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ゼロの夢幻竜-09


ラティアスは今日が良い日になると信じていた。
朝、ご主人様から頼まれた洗濯は手早くきちんと済ませる事が出来たし、僥倖ではあったが自身の変身能力を通して新たな友人も手に入れた。
ところが午前中の授業の一件を皮切りに不快な事が続いていく。
あの時教室に集まった生徒達はみんな揃いも揃ってご主人であるルイズを馬鹿にしていた。
確かにご主人は魔法が不得手かもしれない。
しかし彼女はルイズの勉強熱心な性格、いや実技が及ばない代わりに学科で追いついてやろうという精神の一端を、昨夜自分に行った質問ラッシュで垣間見る事となった。
そんなご主人の事も知らないで一方的にご主人を『ゼロ』呼ばわりしたのが気に喰わない。
ご主人様と二人きりの片付けの時、超能力を使ったおかげで作業がさっさと済んだのを褒められたのは良かったが。
それと赤毛の……キュルケという女性はご主人様を馬鹿にしてばっかりで正直心苦しい。
でも何故かは分からないが本気で、心底本気で馬鹿にしている訳ではないと言うのが何処と無く推し量れた。
その感情を有り難くも若干もどかしく感じている中、遂に我慢なら無い事が起きた。
先程のギーシュという少年が二股などという自分で蒔いた種から起こった別れ劇。
なのに、原因である彼はそれを自分の責任だと自覚して二人の少女に謝りに行くどころか、怒りの捌け口を無理矢理こちらに向けてきた。
こちらは事情なんか粉微塵も知らない為、只の親切心でやった事なのに。
今はいい加減に我慢の限界が来ていたラティアスの怒りが爆発した時であった。
意思疎通術をギーシュに絞った為に、彼はあちこちをきょろきょろと見回して、「誰だ!今僕の事を『女の子泣かせさん』と呼んだ娘は?!」と叫んでいる。
そして何の説明も無しにラティアスの意思疎通を喰らった者達と同じ様に頭を数回自分の手で叩く。
もっと混乱させてやろうとラティアスは更に続けた。

「二股をかけているあなたが悪いんですよ?それは事実じゃないですか。そもそも、そんなどっちつかずの事をやってずっとばれないとでも思っていたんですか?あと、自業自得と言えるその一件を他人のせいにして癇癪を起こすなんて、許される事ではないですよ……」
「誰だ!一体誰なんだ!さっきから話しかけているのは?!誰か答えてくれ!」

しかし皆は顔を合わせて「ギーシュに話しかけている娘なんて誰もいないよなあ?」と口を揃える。
それを聞いてギーシュはますます混乱する。
慌てて両手で両耳を押さえるが、そんな事をしても無意味だと分かっているラティアスは、徐々に平坦な口調にしていき精神的な恐怖感を煽っていく。

「私はあなたの直ぐ近くにいる。あなたはただ気づいていないだけ。ちゃんと本当の事に目を向けていれば……そんなに恐がる事もないのに。」

最早ギーシュは周りに気が触れたかと思われても構わなかった。
人の心に土足で上がりこんで来るのは誰なのかを探し出そうと躍起になっていた。

「やいっ!貴族を脅かすとは上等じゃないか!それにもし僕の近くにいるなら姿くらいこちらに分かる様にしたらどうだ!それが出来ないのなら君は真性の臆病者だ!卑怯者だ!どうした?!さあ、悔しかったら出て来い!」

その言葉にラティアスは人間形態のままギーシュに近づく。
そして彼の真正面、一メイルも離れていない場所に立つと満面の笑みで言い放った。

「私ですよ。女の子泣かせさん。」

あまりに信じられないその一言にギーシュは大笑いをし始めた。
だが、目の前にいるメイドが表情を一片も崩さずただ立ち続けるのを見た彼からは、次第に笑い声が消えていった。
そしてその顔が段々と引き攣っていく。

「本当に君なのか?」
「はい!」

と、次の瞬間ギーシュは近くにあった椅子の上で体を回転させると、さっと足を組んでこう言い放つ。

「馬鹿も休み休み言いたまえ……平民の癖にどんな術を使ったかは大変気になるが……いや、待てよ。平民でなければ君は貴族崩れのメイジか?」
「そこはあなたのご想像にお任せします。」
「そうか。だが今はそれを話すべき時じゃないので一応脇へ置いておこう。それよりもだな、君。僕は君が香水を差し出したときに知らないフリをしたじゃないか。話を合わせるぐらいの機転があってもいいものだろう?」
「……私の話ちっとも聞いてないじゃない……機転も何も男の子としてとってもみっともない事やってたあなたの方が悪いんでしょ?!」

