジ達を従えた3人の人物が出迎えた。
「父さま!お久しぶりです」
「おお!ルイズよ。元気だったか?」
 ルイズは50過ぎの眼光鋭い口ひげの男性に駆け寄り、頬にキスをした。
 ルイズの父、ラ・ヴァリエール公爵。灰色の瞳に白髪交じりのブロンド、左目にはグラ
スをはめ、豪奢なマントと衣装で身を包んでいる。

「母さまもお久しぶりです!まさかマンティコア隊の制服を着ているとは思いませんでし
たわ!」
「お久しぶりね、ルイズ。此度の戦では私も父さまと共に、軍団を率いる事にしたのよ」
 そう言って、顔の下半分を覆う鉄仮面を外し、ルイズのキスを受けた。
 ラ・ヴァリエール公爵夫人。先代マンティコア隊隊長。魔法衛士隊の制服の上には、マ
ンティコアの大きな刺繍が縫い込まれた黒いマントをまとっている。帽子の羽根飾りは、
隊長職を示すものだ。

 そして、最後の一人・・・
「・・・お久しぶりですわ、姐さま」
「・・・元気そうね、ルイズ」
「新しい杖をお持ちのようですね、とってもステキですわ」
「おかげさまでね、流行の杖に変える事が出来たわ」
「それは良かったですわね。きっとお高かったんでしょうね」
「いいえ、あまり贅沢はいけないとおもってね、結構ささやかなものだったのよ」
「それは残念でしたわね、おほほほほ」
「別に残念じゃないわよ、おほほほほ」
 二人とも、作り笑いが引きつってる。
 エレオノール。ヴァリエール家長女で、アカデミー主席研究員。
 以前、真紅と翠星石を学院へ奪いに来て、ルイズ達にとっちめられた。その際、ジュン
に杖を切り刻まれた。さらに、ルイズの失敗魔法とフーケのゴーレムで破壊された学院宝
物庫の修理費用を支払わされた。
 当然、二人の仲はドロドロに険悪最悪極悪。後ろで黙ってるジュンも人形達も、高飛車
で傲慢な彼女に良い印象なんか欠片も持ってない。しかも、昔は頭の上がらなかったルイ
ズが、今や一歩も引かない強気さを見せる。

「うおっほん!二人とも、色々あったようだが、今は姉妹喧嘩をしている時ではないぞ」
 バリトンの威厳ある声で、公爵が娘達をたしなめた。二人とも「ふんっ!」とそっぽを
向く。

 カリーヌは、じっとジュン達を見つめている。その苛烈な眼光に、少々の実戦経験を積
んだだけでしかないジュンでは抗しきれない。すでに気圧されている。
「それで、そちらの少年達が、噂の平民使い魔ですか?」
「そうですわ、母さま。さ、みんな自己紹介を」
 ルイズの言葉に、デルフリンガーを背負うジュンを真ん中に、横に並んで恭しく跪く。
「お初におめにかかります。僕は、この春よりルイズ様の使い魔を務めさせて頂いており
ます、桜田ジュンと申します」
「オレッちはデルフリンガーってんだ!ジュンの剣をやってるぜ!」
「ルイズ様の使い魔が一人、ローゼンメイデン第五ドールの真紅」
「同じくぅ、第三ドールの翠星石ですぅ」
 カリーヌはジュン達に、特にジュンの左右にかしづく人形達に目を輝かせた。
「ほほぅ、噂に違わぬ愛らしさ・・・にも関わらず、戦艦すら撃ち落とす強さ。信じがた
い」

 公爵は、興味深そうにジュンを見つめている。
「ふむ、サクラダ=ジュンとな。姓を有すると言う事は、やはりただの平民では無いので
はないか?」
「いえ、僕の国では、全国民が必ず姓を有しています」
「そうか、単に風習の違いか。
 それにしても、その小さな体で剣士とはな。先ほど空を舞っていた東方のアイテムとい
い、ただの平民としては思えぬ」
「当然ですわ、父さま。ジュンはただの平民ではありません。私の大事な使い魔ですわ」
「うむ、そうだな・・・エレオノールが欲しがるのも、無理はない」