呆れかえった表情と動作でラティアスは事実を述べる。
その時、ギーシュの眼が微かに光る。

「どうやら君は貴族に対する礼を知らないようだな。」
「……そんな物、知らなくても生きていける所から来ましたから。」
「ほう、それが事実ならちょっとした驚きだな。よかろう!君に礼儀を教えてやろう!丁度良い腹ごなしだ。」
「はあ。あなたが主演の一人芝居をお手伝いですか?気は乗りませんけど……やるしかないみたいですね。」

流石にその台詞には我慢ならなかったのか、ギーシュの口端がぴくぴくと痙攣した様に動く。
ラティアスは側までやって来たシエスタに、自分の持っていた銀の大きなトレイを渡してから、離れてと言う様に片手を彼女の前にすっと出す。

「今からここでやるんですか?」
「ふざけるな。貴族の食卓を平民の血で汚せるか。ヴェストリの広場で待っている。仕事が一段落したら来たまえ。」

ギーシュは数人の友人を引き連れその場を去って行った。
彼等の多くは何故何も喋らないメイドに怒鳴り散らしていたのかその理由をギーシュに訊いていた。
それと同時に発せられる、久々に面白い物が見られるぞというわくわくした声といったらない。
但し取り巻きの一人だけが、ラティアスが逃げ出さないようテーブルに座って見張っている。
それも気にせず仕事に戻ろうかとラティアスが振り向くと、シエスタが顔面蒼白で小刻みに震えながらその場に棒立ちになっていた。

「ラティアス……あ、あなた殺されちゃう……!」
「へっ?だ、大丈夫、心配しないでよ、シエスタ。幾らなんでもそこまでは……」
「貴族を本気で怒らせたら……」

それっきりシエスタは厨房の方へ走って逃げていってしまう。
その代わりに後ろからはかなりご立腹のルイズがやって来た。

「ラティアス!何してるのよ!」
「何ってご主人様、今は好意でメイドの仕事をしているだけで……」
「そうじゃないわ!全部見てたわよ!何で決闘の約束なんかしたのよ!」
「あの人は自分が悪いのに、責任を私に押し付けて怒ってきたからです。」

今のラティアスはいつもルイズに見せている可愛気のある表情はしていない。
あくまでも毅然とした態度でルイズの質問に答える。
その様子にルイズは溜め息を吐き、ラティアスの腕を掴んで歩き始めた。

「ギーシュに謝りなさい。」
「どうしてですか?」
「怪我したくないんでしょ?ならそうするしかないの。今ならまだ許してくれるかもしれないわ。」

その言葉にラティアスは、ルイズの腕を振り解いてから落ち着き払った声で言う。

「ご主人様。私はただ本当の事を言っただけです。それにこの姿を見ていただければ分かりますけど私も女の子です。あの二人の女の子の気持ちは痛いほどよく分かります。ですから……」

その先の言葉にルイズが耳を貸す事は無い。
ラティアスの腕を掴み直し再び歩き始める。
外に通じる戸の近くまで来た時、あまりの理不尽さを感じたラティアスは耐え切れずに質問した。

「ご主人様。何故私が謝らなければならないんですか?」
「あんたねぇ……いい?幾らあんたが力を持っていたとしても、使い魔が貴族に勝つ事なんて事は絶対に出来ないのよ!怪我で済んだらまだましな方だわ。」
「怪我をするかもしれないというのなら覚悟は出来ています。この世界の社会におけるルールに反した態度を取っているという自覚もあります。でも正しい事をした人が馬鹿を見続けなくてはならないなんておかしいんじゃないですか?!」

二人っきりの時は甘える様な声と口調をするラティアスが、その時ばかりはかなり厳しいものを発していた。
ルイズが黙った一瞬の隙を突いて、ラティアスは外に出て誰もいない事を見計らった後で変身を解き、ギーシュを探し出す。

「ああ、もう!あんな奴放っておけばいいのに!!」

ルイズはやっていられないとばかりに大声を響かせラティアスの後を追った。



教鞭が振るわれる『風』と『火』の塔の間にある、日の当たりがあまりよろしくない中庭、そここそがヴェストリ広場である。
今やそこには百人近い生徒達が集まっていた。
理由は勿論、決闘が行われるという噂を聞きつけたからである。

「諸君!決闘だ!!」

一大エンターテインメントが行われるかのような口ぶりでギーシュが言うと、広場のあちこちから喚声があがった。
ここ最近まともな娯楽から遠ざかっていた者にとっては最高の見物であったからだ。
そのギーシュと向かい合うように人間形態のラティアスが5メイル程離れた所に立っていた。
その表情は真剣そのものである。
頭の中で彼女は自責の念にかられていた。
自分もうっかりではすまない事をしたものだ。
ポケットから落ちた香水を取りに行って、落とした本人にそれが落ちた事を告げるなんて側に居たシエスタでも出来た事だ。
ただその事に真っ先に気付いたのが自分だったというだけ。
やはり、直ぐ後にその事を彼女に指摘すれば良かった。
声を出す事の出来ない自分が何故行こうとしたのか……これだけは言える。
自分は完全に親切心の元で行ったのだ。
それこそ声の事も忘れて……褒められるものだと思って……
そんな彼女の思いをそっちのけで周りは盛り上がっていく。

「ギーシュが決闘するぞ!相手は貴族崩れのメイドだ!」

まったく、人間の口とは有る事無い事をぽんぽん言う事が出来る様になっているものだ。
『口をきく事が出来ない、暗い過去を背負ったメイド』というラティアスの人間形態に於ける肩書きは、今や『元貴族で、弱いがメイジだった事もあるメイド』になっている。
ギーシュは向けられる声援に腕を振って応えている。
また、どちらが勝つのか見物の勝負は金貨を賭ける者まで出始める程だった。

「取り敢えず、逃げずに来た事は褒めてやろうじゃないか。」

ギーシュは手にしている薔薇の花弁を弄りながら歌う様に言う。
あんな事があった後なのに、いちいち仕草に格好を付ける理由が分からないラティアスは
溜め息混じりに一言告げる。

「全力できなさい。」
「全力だって?ふん。良いだろう。獅子は小さく脆弱な獲物でも狩る時に全力を出すものだ。ご期待に沿おうじゃないか。」

ギーシュはラティアスに対して余裕の表情を見せ薔薇の花を振る。
そこから一枚の花弁が宙に舞い、地面に落ちる直前、甲冑を来た女戦士の人形となった。
身長が人間と同じくらいのそれは、陽の光を受けて少しくすんだ青緑色に光る。

「僕はメイジだから魔法を使って戦わせてもらう。文句は無いだろう?因みに僕に与えられた二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ。」

得意気に話すギーシュ。
その返事として、ラティアスは意思疎通範囲を広場にいた全員にまで拡げて叫んだ。

「いいわ。じゃあこっちも全力でいくよ!」

ラティアスがお約束の姿勢を取ると体は一気に光に包まれ元の姿へと変わる。
同時に、広場全体に爆発した様な驚嘆の声、そしてパニックが広がる。
手に持っている物を落としてその場に何も出来ずに佇んでいる者はまだいい。
あまりの出来事に腰を抜かす者、攻撃されないよう寮塔へ全速力で駆けて行く者、そして気を失う者が続出した。
無理も無い。今まで自分達が人間だと思っていた存在が、目の前で突然別種の生き物の姿へと変貌したのだから。
勿論、ギーシュもその一人である。
彼はワルキューレ一体を使って相手を打ちのめした後は、お詫びの言葉でも言わせて早々に決着をつかせようとしていた。
その算段が始めから狂い、おまけに現れたのが自分の学年だけでなく、他の学年や学校に仕える平民達の間でも有名になったルイズの使い魔だったからたまったものではない。
一方ラティアスはそんな周りの反応を冷静に捉え、ギーシュに対して話しかける。

「一つだけ約束して。もし私が勝ったら泣かせた女の子達に謝りに行く事。」
「う、う、五月蝿いッ!『ゼロ』のルイズが召喚した使い魔の癖に随分と生意気じゃないか!こけおどしもいいところだ!風竜だかなんだか知らないが、身の程を弁えろ!!行けえっ、ワルキューレ!」

ギーシュはそう言って慌てて薔薇を振る。
それらもやはり剣や斧を持った青銅の人形に姿を変えた。
そして人形ことワルキューレ達は武器を構え、一斉にラティアスの方に向け突進する。
が、彼女はひらりと身をかわしつつ、こう付け加えた。

「もう一つ。ご主人様を馬鹿にした事を私の前で謝りなさい!」


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