 と言って公爵は美髯をなでながらチラッと、横で冷や汗流して目を逸らす長女を見た。

「大体の事は、先日の軍議での話で聞いている。だが、その者達はルイズが召喚したルイ
ズの使い魔だ。…自重せよ」
「わっ分かってますわ!」
 エレオノールが必至に虚勢を張っているのは、見え見えだった。

「さて、これより我らは女王陛下へ謁見し、正式な参戦のご報告するわけだが・・・その
前に、是非とも確認せねばならないことがある」
 公爵の威厳に満ちた声が、使い魔達の体に響く。
「そなたら、ルイズの使い魔達の事だ。お主等の所属や立場について、王宮内でも意見が
割れているのだ」

 『やっぱり…』ジュンも人形達も、予想した事とは言え、改めて言われると、やはり緊
張してしまう。片膝をついたままのジュンの額に、一筋の汗が流れる。
 公爵より先に、ジュンが口を開いた。

「僕らは、ルイズ様の使い魔です。だから、ただ主たるルイズ様の身を案じ、ルイズ様の
命に従うのみ、です。
 ゆえに、この戦争においても、ルイズ様をお守り致します」
「ふむ・・・では、もし竜騎兵の一人として、あの空飛ぶアイテムと共に戦地へ迎え、と
陛下が命じれば、なんとする?」
「・・・ルイズ様が、そう命じるのであれば、向かいます。ですが、ルイズ様の身に危険
が及ぶことあらば、いかなる場所からも主のもとへ馳せ参じます」
「ほほう、そうかそうか…。王家の命より、ルイズが大事か」
「僕らは遙か遠い異国より召喚され、ルイズ様と契約した使い魔です。僕らがこの地にて
拠り所とするのは、主たるルイズ様のみ」
「使い魔としては、当然か。いや、それならばよい。ジュンとやら、大儀であった。これ
からはヴァリエール家の一員として、お主の剣をもって、その人形達と共にルイズを守る
がよい」
「はっ」「任せな!」「承知致しましたわ」「分かったですぅ」

「では、これより女王陛下のご尊顔を拝謁する。皆、粗相のないようにな」
 ヴァリエール家の人々は、ジュン達と護衛のメイジ達を引き連れ大ホールへ向かった。

 王宮の大ホールでは、拝謁式が行われていた
 玉座に鎮座する女王陛下へ、国軍として一個軍団を組織した各諸侯が、次々と王家への
忠誠と祖国防衛の決意を述べていく。
 ジュン達には、戦争前の単なるセレモニーに呼び出された、というだけではない。ラ・
ヴァリエール家の一員として女王陛下の前に並ぶのだから、もはや『正体不明の戦闘集団』
でなく『祖国のために戦うトリステイン国民の一員であり、ラ・ヴァリエール公爵家の一
人』である事を、この国の重臣達へ公に知らしめる機会でもある。
 トリステインでの活動を行う上で、ジュン達にも重要な式典だ。わざわざゼロ戦で飛ん
できたのも、しょせんはただの平民と蔑まれないように、王宮や諸侯に力を示すパフォー
マンスだ。

 そしてラ・ヴァリエール家の人々も、玉座におわす女王と、隣に立つ枢機卿の前にひざ
まずいた。
「公爵よ、大儀でした。そなたらの働きには期待していますよ」
「ははっ!一度は軍を退いた老兵ではありますが、祖国と王家のために、この命を捧げる
事を誓いましょう」
 威厳あるバリトンの声をホールに響かせて、公爵はマリアンヌの手にキスをした。

『トリステイン王国随一の歴史と格式を誇るラ・ヴァリエール家。その当主が王女の前に
跪き、忠誠を誓うことで、国の内外に王家の権威と貴族間の結束、そして祖国防衛戦争の
意義を示す』
 ジュンは目の前の、歴史の教科書や大河ドラマでしか見られないような光景に、今さら
ながら自分の立場がどういうものか、思い知らされた。この異世界ハルケギニアの歴史の
1ページに足を踏み入れてしまったという事実に、腰がひけそうになってしまう。

「…ところで公爵よ。そなたの娘、ルイズと使い魔の事なのですが」
 いきなり話を振られて、ジュンもルイズも、どっと汗が流れだした。
「ウェールズ皇太子救出の件、見事でした。結果として、残念な事態に至ってしまいまし
たが、これはそなたらの責任ではありません。気に病んではいけませんよ。
 王家からも正式に褒美をとらせましょう。ルイズよ、何か望みの褒美はありますか?」
「そ、それでしたら!恐れながら、お願いしたき事がございます」
 公爵が口を開くより先に、ルイズがガバッと顔を上げた。

「ふむ、なんですか?」
「私の使い魔達に、この国の一人の民として、庇護を願いたく存じます!」

 ルイズの言葉に、ジュンも真紅も翠星石も、一瞬キョトンとしてしまった。

 マリアンヌは、ニッコリ笑った。
「なるほど。先日の学院襲撃の件もあります。マザリーニよ」
「御意」
 女王の隣に立つ枢機卿が、ジュンを見下ろした。
「正式に、そなたをトリステインの一国民と認めよう。今後、そなたとその人形達に害を
及ぼす者あらば、それはトリステインの敵と同義となる」

 ジュンと真紅と翠星石が、公に王家の保護を得る事が、並み居る諸侯と大臣と官僚に宣
言された。これをもってラ・ヴァリエール家の謁見は終了、公爵はその足で軍議参加すべ
く会議室へと向かった。





 会議室を出てきた公爵の横から、声をかけて来る者があった。
「公爵殿!お久しぶりでございます」
「おお、リッシュモン殿ではありませんか。壮健そうでなにより!」
「いやいや、私も寄る年波には勝てません。おかげで此度の戦に杖を並べられず、後方で
椅子を暖めている有様です」
「それはこちらとて同じ事。妻と共に軍団を率いてきたものの、とても前線には出れそう
にありませぬ」

 謁見を終えてホールから出てきた公爵一行から、軍議に向かうため公爵が会議室に向か
うと、背後から声をかけられた。王国の司法権を担う高等法院の長で、30年に渡って王
家に仕えるリッシュモンだ。

「・・・ところで聞きましたぞ。ご息女の使い魔達の件。竜騎士隊や首都防空部隊への編
入を拒み、ご息女直属の護衛として旗下に組み入れたとか。しかもそのご息女、魔法学院
にて待機を命じたと?」
「いかにも。あの者達は確かに恐るべき力を秘めてはいるが、やはり使い魔でしてな。頑
としてルイズ以外の命を受け付けぬのですよ。しかも、ルイズの身に危機あらば全てをお
いて駆けつける、と明言しおった。おまけにあの飛行アイテムや人形達、能力に不明な点
が多くて…。
 つまり、戦力としては信頼性に欠けるのです。残念ながら、王軍や空軍では扱いに困る
のが事実でしょう。なにより…」
「なにより?」
「女子共を戦地に立たすなど、貴族の名折れ」
「なるほど…あれほどの兵力を後方にて温存するのはいかがなものか、と将軍達は不平を
連ねておりました。ですが、そのような配慮の下であれば、皆も納得せざるをえぬでしょ
うなぁ・・・。
 おっと、長々と引き留めて申し訳ない。それでは私は城下の視察に参ります。どうぞ御
武運を」

 リッシュモンはスタスタと立ち去り、兵士と商人とでごった返す城下町へ馬車で視察に
向かった。




 武具を担いだ傭兵の群れや、その傭兵達相手に駆け引きをする商人達の間を抜け、チク
トンネ街から中央広場を経て、ゆっくりとリッシュモンの馬車はタニアリージュ・ロワイ
ヤル座を通りがかった。
 既にトリスタニアからは非戦闘員である子供・女性・老人はほとんど避難している。い
るのは無骨な兵士と士官である貴族と、彼等を相手に商売をする商人など。なので、演劇
など見る者もいない。当然劇場も閉鎖中。
 リッシュモンの馬車が劇場前に通りかかると、ボロボロのローブをまとった薄汚い乞食
が近寄ってきた。馬車の窓が開き、リッシュモン直々に数枚の銅貨を投げ落とす。乞食は
ヘコヘコと頭を下げて、裏通りへ消えていった。

 裏通りに入った乞食は、そのまま街を出て、人気のない林の中に入った。袖から投げ落
とされた銅貨と杖を取り出し、『アンロック』を唱える。乞食は銅貨をパカッと開け、中
から小さな紙片を取りだした。
 乞食は口笛を吹き、一羽のハトを呼び寄せる。ハトの足に結わえられた小さな筒に紙片
を丸めて入れ、空に放した。




 ~アルビオン、首都ロンディニウム郊外。ロサイス空軍工廠 
 赤煉瓦の大きな建物、空軍発令所にて下級士官が紙片の内容を読み上げていた。

「・・・トリステインからの報告、以上であります!」
「うんうん!そうかそうか、ありがとう!いや、ご苦労だった!」
 オリヴァー・クロムウェルは満足げに何度も何度も士官の労をねぎらった。その隣には、
黒いコートをまとった痩身の女性を従えている。
「いやぁ~、まずは一安心だよ!
 同盟を妨害し、宣戦布告の大義名分を得るついでに、噂のガーゴイルまで手に入れよう
と、フリゲート艦にメンヌヴィルまで送ったというのに、あっという間に返り討ちだ!お
まけにワルド君は行方不明だよ!
 人間というのは、分をわきまえ、慎ましく堅実に進まねばならぬということだね!
 ともかく次の戦では、あの魔法兵器達はひとまず前線に立たないと分かったんだ!これ
は大収穫だよ!あと四日、艦隊の方に集中するとしよう!うん!
 ・・・ん?なんだね、ミス・シェフィールド」

 シェフィールドと呼ばれた女性は、淡々と語り出した。
「あの使い魔とその主、年若く血気盛んな事でしょう。いざ戦端が開かれれば、待機命令
を無視する事も考えねばなりません」
「うん!うんうんそうだな!ミス・シェフィールドは相変わらず聡明だ!今改装中の『レ
キシントン』号、君がもたらしてくれた技術で作られた、新型長砲身の大砲!あれが済み
次第、他の艦艇の改装も今以上の突貫工事で終わらせよう!」
 クロムウェルの視線の先には、巨大なテントがあった。天を覆うばかりに巨大な戦艦、
改装中の『レキシントン』号を覆う雨よけのテントだ。


 その巨艦を見つめる双眸が、もう一つ。小さな体で見上げているのは、ハツカネズミ。
小さなネズミは、ちゅうちゅう鳴きながら、港や製鉄所を走り回っている。
 さらにそのネズミを見つめる双眸があった。一羽のカラスだ。カラスはネズミを見つけ
るや、一直線に襲いかかった。
 一瞬早く襲撃者に気付いたネズミは必至に逃げ回り、木材の間に飛び込んだ。その間に
上空にはフクロウ・鳶・鷲、地上にはヘビやネコが集まってくる。

「おい、どうした?」
 警備に立つメイジの一人が、同じく警備にあたる同僚に声をかけた。
「ああ、ネズミだ。向こうの木材の間に隠れてる」
「ふむ、トリステイン側の使い魔かな・・・念のため、材木ごと焼いちまうか」
「やりすぎだって!俺のネコで十分だよ」
「よし、んじゃ材木上げるから、調べてくれ」
 そう言って杖を掲げ、『レビテーション』で木材を宙に浮かせた。集まってきた多くの
使い魔と共に木材とその周辺を調べたが、ネズミの姿は発見出来なかった。
「逃げられたか…一応、報告はしておこうか」
「だな」
 警備のメイジ達は、木材を元に戻して発令所へ向かった。




 夕日が差し込むトリステイン魔法学院学長室では、椅子に腰掛けたオスマンが、安堵の
ため息をついていた。
「やれやれ、危なかったわい…。ともかく、やることはやったぞい」
「ご協力感謝致します、オールド・オスマン。早速王宮へ報告致します。使い魔の回収に
ついても、手配済みですのでご安心を」
「・・・そう、願うわい・・・。祖国のためとはいえ、戦争の片棒担ぐなど、二度とはゴ
メンじゃな」
 学院長室には、金のショートヘアーに青い瞳、鎖帷子の上にサーコートを羽織った凛々
しい女性がいた。女学生への軍事教練のため派遣された、アニエスだ。
「それでは本職は任務に戻らせて頂きます」
「うむ…そちらも女生徒への教練に加え、ミス・ヴァリエール達の警護。よろしくお願い
しますぞ」
 アニエスは颯爽と学院長室を退出した。

「いくさというのは、ほんにむごいモノじゃ・・・」
 髯を撫でながら、夕日に赤く照らされるオスマンは力なく呟いた。




「・・・というわけで、本日よりミス・ヴァリエール及びその使い魔達、加えてひこおき
というアイテムの警護も仰せつかりました」
「そうですか、分かりました。
 ただ、私の部屋には許可無く立ち入る事を許しません。何があろうとも、必ずノックを
しなさい。決してドアを破って入るなど、あってはなりません。カーテンは常に引いてお
きますが、例え引いていなくとも、中をのぞき見るような破廉恥な行為は認めません。ゆ
えに、このドアの外に警護を立てる必要もありません。今まで通り、学院全体を警護する
こと。
 このことを肝に銘じなさい」
「…承知致しました」
 アニエスはルイズに礼をして、部屋を出て行った。ホーリエとスィドリームが寮塔の中
を飛び回り、警護の士官や不審人物がいない事を確認していく。

「やれやれですねぇ。なんだか窮屈な感じですぅ」
「全くだわね。今まで以上に見つからないように注意しましょう」
 人工精霊を呼び戻した翠星石と真紅は、これからの息苦しい生活を想像してぼやいてし
まう。ジュンもうんざりした感じで肩をすくめた。
「まぁ、しょうがないっちゃしょうがないよ。それより、今夜は2ndフェイズだ。今は
とにかく一眠りしよう。デルフリンガー、また見張りを頼むよ」
「おう、ゆっくり休めよ」
「んじゃ、おやすみー」「おやすみですぅ」「おやすみ、ゆっくり寝ましょう」
 分厚いカーテンを何重にもひいて、4人はお昼寝タイムに突入していった。




―――ガリア王国、王都リュティス~ヴェルサルテイル宮殿

 夜も更けた頃、シルフィードが薄桃色の小宮殿プチ・トロワの前庭に降り立った。

「七号様、参られました」
「・・・な、なにぃ!?」
 王女の部屋の入り口で、騎士がタバサの来訪を告げた。鏡の前で侍女に寝間着へ着替え
させようとしていたイザベラは、仰天した。

「まさか、一人で…じゃないわよね?」
「はい。2体の人形を抱えた平民の少年をお連れしています」
「なっ!なななんだってえぇっ!?」
「七号様への命令書通りではありますが、お通ししてよろしいでしょうか?」

 イザベラの顔から、血の気が音を立てて引いていく。
 タバサの報告書から、『人形の戦闘力は、一体でトライアングルクラス。その所有者た
る少年剣士と人形達は完全なコンビネーションを持ち、総合戦闘力はスクウェアクラス。
ただし、これは最低に見積もって、である』との分析結果が出ている。
 そんな化け物共が、今、自分の目の前に来たら・・・

「まっ待て!そいつら、どんな状態だい!?他に連れはいるのかい?」
「いえ、七号様と平民の少年、それに人形2体のみです。少年は帯剣しておりません。少年は、急ぎイザベラ様にお目通り願いたい、と申しております」
「会いたい…あたしにかい?武器も持たず…」

 イザベラはしばし考えこむ。そして、緞子(どんす)の奥に声をかけた。

「バッソ・カステルモール、参上仕りました」
 東薔薇騎士団団員バッソ・カステルモール。ピンとはった髭が凛々しい二十歳過ぎの美
男子だ。
「ガーゴイルが、例の平民使い魔を連れて来たってさ」
「なっ!?あの噂の・・・一体、どうやって・・・」
「さぁねぇ…ただ、そのガキ、このあたしに会いたいらしいよ。
 東薔薇騎士団を全員呼んで部屋の外に待機させな。グラン・トロワにも連絡、他の騎士
団も全部呼べ!手空きのヤツは全員呼んで、この宮殿自体を囲むんだ。気付かれンじゃな
いよ!竜騎士隊も上空待機。
 あんたは、もう3人くらい腕の立つヤツ連れて、部屋のスミに待機しな」
「御意」

 カステルモールは緞子の奥に戻り、大声で何かを叫ぶ。ほどなくして、大人数が駆けて
くる音がした。そしてすぐに、何の気配もしなくなる。
 部下3名を連れて戻ってきたカステルモールが準備完了を告げる。

「これでよし…。さ、通しな。話とやら、聞いてやろうじゃないの!」

 ふんぞり返って椅子に腰掛ける王女イザベラ。部屋に、タバサと、デルフリンガーを持
たないジュンと、彼に抱かれた真紅・翠星石が入室した。  


                  第四話   作戦  END


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